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雑誌目次

論文

精神医学45巻4号

2003年04月発行

雑誌目次

巻頭言

精神鑑定を卒後研修に活かす

著者: 中谷陽二

ページ範囲:P.344 - P.345

 裁判官との会話で決まって聞かされるのは鑑定人を探す苦労である。大都市圏ではそれほどでないが,それ以外では頼める人が限られ,再鑑定ともなると遠隔地に求めることが珍しくないという。筆者も北海道,沖縄の地方裁判所から委託を受けたことがあるが,当然,地理的な制約のため種々困難が伴う。

 筆者が一昨年に行った全国の精神科医を対象とするアンケート調査では興味深い結果が得られた。回答者の約6割は刑事精神鑑定の経験をまったく持たず,鑑定実施はごく少数の人に集中していた。鑑定を依頼された場合に「引き受けない」と答えた人が44%で,理由としては,「手間がかかるから」と並んで,「専門家ではないから」「方法がわからないから」という知識の不足をあげる人が多かった。半数近くの人に卒後研修での鑑定の学習経験がなく,60歳以下の世代で明らかに経験率が低かった。鑑定が必要なことはわかるが,自分がいざ依頼されると,知識と経験がないため二の足を踏むというわけである。実際,7割近くの人が,鑑定を卒後研修に「もっと取り入れるべきだ」と回答した。

特集 新医師臨床研修制度の課題―求められる医師像と精神科卒後教育の役割

「新医師臨床研修制度の課題」特集に当たって

著者: 小島卓也 ,   川副泰成

ページ範囲:P.347 - P.350

はじめに

 2004年度から医学部の卒後2年間,臨床研修が義務化されることになり,その中で精神科が内科,外科,小児科,産婦人科,救急部門,地域保健・医療と共に必修化されることになった。なぜ精神科が必修化されたのかを考え,精神科卒後教育の役割を明確にするために,2002年10月20日に精神科七者懇懇会が主催してシンポジウムを行った。本特集はそれをまとめたものである。

 はじめに,必修化の経緯と問題点について簡単に触れておきたい。

新医師臨床研修制度について

著者: 中島正治

ページ範囲:P.351 - P.355

はじめに

 わが国の医師卒後臨床研修制度は,1968(昭和43)年にそれまでのインターン制度に代わるものとして制度化され,今日に至っている。

 この医師臨床研修制度は,医師法16条の2の規定により,卒後2年間以上の臨床研修が,努力義務として位置付けられている。また,研修の場としては大学病院または厚生労働大臣の指定する臨床研修病院が定められている。

 この臨床研修制度については,1968年の制度発足からこれまでに,何回となく改善が行われてきている。当時,急速に進行しつつあった,医師の過度の専門分化に伴う弊害を避けるため,1978年には「プライマリーケアを含む臨床研修の実施について」の通知が発出され,1980年にはローテイト方式の導入,1985年には総合診療方式の導入などが行われ,幅広く複数科を研修することが推奨された。また,研修施設についても病院群による指定を可能とするなど,より多くの施設が研修に参加できるような改善が行われた。

 しかし,これらの努力にもかかわらず,ストレート方式をはじめとする専門分化の動向は大きな変化を示すことはなく,また,研修の質についての問題も指摘されるようになるに及んで,1994年には医療関係者審議会において,臨床研修の必修化と研修内容の改善についての提言が出された。これ以後,さまざまな議論が重ねられた結果,1999年医療関係者審議会において「医師臨床研修必修化について」がとりまとめられ,2000年医師法等が改正され,2004年4月から医師臨床研修必修化等を内容とする改正法が施行されることとなった(表1)。

大学における精神医学教育の現状と新医師臨床研修に求められること

著者: 山内俊雄

ページ範囲:P.357 - P.361

はじめに

 2004(平成16)年度をめどに新しい臨床研修制度が発足し,卒後2年間の研修の必修化が制度として行われることとなったが,その中で精神科研修が必修研修科目として取り上げられ,1か月以上の研修を行うことが決まった。研修の具体的なことについては他の執筆者によって述べられるので,ここでは大学における教育の立場からこの問題を考えてみたい。

 その際,卒前教育としてどのようなことが教えられているかが,卒後精神科研修の内容に関係してくるので,まず,卒前精神医学教育の現状について述べることとする。

精神科研修の基本と指導医のありかた

著者: 佐藤光源

ページ範囲:P.363 - P.369

はじめに

 2004年度に始まる新医師臨床研修制度で,初年度は基本研修科目(内科,外科,麻酔科を含む救急部門)を研修し,2年目に必修科目(精神科,小児科,産婦人科,地域保健・医療)を各1~3か月間研修するプログラムが実施される見通しである。その基本研修事項に精神科が入ったことは,医学全体における精神医学の重要性が適切に認識されたものとして一定の評価を得ている。精神科研修の実施は2005年度からであるが,その5年後の見直しで精神科を必修科目にしたことの真価が問われる。すべての新医師が有意義な精神科研修をするためには優れた内容の研修プログラムと研修の場,そして何よりも有能な指導医が必要である。そうした矢先の昨年8月,日本精神神経学会は精神科専門医の認定制度を採用することを決め,準備委員会を設置して具体的な作業に入っている。

 この研修制度が始まる時の新医師,指導医,研修施設の状況を想定してみると,財政面,指導体制に必要なマンパワーの確保,単独型臨床研修病院と臨床研修病院の指定基準,病院群間の協力システムなどこの2年間に解決しなければならない問題が山積している。そのうち,精神科研修プログラムの基本と指導医のありかたを取り上げるのが私に与えられたテーマなので,この点に焦点を絞ってみたい。はじめに東北大学における精神医学卒前教育の現状を紹介するが,それは現行の精神医学の卒前教育内容を抜きにして新医師臨床研修プログラムの基本は語れないし,卒前臨床研修と大差ない卒後研修プランを繰り返したのでは新医師にとっては無意味に等しいからである。

精神科研修必修化における総合病院精神科の役割―日本総合病院精神医学会の立場から

著者: 保坂隆 ,   小林孝文 ,   古茶大樹 ,   佐藤武 ,   中嶋義文 ,   黒木宣夫 ,   黒澤尚

ページ範囲:P.371 - P.375

はじめに

 2004年度から医師の臨床研修が必修化されるが,その際に,これまで精神科七者懇談会の卒後研修問題委員会(小島卓也委員長)などが中心になって要望してきた通り,精神科研修が必修化された1,2,6)。このことは,医療全体を変えていくに相違ないが,これは同時に精神医療にとっても飛躍できる絶好の機会になっていくだろう。

 日本総合病院精神医学会でも,さっそく卒後研修特別委員会を設置し,以下のような小委員会を作り具体的な案や対策を講じ始めている。各小委員会の目的・委員長(○)・委員名は以下の通りである。

 1. 施設基準小委員会

 研修医の受け入れ状況と施設数の関係を明らかにする。(○小林孝文,黒木宣夫,佐藤茂樹,高橋武久,南雅之)

 2. プログラム作成小委員会

 有床・無床や協力病院の有無による1か月および3か月研修プログラム・モデルを提唱する。(○古茶大樹,保坂隆,中嶋義文,野村総一郎,堀川直史,沼田吉彦,川副泰成,青木孝之)

 3. 評価システム小委員会

 5年後の見直しの際にも,精神科必修化の妥当性を主張できるエビデンス(試験などの評価)を示すようなシステムを作る。(○佐藤武,渡辺俊之,屋宜盛秀)

 そこで,本稿ではこれらの小委員会での検討事項や問題点や提案などについて述べる。

新医師臨床研修における精神科病院の果たす役割

著者: 関健 ,   水木泰

ページ範囲:P.377 - P.382

はじめに

 新医師臨床研修制度が法制化され,2004年度より始まることとなった。これにより毎年8,000人に上る新卒の医師が,1年次に内科・外科・救急医療を研修し,2年次に小児科・産婦人科・精神科・地域保健医療を研修する。精神科が必修科目に取り入れられるに至った経緯は,すでに述べたところである8)が,必修化に伴って新医師の研修を受け入れる精神医療を担当する我々としても,研修を実効あるものとするために大きな責任を負うことになる。現在わが国の精神医療を担う団体で構成される精神科七者懇談会としては,1999年11月より精神科卒後研修問題委員会を立ち上げ,この問題に取り組んできたところであったが,必修化が決定されたことにより,①研修システム,②プログラム,③指導医養成などにつき具体化作業に取り組むことになった。その最初の取り組みとして,「新医師臨床研修に関するシンポジウム」を2002年10月20日に開催した。その折の発表を踏まえ,この稿では,当該研修においてどんな役割を果たすことができるのか,精神科病院の立場から述べる。

新卒後臨床研修と新しい精神科医療

著者: 星北斗

ページ範囲:P.383 - P.387

はじめに

 インターン制度の再来だという苦言を受けることもあるが,実際に研修制度にかかわる先輩医師の意識がその程度であるとは考えていない。インターンという制度は「医師でなく医療を担う不安定な1年間」であることを強いたことや金銭的な裏付けの不足,「見学中心で実効が上がらない」ことなどを理由に制度が廃止され,法律によって卒後すぐに医師免許を受けることができるようになり,臨床研修が努力目標とされた。この臨床研修制度が発足すると,ストレート研修がもたらす弊害が指摘されることになった。初期臨床研修の目標は歪められ,医師としての第一歩から専門化された研修をするため,全人的な診療やいわゆるプライマリ・ケアの技術・知識を身につけることができない医師が生まれることになった。これを憂慮し,ローテート研修への誘導策が繰り返しとられたが,診療科ごとの各講座医局制度が専門医の促成養成を目指しており,受け入れられなかった。

 2000年11月に医師法が改正され,2004年以後に医師免許を取得した者は,2年間一定の要件を満たす施設で研修に専念し,終了後医籍に研修終了の旨を登録すると同時に「臨床研修修了登録証」を交付されることになる。そして,この登録を受けていない者が診療所を開設する場合には都道府県知事の許可が必要になり,病院の開設者は登録を受けた医師に管理(病院長)をさせなければならないことになる。

 新たな研修制度は,医局制度や地域医療のあり方,医師会の役割,あるいは大学学部教育にまで大きなインパクトを与えることになる。新しい臨床研修のあり方を議論する場として設けられた厚生労働省の「医道審議会医師分科会医師臨床研修検討部会,新医師臨床研修制度ワーキンググループ」において,日本医師会は,良い医師の養成のためには初期臨床研修の充実が不可欠との考えから,「原則として特定機能病院である大学付属病院での研修を禁止し,地域の複数の医療機関が連携し地域主導で行う研修のあり方」を提案し,この方向に沿った提案がなされた。

前近代性からの脱却を目指して―精神科卒後研修が鍵を握る医師の将来像

著者: 高橋真理子

ページ範囲:P.389 - P.391

関西医大の研修医過労死

 1998年8月16日,一人の研修医がアパートの自室で急死した。その年,関西医科大学附属病院耳鼻咽喉科に研修医として入局した森大仁(もり・ひろひと)さんだ。翌日,森さんの部屋を訪れた家族によって発見された。

 3月に関西医科大学を卒業し,国家試験に合格したばかりの26歳。身長180センチ,体重80キロという恵まれた身体を活かし,陸上選手として活躍していた。だが,急死する1か月くらい前,勤務中に手を胸に当てて苦しそうにしている姿を先輩医師が目撃している。同僚も,「胸が苦しかった」と森さんが漏らすのを聞いた。

 25年にわたり社会保険労務士として働いてきた森さんの父親は,息子の様子や勤務状況から「過労による労災」と直感。勤務状態を示す研修記録や給与明細など資料を集め,大学を相手取って提訴に踏み切った。

精神科診療所における精神科卒後臨床研修について

著者: 松下昌雄

ページ範囲:P.393 - P.397

はじめに

 最終段階ぎりぎりのところで卒後臨床研修における精神科の必修化が決まった。七者懇談会卒後研修委員会(委員長:小島卓也)でもずいぶん議論され,努力した。一時は精神科の必修化は絶望視され,委員会の活動方針を変更せざるをえない雰囲気にまでなったが,結局は委員会の努力が実った形となった。というより,やはり時代の要請がそうさせたといってよい。21世紀は,心(脳)の時代といわれる。それに呼応して精神科の患者は増えている。少なくとも精神科の受診患者は明らかに増加している。以前10万人だった医師数は,医師倍増計画の結果,現在は約2.5倍(255,792人,2000年末)1)になった。増えただけゆとりが出たかといえば,精神科では相変わらず医師不足である。精神科では主要14診療科の中で放射線科以外では唯一専門医制度がないことも問題である。専門医制度が発足(2004年度)すると,このままだと端からみると精神科専門医がいないことになる。現在では標榜科目だけみても医師の専門性はわからない。精神保健指定医制度はあるが,これは強制入院をさせることのできる特別な国家資格で,他科が持っている専門医とは質を異にしている。現在,充実した卒後研修により優秀な専門医育成の基盤を作ることが強く要請されている。

単科精神病院の立場から

著者: 澁谷治男

ページ範囲:P.399 - P.401

 2004年度からの新医師臨床研修制度において,内科,外科および救急部門,小児科,産婦人科,地域保健・医療と共に精神科が研修必修科に選定されました。新研修制度では「プライマリケアへの理解を深め,患者を全人的に診ることのできる診療能力を身につけ,医師としての人格を涵養すること」を基本的なあり方としています。それゆえ,精神科が必修科目に入ったことは当然といえば当然であり,これまで精神科が臨床の中で特殊な診療科と見られがちであったこと自体が不自然でした。精神障害者や精神医療が,とりわけ医療人から偏見の目で見られがちだったことを考えると大きな転換であり,精神医療に携わる者として大変喜ばしいことと考えます。今後,すべての臨床医が精神科研修を経験することによって,精神科への理解を深め精神障害者に対する偏見の解消につながることを期待します。同時に,いまだ未熟と思える精神医療の質的な向上にも結びつくことを期待します。

 私は単科精神病院の立場から,研修医ではなく単科精神病院に働く人たちに向けて意見を述べてみたいと思います。単科精神病院は管理型臨床研修病院である大学病院あるいは総合病院と組んで研修病院群を形成して研修医を受け入れることになります。その際「医師の数は医療法上の定員を満たしていること」という具体的なハードルはありますが,精神科研修を引き受けるにあたっては,ほかにも多くのことが単科精神病院には求められていると考えます。

研究と報告

家族の意識調査から見た精神障害者の入院/通院にかかわる要因―精神障害者家族意識調査の結果から(第2報)

著者: 畑哲信 ,   阿蘇ゆう ,   金子元久

ページ範囲:P.403 - P.412

抄録

 精神障害者の入院/通院にかかわる要因を検討するため,福島県精神障害者家族会連合会に所属する精神障害者家族1,573名を対象としてアンケート調査を行った。入院/通院の現状,希望,将来の希望について,共分散分析を行った結果,いずれの場合も生活障害が最も強く関連した。入院/通院の現状についての判別分析では,生活障害得点のカットオフ値は3.10点であった。入院の事前確率を変化させた試算では,生活障害得点が3.26点までの患者を通院で支えることができれば,入院数を10%減少させることができた。入院には,家族が障害について学ぶ行動の少なさも関連し,家族への積極的な教育・支援を行うことが入院数減少のために求められた。

m-ECT後も持続する脳波変化について

著者: 森田幸孝 ,   濱村貴史 ,   佐藤俊樹 ,   片岡丈子 ,   黒田重利

ページ範囲:P.413 - P.420

抄録

 筆者らは3例の修正型電気けいれん療法(modified-electroconvulsive therapy:m-ECT)を行い,その脳波変化を継続的に観察した。症例1ではm-ECTを2クール(計11回)施行後より発作後錯乱が1週間持続し,それに伴って脳波の徐波化がみられた。症例2では計23回のm-ECTを施行したが,最終m-ECTの2か月後に棘波と徐波化を認めた。その後,継続的な脳波の観察を行っているが,最終m-ECTより5か月経過後の脳波にも徐波化は継続して認められていた。症例3では1クール(計5回)のm-ECTを施行したが,最終m-ECTの5か月後にも徐波化は持続して認められた。

 m-ECTの副作用に関して,脳波異常は一過性とする報告が多いが,長期持続するものもあるため,高齢者やm-ECT施行回数の多い例では,繰り返し脳波検査を行う必要があると思われた。

短報

クエチアピンが有用であった薬剤性精神病を伴うパーキンソン病の1例

著者: 石田康 ,   鈴木康義 ,   長町茂樹 ,   三山吉夫

ページ範囲:P.421 - P.424

はじめに

 抗コリン薬やドーパミン作働薬などの抗パーキンソン剤投与を受けているパーキンソン病患者の多くに精神病症状が観察される1,14)。このような患者の精神症状を軽減する目的で,服用中の抗パーキンソン剤の減量とともに,抗精神病薬の投与が試みられるが,錐体外路症状や過鎮静などの副作用の面で限界がある。近年使用可能となった非定型抗精神病薬の多くは,その薬理作用上の特徴から10),前記した問題に対する有用性が期待できる2,3,13)

 今回の報告は,ドーパミン作働薬により誘発されたものと思われる薬剤性精神病のパーキンソン病患者に,非定型抗精神病薬のひとつであるクエチアピンを投与することにより,日常生活動作(Activity of Daily Life;ADL)の低下を来すことなく幻覚・妄想・精神運動興奮などの精神症状が寛解に至った1例である。

オランザピンが著効を示したてんかん性精神病の2症例

著者: 扇谷明 ,   村井俊哉

ページ範囲:P.425 - P.428

はじめに

 てんかん性精神病は大きくは急性一過性精神病と慢性精神病に分かれる。前者には脳波強制正常化をしばしば伴う交代性精神病と発作後精神病が含まれる。急性一過性精神病については,その治療方法がさまざまに論じられてきたが,慢性精神病に関しては,推奨される治療法について論じられることがなく,良い治療法がないと言えるほどであった。今回,我々はオランザピンが著効を示した2例の慢性てんかん性精神病症例を経験した。これら2症例では,脳波の改善も同時にみられたので報告するとともに,その機序についても論じてみたい。

左視床出血後に,人格変化および体系妄想が出現した1症例

著者: 波平智雄

ページ範囲:P.429 - P.431

はじめに

 視床は知覚,運動はもとより,記憶,情動,言語など高次機能との関連が報告され,近年では画像診断学の向上とあいまって精神医学,認知神経学などの分野で注目を集めている部位である。脳卒中後の視床損傷による精神障害の報告2~4,6)がなされているほか,最近では統合失調症で視床の構造異常が指摘されている1)

 今回,筆者は左視床出血後に人格変化および体系妄想という特異な症状が出現した症例を経験し,視床と精神症状との関連を考えるうえで貴重と考えられたので報告する。

幻覚妄想を呈した甲状腺機能低下症の1例

著者: 山田淳 ,   櫻井高太郎 ,   栗田紹子 ,   山中啓義 ,   賀古勇輝 ,   嶋中昭二 ,   浅野裕

ページ範囲:P.433 - P.435

はじめに

 甲状腺機能低下症は,古くからさまざまな精神症状を起こしうると報告されている。最も知られているものは抑うつであるが,幻覚妄想も頻度の高い症状であることはあまり認識されていない。精神症状が前景に出て典型的な身体症状に乏しい症例も存在し,実際に精神疾患として治療が継続されていた症例の報告3,6,7)も複数なされており,注意を要する。今回我々は幻覚妄想を呈した甲状腺機能低下症の症例を経験したので報告する。

精神医学における日本の業績

渡辺栄市の業績

著者: 清野昌一 ,  

ページ範囲:P.437 - P.444

まえおき

 渡辺栄市は,精神病院関係者の間では函館渡辺病院の開設者として知られているが,1936年に同氏が発表した原著論文「癲癇性痙攣発作ノ脳病理組織学並ニ成因ニ関スル実験的研究」7)が,30年後の1960年代になって提唱された燃え上がり(キンドリング)現象に関連した実験研究の始まりであったという事実は,わが国のてんかん研究者の間でもよく知られていない。題名が示すようにこの研究は,てんかん脳の形態学的変化の解明を目的として行われた1)。当時渡辺は,この実験研究が今日いう燃え上がり効果現象に類似するという意義について気付いていなかったと思われる。本稿では,この原著論文の中から主目的であった組織病理学的所見を割愛し,燃え上がり現象に関連するけいれん発作発現の様態に関する記載を紹介し,本論文が後のてんかん研究に持つ歴史的意義を概説する。

 渡辺栄市は1905年,北海道枝幸に生まれ,31年北海道帝国大学医学部を卒業,同大精神病学教室(内村祐之教授),36年同論文により医学博士を取得,37年同教室講師,39年函館に渡辺医院を開設,同院は54年医療法人渡辺病院となる。65年日本精神病院協会会長,75年中央精神衛生審議会委員,76年勲二等瑞宝章を授与され,88年・去。享年83歳。この間,北海道精神病院協会,精神薄弱者育成会,精神衛生協会会長等を歴任した。

動き

「第15回日本総合病院精神医学会」印象記

著者: 河瀬雅紀

ページ範囲:P.446 - P.447

 2002年11月28日(木)と29日(金)の両日にわたり,第15回日本総合病院精神医学会が田中珠美会長(東京女子医科大学精神医学教室教授)のもと,ホテルエドモント(東京都千代田区)で開催された。一般演題の数は年々増加し,今回は135題の発表があった。これは4年前の第11回大会のおおよそ2倍にあたり,本学会が急速に発展しつつあることを示している。そして参加者数も過去最高の約650名を数え,活発な討論が行われた。

 さて,学会のプログラムは,「リエゾン精神医学-現在の到達点と今後の展望」を基本テーマにして,特別講演,会長講演,一般演題,教育セミナー,シンポジウム,ランチョンセミナー,モーニングセミナー,教育プログラム実技講習会,ケースカンファレンス,金子賞受賞記念講演,そして総会からなり,また前日には昨年度から始まった専門医認定講習会も開かれた。

「精神医学」への手紙

非定型抗精神病薬と知覚変容発作―原田論文を読んで

著者: 阿部道郎

ページ範囲:P.450 - P.450

 筆者は,知覚変容発作の病因別の分類を研究中であり,原田氏の論文「Olanzapineにより知覚変容発作を来した統合失調症の1症例」(本誌45:65-68,2003)を大変興味深く,共感を持って拝読した。

 ところで,非定型抗精神病薬(SDA)による知覚変容発作には,原田論文のごとくSDAがpathogenetischに作用するケースのほかに,pathoplastischな役割を果たすものもあると思われる。そこで,筆者は,原田症例と対をなす後者の症例を供覧し,知覚変容発作におけるその病因の多様性と,SDAの登場後,知覚変容発作が,以前にも増し注目に値する現象となったことを認めたい。

基本情報

精神医学

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-126X

印刷版ISSN 0488-1281

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