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雑誌目次

雑誌文献

精神医学45巻1号

2003年01月発行

雑誌目次

巻頭言

産業精神保健へのお誘い

著者: 島悟

ページ範囲:P.4 - P.5

 巻頭言の欄にご依頼をいただくほどの研究業績も臨床実績もないのではなはだ当惑している。またすでにそういう年になったのかという感慨も抱いている。折角いただいた機会なので,関心を抱いている「産業精神保健」に関して所感を述べさせていただくことにしたい。

 振り返ってみれば,内科臨床から始めて,精神科臨床,学校精神保健,母子精神保健,高齢者精神保健,障害児施設,矯正施設,産業精神保健などの分野にかかわってきたが,最も関心を抱いている領域は母子精神保健である。その理由は,そもそもこうした事柄に優先順位をつけること自体が本来的に相応しくないことかもしれないが,母子精神保健はあらゆる精神保健の基礎にあり,世代間連鎖の観点からも,最重要分野であると考えているからである。しかしながら,母子精神保健を支える上で,労働者がよい健康状態で,仕事がいを持って労働することが重要であるので,産業精神保健は同等に非常に重要な分野であると考えている。とりわけ昨今の中高年勤労者の過労自殺増加といった現代の悲劇を少しでも減らすためには,産業精神医療体制の強化は焦眉の課題であろう。

展望

大脳皮質島葉と心身機能―最近の研究の展望

著者: 永井道明 ,   岸浩一郎 ,   加藤敏

ページ範囲:P.6 - P.20

はじめに

 大脳皮質島葉(insular cortex)を,初めて学術的に取り上げたのは,“精神医学(Psychiatrie)”という言葉を用いた,一般にロマン派精神医学者とされるReilによる研究だった2,4,56,78,95)。興味深いことに,当時Reilはこの島皮質が精神活動の台座であると考えていた21)。それは,次の言葉に集約される。「両大脳半球からの情報は,あたかも広い海洋からその魂を吸収するかのように,島皮質に収束する。そして,この島皮質を中心とした脳部位において,我々の魂の基盤が形成されるのである。また,我々の芸術に対する知覚,他者との意思疎通,さらには記憶の再現も,この島皮質を中心とした脳部位に由来した能力なのである」21)

 歴史的に,島皮質が本格的に議論され始めたのは,失語症の研究においてで26,34,51,99),1874年,Wernickeは,島皮質の損傷が伝導失語の病巣局在であると示唆し99),1891年にはFreudも失語症の論稿の中で,島皮質が言語機能に関与する可能性を指摘している34)。また,1950年代,Penfieldら69)は側頭葉てんかん患者に対して電気刺激を行い,脳の機能的地図を作成した。その際,島皮質の刺激により味覚,内臓運動,内臓知覚などの反応が誘発されたことも確認されている。またPenfieldら52,69)は,脳外科手術で島皮質を切除された患者に対し,10年に及ぶ経過観察を行い,最終的に残存した症状として胃腸障害,悪心,嘔吐,排便の異常を挙げ,島皮質が自律神経の活動を伴った心身活動に関与することを考えた。

 我々は最近,別誌にて神経心理学の領域に重点を置いて,島皮質の構造と諸機能の総説を発表した60)。本稿では,精神医学の領域に目を転じ,島皮質が多くの精神障害,および心身機能に幅広く関与していることを示唆する最近の研究を展望したい。さらに,これらの知見をもとに,人間の精神活動における島皮質の総合的な機能について考察したい。精神障害における脳機能の最近の研究においては,海馬,扁桃体,前頭前野などに注目が集まっているが,我々の展望は約200年前のReilの着眼を再評価する形で,島皮質の重要性を強調するものである。

 参考までに島皮質の発生,線維連絡2,4,48,56,60)についてごく簡単に触れておきたい。大脳皮質が形成されていく過程において,島皮質は他の領域に比べ,変化が少なく,大脳半球は島皮質の周囲を回転する形で拡張していく33)。つまり大脳皮質の形成に際し,島皮質は回転軸として作用するのであり,こうして,皮質は前頭葉,側頭葉,後頭葉に分化し,その結果,島皮質は,前頭弁蓋,頭頂弁蓋,側頭弁蓋に囲まれることになる33)。我々は解剖学的に見て,島皮質がヒトの大脳半球皮質展開図のほぼ中央に,ちょうど扇の要の位置を占めていることに注意を促しておきたい。実際,島皮質は前頭葉,側頭葉,頭頂葉,大脳辺縁系,視床などと密な線維連絡を持つことが示されている。

研究と報告

地下鉄サリン事件被害者の長期経過に関する研究

著者: 大渓俊幸 ,   岩波明 ,   清水英佑 ,   加藤進昌

ページ範囲:P.21 - P.30

抄録

 1995年3月20日に発生した地下鉄サリン事件被害者の長期経過を調査する目的で,事件から6年が経過した現時点における身体的症状と精神症状を調査した。方法としては,身体と眼の症状および精神症状を尋ねる自記式質問紙とImpact of Event Scale-Revised(IES-R)を被害者981名に送付し,115名の有効回答を得た。その結果,現時点においてもさまざまな精神症状が残存し,これらの症状の遷延化による気分変調や不定愁訴様の症状が遅延して出現することが明らかになった。また,精神症状と身体的症状の間に有意な相関がみられ,症状の長期経過について検討する際には身体症状と精神症状の両面について考慮する必要があることが示唆された。

Frontotemporal dementia and parkinsonism linked to chromosome17(FTDP-17)の兄弟例

著者: 木谷知一 ,   小林克治 ,   林眞弘 ,   長澤達也 ,   宮津健次 ,   氏家寛 ,   勝川和彦 ,   黒田重利 ,   越野好文

ページ範囲:P.31 - P.35

抄録

 FTDP-17の兄弟例を報告した。兄例は34歳の若年発症。易怒性,脱抑制で発症し,次第に発動性が低下した。痴呆は高度となり,46歳で死亡。全経過12年。剖検にて前頭葉側頭葉の萎縮が高度であり,病理学的検索で,Pick嗜銀球を認めPick病と診断された。弟例は40歳にて発症。自発性の低下などの人格変化が目立ち,MRI上側頭葉先端部に強い萎縮を認め,遺伝子解析の結果S305Nの部位でタウ蛋白遺伝子のmissense変異を認めた。弟例は現在も無為,無関心が強い臨床像を示す。本邦ではS305N変異の2家系目のFTDP-17である。Iijimaらの報告症例と比較して,臨床症状,萎縮部位に違いがみられた。

岩手県浄法寺町における高齢者自殺に対する予防的介入―うつ状態スクリーニングと住民啓発によるアプローチ

著者: 大山博史 ,   小井田潤一 ,   工藤啓子

ページ範囲:P.37 - P.47

抄録

 岩手県浄法寺町において,65歳以上高齢者を対象に自殺の予防的介入を行い,準実験的デザインにより評価した。介入では住民啓発と相談を継続しつつ,うつ状態スクリーニングと陽性者の保健医療的フォローアップを毎年30%程度の高齢者に実施し,開始5年目のみ悉皆で実施した。15年間継続した結果,介入地域では有意な変化がみられ,5年平均65歳以上男性自殺率が介入5~10年後に0となったが,10~15年後,自殺率が再上昇した。同女性自殺率は介入5年後より減少し始め,10~15年後,約1/5へ減少した。一方,対照地域では男女とも同自殺率に変化はなかった。本邦郡部の高齢者自殺多発地域では,上記介入の悉皆実施により自殺率が低減し,引き続き30%程度の高齢者に実施すると自殺率の再増加を少なくとも5年間抑止できるものと期待される。

痴呆症に対する音楽療法の効果についての検討

著者: 渡辺恭子 ,   酉川志保 ,   繁信和恵 ,   塩田一雄 ,   松井博 ,   池田学

ページ範囲:P.49 - P.54

抄録

 本研究ではアルツハイマー病患者と脳血管性痴呆患者を対象として,音楽療法を週1回,2か月間実施し,D-EMSを用いて評価し,対象者の変化を縦断的に検討した。この方法により,日常的なリハビリテーション場面に即した,継続した活動実施による音楽療法中の状態変化に関する検討を行った。

 その結果,なじみの関係や音楽療法活動の定着により,発言数の増加や社会性の向上といった変化が認められ,その向上は実施期間に比例する可能性が推察された。また,歌唱活動が最も導入が容易で,音楽療法のアプローチ方法の工夫により一定水準までの指示理解の改善は期待できると考えられた。一方,楽器を用いた活動には定着までに若干の期間を要すると考えられた。加えて,ある程度身体運動を惹起することは可能であるが定着には至らないと考察された。他の活動と比べて情動の安定という効果は期待できるが,活動を継続しても情動はほとんど変化しないと思われた。さらに,集中力の改善や参加意欲の向上は困難で,集中や参加を促すスタッフの援助などの工夫が必要であると考えられた。

家族の意識調査から見た精神障害者の社会資源ニーズと利用の現状

著者: 畑哲信 ,   阿蘇ゆう ,   秋山直子 ,   金子元久

ページ範囲:P.55 - P.64

抄録

 精神障害者の社会資源利用にかかわる要因と,社会資源利用に対する家族の行動および意識を検討した。福島県精神障害者家族会連合会に所属する精神障害者家族を対象としてアンケート調査を行い,回答者中,患者が通院中の者,581名について解析した。その結果,社会資源ニーズによって説明される社会資源利用数の分散は6~15%であり,全般的な社会資源不足感によって説明される社会資源ニーズの分散は5~7%であった。共分散分析で検討した結果,患者の障害に伴う家族の生活困難度が社会資源不足感にのみ関連し,社会資源ニーズや社会資源利用には関連しなかった。精神障害者がより適切に社会資源を利用できるために何が必要かを考察した。

Olanzapineにより知覚変容発作を来した統合失調症の1症例

著者: 原田貴史 ,   友竹正人 ,   大森哲郎

ページ範囲:P.65 - P.68

抄録

 症例は,16歳の男性。被害妄想,精神運動興奮,自閉的な生活を認め,当科を受診。sulpiride300mg/日で治療開始したが効果不十分であり,olanzapine(10mg/日)に置換し,20mg/日に増量した。その約3週間後より,「机の角がハッキリ見えて迫ってきて,恐ろしくなる。」と訴える知覚変容発作を認めた。biperiden頓用が有効であった。olanzapineを減量した後,この発作はいったん消失したが,精神症状が悪化し,再度増量したところ,再び出現した。biperidenを定期薬に追加し発作は生じなくなった。知覚変容発作は,非定型抗精神病薬使用中にも起こることに注意すべきであると考えられた。

短報

アルツハイマー型痴呆の焦燥性興奮に炭酸リチウムが著効した1例

著者: 正山勝 ,   糸川秀彰 ,   畑中史郎

ページ範囲:P.69 - P.71

はじめに

 米国精神医学会治療ガイドライン(American Psychiatric Association:APA)2)では痴呆患者の焦燥性興奮に対する薬物療法として低用量の抗精神病薬が推奨されている。その他の薬剤として炭酸リチウムについても言及されてはいるが,その副作用のために一般的な選択薬としては扱われていない。炭酸リチウムが痴呆の興奮,攻撃性に有効であったという報告はわが国では中島ら7)の1例のみである。今回我々は,アルツハイマー型痴呆の焦燥,興奮に炭酸リチウムが著効したと思われる症例を経験したので若干の考察を加えて報告する。

パニック障害患者のストレス対処に関する縦断的研究

著者: 日野俊明

ページ範囲:P.73 - P.76

近年,パニック障害(以下PD)患者のストレスへの対処(以下coping)に関する報告が増えつつある2~4,13)。それらの多くはある1時点で評価したcopingから考察を進める形のいわばcopingの横断的研究であり,その経時的な変化に注目した縦断的研究はほとんど行われていない。そこで今回筆者は,健常被験者群にcoping調査を行い,2年後に電話による追跡調査を行った。その中でPDを発症した症例に対して同じ方法によるcopingの再調査を行い,PD発症の前後にcopingがどのように変化したかという,prospectiveな調査を試みた。これにより若干の知見が得られたためここに報告する。

少量のクエチアピンが奏効したシャルル・ボネ症候群の1例

著者: 恩田浩一 ,   星野仁 ,   高柳強 ,   加藤敏

ページ範囲:P.77 - P.79

はじめに

 シャルル・ボネ症候群は,意識清明な高齢者に,時に十分な病識を備えて幻視が現れるという比較的稀な病態である3,5)。本邦での報告例はまだ少ない。今回我々は,ほぼ典型的なシャルル・ボネ症候群と考えられ,幻視に対してクエチアピンが奏効した症例を経験したので報告する。

Perospironeとtandospironeの併用投与が奏効した3例

著者: 山本健治 ,   原田研一 ,   吉川憲人 ,   鎌田隼輔

ページ範囲:P.81 - P.83

 国産初の非定型抗精神病薬perospirone(以下PER)は,主効果としてD2受容体と5-HT2受容体の遮断作用をあわせ持ち,risperidoneと同様にセロトニン・ドーパミン・アンタゴニスト(SDA)として位置づけられている。しかしながら,risperidoneに比してD2受容体に対する親和性が高く,かつ5-HT1A受容体に対する親和性をも有するという薬理学的特徴が臨床的にも注目されている。今回,我々は,PERと5-HT1A部分アゴニストであるtandospirone(以下TND)の併用投与が精神症状の改善に有効であった双極性障害1例,統合失調症2例の計3例を経験したので,若干の考察を加え報告する。

症例

 〈症例1〉 36歳,女性。

 診断 双極性障害。

 既往歴・家族歴 特記すべきことなし。

 病歴・経過 元来真面目でおとなしい性格であった。X-12年(24歳時),不眠,多弁,過活動,爽快気分,易刺激的,誇大的などの躁状態で発症し,他院での数回の入院を含め治療を継続していた。X年5月(36歳時),突然,それまでの家事手伝いからさまざまなアルバイトを探すようになり,同年6月,遠隔地での昆布加工のアルバイトに単身で出かけた。アルバイト開始時から不眠を呈し,些細なことで同僚に暴言を吐き,雇用主の車を無断で乗り回し単独事故を起こした。全く反省する様子もなく周囲への暴言・暴力が続くため,まもなく当科初診となった。

私のカルテから

塩酸ドネペジルにより被害妄想が軽快したアルツハイマー型老年痴呆の1症例

著者: 谷川真道 ,   城間清剛 ,   古謝淳 ,   田村芳記 ,   宮里好一

ページ範囲:P.84 - P.86

 アルツハイマー型老年痴呆(Senile Dementia of the Alzheimer's type;SDAT)において認知障害のほかに,さまざまな精神症状や徘徊などの症状が出現することは知られている。

 今回,我々はrisperidone(RIS)にdonepezil hydrochloride(アリセプト®)を併用したところ,徘徊,物盗られ妄想,不穏などのbehavioral andpsychological symptoms of dementia (BPSD)が改善したSDATの1例を経験したのでここに報告する。

症例

 72歳,女性。

 既往歴 肥大型心筋症を認め,Ca拮抗薬(塩酸ベラパミル)や抗不整脈薬(ジソピラミド)などの循環器薬による治療を受けている。

薬物治療中に清涼飲料水の多飲から著しい高血糖を来した統合失調症の1例

著者: 河合伸念 ,   堀孝文 ,   朝田隆 ,   鈴木浩明

ページ範囲:P.87 - P.89

 近年本邦でもリスペリドン,オランザピンなど「非定型」と呼ばれる抗精神病薬が相次いで発売されている。ところが最近オランザピン投与中に糖尿病性ケトアシドーシスを発症した症例などが公表され,転換期を迎えたわが国の統合失調症薬物治療に波紋を投げかけた。このような折筆者らは,リスペリドンを中心とした薬物治療中に清涼飲料水の多飲から著しい高血糖を来した統合失調症の症例を経験したので報告する。

症例

 男性。27歳。

 既往歴・家族歴 父方の祖母の同胞に糖尿病の者がいる。

 現病歴 高校を卒業後就職したが,身体の不調などを訴えて1年半ほどで辞め,その後は自宅に引きこもりがちとなった。1999年8月(24歳),頭痛,倦怠感などを訴えてT病院(内科)を受診したが,種々の検査では特に異常を認めなかった(随時血糖124mg/dl,表参照)。同年10月頃から独語が目立ち始め,「悪口が聞こえる。誰かに見張られている」などと訴えるようになり,2000年4月1日,当院を初診した。

 初診時,本人は極めて拒否的で,身体所見の診察や採血を拒んだ。病歴から幻聴,被害・関係妄想の存在が明らかであったため統合失調症と診断し,リスペリドン3mg,ビペリデン2mg,ベゲタミンB1錠,ニトラゼパム5mg(/日)を開始した。しばらくの間本人は通院を嫌がり家族のみが来院したが,服薬コンプライアンスは良好だった。その後次第に幻聴や妄想を訴えなくなり,外来にも姿を見せるようになったが,無為・自閉の状態は慢性的に持続した。

動き

「第12回世界精神医学会横浜大会」印象記

著者: 山口成良 ,   加藤敏 ,   大久保善朗 ,   中川敦夫

ページ範囲:P.91 - P.99

・WPA2002横浜大会
 
 111か国から6,200人余 実り多い大会

 2002年8月24日から29日までの6日間,World Psychiatric Association(WPA)の第12回世界精神医学会(XII World Congress of Psychiatry;WCP)横浜大会が,J.J. López-Ibor(スペイン)会長のもと,パシフィコ横浜で開催された。この大会の第1回は1950年パリでJean Delay会長で開催された。

 日本精神神経学会(JSPN)はWPAのmember societyであり,アメリカに次いで会員数の多い学会であり,数十年前から,日本でのWCPの開催を要請されていたが,1995年6月のJSPNの理事会で,2002年がJSPNの創立百周年にもあたることから,2002年の日本開催に向けて前向きに取り組むことを決定し,1996年に会場を東京国際フォーラムとした全体計画案(Proposal)をWPAの理事会に提出し,その後会場をパシフィコ横浜に変更した案を再提出し,1997年8月にWPAの全理事が来日して会場予定地を視察し,同年10月北京で開催されたWPA理事会で日本開催が正式に決定された。そこで,host societyとしてのJSPNを中心に,精神医学,医療,福祉など,幅広い関連領域関係者が協力して第12回世界精神医学会横浜大会組織委員会(委員長大熊輝雄)を設立して開催準備に着手したわけである。

「第36回日本てんかん学会(JES)—第4回アジアオセアニアてんかん学会議(AOEC)合同学会」印象記

著者: 八木和一

ページ範囲:P.100 - P.101

 アジアオセアニアてんかん学会議と日本てんかん学会第36回大会の合同学会が山内俊雄(埼玉医大)会長のもとで,2002年9月11日から14日の間,長野県軽井沢で行われた。

 1996年第1回アジアオセアニアてんかん学会議(AOEC)が韓国で行われ,以後2年ごとにてんかん協会とも合同して会議を行うことになった。第2回は,1998年台北,第3回は2000年インドで行われ,今回が第4回となる。AOECは,国際抗てんかん連盟(ILAE)が協力するようになっている。しかし,人口30億の地域に,ILEA支部は12か国しかない。ILAEと本学会は日本以外の地域から選考して50名に奨学金を出した。

 338題の応募があり,そのうち105題は日本語発表,233題は英語発表であった。

「第32回日本神経精神薬理学会年会」印象記

著者: 野村総一郎

ページ範囲:P.102 - P.103

 この印象記を書くように編集部からご依頼を受けたのは,学会が終わってやや日数が経ってからのことだったが,本学会にいささかの思い入れがある小生としては是非もなくお受けすることとした。しかし考えて見ると,小生は主催者ではないものの,この学会のプログラム委員を務めたし,シンポジストでもあり,後に述べる今回の年会の目玉企画とも言える分科会のオルガナイザーの一人でもあった。そうなると企画の特色を強調することは手前味噌となるし,「学会が素晴らしく成功した」などと書くと自画自賛のそしりを免れまい。そこでここでは,参加者からの印象記というよりも,プログラム委員としての感想という角度から書いてみたい。

書評

―David A. Tomb著/神庭重信監訳―レジデントのための精神医学 第2版

著者: 澤明

ページ範囲:P.105 - P.105

 この「レジデントのための精神医学 第2版」は,神庭教授ご自身が所属され教官を務めておられたメイヨー大学(Mayo Univ.)において,必携の本として考えられているものであるそうだ。第1版が日本語に翻訳されたのは約十年前であったが,今回精神医学の発展に伴い改訂された第2版の翻訳が完成するにあたり,私は大きな期待をもってこの本をひもといてみた。

 この本の最大の特徴は,臨床の場で「具体的」に役に立つ教示が,実に「論理的」に構成されているということである。臨床における「具体性」とは多くの場合「論理性」とは相反しがちなものであるが,これらを実にうまくまとめている点は注目すべきであろう。まさにポケットブックとしては,最大の効果を示していると言えよう。

―佐藤泰三・市川宏伸編集―臨床家が知っておきたい「子どもの精神科」―こころの問題と精神症状の理解のために

著者: 中根晃

ページ範囲:P.106 - P.106

 児童・思春期の精神的問題は,成人の精神疾患をモデルとした精神医学の体系では対応できないことはよく知られている。たとえば,思春期のうつ状態は従来型の抗うつ薬では奏効しきれない。そこに児童青年精神医学の存在意義があるわけであるが,ここで注意したいのは,親は自分の子どもを精神疾患だと思って受診させるのではないことである。そのため,全国各地の小児医療センターに精神科クリニックが開設され,小児医療の一環として運営されている。しかし,スペースやスタッフ機能が十分でなく,全方位の精神科診療を提供しにくいという難点を持っている。本書の執筆者の多くが所属している東京都立梅ケ丘病院は長年,広範囲にわたる子どもの精神科の臨床を実践している。本書はその実績に立って書かれた臨床家のための手引きである。

 どの教科書でも,総論ではそのあるべき姿が書かれているが,それはすでに年月を経てしまって,現実とはかけ離れたものになっていることが多い。本書はそれを日常の臨床の中で編集し直して,洗練された形で記述している。

基本情報

精神医学

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-126X

印刷版ISSN 0488-1281

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