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文献詳細

雑誌文献

精神医学45巻10号

2003年10月発行

文献概要

特集 新医師臨床研修制度における精神科研修はどうあるべきか

精神科医養老孟司は生まれたのか―民間精神科病院の立場から新臨床研修制度への提言

著者: 犬尾明文1

所属機関: 1いぬお病院

ページ範囲:P.1079 - P.1082

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はじめに

 解剖学者として有名な養老孟司先生が記された「からだの見方」(ちくま文庫,筑摩書房,1994)の中に,次のようなくだりがあります。「医学を学び始めてから,一方で私は,人のこころに大変興味を持つようになった。精神科の医師になろうと思ったくらいである。だから医学部を卒業してすぐに,精神科の大学院を受験した。この時は,たまたま大学院の志望者が多かったので,クジ引きで入学者を決定することになった。クジを引いたら,案の定クジにはずれたから,そこで考え直した末,解剖学を専攻することにした。つまり,医師としての私の経歴は,本人の予定では『こころ』から始まるはずだったのだが,クジに外れたために,死体つまり『身体』から始まることになった。その後は,ほとんどもっぱら身体のことを考えてきた。しかし,もともと興味があったのだから当然といえば当然だが,最近は少しずつ,『こころ』についても考えざるを得なくなった。」

 養老孟司先生は精神医学を学びたいと思われたのにもかかわらず,クジ引きという当時らしい選考方法によりその思いを断念せざるを得なかったわけです。しかしもしも大学を卒業されたばかりの先生が,来年から始まる新研修医制度を利用して,精神科での短期研修を行うことができたとするなら,先生はどのような志を持ち,どのように研修期間を過ごされたのでしょうか。もしかすると先生は,この短い研修期間に精神医学のおもしろさを再認識され,改めて精神医学の門をたたかれたのかもしれません。とすると,解剖学者養老孟司は残念ながら生まれなかったかもしれませんが,また別にすばらしい精神科医が誕生していたのかもしれません。

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-126X

印刷版ISSN:0488-1281

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