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雑誌目次

雑誌文献

精神医学45巻11号

2003年11月発行

雑誌目次

巻頭言

新しい「精神病理学」の創出

著者: 森山公夫

ページ範囲:P.1138 - P.1139

現在の状況

 この時代の激変期にあたり,精神医療もその制度・実践と学的内容の大きな転換を経験しています。制度についてわたしたちは最近,「心神喪失者法案」や「病床削減問題」で激しい攻防を経験してきました。で,ここでは話を学的転換にしぼります。

 現在目立つことの一つは,アメリカの教科書DSMと,伴走するICD-10とが,日本の,そして世界の精神医学界を支配してきたことです。もう一つは,いわゆる第二世代向精神薬の開発に伴う製薬業界のリードです。そして第三が,精神医療への経済支配で,これは「エビデンスに基づく精神医学」(EBM)の流れとなり,つまりは統計学的な数字を強調します。こうしてアメリカンスタンダードがいつしかこの日本を支配し,日本の精神医学のあり方を大きく変えました。その中で精神病理学の凋落が目立っています。

特集 ICFと精神医学

ICIDHからICFへ

著者: 佐藤久夫

ページ範囲:P.1140 - P.1147

はじめに

 世界保健機関(WHO)は,2001年の総会で国際生活機能分類(ICF:International Classification of Functioning, Disability and Health)9)を採択した。国際障害分類(ICIDH:International Classification of Impairments, Disabilities, and Handicaps)1,8)の改定が21年ぶりになされたことになる。日本では厚生労働省訳が2002年8月に出版された5)

 日本では,1987年の精神衛生法の改正に続く90年代の一連の法改正の過程で,ICIDHの概念モデル,つまり病気と障害の関連と相違,障害の3つの次元の区別と関連などの枠組みが活用され,精神障害者が経験している異なる次元の問題に対して医療,社会復帰訓練,福祉などの異なるアプローチが必要であり,有効であることが確認されてきた4)(図1)。精神障害者保健福祉手帳の認定でも機能障害や能力障害の概念が基礎となっている。一方,臨床分野でも1997年に「精神障害とリハビリテーション」誌で障害構造論の特集が組まれる2)など,政策・制度でも臨床でも,精神医療保健福祉分野は最もICIDHに強い関心を示してきた分野の1つであった。

 日本のこうした状況の中で今回のICFへの改定がなされた。以前から「ICIDHは成人の身体障害者を念頭に作られているため児童や精神障害,知的障害分野では使いにくい」との批判も寄せられていた。そのため児童分野や精神障害分野で使いやすいものにするための特別な作業グループがWHO承認のもとに作られ,その提言も踏まえての改定であったため,ICFでは学習とか対人関係などの項目が充実した。これらのことから,日本の精神医療保健福祉の分野でのICFの活用や検討が今後いっそう進むことが期待される。

 本稿では,ICIDHからICFへの流れを概観し,ICFの内容を詳しく紹介し,その改定の主要点を整理するとともに,活用に向けてのいくつかの提言を行いたい。

ICFと精神医学―精神疾患における障害評価の歴史的経過

著者: 中根允文 ,   田崎美弥子

ページ範囲:P.1149 - P.1158

はじめに

 国連は,1980年(昭和55年)の同総会において「国際障害者年行動計画」を決議し,1981年は国際障害者年として「完全参加と平等」をテーマにノーマライゼーションなどの原則を定め,さらに1983年からの10年間を国連・障害者の十年とした。こうした経緯の中で,世界保健機関(WHO)は1980年に1972年以来検討中であった「国際障害分類(International Classification of Impairments, Disabilities, and Handicaps:ICIDH)」(試案)を公表した8)。その中に示された障害構造モデルというのは,国際障害者年およびその後の障害者十年での障害者問題に対する正しい理解を普及させるうえで重要な役割を果たしたといえよう。

 また,WHO精神保健部は精神科的症状や精神疾患に伴って生じた能力障害の評価のために,1988年に先のICIDHを参照するような形でWHO Psychiatric Disability Assessment Schedule(WHO/DAS;精神医学的能力障害評価面接基準)を開発した9)。次いで,同精神保健部は1992年にICD-10Fを発表したとき,従来のICDシステムの欠陥を補充すべくICD-10Fファミリーとも言うべきさまざまなバージョンを次々に提案した。それらは,中核的な出版物である「グロッサリー集」(Glossary),「臨床記述・診断指針」(CDDG),「研究用診断基準」(DCR)に加えて,「プライマリケア版」(PC),「一般医のための教育パッケージ」(Educational Package)であり,「多軸記載法」(Multiaxial Presentaion),信頼性ある症状評価のための「統合国際診断面接法」(CIDI)や「精神神経学臨床評価表」(SCAN),「国際人格障害検査表」(IPDE),および「症状チェックリスト」(ICD-10F/SCL)であり,さらに利用者の便宜を図るためのICD-8/ICD-9/ICD-10「対照表」(Cross-Table),「用語集」(Lexikon)などである。それらの中で,多軸記載法10)は臨床診断のための第Ⅰ軸に次いで,第Ⅱ軸では前記のWHO/DASに基づくWHO/DAS-Sが活用されるように計画されている。

 ICIDHが国際的に見てどのように活用されたかの実際については詳しく知る由もないが,日本国内の医学医療分野に限って活用状況を通覧したとき必ずしも十分ではなかったように思う。後記するような3種の障害ステップはかなり周知されたものの,いかに具体的に活用および展開されたかについては問題がある。

 さらに今回,ICIDH-2から発展したICFについても,日常の診療や研究からすると,必ずしも容易に取り組めるテーマとは言い難く,より十分な啓発のもと,理解を高め,そして積極的に活用を勧める方策を練る必要がありそうである。

ICFと精神症状

著者: 菅原道哉

ページ範囲:P.1159 - P.1165

はじめに

 1946年以来のWHOの健康の定義は「健康とは身体的,精神的,社会的に完全な安寧状態であり,単に疾患,病弱状態でないということではない」となっている。なんとなくわかり難い。各単語の意味内容よりも文章の構造にその原因がある。特に後段の文章は,健康を定義するにあたって不健康を否定するという構造になっている。さらに英語で見るとdis+ease(安寧の欠如)の否定ということである。「二重否定をとおして健康を定義するという複雑な過程である。消極的健康(negative health)からの健康の定義といわれている。一方,前段の安寧状態(well-being)は積極的健康(positive health)としての健康の定義である」1)健康は相対的事柄である。特殊な健康状態を求めることではなくより良い健康状態を目指すことが重要である。この考えを推進するのが健康推進(health promotion)の基本的思想である。

ICFと統合失調症

著者: 山本佳子 ,   丹羽真一

ページ範囲:P.1167 - P.1174

はじめに

 ICF(International Classification of Functioning, Disability and Health)国際生活機能分類 は,1980年に作られたICIDH(International Classification of Impairments, Disabilities and Handicaps)国際障害分類初版の改定版として2001年に発表された。

 ICIDH は,1つの方法論的な道具として,日本に導入され,精神障害のリハビリテーション分野に大きな影響を与えてきた。この「国際障害分類」とはどのような考えかについて,ICIDH時代の臺11)は,能力の障害を生活の障害に言い換えて,社会的不利は社会的障害と言い換えて,精神障害における障害の三つの側面を「機能障害・生活障害・社会障害」とすることを提案した。つまり,「『機能障害』は疾患そのものによる機能障害であり,『生活障害』は機能障害に基づく生活能力の低下,それに失敗や経験不足などによる影響が加わった生活の障害,『社会障害』は生活障害に伴って起こった社会障害である」と,解説されている。

 本稿では,ICIDHからICFへの流れの紹介と,統合失調症に見られる障害をICFによる障害分類に沿ってみた場合の構造的理解につき解説し,ICFの活用の仕方を,ある症例にICF評価を行った具体例により示し,ICFに対する今後への期待を述べた。

ICFと発達障害―活動と参加に焦点を当てて

著者: 太田昌孝

ページ範囲:P.1175 - P.1184

 国際生活分類(ICF:International Classification of Functioning, Disability and Health)は,世界保健機構(WHO)により2001年に採択された27)。これは1980年の国際障害分類(ICIDH)28)を改訂されたものである。ICIDHは成人の精神障害者の障害論の発展や生活の改善については大きなインパクトを与えた。しかしながら,子どもの精神医学の領域については世界的に見てもインパクト力は少なかった。むしろ同時期に出版されたDSM-III3)のほうが子どもの精神医学の領域の体系的整理と診断基準の明確化と多軸診断の採用のインパクト力がとりわけ日本では大きかった。

 実際に,現在に至るまで発達の過程にある子どもについてのICIDHあるいはICFを適用した研究はほとんどなく,その理念が紹介されているにとどまっている。それは,ひとつには,児童・思春期精神医学においては,ICIDHやICFの体系を用いなくとも,治療に際しては,学校や家庭などの社会的要因を考慮する必要があり,それに沿ったさまざまな評価システムが用いられてきていることが要因となっていると思われる。もう一つには児童・思春期の精神障害について用いにくいICIDHあるいはICFにおける内在的問題点があったように思える。

ICFと障害年金判定

著者: 梶原徹

ページ範囲:P.1185 - P.1193

はじめに

 障害年金診断書を記入した経験は大多数の精神科医が持っていよう。

 社会保険庁の資料によれば,1998(平成10)年の障害基礎年金(国民年金)受給者1,087,872人中46.7%にあたる508,310人が知的障害を含んだ精神の障害による受給である。精神の障害のこの数値は障害基礎年金受給者の中で最大のカテゴリーとなっている。厚生障害年金では同じく1998(平成10)年で223,868人の受給者中16.9%37,756人が精神の障害による受給である。厚生障害年金では精神の障害は脳血管障害について2番目に大きなカテゴリーである。知的障害を除くと多くの精神の障害では障害が変動するために数年ごとに診断書が記入され認定審査が行われるので,新規申請を除いても平均して3年ごとに診断書が記入されるとすれば,1年でおよそ9万人弱分の障害年金診断書を日本の精神科医は記入していることとなる。さらに障害年金の請求申請を希望する障害者は増えてきている。2000(平成12)年から2001年にかけての1年間で障害基礎年金受給者数はおよそ4万人強増えている11)

 障害年金診断書は障害年金制度における障害disabilityを認定するための診断書であり,疾患の状態を証明する診断書ではない7)。したがって,精神疾患による障害に関する認識が記入する精神科医に強く要請されているといえよう。

 一方,世界保健機関(WHO)は1980年に国際障害分類(International Classification of Impairments, Disabilities, and Handicaps;ICIDH)22)を公表したが,その後の20数年間でこのICIDHを障害認定基準に採用したことを明記しているのは,フランスにおける福祉領域の障害認定基準だけであるとされる21)。わが国でも障害年金の障害認定基準はICIDHに関連する改定は昨2002年まで行われてこなかった。しかしながら,1992年に発表されたWHOの国際疾病分類第10版(ICD-10)第5章(F)精神および行動の障害では,その序論でICIDHの用語法(Impairment, Disability, Handicap)を取り上げており,機能障害と能力障害の一部がこれまで症状と考えられて,診断基準の中に使用されていること,Handicap(社会的不利)は文化的影響を強く受けるために診断基準には含めないことが指摘されている23)。このようにICD-10においても国際障害分類ICIDHが活用されている。さらに,1995年に新設された精神障害者保健福祉手帳では障害認定について疾患および機能障害が存在することを確認し,能力障害を中心に総合的判断を行って判定することとなっており9,10),ここではICIDHの障害構造を強く意識した基準となっている。精神障害者ケアガイドラインでは,ICIDHとの関係は検討項目として示されている1)

 このような点から見ると,精神の障害領域では機能障害によって判定することが多い他の障害よりも先行して,ICIDHの障害構造を意識した診断基準と障害認定基準の制度化が行われてきた経緯がある。このように国際生活機能分類(International Classification of Functioning, Disability and Health;ICF)24)の前身であるICIDHは精神の障害に関する障害認定にその総論である障害構造が応用されてきていた。

 そして,昨年2002年3月に障害年金認定基準の改定があった。精神の障害領域における主要な改定点はICIDHの機能障害Impairmentによる区分が能力障害Disabilityによる区分に変更されたことであった。本稿では精神の障害に関する障害年金認定基準および2002年改定を中心に検討することを通じて,ICIDH,ICFとの関連について考察することとしたい。精神の障害に関する障害年金制度全般に関しては,本稿で解説するには紙数も不足するため,社会保険庁17,18),全国精神障害者家族会連合会(全家連)25)などが発行している解説書を参考にしていただきたい。

研究と報告

デイケア・作業所通所中の統合失調症患者のソーシャルサポート(第2報)―親のソーシャルサポートの評価

著者: 前田恵子 ,   畑哲信 ,   畑馨 ,   辻井和男 ,   浅井久栄 ,   柴田貴美子 ,   岩崎さやか ,   瀬川聖美 ,   皆己純恵 ,   宮本珠妃 ,   吉本真紀

ページ範囲:P.1195 - P.1203

抄録

 デイケア・作業所通所中の統合失調症患者53名および健常者83名を対象として,ノーベックソーシャルサポート質問紙(NSSQ)を用いて,親から受けるソーシャルサポートを評価した。再テスト法により有意な信頼性が得られた(Spearman相関係数:r=0.61~0.84)。3つのNSSQ指標について全般的NSSQと親のNSSQの相関を求めたところ,患者群では3つの指標とも有意な相関が認められたが(r=0.53,r=0.43,r=0.40),健常群では1つの指標でのみ有意な相関が認められた(r=0.22)。親のNSSQ指標を従属変数,診断および性別を独立変数とした二元配置分散分析では,患者群<健常群の診断の効果が有意(p<0.01~0.0001)であった。性別の効果は有意ではなかった。患者群において親のNSSQ指標と精神症状との関連を検討したところ,BPRS合計点との間に弱い負の相関が認められた(r=0.29~0.33)。NSSQを用いた親のソーシャルサポート評価の信頼性,臨床的有用性について考察した。

うつ病患者の心気症状

著者: 賀古勇輝 ,   栗田紹子 ,   櫻井高太郎 ,   山中啓義 ,   山田淳 ,   嶋中昭二 ,   浅野裕

ページ範囲:P.1205 - P.1212

抄録

 うつ病患者において,心気症状を伴う症例とそれ以外の症例とを比較し,ハミルトンうつ病評価尺度(Hamilton Rating Scale for Depression;HRSD)を用いて,主にその一年転帰について調査した。対象は,1998年4月から2000年3月までの2年間に当科外来を初診した患者の中で,ICD-10のF32うつ病エピソードのクライテリアを満たし,1年間治療継続された患者,または経過良好で治療終了した患者の計56例。心気群17例と非心気群39例に分け,初診時と調査終了時(1年後もしくは治療終了時)の状態をHRSDで評価した。心気群は非心気群と比較して一年転帰が不良であり,それは発症年齢60歳以上でより顕著であった。

短報

電気けいれん療法が奏効したPisa症候群を呈する分裂感情障害の1例

著者: 分野正貴 ,   柳生隆視 ,   入澤聡 ,   谷万喜子 ,   木下利彦

ページ範囲:P.1215 - P.1218

はじめに

 Pisa症候群は,薬物により惹起される持続性の姿位異常で,頚部から腰部にわたる側屈位姿勢を特徴とする病態である1)。主に傍脊柱筋のジストニア様不随意運動により,収縮側を凹として体幹が側屈する6)。その治療には,抗コリン薬やamantadineなどのさまざまな抗パーキンソン薬やビタミンEなどが試みられているが無効例が多く,むしろ抗精神病薬の中止や減量が有効といわれている6)。我々は,分裂感情障害の薬物療法中にPisa症候群を発症した症例を経験した。この不随意運動に対して,抗コリン薬の追加・増量,ビタミンEの追加や抗精神病薬の減量を試みたが変化なく,徐々に精神運動性興奮などの精神症状が顕在化した。薬物治療が困難であったため,修正型電気けいれん療法(modified electroconvulsive therapy;以下ECT)を施行したところ,精神症状の著しい改善とともにPisa症候群の軽減を認めたので,考察を加えて報告する。

持続性部分てんかん症例における脳磁図およびFlumazenil PETの検討

著者: 田中尚朗 ,   出店正隆 ,   武田洋司 ,   志賀哲 ,   鎌田恭輔

ページ範囲:P.1219 - P.1221

はじめに

 持続性部分てんかん(epilepsia partialis continua;EPC)は,顔面や上下肢などに限局したけいれんが,数秒間隔で反復性,持続性に出現する疾患である。近年,EPCの診断における脳磁図の応用がすすめられており,てんかん性棘波の電流源推定が行われている5,6)。また,C-11 flumazenil を用いたpositron emission tomography,すなわちflumazenil PETは,脳内ベンゾジアゼピンレセプターの分布を反映する画像検査であり,症候性局在関連てんかんの診断に有用であると言われている3,4)。今回,我々はEPC症例において脳磁図およびflumazenil PETを施行し,両者をMRIに重ね合わせて所見を検討し,興味深い知見を得たので報告する。

塩酸ドネペジルが有効であった脳血管性痴呆の2症例

著者: 木村武実 ,   寺岡和廣 ,   石塚公子

ページ範囲:P.1223 - P.1226

はじめに

 塩酸ドネペジルはアルツハイマー病(Alzheimer's disease;AD)の治療薬として開発され,痴呆進行の抑制,Quality of LifeやActivities of Daily Livingの改善に効果を認め5),本邦でもこの効果が確認されている1)。一方,塩酸ドネペジルでの脳血管性痴呆(vascular dementia;VD)の有効性も報告されているが2),本邦ではその有効性は明らかにされていない。我々は,VD患者2例に塩酸ドネペジルを投与し,著明な改善を認めたので,若干の考察を加えて報告する。

クリニカルパスによるm-ECT施行により早期に退院した亜昏迷状態の1例

著者: 中島公博 ,   古根高 ,   千丈雅徳 ,   小林清樹 ,   林裕 ,   坂岡ウメ子 ,   田中稜一

ページ範囲:P.1227 - P.1230

はじめに

 クリニカルパスは,経営工学の製造工程管理法を医療界において臨床的に応用されたものである。パスの基本形は疾病や診療別に状態の経過やさまざまな治療タスクを同一のフォーマットで時系列に並べたもので,関係するスタッフが治療経過を把握しやすくなっている1)。内科,外科系の臨床では広く利用されており,2002年の日本クリニカルパス学会もすでに4回の開催を数える。クリニカルパスは在院日数の短縮,経費削減などのメリットがあるとされる。

 しかし,精神科の治療においては疾患の性質上,時系列に予想された通りに経過することは少なく,クリニカルパスをそのまま使用することは非常に困難なことが多い3)。それでもクリニカルパスを使用し,精神科医療の中でも標準化された治療を行うことが有用なこともあると思われる。

 今回,クリニカルパスによるmodified electroconvulsive therapy(m-ECT:無けいれん頭部通電療法)を施行することにより,早期に退院に至った亜昏迷状態の症例を経験したので報告する。

抗精神病薬服用後,子宮筋腫が縮小した統合失調症の1例

著者: 櫻井高太郎 ,   栗田紹子 ,   賀古勇輝 ,   山中啓義 ,   山田淳 ,   嶋中昭二 ,   浅野裕

ページ範囲:P.1231 - P.1233

はじめに

 今回我々は,子宮筋腫を合併した未治療の統合失調症患者において,抗精神病薬開始後に筋腫の著明な縮小がみられた1例を経験した。その原因・機序に対する若干の考察を含めて報告する。

動き

WPA2002横浜大会を通して感じたこと,考えたこと―会議の運営に参加して/精神医療と精神保健における文化的視点

著者: 太田龍朗 ,   江畑敬介

ページ範囲:P.1235 - P.1237

 観光コースとしてすっかり馴染み深くなったロマンチック街道の旅を一緒に過ごし日本へ帰国する家内を含めた一行をパリのシャルル・ドゴール空港で見送ったあと,再びドイツへひとり戻ったのは1999年8月の暑い最中であった。眼下に拡がる黄昏のヨーロッパの大地を眺めながら,気持ちが休暇から仕事へと切り換わっていくのを覚えた。第11回世界精神医学会ハンブルグ大会に参加してその様子を具に見ることが第1の目的であったが,3年後に横浜で行われる予定の第12回大会の会議運営委員長を仰せつかってまもなくであったから,これまで,ひとりの会員,つまりお客様として参加していた国際会議の運営などには,印象の良し悪し程度の関心しか払ってこなかったのに対し,この度はお客を迎える立場として働かねばならないという役割意識のようなものがあったことは否めない。

 大会前日の8月5日の午後受付を済ませてから,メイン会場となるハンブルグ国際会議場(Congress Centrum Hamburg)に立ち寄ったが,展示会場などは,まだ器材が床に散乱し,工事に手がついたばかりの状態で,一瞬“間に合うのかしらん”と他人ごとながら心配になった。しかし,翌日の夕刻の開会式直前には,実にきれいにset-upされ,迎え入れの準備が完全に整っているのを目の当たりにして,それが杞憂であったことがわかった。開会式はメインホールで満員の各国会員の参加のもと盛大にとり行われた。なかでもホスト国であるドイツ精神医学会を代表したGaebel組織委員長の挨拶では,クレぺリンやヤスパースなど,ドイツ精神医学史に燦然と輝く多くの人々の名がその歴史とともに続々と登場し会場を圧倒した。ナチス時代にあったこの学会の不幸な一時期についても触れることを忘れず,被い隠すことなく懺悔と憂慮を込めて述懐する氏の演説は,聞く者の胸を打つものがあったが,このとき同時に筆者の胸に少なからぬ不安がわいた。9千余名の会員を擁しながら,年次学術集会に参加する者が毎年千名を越えるか越えないかといった状態にある日本精神神経学会が,host societyとして次回の大会でこのドイツのように一丸となって堂々と機能することができるだろうか。年次集会の数倍もする会費を払ってはたして会員は参加をしてくれるのだろうかなどなど……。

私のカルテから

パロキセチンにより治療効果がみられた交通事故PTSD例

著者: 真城拓志 ,   湖海正尋 ,   水井康太 ,   大原一幸 ,   守田嘉男

ページ範囲:P.1238 - P.1239

 選択的セロトニン再取り込み阻害薬(以下SSRI)の心的外傷後ストレス障害(以下PTSD)に対する有効性は,大規模な無作為化試験により確認されている1,3,4)。今回我々は,交通事故後3年あまりPTSDが継続している男性患者において,パロキセチンを併用したところ再体験の一部と回避症状に著明な改善をみたので,若干の考察を加えて報告する。

書評

―ベン・ポリス著/山本俊至訳―ぼくは,ADHD!―自分を操縦する方法

著者: 中根晃

ページ範囲:P.1240 - P.1240

 本書(Ben Polis:Only A Mother Could Love Him:Attention Deficit Disorder)は,オーストラリアの大学1年生である著者の自叙伝の章と,ADHDについての本人の考えの章とから構成され,自叙伝の章は特に興味を惹く。というとADHDの優等生のようだが,実際には6回も学校を変わった強者である。彼の問題行動にはそれぞれの年齢の心理特性がADHDによって強調されているのがわかる。

 徴候は2歳前後に現れており,3歳すぎから好奇心のままに,また,独りで頭に乗って大騒ぎを繰り返し,大事を起こしている。LD(学習障害)の部分としては国語・算数が苦手で,単語は意味を想い浮かべるだけで発音できなかった。ofの綴りをovと書いたりしていたが,先生が一つ一つ辛抱強く読み方を教えてくれ,基礎単語を憶えてからは急速に進歩して集中して読めるようになったと記している。2回目の退学後の新しい学校での5年生もピエロのように振舞い,みんなに注目されるのが好きで“受け”を狙っていろいろと問題を起こした。フットボールを楽しむようになると,両親や先生への怒りを走り回ることで解放したこともあって学業成績も伸びたが,6年生では行動が悪化して友だちや両親,姉への攻撃が続いた。すでに8歳の時にADHDと診断されているが,12歳の時にmethylphenidateを処方され,認知行動療法について教わり,衝動性や怒り,集中力のなさを克服するために自分自身をコントロールすることを学ばねばならないことを知った。8年生になって200m競争を始め,次々とスポーツ競技で勝ち,みんなから敬服されるようになってからはトラブルを起こさず,成績も平均点をとった。

―松下正明,中谷陽二,加藤敏,大野裕,神庭重信編―精神医学文献事典

著者: 山内俊雄

ページ範囲:P.1241 - P.1241

大変おもしろい発想によって作られた本である。

 「序」によれば,「精神医学および関連諸分野に関わる基本的な重要文献を選び,斯界の専門家に執筆をお願いし,それぞれの精神医学の歴史における意義や影響を解説したものである。」しかもそれは,「単に解説のみにとどまらない。歴史的な興味からだけではなく,また精神医学における古典の紹介だけでなく,現代に生き,種々の分野で精神医学と関わっている執筆者たちが,その古典をどのように受けとめ,それを自らの活動にどのように生かそうとしているかの表現でもある。古典と現代との対話を通してこそ,これからの精神医学の発展が期待されるからである。」と述べられている。

 このような観点から選ばれた760点以上の主として著書が,331名の執筆者によって解説・記述されている。取り上げられた著書あるいは論文は,精神医学に関係した基礎的なものから,臨床,あるいは行動科学,社会学,哲学ときわめて広範な領域にわたっている。そこに取り上げられているものは必ずしも古典とは限らず,比較的新しいものも掲載されている。

基本情報

精神医学

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-126X

印刷版ISSN 0488-1281

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