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文献詳細

雑誌文献

精神医学45巻2号

2003年02月発行

文献概要

私のカルテから

Olanzapineが奏効し,長期入院から社会復帰が可能となった分裂感情障害の1症例

著者: 西多昌規1

所属機関: 1茨城県立友部病院

ページ範囲:P.201 - P.203

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 olanzapineはMARTA(multi-acting-receptor-targeted-antipsychotics)の一種として2001年に市販が開始された。従来の抗精神病薬に比べて,陽性症状にも効果的であるのに加えて,感情障害にも効果的であることが報告されている。今回我々は,薬剤抵抗性の気分変動が原因で社会復帰が困難であった分裂感情障害の症例に対してolanzapineを投与した。その結果,気分変動が改善し状態が安定化したため,18年間に及ぶ長期入院生活からアパート退院に成功した症例を経験したので,ここに報告する。

症例提示

 56歳,男性。

 診断 分裂感情障害(ICD-10F25.2)。

 既往歴 左腎細胞癌,左腎摘出術。

 現病歴 X-15年C大学卒業後より自己に干渉する幻聴が出現した。X-6年4月より当院通院となった。通院当初から「会社の人の声で悪口が聴こえる」という幻聴や,「病院と会社が裏でつながっている」という被害関係妄想が持続していた。また周期的に抑うつ状態や,軽躁状態を繰り返していた。病的体験に基づき不安焦燥や自殺念慮が強まるという入院理由から,当院に2回の入院歴を有したが,いずれも危機介入的保護で速やかに安定化し退院となった。しかし当院2回目入院から退院後,自己を非難する幻聴が増悪し不安定になったため,X年10月に第3回入院となった。自己に干渉してくる幻聴は持続しながらも,haloperidol18mgなどの薬物療法で病的体験は背景化し,情動不安定や不眠も改善した。炊事洗濯,金銭管理も問題なく遂行できるなど生活障害も軽微であり,院内作業療法への適応も良好であった。しかし医師による退院の提案や自宅外泊,社会復帰施設見学などの刺激によって,不安や不眠を呈し反応することがしばしば認められた。加えて年1,2回程度の周期で多弁多動,不眠など軽躁状態を呈するエピソードがみられたため,退院に至らず入院が長期化していた。腎摘出術の既往があるため,lithium carbonateの投与は控えcarbamazepineを投与したが,気分変動の安定化は得られなかった。感情障害様のエピソードを除いた期間はおおむね院内寛解状態であり,文集編纂などの作業療法や自炊訓練などの生活技能訓練を継続していた。気分安定効果を目標として,X+17年11月よりolanzapine10mgを加剤した。追加してからは,気分変動が好発した年末年始や春季も安定した経過をとり,退院の話題を持ち出しても動揺は軽減し,不安焦燥や不眠を惹起することもなくなった。デイケア,作業療法も時間枠を増加し,さらに訪問看護も導入し退院後のサポートを整え,退院に関する不安を取り除くことに努めた。保護者である実兄の協力もあってアパート確保に成功し,外泊,デイケア試験通所も無事達成したため,X+18年5月31日アパート退院となった。退院後も,デイケアの通所は規則的であり,気分変動や情動不安定はみられない。退院後の経過も順調である。

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-126X

印刷版ISSN:0488-1281

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