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雑誌目次

論文

精神医学46巻1号

2004年01月発行

雑誌目次

巻頭言

分裂,統合,それから

著者: 内海健

ページ範囲:P.4 - P.5

 「精神を無理に統一しようとして病気になるから『精神統一病』です」。もう20年ほど前の伝聞であるが,神田橋條治はつとにこう患者に語っていたとのことである。また中井久夫は,「彼等は人格の統合性の危機を感じていると同時に,無理に統合しようとしてかえって解体に傾くのではないかとも見られる」といったフレーズを,折にふれて発信している。だが今やどれほどの精神科医がこうした逸話を知っているだろうか,あるいは,そこに込められたschizophreniaの精神病理のさわりを理解できるだろうか。そう考えるとき,はなはだ心もとない気持ちにさせられる。「統合失調症」の名称が,精神医学界のみならず,あまねく社会に行き渡るなかで,こうした「分裂病」の語り部たちが発した声は,今まさにかき消されようとしているのかもしれない。

 考えてみれば至極当然のことであるが,「精神分裂病」も「統合失調症」もschizophreniaの訳語なのだから,語感は相当異なるにしても,行き着く先はBleulerの連合弛緩になる。つまりは障害学説に由来する命名である。確かに統合失調症という病名は,schizophreniaの脱スティグマ化には一定の成功を収めるだろう。だが名称がいわば解毒化されることによって,schizophreniaの徹底した障害者化が促進されることもまた疑いをえない。

特集 臨床心理技術者の国家資格化についての主張

臨床心理専門職の国家資格化についての意見

著者: 乾吉佑

ページ範囲:P.6 - P.9

はじめに

 本稿を進めるにあたり,まず本誌編集委員会が「臨床心理士の国家資格問題」に関心を寄せ,今回特集として掲載する機会を与えていただいたことに感謝いたします。

 さて,私たち臨床心理士が考えている国家資格化についての意見を述べる前に,臨床心理士の実態動向やここ10年ほど議論をしてきた厚生科学研究班での流れと,私たちがそこでお願いしてきた点について述べておきたいと思います。

臨床心理士の仕事と国家資格化への願い

著者: 片岡玲子

ページ範囲:P.11 - P.14

臨床心理士の資格と仕事

 「臨床心理士」の認定資格が誕生したのは1989年のことです。その前年,日本心理臨床学会が母体となり,19の関連学会が集まって心理職の資格認定を目的とする「日本臨床心理士資格認定協会」が発足し,1990年には文部省(当時)の認可による財団法人となりました。それから15年余,最近では,テレビドラマにも登場するなど,世間的には少しずつ認められてきたようです。2003年4月には認定された人数が1万名を超えました。

 「臨床心理士」になりたい人も多くなり,財団法人日本臨床心理士資格認定協会(以下,資格認定協会という)の指定する条件を備えた大学・大学院には受験生が集まります。「臨床心理士資格」のできるずっと前からさまざまな領域で心理職として働いてきた者としては,少しばかり複雑な思いがすることも事実ですが,「こころの時代」といわれる状況の中で,人々が多様な形の心のケアや,カウンセリングにニーズと関心を持っているということなのでしょう。

「臨床心理技術者」の国家資格制度についての考え方

著者: 齋藤慶子

ページ範囲:P.15 - P.19

はじめに

 応用科学として社会にもたらした実績や,今後の高等教育のあり方の展開を視野に入れて,心理学ワールドではひとつの学問領域として心理学がたどってきた歴史と現状について再検討を求める動きが盛んになっている。その流れの中から,相互の協調と独自性を確認する場として呼びかけられた「日本心理学界協議会」という存在がある。この協議会は学術団体の集まりである点から,学問水準の定着と安定的な活用を目指して心理学教育に大枠の基準を設ける是非について議論が続いていた。加盟している心理学関連の学会は38団体を数えている。

 一方,心理学関連学術団体や職能団体が個々のニーズに応じて実施しているいろいろの資格認定制度があり,ほぼ16種類がすでに制度化されていると言われている。認定心理士,教育カウンセラー,学校心理士,臨床心理士,発達臨床心理士などがその例である。しかし,同じ心理学を基礎学問としていると称しながらも,実務に反映される基礎的な素養にかなりのばらつきがある。将来的には資質の適否を問われるようなトラブルの発端となりかねない可能性を憂慮する声も囁かれていた。

 心理学を標榜する職能の土台となる資質を安定させるための協議は,当然,大学でのカリキュラムによい意味で介入することでもあるために,かなり激しい議論が交わされたと聞いている。しかし,その協議はほぼまとまった。そして学問的水準を表す方法として「心理学基礎資格」の認定制度が確立されようとしている。このように,心理学ワールドは発展と安定との狭間で専門性をめぐる葛藤を経験してきたと言えるが,以下に述べる「臨床心理技術者」の資格制度を検討するに際しても重要な示唆を提供する動きでもあった。

国家資格はなぜ必要か

著者: 宮脇稔

ページ範囲:P.21 - P.24

はじめに

 医療保健領域における臨床心理技術者は,詳しい統計はありませんが現在4,000人とも5,000人とも言われています。精神保健領域における臨床心理技術者の活動はすでに50年に及び,2001年の統計では精神科病院に勤務する臨床心理技術者の人数は2,106名で,そのうち651名は非常勤です。その他の主な勤務先は精神科診療所や心療内科,小児科をはじめとする一般各科です。

 臨床心理技術者が医療保健領域でこのような人数にまで育ったのは,カウンセリング,心理テスト,心理学的援助を必要とするクライアントのニーズと,医師,コメディカルスタッフからのチーム医療を担う専門職としての信頼を得てきた結果によるものです。

 しかしながら,ここ10数年に及ぶ景気の低迷は,臨床心理技術者の世界にも深刻な影響を与えています。国家資格という専門性と責任性の担保がなく,経済的裏付けもない職種の採用は,いかにクライアントやチーム医療スタッフからのニーズが高くとも経営を圧迫する要因であり,採用が控えられる職種となっています。
 また,この傾向は1997年に精神保健福祉士,言語聴覚士の国家資格が制定されてからいっそう顕著となります。医療保健領域における数少ない無資格専門職種であり,経済的な将来展望さえ見込めない臨床心理技術者の現状は採用が控えられるだけでなく,臨床心理技術者の補充に,臨床心理技術者以外の資格化された専門職種を充てるようになってきています。

 こうした状況に歯止めをかけ,クライアントやスタッフからのニーズに応えるためには,臨床心理技術者の国家資格を創設し,その業務の専門性と責任性を担保し,これまでの臨床心理技術者の実績を反映した人員の確保を働きかける必要があると考え,臨床心理技術者の職能団体として全心協を結成しました。

医療における心理士国家資格の実現に向けて

著者: 坂野雄二

ページ範囲:P.25 - P.28

医療現場における心理士の業務

 松野(1999)4)は,日本心身医学会認定医が所属する医療施設を対象として心理士の現状と課題に関する調査を行っている。それによると,心理士の在籍している医療施設では,すべての施設が心理士が必要であると考え,同時に,医療現場で働く心理士の70%が医師の包括的な依頼を受けてその業務を行っていると報告している。また,心理士の業務内容は,各種心理検査の実施とアセスメント,初診時の予診およびインテーク面接などの診療補助面接,リラクセーション訓練や各種心理療法の実施であるとし,具体的には,

 ①予診,

 ②インテーク面接(症状に関する心理社会的背景の分析,心理検査による心的特徴の分析),

 ③総合的心理アセスメント,

 ④症状改善のための各種心理療法の実施,

 ⑤心理評価,

 ⑥コンサルテーションリエゾン,および他科へのサービス,

 ⑦医師へのフィードバック,

 ⑧学術研究活動への参加,

という諸点が医療現場における心理士の業務内容であると指摘している。

臨床心理技術者の国家資格化について―厚生労働科学研究班の分担研究者として

著者: 鈴木二郎

ページ範囲:P.29 - P.34

この問題にかかわった事情

 現代は心の時代といわれ,心の悩みの専門家として,精神科医や臨床心理家へのニーズは強い。精神科医は,厳しい国家試験を経て医師になり,遅ればせながら発足しようとしている専門医としてその能力を高めようとしている。これに対し臨床心理家には国家資格がなく,いわゆる民間の名称として臨床心理士,認定心理士,発達臨床心理士,認定カウンセラー,産業カウンセラー,学校カウンセラーなど,さまざまなものがある。

 かねてから私は,臨床心理家の仕事や能力,仕事の対価としての報酬に関して,ある程度の関心は持っていた。それは精神科臨床に携わる上で,常に心理臨床家の力を必要とし,協力を求めてきたからである。おそらく精神科医の中でもっとも心理の仕事などを理解している一人であると自負し,周囲の心理家たちも現在でもそのように認めてくれている。それに関連して1999年の日本臨床心理士協会10周年記念会での私の祝辞2)や,雑誌「臨床心理学」の創刊3)などに私が大きく期待を寄せていることを述べた。しかし実際にこの問題にかかわり始めたのは,2000年2月に厚生省(当時)精神保健福祉課からの依頼で,1999年度の班研究を組織してからである。

心理技術者の業務と医行為について

著者: 西島英利

ページ範囲:P.35 - P.37

はじめに

 心理技術者の資格のあり方については,国会でも1993年の精神保健法改正以降数次にわたって国家資格制度の創設について検討を進めるよう附帯決議がなされ,厚生労働省の研究班においても検討がなされてきたところであるが,なかなか進展せず今日に至っている。

 その大きな原因としては,心理療法と精神医療の領域とをどのように特徴付けるかという問題が挙げられる。つまり,心理技術者が行う心理業務が医行為に当たるならば,現行法制上では医師法・保健師助産師看護師法違反となることから,さらに検討を加え法整備を図る必要がある。その1つの方法として国家資格化し,医師の指示の下に診療の補助行為として心理業務を行うよう位置付けることも考えられるが,医療職として位置付けることに関しては心理関係団体の間でも意見の相違があるところであり,国家資格化の大きな壁となっているようである。

 また新たな資格制度の創設については,1988年の臨時行政改革推進審議会において,名称独占資格は「国が設けるにふさわしい特別な社会的意義を有するものに限定する」という基本的考え方が示されていることから,制度創設にあたってはその意義が国民にも受け入れられるものでなければならないと考える。

 医療機関においても,心理技術者が各種の心理業務に従事しているところであるので,この問題について考えてみたい。

誰のための国家資格化か?―神学論的議論からの脱却を

著者: 谷野亮爾

ページ範囲:P.39 - P.41

はじめに

 臨床心理士の国家資格化については,ここ数10年来の懸案であり,幸か不幸か筆者はその約半分の期間についてかかわってきた(主に旧厚生省および現厚生労働省の研究班を中心に)。この資格化はいろいろ複雑な問題を抱えており,小生が数か月前に執筆依頼を受けてもその実情を知っているだけに原稿締め切りを過ぎても全く筆が進まなかった。一度はお断りしたが,ごく私的な考え(日精協常務理事としての意見ではなく)を散文的に思いつくままに書いてみた。今までの各方面における論点については,他執筆者が述べられていると思われるのでそれに委ねることにする。

 小生が臨床心理士の方々と出会ったのはもう30数年以上前になる。小生は1969年春,金沢大学を卒業し有名な日本精神神経学会金沢総会の洗礼を受けた。小生なりに強い衝撃を受けたのがつい昨日のように思い出される。精神神経学会,病院精神医学会(現;病院・地域精神医学会),精神病理学会,精神分析学会等々,その後,数年間大混乱となり麻痺状態となった。反精神医学運動も盛んとなり,生物学派は強く糾弾された。そのような背景もあり,わが国でも1970年代は家族精神医学が盛んなりし頃であった。(当時は主に精神分裂病の病因論が中心であった。)

 小生の入局当時は毎晩のように団交のみで,医局も麻痺状態が続いていたように思う。当時入局した同期生も全くカオスの中に放り出されたため,銘々バラバラに勝手なことをやっていたように思う。その1人には全く訓練を受けていないのにもかかわらず,精神分析に興味を持ち自由連想法を強行した豪傑がいた。(彼は後に渡米し,精神分析の専門医となった。)

 小生は自分の家族歴にも強く関係すると思われるが,当時盛んだった家族精神医学に惹かれた。全くの独学であり,当時盛んに出ていた本や論文を片っ端から読み漁った。生物学派的な金沢の先輩医局員からは,多分,精神分析や家族精神医学を薄学にもかかわらずふりかざす小生たちは苦々しく思われていたに違いない。一方ではそのような混乱ゆえに我々のわがままも許されたように思う。金沢大学でも家族精神医学に興味を持つ精神科の医局員なぞ貴重な存在であったらしく,入局1年目で教育学部より講演依頼があり恥ずかしくもなく出向いていった記憶もある。その当時の理論の中心はベイトソンのダブルバインド説とリズの世代間の混乱が中心であり,小生も一番興味を惹かれた説であった。また国内では,日大の井村恒郎教授のもとで研究された音調テストなどの論文が強く印象に残っている。

 さて,その後父の急・もあり,また医局も相変わらず混乱しており,わが谷野呉山病院も崩壊の危機を迎えていた。内外ともに多難な時期であり,“帰りなんいざ”の心境で富山に帰った。しかし,その後も家族精神医学への興味は断ち切りがたく,当時日大より順天堂大学へ移って講師をしておられた牧原浩先生の月1回の夜のセミナーにわざわざ富山より参加した。

心理士が医療チームへ参加する必要性と国家資格―地域医療・チーム医療に向けて

著者: 穂積登

ページ範囲:P.43 - P.47

はじめに

 私は,最初に教育心理学を学び,その後医学を学んで精神科医となり,大学,病院,診療所で臨床に携わってきた。1975(昭和50)年には精神科診療所を開設し,数名の心理士に手伝ってもらいながら外来診療を続け,デイケアやナイトケアも行っている。その傍ら,いくつかの大学の保健管理センターで学生相談を30年以上続けてきた。心理学をかじった人間として,また,医療や学生相談の現場で心理士とともに働いてきた医師として,心理士が医療分野やその他で活動分野を広げているのはうれしいかぎりだ。しかし,心理士が医療の場でいまだに無資格のままであることによって,その働きが公に認められず,責任ある役割を果たせない現状を大変残念に思っている。心理士が医療チームの一員としてますます活躍できるように,医療における心理士の国家資格化の必要性を強く主張したい。

 現在,心理士の国家資格化をめぐって,医療に限定した医療保健心理士(仮称)にするのか,医療に限らず,学校,企業,児童相談など社会生活全般の広い分野における心の悩みを援助する心理士の資格を作るのかで意見が分かれている。

 前者については,医療において長い間心理士が働いてきたという実績があり,長期間に及んで厚生労働省で審議を繰り返し資格としての輪郭も明確になってきているため,早急に進めてもらいたいと希望している。しかし,後者のようなあまりに広範囲な資格は,資格の目的と根拠が希薄となる。さらに,広範囲の分野を網羅する「国家資格」は,かえって心の問題における多様性を押しつぶす危険性がある。広範囲な資格を作ることについては,この分野にかかわる多くの人が広く議論を重ねる必要があり,時期尚早と考える。

研究と報告

神経遮断薬誘発性遅発性ジスキネジアのクエチアピンによる治療

著者: 高橋三郎 ,   大曽根彰 ,   磯野友厚 ,   塩入俊樹

ページ範囲:P.49 - P.57

抄録

 非定型抗精神病薬のうちquetiapineはclozapineに類似し,低力価,鎮静系で,D2受容体遮断作用が極めて弱いため,特に錐体外路症状の出やすい症例に使用できると言われる。この2,3年,神経遮断薬,特に定型抗精神病薬服用中に遅発性ジスキネジアを発症した症例にquetiapineが有効であったという症例報告がみられ,今日まで合計11例の症例が報告されている。この治療効果を確認するため,50,60歳代の入院患者8例(うち7例は慢性統合失調症)に対し従来の抗精神病薬をquetiapine50~750mg単剤に置き換え,異常不随意運動評価尺度(AIMS),錐体外路系副作用尺度(ESES),簡易精神症状評価尺度(BPRS),欠損症候群評価尺度(SDS)などの評価尺度を用いて3か月にわたって症状の変化を評価した。

 投薬開始1か月以内にAIMSが50%以上改善した者は5例あったが,うち2例は陽性症状悪化のため2か月後quetiapineの投与を中断した。ほかは3か月の投薬期間でジスキネジア症状の再燃がなく,また陽性,陰性症状の悪化もみられなかった。

 Quetiapineは,神経遮断薬誘発性遅発性ジスキネジアという患者の苦痛を軽減し,QOLを改善するために有用性のある薬物と思われる。

発作後精神病に伴い激しい自殺企図を認めた側頭葉てんかんの2例

著者: 清水研 ,   加藤昌明 ,   岡崎光俊 ,   小林由佳 ,   大沼悌一

ページ範囲:P.59 - P.64

抄録

 てんかん患者の自殺のリスクは高く,さまざまな原因が関与していると思われるが,発作後精神病に関連した自殺も数多く報告されている。今回我々は,発作後精神病による幻覚妄想状態から激しい自殺企図に至り,運良く救命できた2例を経験した。患者自身が回復後に自殺企図時のことを回想し,体験した精神症状を語ってくれた。両症例とも,著しい情動の高まりを伴った独特の幻覚妄想状態から自殺企図に至っていた。てんかん関連の精神症状の中で,発作後精神病は悲劇的な結果に至る可能性が高く,注意が必要である。発作後精神病が出現するてんかん患者には,厳密な発作コントロール,ソーシャルサポート,抗精神病薬の投与の必要性が示唆される。

社会恐怖を呈した一卵性双生児―その症状転帰の類似性と相違性

著者: 尾鷲登志美 ,   上島国利

ページ範囲:P.65 - P.71

抄録

 今回我々は,一卵性双生児の姉妹が同様の社会恐怖を呈した症例を経験したので,若干の考察とともにここに報告した。

 本2症例では一卵性双生児である上に類似した生活史を有していた。両者ともに全般性社会恐怖を呈し,自己記入式評価尺度や社会機能から最重症に評価された。しかし,病前性格や発症年齢,治療導入までの期間,回避性人格障害の併存,発症契機,認知行動療法導入の有無が異なっており,同様の薬物療法を施行していたが,治療転帰が異なっていた。同一の遺伝子を所有し,重症度が同程度である社会恐怖に罹患した場合でも,その他の要因によって異なる治療経過,転帰をとることが示された。

短報

高用量のFluvoxamineが奏効した強迫買いを含む衝動制御障害の1症例

著者: 山内健 ,   原田貴史 ,   大森哲郎

ページ範囲:P.73 - P.76

はじめに

 強迫買い(compulsive buying)は借金がかさみ困難な状況に追い込まれることを十分に認識しているにもかかわらず,買い物への衝動に抵抗できず,繰り返し買い物を行い,生活上著しい支障を来すという特徴を持つ6)。特に巨大なショッピング・モールを持つアメリカで大量の不必要な買い物を繰り返し行う強迫買いの症例が報告されてきた7)が,最近になってわが国でも注目されつつある。海外では強迫買いに対する選択的セロトニン再取り込み阻害薬(Selective Serotonin Reuptake Inhibitors:SSRIs)の有効性が報告されている2,4)が,本邦ではclomipramineを用いた著効例の報告9)があるのみでSSRIsによる有効例の報告はまだみられない。今回我々は300mgのfluvoxamineの投与により,強迫買いを主症状とする衝動行為が改善した症例を経験したので若干の考察を加え報告する。

レビー小体型痴呆に伴う幻覚・妄想に修正電気けいれん療法が奏効した1例

著者: 藤原広臨 ,   本田稔 ,   伊藤耕一 ,   小山司

ページ範囲:P.77 - P.79

はじめに

 従来,痴呆の症状としては主として中核症状である記銘力障害,見当識障害,判断力障害,抽象思考障害などの認知機能障害が重視されてきたが,近年,徘徊,焦燥,幻覚・妄想などの精神,行動面での周辺症状が介護困難を来す症状として注目されるようになり,痴呆の行動と心理面での症状(Behavioral and psychological symptoms of dementia;BPSD)と呼ばれるようになっている2)。今回我々は,レビー小体型痴呆(dementia with Lewy bodies;DLB)に伴う,BPSDとしての幻覚・妄想に修正電気けいれん療法(mECT)が奏効した1例を経験したので報告し,BPSDの治療に関して若干の考察を加える。

介護者の視点によるアルツハイマー型痴呆患者の塩酸ドネペジルの効果検討(第2報)

著者: 大村慶子

ページ範囲:P.81 - P.84

はじめに

 塩酸ドネペジルは,アルツハイマー型痴呆患者の認知機能障害と全般的臨床症状に有効であると報告1)されている。しかし,それによりかえって介護負担が増した症例の報告2)もある。そこで,第1報では介護者が塩酸ドネペジルの効果をどう評価するかが重要であると考えて,介護者の視点からの効果について調査を行い,「1年間にわたり介護負担感が変わらなかった」という結果を報告5)した。今回は,2年以上塩酸ドネペジルを継続投与した患者の介護者の感想からその効果を検討したので報告する。

抗うつ薬の変更により速やかに幻視の消失した1例

著者: 山本健治

ページ範囲:P.85 - P.87

はじめに

 シャルル・ボネ症候群(以下CBS)は,一般に精神疾患のない意識清明な高齢者に十分な病識を備えた状態で色彩・現実感に富む幻視が出現する疾患である2)。今回我々は,抗うつ薬治療中の高齢女性にCBSと矛盾しない幻視が出現したが,抗うつ薬変更直後に劇的に消失した1例を経験した。抗うつ薬の副作用としての幻視およびその機序について,示唆を与えうる症例と思われたので報告する。

資料

ケアマネジメント体制整備推進事業の実施状況とその年次推移―サービス利用者主体の視点を中心に

著者: 中村由嘉子 ,   大島巌

ページ範囲:P.89 - P.96

はじめに

 2003(平成15)年度から本格実施される予定の障害者ケアマネジメントの準備のため,各県および政令市ではケアマネジメント体制整備推進事業が行われている。

 ケアマネジメントは,障害者の自己選択や自己決定を支援する援助方法である。精神障害者ケアガイドライン1)にも,「ニーズ中心のケアサービス提供を目指す」と記されており,ケアマネジメントは専門家主導のモデルではなく利用者主体の生活モデルでなければならないとされている。では,利用者主体のサービスを実現化するための事業として実施された体制整備推進事業に,実際のサービス利用者である当事者やその家族は,どのような形で参画したのであろうか。本稿では,1999(平成1)年度から継続して実施した調査研究の結果をもとに,利用者主体の視点からケアマネジメント体制整備推進事業の実施状況とその年次推移を報告し,今後の課題を明らかにする。

私のカルテから

統合失調症の再燃時におけるrisperidone内用液の頓用使用経験

著者: 和気洋介 ,   黒田重利

ページ範囲:P.97 - P.99

はじめに

 統合失調症の再燃時には,haloperidol,levomepromazineの筋肉内投与や,内服中の抗精神病薬増量がしばしば行われている。すでに内服中の抗精神病薬による脳内受容体への結合を考えると,頓用使用による抗精神病薬増量の効果は薬理学的に説明困難であるが,従来精神症状の急性増悪に一定の効果が見られていることもまた事実である。しかし一方で過鎮静や錐体外路症状の出現,さらには結果として引き起こされる高用量,多剤併用療法に対しての問題点も指摘されている。今回我々は統合失調症の再燃時に,risperidone内用液の頓用使用による外来治療を経験した。外来主体となりつつある統合失調症の治療を行う上で示唆に富む症例と考えられたため報告する。

動き

「第23回日本精神科診断学会」印象記

著者: 井上幸紀

ページ範囲:P.100 - P.101

 秋晴れの爽やかな天候にも恵まれ,第23回日本精神科診断学会が2003年10月30,31日の両日にわたり,自治医科大学精神医学教室・加藤敏会長のもと,栃木県総合文化センター・サブホールで盛大に開催された。会期2日間にティーチングセミナー,特別講演,2つのシンポジウムをはじめ29題の一般演題が集まった。会場は東北新幹線宇都宮駅に程近く,交通の便に恵まれ,初日の朝から多くの参加者で活発な討論が行われた。

 以下に学会の日程に沿って,印象を記すことにする。

基本情報

精神医学

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-126X

印刷版ISSN 0488-1281

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