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雑誌目次

論文

精神医学45巻2号

2003年02月発行

雑誌目次

巻頭言

PTSD診断と訴訟

著者: 黒木宣夫

ページ範囲:P.116 - P.117

はじめに

 平成10年6月横浜地裁にてPTSD診断のもとにわが国で初めて民事訴訟事案に損害賠償が認められたが,その事案の診断に関しては,専門家,特に法曹界で大きな議論となり,PTSD診断そのものの在り方が大きな問題となった。そして最近では,民事訴訟で途中からPTSDという診断名のもとに,損害賠償の訴訟の請求拡大が行われたり,刑事事件として被害者がPTSD診断を受け,そのために加害者が暴行罪からより重い傷害罪へと罪状が切り換えられる事案が出てきており,PTSD診断をめぐる賠償・補償問題は,今や大きな社会問題となりつつある。現在,この問題は,日本精神神経学会「精神保健・医療・福祉システム検討委員会」,日本産業精神保健学会「精神疾患の業務関連性に関する検討委員会」において検討されている。補償におけるPTSD診断に関する問題点を挙げ,「精神保健・医療・福祉システム検討委員会」では下記の提言をまとめたので後述する。

研究と報告

女性物質使用障害における摂食障害―乱用物質と摂食障害の関係について

著者: 松本俊彦 ,   山口亜希子 ,   上條敦史 ,   南健一 ,   遠藤桂子 ,   矢花辰夫 ,   岸本英爾 ,   小阪憲司

ページ範囲:P.119 - P.127

抄録

 2000年1月~2001年8月に神奈川県立精神医療センターせりがや病院外来を初診した,女性物質使用障害症例219例を対象として摂食障害に関する調査を行った。その結果,摂食障害は26%に認められ,その病型の比率は,神経性無食欲症3.5%,神経性大食症66.7%,特定不能の摂食障害29.8%であった。物質別では,methamphetamine乱用者で摂食障害が最も多く(37%),alcohol乱用者(18.8%,p<0.01)やtoluene乱用者(9.5%,p<0.02)との間で有意差を認め,食欲抑制作用を期待した乱用が推測された。摂食障害を合併するmethamphetamine乱用者では,神経性大食症,非排出型(40.7%)の割合が,ほかの摂食障害を合併する物質乱用者と比べて顕著に高く,その薬理作用との関係が推測された。摂食障害のほかに,自傷,大量服薬の経験を持つ,いわゆるmulti-impulsive bulimiaは,benzodiazepine乱用者で最も多く,乱用者の27.3%に認められた。

機能性健忘―純粋前向性健忘の1例

著者: 北條敬 ,   加川真弓 ,   中野英樹

ページ範囲:P.129 - P.137

抄録

 意識障害を伴わない軽い頭部打撲後,持続する重篤な前向性健忘を呈した若年男性例を報告した。神経心理学的検査では,知能レベルが高く,平均以上の短期記憶能力を示したにもかかわらず,重篤な前向性健忘を呈していた。逆向性記憶は正常で,著しい対照を成していた。神経学所見やMRI,SPECTなどの神経放射線学的検査からは脳器質性障害を見いだせず,その病歴や二次性疾病利得などの観点からも,心因性病因を支持する結果は得られなかった。記憶過程における符号化encoding閾値が頭部打撲によって異常に高められた可能性があり,De Renziらに従って「機能性健忘」――心因性健忘と等価ではなく,病因が器質性,心因性のいずれにも該当せず,病変が機能に影響を及ぼすという意味で――と呼び,類似した症例の蓄積を促したいと思う。

脳挫傷5年後に痴呆を呈し,海馬体に限局した神経原線維変化を認めた1例

著者: 島崎正夫 ,   小林克治 ,   岡宏 ,   中野博之 ,   林眞弘 ,   宮津健次 ,   佐々木素子 ,   越野好文

ページ範囲:P.139 - P.144

抄録

 症例は83歳の男性。左前頭側頭葉の脳挫傷受傷5年後より自閉的になり,記憶障害や見当識障害,せん妄を認めた。症状は進行性に増悪し,約2年の経過で死亡した。病理学的には,左前頭側頭葉に脳挫傷による壊死病巣を認めた。また,CA2-3にghost tangleが集中して出現しており,大脳新皮質には定型老人斑や神経原線維変化を認めなかった。本症例の病変は,内嗅領野から神経原線維変化が増加していくアルツハイマー病とは異なる分布を示した。これは急速な痴呆の進行を説明しうる病態であり,脳挫傷を伴った辺縁系神経原線維変化痴呆と考えた。

精神科作業所における摂食障害のソーシャルスキル―統合失調症との比較

著者: 鈴木健二 ,   武田綾 ,   白倉克之 ,   吉野相英

ページ範囲:P.145 - P.151

抄録

 この研究は,摂食障害のリハビリテーションの必要性を明らかにする目的で,摂食障害のソーシャルスキルを統合失調症と比較したものである。対象は精神科作業所に通所している摂食障害28名,統合失調症54名の患者であった。2つの群のソーシャルスキルの評価スケールとして,本人の自己評価はKikuchi's Social Skill Scale-18 (KISS-18),指導員からの評価は精神障害者社会生活評価尺度とLife Skills Profile (LSP)を使用した。結果として,作業所場面で見る摂食障害のソーシャルスキルは統合失調症とほぼ同じレベルかやや低かった。摂食障害の回復にはソーシャルスキルの向上が必要であり,摂食障害のリハビリテーションの必要性が示唆された。

起訴前簡易鑑定とDSM診断―52事例の経験

著者: 髙橋三郎 ,   塩入俊樹

ページ範囲:P.153 - P.159

抄録

 1999,2000,2001年の3年間でいわゆる簡易鑑定を52件行った。

 検察官意見による診断を要する理由の第1は精神科受診歴で29件(56%),このうち,捜査資料による精神科初診医診断が精神分裂病(統合失調症)は14名(48%)あったが,鑑定時のDSM-Ⅳ診断で精神分裂病とされた者は3名しかいない。一方,初診が気分障害であった者8名中では6名が鑑定時診断も気分障害,その他の診断でも鑑定時診断と一致が7名中5名であった。このことは精神科医が広く精神分裂病という病名を使用しすぎていたことを示している。これら52件のDSM-Ⅳ診断,重複診断を含む74の診断は,人格障害21,アルコール中毒など14,精神分裂病および妄想性障害8,気分障害8,精神遅滞6,アンフェタミン関連障害4,その他の順となった。

 責任能力との関係では,全52件中,限定責任能力と責任能力なしを合わせて20件(38%)であったが,精神分裂病・妄想性障害では8件中6(75%)となり有意に多かった(p<0.05)。精神医学はいまだに十分な証拠に基づいていない医学の分野であるが,簡易鑑定にあたってはどこかに線引きをしなければならず,そのためには少なくともDSM-Ⅳのような国際的に標準化された明確な基準による的確な論理が説得力を持つ。

Eating Attitudes Test(EAT)の妥当性について

著者: 中井義勝

ページ範囲:P.161 - P.165

抄録

 DSM-Ⅳの診断基準による神経性無食欲症(AN)267名と神経性大食症(BN)235名および健常人80名にEating Attitudes Test(EAT)を実施し,全40項目の得点(EAT-40)とその短縮26項目の得点(EAT-26)を計算した。EAT-26はEAT-40と高い相関を示した。また患者群は健常人に比しEAT-26が有意に高得点でその妥当性が示唆された。しかし,EAT-26のカット・オフ点を原著の20点にすると,ANとBN診断の偽陰性が27.5~53.3%で,健常人の上限と重ならない15点にすると,偽陰性は14.3~37.9%であった。偽陰性はAN制限型に多く,BN排出型に少なかった。スクリーニング対象者961名にEAT-26を実施したところ,15点以上は14.8%,20点以上は7.3%であった。わが国ではEAT-26のカット・オフ点は15点にしたほうがよいと考えられた。それでも偽陰性がかなり存在し,その使用にあたっては注意を要する。

「シックハウス症候群」であると主張するアトピー性皮膚炎患者への精神医学的介入

著者: 境玲子 ,   二橋那美子 ,   大西秀樹 ,   山田和夫 ,   井関栄三 ,   石和万美子 ,   近藤恵 ,   池澤善郎 ,   小阪憲司

ページ範囲:P.167 - P.173

抄録

 シックハウス症候群という疾患概念は本邦でも注目されているが,本症候群について精神医学的見地からみた検討はほとんどなされていない。今回我々は,「自分はシックハウス症候群なので,退院して帰宅できない」と主張するアトピー性皮膚炎患者を皮膚科からの併診で診療する機会を得たので,治療経過を報告した。本例では皮疹と精神状態に関連がみられており,皮膚科と精神科が連携して診療することが治療にとって有意義であった。本例の治療経過において,シックハウス症候群か否かの結論を保留とし,皮疹の状態に配慮して,支持的かつ洞察的にかかわることが精神医学的に重要であった。

高機能広汎性発達障害と注意欠陥/多動性障害の知的能力と自閉症状からみた異同

著者: 大塚麻揚 ,   立森久照 ,   長田洋和 ,   瀬戸屋雄太郎 ,   中野知子 ,   栗田広

ページ範囲:P.175 - P.181

抄録

 高機能(IQ70以上)広汎性発達障害(HPDD)55人(平均=4.8歳,SD=1.4)と注意欠陥/多動性障害(AD/HD)18人(平均=5.0歳,SD=1.2)を全訂版田中ビネー知能検査(田中ビネー)と小児自閉症評定尺度東京版(CARS-TV)で比較した。田中ビネーではHPDD群はAD/HD群よりIQと54問中の意味理解関連2問の通過率が有意に低かった。CARS-TVでは,HPDD群は総得点と15項目中12項目の得点がAD/HD群より有意に高かったが,総得点については,両群の大半のもの(HPDD群は82%のもの,AD/HD群は全員)が非自閉的水準にあった。両群は,一見非自閉的だが,個別自閉症状と意味理解困難性に注目すれば,それらのより著明なHPDD児をAD/HD児から早期に鑑別できる可能性がある。

短報

Olanzapineが奏効した躁病の1症例

著者: 都甲崇 ,   井関栄三 ,   加瀬昭彦 ,   内門大丈 ,   勝瀬大海 ,   小阪憲司

ページ範囲:P.183 - P.186

はじめに

 Olanzapineは,ドパミンD2受容体拮抗作用に加えて,強力なセロトニン5-HT2A受容体拮抗作用を含むさまざまな受容体への作用を有することから,定型抗精神病薬と比較して,幅広い臨床症状に対する効果を示す。米国では,olanzapineは,まず統合失調症治療薬として1996年にFDAに承認されたが,その後の臨床試験によって躁病に対する効果も確認され,双極I型障害における急性躁病の治療薬としても2000年に承認された。しかし,わが国では,保険適用上の問題もあり,我々が知るかぎり,躁病に対してolanzapineが有効であったとする報告はない。今回我々は,双極I型障害の躁病に対してlithiumのみでは十分な効果が得られず,他の抗躁作用を有する薬剤の使用が困難であったためにolanzapineを追加し,奏効した1症例を経験したので報告し,さらに躁病に対するolanzapineの効果について文献的考察を加えた。

SSRIとNSAIDs服用中に重篤な消化管出血を来した3症例

著者: 多田幸司 ,   上原純子 ,   松田えみ ,   鈴木卓也 ,   渡辺芽里 ,   小島卓也

ページ範囲:P.187 - P.189

 選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)は,従来の三環系抗うつ薬に比較して抗コリン作用や心毒性などの副作用が少なく,現在ではうつ病治療の第1選択薬と考えられている。SSRIの副作用としては吐き気などの消化器症状や性機能障害が知られているが,まれな副作用として出血傾向が報告されている1,4,6,8)。今回,我々はSSRIとアスピリンなどの非ステロイド性消炎鎮痛薬(NSAIDs)服用中に重篤な消化管出血を来した症例を3例経験したため報告する。

症例

 〈症例1〉 63歳,男性。

 既往歴 28歳時,うつ病の診断で入院歴がある。数年前より糖尿病,高血圧症のため食事療法および降圧剤による治療を受けている。なお出血傾向の既往および家族歴はない。

試論

抗うつ薬の増強法(augmentation)としてmethylphenidateは妥当か―薬理学的問題点と診療上の疑義について

著者: 佐藤裕史 ,   鈴木卓也 ,   一瀬邦弘

ページ範囲:P.191 - P.199

はじめに

 Methylphenidate(MPD)は,多動性障害やナルコレプシーだけでなく,いわゆる難治性・遷延性うつ病にも有効とされ,この目的での保険適用も1998年3月本邦で認められた。MPDは依存・乱用を形成しうるので投与の適否は厳しく問われるべきであるが,抑うつ状態の鑑別や抗うつ薬の投与が不十分なままでMPDの併用される症例が散見され,適応や投与法についての明瞭な見解もない。

 そこで,抑うつ状態に対するMPDの有効性,ならびにMPDの依存・嗜癖形成に関する文献を総覧し,MPDを投与された遷延性うつ病例を検討して,抗うつ薬に対する増強法augmentationとしてのMPD投与を批判し,併せて,安易なMPD投与の背景にある問題を指摘する。

私のカルテから

Olanzapineが奏効し,長期入院から社会復帰が可能となった分裂感情障害の1症例

著者: 西多昌規

ページ範囲:P.201 - P.203

 olanzapineはMARTA(multi-acting-receptor-targeted-antipsychotics)の一種として2001年に市販が開始された。従来の抗精神病薬に比べて,陽性症状にも効果的であるのに加えて,感情障害にも効果的であることが報告されている。今回我々は,薬剤抵抗性の気分変動が原因で社会復帰が困難であった分裂感情障害の症例に対してolanzapineを投与した。その結果,気分変動が改善し状態が安定化したため,18年間に及ぶ長期入院生活からアパート退院に成功した症例を経験したので,ここに報告する。

症例提示

 56歳,男性。

 診断 分裂感情障害(ICD-10F25.2)。

 既往歴 左腎細胞癌,左腎摘出術。

 現病歴 X-15年C大学卒業後より自己に干渉する幻聴が出現した。X-6年4月より当院通院となった。通院当初から「会社の人の声で悪口が聴こえる」という幻聴や,「病院と会社が裏でつながっている」という被害関係妄想が持続していた。また周期的に抑うつ状態や,軽躁状態を繰り返していた。病的体験に基づき不安焦燥や自殺念慮が強まるという入院理由から,当院に2回の入院歴を有したが,いずれも危機介入的保護で速やかに安定化し退院となった。しかし当院2回目入院から退院後,自己を非難する幻聴が増悪し不安定になったため,X年10月に第3回入院となった。自己に干渉してくる幻聴は持続しながらも,haloperidol18mgなどの薬物療法で病的体験は背景化し,情動不安定や不眠も改善した。炊事洗濯,金銭管理も問題なく遂行できるなど生活障害も軽微であり,院内作業療法への適応も良好であった。しかし医師による退院の提案や自宅外泊,社会復帰施設見学などの刺激によって,不安や不眠を呈し反応することがしばしば認められた。加えて年1,2回程度の周期で多弁多動,不眠など軽躁状態を呈するエピソードがみられたため,退院に至らず入院が長期化していた。腎摘出術の既往があるため,lithium carbonateの投与は控えcarbamazepineを投与したが,気分変動の安定化は得られなかった。感情障害様のエピソードを除いた期間はおおむね院内寛解状態であり,文集編纂などの作業療法や自炊訓練などの生活技能訓練を継続していた。気分安定効果を目標として,X+17年11月よりolanzapine10mgを加剤した。追加してからは,気分変動が好発した年末年始や春季も安定した経過をとり,退院の話題を持ち出しても動揺は軽減し,不安焦燥や不眠を惹起することもなくなった。デイケア,作業療法も時間枠を増加し,さらに訪問看護も導入し退院後のサポートを整え,退院に関する不安を取り除くことに努めた。保護者である実兄の協力もあってアパート確保に成功し,外泊,デイケア試験通所も無事達成したため,X+18年5月31日アパート退院となった。退院後も,デイケアの通所は規則的であり,気分変動や情動不安定はみられない。退院後の経過も順調である。

オランザピンと横紋筋融解症

著者: 長嶺敬彦 ,   大賀哲夫 ,   薦田信

ページ範囲:P.205 - P.207

 非定型抗精神病薬は副作用が少ないことが特徴である。今回オランザピンの投与開始後著しい血清クレアチニンキナーゼ(CK)の上昇を認めた症例を経験した。CKの上昇以外に悪性症候群を疑わせる所見はなく,オランザピンによる横紋筋融解症が疑われた。CKの上昇が数万IU/Lで,ミオグロビン尿症から急性腎不全となり,4日間にわたる持続性血液濾過(continuous hemofiltration;CHF)を行い救命できた。オランザピンによる横紋筋融解症の報告は諸外国では散見される1,3,5)。非定型抗精神病薬と横紋筋融解症について文献的考察を加えたので報告する。

症例

 K.T. 46歳,男性。

 診断 統合失調症。

 現病歴 学生時代は社交的で優等生であった。大学卒業まぢかに突然大声を出すなど奇異な言動と独語・空笑を認め,総合病院の精神科で統合失調症と診断された。内服薬による治療を受け翌年大学を卒業し,証券会社に就職した。数年間は通常勤務を行っていた。29歳で結婚。32歳のとき職場での不適応から会社を辞め,営業職に転職した。しかし徐々に自閉的傾向が出現し,X年1月(45歳)より,仕事のノルマが達成できず,ストレスがたまった状態であった。X年3月職場の人間関係でストレスを感じ退職した。それ以来家族と別居し,実家で母親と暮らすようになった。一日中家にいて,無為・自閉的傾向が強かった。プロペリシアジン40mg/日,レボメプロマジン75mg/日,塩酸プロメタジン75mg/日,ニトラゼパム10mg/日を処方され,服用していた。X+1年3月はじめより食欲低下,無気力が続いていたが,3月29日に反応の低下を認め,母親の要請で救急車にて総合病院に搬送され入院となった。血液検査,頭部CT,髄液検査で異常を認めず,反応の低下は精神科的な状態(亜昏迷)と判断され,X+1年4月1日に当院に転院となった。なお総合病院入院後の3日間は抗精神病薬の内服は中止していた。
 現症 来院時意識清明。声かけにはきちんと挨拶できるが,活気がない。顔貌はやや苦悶状であった。体温37.0℃,脈拍73/分整。血圧136/86。食欲がなく,無気力で抑うつ的であった。入院時血液検査・心電図検査では特に異常を認めなかった。オランザピン10mg/日,フルニトラゼパム2mg/日の投与を開始した。翌日の4月2日に赤褐色尿を認めたため,血液・尿検査を施行したところ,血清CKが48,340IU/L,血中ミオグロビンが12,000ng/ml,尿中ミオグロビンが72,000ng/mlと著しく上昇していたので,内服薬をすべて中止した。依然として無気力であったが,意識レベルは清明であった。発熱,発汗,筋固縮,その他の錐体外路症状は認めなかった。再度施行した心電図検査は異常を認めなかった。この時の血液検査データを表に示した。

動き

「第43回日本児童青年精神医学会総会」印象記

著者: 西村良二

ページ範囲:P.208 - P.209

 第43回日本児童青年精神医学会総会が2002年11月27日(水)から29日(金)の会期で,東京都の都市センターホテルで開催された。会長は東京都立梅ヶ丘病院の佐藤泰三院長である。「児童青年精神科医療の新たな展開を目指して」のスローガンのもと,委員会セミナー2,症例検討6,特別講演1,記念講演1,会長講演1,シンポジウム1,ランチョンセミナー2,一般演題142の発表がなされた。

「第14回日本アルコール精神医学会」印象記

著者: 土田英人

ページ範囲:P.210 - P.210

 昨年の8月25日から29日まで,横浜において世界精神医学会(WPA横浜大会)が開催されました。その中で,アルコール精神医学関連のシンポジウムが二つ組まれており,海外から著名な研究者が招待されることから,本学会にもその招待者に参加していただこうという小阪憲司会長(横浜市立大学医学部精神医学教室)のお計らいにより,WPA開催直後の8月30日,31日に本学会が開催されました。

 本学会の特徴として,アルコールおよび薬物に関する研究アプローチが遺伝学的研究,画像研究,疫学的調査研究と基礎から臨床まで実に多岐にわたっており,アルコール・薬物の精神医学を網羅していることが挙げられます。これらは身体面,精神面のみならず,社会精神医学上もますます深刻な問題となっていることはいまさら言うまでもなく,本学会もさらに重要な役割を担っていくものと思われます。

「精神医学」への手紙

早期アルツハイマー型痴呆の「困惑状態」に対する考察―山本と原田の論文に関して

著者: 堀宏治 ,   冨永格 ,   織田辰郎 ,   女屋光基 ,   寺元弘

ページ範囲:P.212 - P.213

 山本と原田の論文1)を興味深く拝読させていただいた。アルツハイマー型痴呆(AD)の早期の段階で,特に,物忘れだけが前景に立ち,他の認知機能の低下がはっきりしない時でも,山本と原田が指摘しているように,それまで特に問題なく生活していた患者が,より多くの知的能力,判断力を必要とする状況において,急に「困惑状態」に陥ることが時としてある。あるいはこれは,ADの早期の段階というよりmild cognitive impairment (MCI)の段階といったほうが正しいのかもしれない。

 現在,ADの前駆段階としてMCIが注目されているが,MCIの段階で抗痴呆薬ドネペジルを投与すべきか否かについては議論が多い。DeKoskyら2)はMCI脳において,アセチルコリン(Ach)伝達系にどのような変化がみられるのか,正常対照群,軽度AD群と比較して詳細な検討を行った。その結果,彼らはMCI群の海馬では対照群,軽度AD群との比較で有意にコリンアセチルトランスフェラーゼ(ChAT)活性が増加しており,また,上前頭回皮質ではMCI群と軽度AD群において対照群に比して,ChAT活性は有意に高値を呈したと報告している。彼らは海馬や前頭葉皮質でみられたChAT活性の上昇は,AD病変に対して反応性にAch伝達系がアップレギュレートした結果と考え,AD脳でAch作動系の障害が出現するのはある程度ADが進行した段階であると考察している2,3)

書評

―浦河べてるの家 著《シリーズケアをひらく》―べてるの家の「非」援助論―そのままでいいと思えるための25章

著者: 鈴木二郎

ページ範囲:P.214 - P.215

 現在,世界や日本各地で,さまざまな形の精神障害者や家族の社会復帰,リハビリテーション,ノーマライゼーションあるいは共生の活動が行われている。しかし「浦河べてるの家」は,おそらくまったく他に例を見ないユニークな集まりと活動と言えるのではないか。

 本書は,そのべてるの家から出版された2冊目の本である。1冊目は,1992年に発行された『べてるの家の本―和解の時代』(べてるの家の本制作委員会)で,初版3,000部があっという間に売れ,1995年には第5刷が出版されている。その年からビデオ『ベリー・オーディナリー・ピープル』の撮影を開始し,2002年には自主企画ビデオシリーズ『精神分裂病を生きる』全10巻が発行されている。

―Henri EY著/秋元波留夫監修,藤元登四郎,山田悠紀男訳―精神医学とは何か―反精神医学への反論

著者: 武正建一

ページ範囲:P.216 - P.217

 本書は,Henri Ey(1900~1977)が亡くなる直前に書き,死後刊行されたdéfence et illustration de la psychiatrie-La réalité de la maladie mentale-,1978,Masson. の邦訳である。20世紀を代表する精神医学者の1人エーのことをここにあらためて書くのもどうかと思われるが,本書が生まれるに至った背景ということで少し触れておきたい。精神障害の病理的構造とその病因・病源を求める理論体系が,ネオジャクソニズムとしての器質・力動論であるが,それとともにすべての精神疾患は病源的プロセスに根ざすという意味において,医学としての精神医学の独自性を終生主張してやまなかったのがエーである。

 ところで,あれから早や30数年が過ぎようとしているが,1960年代末に始まる伝統的な精神医学疾病論に対する激しい問題提起の動きは,評者の世代にとって忘れることのできない出来事であった。欧米に始まるこのうねりは,ややその形を変えながら日本にも波及し,医局講座制,学会活動などへの反体制的攻撃となって,研究や臨床にも困難な状況をもたらしたことは周知の通りである。フランスでは,イギリスのレインやクーパーらの理論的影響を受けた反精神医学が,やがて1968年の5月革命という社会体制批判の過激な政治的イデオロギー運動によって増幅されてゆくことになる。この騒乱状態にいや気がさし,さっさとパリ大学教授を退いたドレーJ. と対照的であったのが一精神病院の病棟医長としてその職を全うした在野のエーである。

基本情報

精神医学

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-126X

印刷版ISSN 0488-1281

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