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雑誌詳細

文献概要

シンポジウム 痴呆症とパーキンソン病研究の新展開―原因分子の発見をてがかりとして

Lewy小体を伴う痴呆の臨床―アルツハイマー病との比較

著者: 森悦朗1

所属機関: 1兵庫県立姫路循環器病センター高齢者脳機能治療室

ページ範囲:P.869 - P.875

はじめに

 小阪ら28,29)は病理学的に広範かつ多数のLewy小体の中枢神経系への出現を特徴とし,進行性の皮質性痴呆とパーキンソン症状を主症状とする変性性痴呆疾患を報告し,びまん性Lewy小体病(diffuse Lewy body disease)と名付けて報告した。当時は例外的なものと考えられ,しかも病理学的な疾患概念にとどまり,広く臨床的に認識されるには至らなかった。その後の痴呆性疾患の神経病理学研究によって老年期の痴呆患者の15~25%に脳幹と大脳皮質にLewy小体が存在することが見いだされ,DLBはアルツハイマー病(AD)についで多い重要な老年期の変性性痴呆疾患であると認識されるようになった。senile dementia of Lewy body typeやLewy body variant of Alzheimer's diseaseなどいくつかの名称で呼ばれ,また疾患としての概念にも混乱があったが,1995年にInternational Workshopが開催され,その結果Lewy小体を伴う痴呆(Dementia with Lewy bodies;DLB)の名で呼ぶことが提唱されるとともに,病理診断(表)および臨床診断のガイドラインが出版された35)。この臨床診断基準にはそれまでに得られていた知見がまとめられ,各症候の特徴がかなり詳細に記述されている。端的に言えば,probable DLBと診断するには痴呆に加え,動揺する認知障害,パーキンソニズム,幻視のうちの2つが必要である。これに加え,転倒・失神・一過性の意識消失,抗精神病薬に対する過敏性,系統化した妄想・幻視以外の幻覚が診断を支持する特徴として挙げられている。さらに第2回のDLB International Workshopではうつとレム睡眠行動異常にも言及されている36)。この診断基準の妥当性は臨床病理学的に検討され,後向き研究では一般に特異度は高いが感度が低いと指摘されてきたが,最近の前向き研究では特異度95%,感度83%と報告されている34)。この診断基準を正しく用いれば,十分高い診断精度が得られると考えられる。3主徴の意義については必ずしも意見の一致はみていないが,前向き研究では認知障害の動揺の意義が強調されている。

 この臨床診断基準の出現はDLBの臨床的認識において極めて重要な進歩をもたらし,また臨床研究も急速に推し進める結果となった。我々も兵庫県立高齢者脳機能研究センター(現・兵庫県立姫路循環器病センター高齢者脳機能治療室)に検査のため短期入院した患者を対象に,この臨床診断基準に基づいてprobable DLBを診断し,DLBの臨床特徴を明らかにするため一連の研究を行ってきた。特にアルツハイマー病(AD)との対比において,症候などの頻度を検討するために連続入院精査例を用いたコホート研究を行い,認知機能や画像の差を検討するためには年齢,性,教育歴,MMSE(Mini-Mental State Examination)を一致させた群を用いて症例対照研究を行った。その結果,DLBの診断基準で診断を支持する所見とされている症候のほかに,DLBに特徴的な症候,神経心理所見,神経画像所見を明らかにできた。DLBの正しい診断は,適切な治療を行うため,重篤な抗精神病薬の副作用を避けるため,および正確に予後を判断するために重要である。ここでは我々がこれまでに得たADとの対比から神経学的,行動神経学的,神経心理学的,神経画像的の特徴を中心に,DLBの診断や治療について総説する。

掲載雑誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-126X

印刷版ISSN:0488-1281

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