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文献詳細

雑誌文献

精神医学44巻8号

2002年08月発行

文献概要

特集 精神疾患と認知機能

精神分裂病患者の加齢,罹病期間とP300の性差に関する検討

著者: 森由紀子1 黒須貞利1 廣山祐治1 林田征起1 丹羽真一1

所属機関: 1福島県立医科大学医学部神経精神医学講座

ページ範囲:P.853 - P.860

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はじめに
 近年の脳画像研究の進歩に伴い,精神分裂病患者の脳の形態異常が発症後も進行している可能性が示唆されるなど,精神分裂病が神経変性過程を伴う進行性の疾患である可能性を支持する所見が得られてきている12,20)。このように精神分裂病の発病後の進行の可能性が示されてきている中で,非侵襲的に脳機能を反映し,繰り返し測定する方法を用いた研究が期待されている。事象関連電位(Event-Related Potentials;ERPs)の代表的な成分であるP300は,oddball課題のような典型的な2音弁別課題で標的刺激に対して潜時約300msに誘発される陽性成分で,非侵襲的に脳機能や認知機能を測定できる内因性の電位成分である。P300は,さまざまな疾患について検討されており,精神分裂病患者ではP300振幅の減衰と潜時の延長が認められ,一方,アルツハイマー病やパーキンソン病などを含む神経変性過程を伴う初老期から老年期発症の痴呆性疾患では潜時の延長が広く報告されている。また,健常者でも加齢に伴いP300潜時が延長していくことが知られている。
 そして,近年では精神分裂病患者についてP300を用いて,年齢や罹病期間に伴うP300成分の変化から,電気生理学的に発病後の進行の可能性を検討しようという研究が行われている。現在までに精神分裂病患者について,年齢とP300潜時に正の相関を認めたという報告がいくつかある5,9,11,14,16)。また,罹病期間とP300潜時に正の相関を認めた報告11,14)や,罹病期間とP300振幅に負の相関を認めた報告17)がある。しかし,これらの報告の中には慢性期の男性患者のみを対象とした報告11,16),高齢期の患者のみを対象とした報告17),家族性の精神分裂病患者のみを対象とした報告5)など,対象患者が限定されている報告も多い。さらに,初発の患者から慢性期の患者までを対象にして,加齢や罹病期間に伴うP300成分の変化の男女差について検討した報告はまだない。そこで,我々は急性期から慢性期の精神分裂病患者を対象にして,P300振幅や潜時の異常が年齢,罹病期間さらに性差と関連してどのように変化するかを検討し,精神分裂病が発病後も進行する疾患かどうか,さらにその進行の経過に性差があるかどうか電気生理学的な点から検討しようと試みた。

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-126X

印刷版ISSN:0488-1281

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