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雑誌目次

論文

精神医学46巻10号

2004年10月発行

雑誌目次

巻頭言

私小説的精神科医はどこへ行くべきか―境界を踏み越えることができず境界の外へ思いを馳せること

著者: 兼本浩祐

ページ範囲:P.1022 - P.1023

 我々が精神科医を目指して入局した頃,世間では精神科医を世捨て人のように思う風潮がまだ残っていた。世に住むにはあまりにも優しく繊細な人たちが,戦いが終わって黄昏時にたたずんでいるような患者とともに,そっと世間の片隅で朽ち果てていく墓守のようなイメージが精神科医にはあった。そうした精神科医のイメージに空想的ロマンティシズムが多分に入り混じっていたことは確かだが,どこかで世間と患者の境界に自らの位置取りをしている精神科医は今でも我々の世代には少なからずいるように思われる。

 我々の世代の精神科医の大きな特徴の1つは,精神医学を学ぶことを通して自らが生きるための真理が何らかの仕方で開示されるのではないか,さらに言うならば患者として来院する人たちは,病を通して我々よりも何らかの仕方で生きることにおいて徹底していて,その人たちの言葉に耳を傾けることで,生きるということの真理をより深く教えてもらうことができるのではないかといった漠然とした予感を抱いて精神科医となった人たちが少なからずいたことである。こうした予感は,精神病理学の黄金時代を築いた我々に先行する世代の強い影響に触発されたものであることは間違いないが,しかしおもしろいことにそうした先達と我々の世代にはうっすらとした断絶がある。病を人間という存在の1つの極限的な可能性としてとらえる人間学が我々の世代の精神科医には色濃く跡を残していて,その延長線上には境界侵犯への誘惑がある一方で,他方では境界を向う側へと乗り越えることができず,自分は世間の側にいて向う岸の「本物」の世界を眺めているだけなのだという奇妙な後ろめたさがあり,世間の一員として普通に幸せに過ごしている自分の小市民性への微かな舌打ちがそこには含まれている。こうした独特の私小説的屈折は,我々より上の世代にも下の世代にも例外的であって,他の世代の精神科医においては,我々医師と彼ら患者の間の,診察する側とされる側の境界は当然のことながら自明のこととして画然と線引きされている。

展望

双極性うつ病(Bipolar Depression)の薬物療法

著者: 松尾幸治 ,   桑原斉 ,   加藤進昌 ,   加藤忠史

ページ範囲:P.1024 - P.1034

はじめに

 大うつ病および双極性障害躁病エピソードに関しては,すでに実証的根拠に基づいて治療アルゴリズムが作られ,治療戦略が明確に示されてきている。しかしながら,双極性障害大うつ病エピソード(以下,双極性うつ病,Bipolar Depression)に関しては,躁転が生じうること,再発のリスクが高いこと,自殺率の高さなど,考慮すべきことが多いにもかかわらず,治療アルゴリズムが確立しておらず,治療に難渋することが多い。近年,欧米ではlamotrigineなどの気分安定薬の有効性やolanzapineなどの非定型精神病薬の気分安定効果が示唆されるなど,双極性うつ病の治療が大きく変化してきている。それに伴い,多くの双極性うつ病の総説16,21,27,36,54,57,63,73)が報告され,関心の高さを示している。しかしながら,本邦ではこれらの薬剤の承認や適応拡大が遅れており,双極性うつ病の治療に関する総説も,我々の知る限りみられない。

 本稿では,双極性うつ病の急性期療法および維持療法について,最近の知見を中心にまとめた。なお,本稿で述べる「バルプロ酸(VPA)」については,本邦で採用されているsodium valproateの他に海外では,sodium divalproateやvalpromideが市販されており,最近の知見の多くはこれらを用いた研究である。これらもすべてまとめてバルプロ酸製剤(VPA)として記述した。また,甲状腺ホルモンの付加療法は大うつ病では知見が蓄積されてきているが,双極性うつ病では比較研究がされていないため今回は割愛した。

特集 精神科医療における介護保険制度

介護保険制度を通じた保健・医療・福祉の統合と課題

著者: 須貝佑一

ページ範囲:P.1035 - P.1040

はじめに

 介護保険制度が発足して4年が経過した。制度の開始当初の介護保険利用者の混乱は影をひそめ,介護サービス側も利用者側も制度に慣れて介護保険制度は軌道に乗ったかに見える。落ち着いてこの間の経過を振り返ってみると,介護保険制度は社会福祉法の改正とリンクしながら社会福祉の分野に大きな構造改革を迫ったとも考えられる。構造改革の根幹は福祉がサービス業種として明快に位置づけられたことである。2000年4月1日は介護保険制度の発足と社会福祉法の改正で福祉が一般の商品社会の中に一夜にして投げ出された瞬間でもあった。施設入所者やデイケアに通う利用者は消費者である。その結果は福祉の現場にさまざまな波紋を呼び,今もその余波は続いている。サービス業者と消費者という新たな関係性の出現は実際に現場で働く介護サービス職員と利用者,利用者家族との間にある種の緊張関係を生み出してもいる。福祉がサービス業と位置づけられながら,一方で営利追求は制限され,保険金の範囲内で質の向上を義務化されるという特殊性を抱えてしまった。消費者の立場からは,介護認定というランクづけで消費の内容が決まってしまう。ここに福祉のあるべき理念と実際の福祉現場の実情との乖離が生まれる隙間があるように思える。介護保険制度と福祉,医療の解決すべき課題について列挙し,利用者とサービス提供者の両者の視点から改めて検討してみたい。

介護保険における痴呆の重症度判定の問題点

著者: 今井幸充

ページ範囲:P.1041 - P.1049

はじめに

 介護保険制度が施行されてから2004年4月で5年目に入り,要介護高齢者の認定作業や種々の介護支援サービスの運営に多くの問題を抱えながらも順調に行われてきたといっても良い。要介護認定者数も2000年4月で218万人であったのが2003年3月には344万5千人に増加し,介護保険制度が着実に社会保障制度として根付きつつある。その一方で,厚生労働省が2003年6月に発表した「2015年の高齢者介護」では,急速に増加する痴呆性高齢者の対応に対して「新しいケアモデルの確立」として痴呆性高齢者のケアの確立とその普遍化を掲げている。このように介護保険制度の動向としては,痴呆性高齢者へのケア環境の整備が大きな課題であり,その中でも痴呆に対する精神科医療の果たす役割は大きい。

 ここでは,痴呆性高齢者が介護保険サービスを受けるために必要な要介護認定における痴呆の重症度判定について述べる。

介護保険におけるBPSDの診断と問題点

著者: 水上勝義 ,   朝田隆

ページ範囲:P.1051 - P.1056

はじめに

 社会全体で高齢者の介護を支え合い,高齢者が医療と介護の調和のとれた療養を受けられることを目的とし,2000年4月から介護保険がスタートした。以後,要介護認定者数,社会資源利用者数ともに増加し続けており,制度自体が定着した感がある。痴呆のある高齢者もその多くが介護認定を受け,社会資源を活用しながら在宅療養を続けているが,しばしば在宅療養の継続が困難となる状況が訪れる。そのもっとも大きな原因の1つが,Behavioral and Psychological Symptoms of Dementia(BPSD)の出現である。

 BPSDとは,痴呆患者にみられる認知障害以外の,知覚,思考内容,気分あるいは行動面における症状の総称である。BPSDの名称は,1996年に米国で開催された国際老年精神医学会のシンポジウムで命名された,Behavioral and Psychological Signs and Symptoms of Dementia(BPSSD)に由来する7)。次第にBPSSDからsignsが省かれることが多くなり,現在ではBPSDと呼ぶのが一般的となった。在宅の痴呆高齢者のおよそ80%に何らかのBPSD症状がみられるとされ10),また,BPSDは,痴呆の程度が軽症から中等症に進行すると多く出現するようになる4,10)。そして介護者を精神的にも肉体的にも疲弊させてしまうのである。したがってBPSDの正確な診断や評価に基づいた適切な対応が,在宅介護を続けるための鍵だといっても過言ではない。BPSDの対応には,薬物療法はもとより,介護保険制度により,社会資源を有効に活用しながら本人や介護家族を支えるという面も含まれる。

老人病院と介護保険

著者: 小阪憲司

ページ範囲:P.1057 - P.1061

はじめに

 介護保険制度と成年後見制度は,高齢社会を支える車の両輪として2000年4月に同時に発足した。それから5年目に入り,介護保険制度は種々の問題を含みながら,順調に国民の間に浸透しつつあり,福祉の場ではもちろんのこと,医療の場でも欠かすことのできない制度になってきている。あまり浸透していない成年後見制度と比較すると,状況は随分異なる。それは,なんらかの介護を必要とするときには,介護保険制度を利用しないと,種々の介護サービスが利用できないし,高額の費用を支払わなければならないからである。それはともかく,介護保険制度の導入により,特に痴呆性高齢者の在宅サービスは随分進展し,根本的な治療法がない痴呆性疾患の医療の現場でも在宅サービスの導入により医療がやりやすくなったことは大きな進展である。これについては,この特集の他の論文で述べられると思うので,ここでは老人病院における介護保険制度の現状と課題について,老年精神科医の目から眺めてみたいが,最初に簡単に介護保険施行後の経過をみておこう。

地域から見た精神科医療と介護保険

著者: 池田学 ,   石川智久 ,   野村美千江 ,   荒井由美子

ページ範囲:P.1063 - P.1069

はじめに

 介護保険制度が導入されて4年が経過した。2003年の4月には介護報酬の見直しや認定ソフトの改訂・認定調査票の修正が行われたが,その時点からの正確な資料を得て分析する時期としては少し早いので,本稿では我々の経験(中山町研究)13)を中心に2003年3月までの,地域における介護保険と精神科医療のかかわりについて検討してみたい。

精神科病院と介護保険制度運用の現状

著者: 浅井邦彦

ページ範囲:P.1071 - P.1078

精神科医療の現状

 わが国の精神科医療は,20世紀は入院医療を中心に進められて来た。しかし,21世紀は入院および外来に重点を置きながら医療が進められつつある。

 厚生労働省は2002(平成14)年6月30日現在,人口127,290,000人,精神病院数は1,670病院,精神病床数は356,621床,人口万対病床数は28.0床,在院患者数は330,666人,人口万対在院患者数は26.0人,措置入院患者数は2,767人,人口万対措置入院者数は0.22人,病床利用率は92.7%,措置率は0.8%で,病床利用率は年々減少していると発表している。

かかりつけ医と精神科医療間の連携

著者: 野中博

ページ範囲:P.1079 - P.1084

はじめに

 わが国の平均寿命は,戦後の約50年間に男女とも伸び,男性76歳,女性84歳と報告され,また65歳以上の高齢者が国民の14%以上を占め高齢社会と表現されている。長生きできることは誰もが望んでいたことであり,本来すばらしいことである。さらにわが国の高齢者は,大なり小なりわが国の戦後の復興に多大に寄与された方であり,高齢者にはすばらしい余生を送っていただきたいし,送ることができるべきである。しかしさまざまな高齢者の現状を見るとき,生活の質(QOL)への配慮がなされているか?生命の尊厳が守られているか?などについて疑問を感じることが多い。高齢者の人生にとって非常に寂しい状況であると思わずにいられない。なかでも痴呆の症状を有された高齢者(以下,痴呆性高齢者と略す),そしてその家族の現状には大きな課題を抱えている。痴呆はある面では寿命が伸びたことによってもたらされた状態でもある。痴呆性高齢者にとってもやさしい社会を構築しなければ,われわれにとっても安らげる社会ではない。

 これからの社会が,すべての人々にとって豊かで楽しく安心して幸福が実感できるようになるためには,保健・医療・福祉サービスの充実が必要であり,特に医師の役割とその期待はまさに大きい。特に地域において,高齢者,なかでも痴呆性高齢者に対して生活や人生を中心的に支援する役割を担う「かかりつけ医」と,痴呆のさまざまな困難な症状に対して専門的に対応する役割を担う精神科医,すなわち「専門医」との連携体制の構築は,今後もっとも期待される。

座談会 介護保険制度の導入で痴呆の医療はどう変わったか

著者: 本間昭 ,   真田順子 ,   館石宗隆 ,   井上新平

ページ範囲:P.1086 - P.1096

 井上 本日はお集まりいただきましてありがとうございます。

 早速ですが,障害者支援制度と介護保険制度の統合がホットな話題です。これらの制度が統合されると,痴呆に限らず今の高齢者介護全体にどういう影響が現れるのかについて,館石先生からお話いただけますか。

研究と報告

女性統合失調症における「身売り」妄想の人間学的研究―女性性を中心に

著者: 山田貴子 ,   山田幸彦

ページ範囲:P.1097 - P.1104

抄録

 従来,精神病理学は,対象を人一般として考究してきたように思われる。しかし,男と女は,まったく別のものといえる側面を持つのも事実である。今回,我々は「身売りされる」,「売春させられる」と訴える,60歳代の女性統合失調症者3例の分析を通じて,この妄想が,①症状発現に蓋然的背景を持っており,②通常の迫害妄想と異なり,直接的迫害ではなく自己の立場の変移についての妄想であり,③男の実体性(ペニス)に対する女の空間性(膣)という女性性の分析から,④専ら,膣を目指した売春の妄想は女性性そのものへと向かうことを意味し,⑤「色情的客体(対象)として境涯を制約される女性」にとって,限界状況的な現実参加の形態を表わしている,ことを報告した。

本邦におけるMDMA関連精神障害の乱用背景・診断・治療の検討

著者: 一ノ瀬真琴 ,   倉田健一 ,   清水賢 ,   中島憲一郎 ,   小沼杏坪

ページ範囲:P.1105 - P.1112

抄録

 近年,3,4-Methylenedioxymethamphetamine(MDMA)を主成分とする錠剤型合成麻薬が若者の間に急速に普及しているが,本邦におけるMDMA関連精神障害に関する実態はほとんど把握されていないのが現状である。本報告では,1998~2002年度の間に厚生労働省依存性薬物情報研究班(班長:加藤伸勝,事務局:国立下総療養所)に精神科協力モニター施設から報告されたMDMAの乱用・依存の事例に自験例1例を加えた計12例に関する依存性薬物情報報告書の項目について検討を行い,特に25~30歳代の若年層にMDMAの乱用が広まっている結果を示した。またその診断においてはMDMA精神病患者の毛髪からMDMA定量を行ったところ,その乱用の経過を正確に反映していることから重要な補助診断であると考えられた。最近,取締機関によるMDMAの押収量が急増していることからも,今後,MDMA関連精神障害(急性中毒,依存症,精神病)の患者が医療機関を受診する機会が急増することが予想され,医療従事者もその臨床上の特徴,診断,治療法を把握しておく必要があると思われる。

短報

非定型抗精神病薬投与中clonazepam減量に伴いParkinson症候群を呈した1症例

著者: 成重竜一郎 ,   舘野周 ,   大久保善朗

ページ範囲:P.1113 - P.1115

はじめに

 clonazepamはbenzodiazepine受容体にagonistとして作用し,強い抗けいれん作用から抗てんかん薬として使用されている高力価benzodiazepine系薬剤である。また本邦では保険適用外ではあるが,他のbenzodiazepine系薬剤同様に抗不安薬,気分安定薬として使用されることや,あるいは本態性振戦,Restless legs syndromeなど神経内科領域の疾患に対する治療においても使用されている薬剤である。さらに近年では統合失調症の急性期治療において興奮,焦燥を軽減する目的での使用も広がりつつある7)。今回統合失調症の急性期治療において非定型抗精神病薬であるrisperidoneに加えてclonazepamを使用し,症状軽快後にclonazepamを減量したところParkinson症候群を呈した症例を経験したので若干の考察を加えて報告する。

特別寄稿

20世紀を精神科医として生きて(2)―てんかん,分裂病研究から障害者運動へ

著者: 秋元波留夫

ページ範囲:P.1117 - P.1124

てんかん研究と抗てんかん運動

 戦時体制のもとで,松沢の医局,看護職員からも応召者が出始め,診療にも事欠くようになりましたが,そんな中で,幸運と言いましょうか,しばらく遠ざかっていたてんかんの問題に私を導き,後に抗てんかん運動に加わる契機となった症例に遭遇することになります。

私のカルテから

リスペリドン内服液によって速やかに躁状態が改善した横紋筋融解症を合併した双極性障害の1症例

著者: 今村文美 ,   荒木一方 ,   美濃部欣平

ページ範囲:P.1126 - P.1129

 本邦において,リスペリドン内服薬は2002年7月から投与可能になっている。今回,双極性障害において横紋筋融解症発症後,血液透析を行い,躁状態にて当院に搬送されてきた1症例について,リスペリドン内服薬を使用し,易怒性などの躁症状が速やかに消失し,うつ状態に転じることもなく良好な結果を得たので,若干の文献的考察を加え報告する。

 症例

〈症例〉 58歳,男性,無職。

 家族歴 なし。

 既往歴 高脂血症。

動き

「2004世界生物学的精神医学会アジア・太平洋大会」印象記

著者: 佐藤光源

ページ範囲:P.1131 - P.1131

 世界生物学的精神医学会アジア地区大会の“2004 WFSBP Asia-Pacific Congress”(2004年7月9~11日)がソウルで開かれた。第41回韓国生物学的精神医学会(KSBP)との合同開催で,KSBP理事長のMin-Soo Lee教授が会長を務め,日本生物学的精神医学会(JSBP)が国際学術委員会で協力して大会プログラムを企画した。参加国は韓国,日本,インド,香港,マレーシア,インドネシア,タイ,台湾,中国,オーストラリア,アメリカなどであり,約450名が参加した。韓国を除くと日本とインドからの登録が抜群に多く,いずれも50名を上回った。前日の夕べにはシーラホテルの庭園で歓迎レセプションが開かれたが,時差のないせいか疲れもなく,それはなごやかな懇親会であった。翌朝から3日間の学術集会は尾崎紀夫教授(名古屋大学)の特別講演で幕を開け,特別講演4題,シンポジウム17,一般口演8題,ポスター発表129題だけでなく,若手精神科医セッション,教育ワークショップも行われた。シンポジウムには統合失調症,双極性障害,PTSD,うつ病,不安障害,社会恐怖といった精神障害の病態や治療がとりあげられ,神経画像や認知障害,行動遺伝学,東洋医学をテーマにしたシンポジウムも行われた。JSBPからは14シンポジウムにそれぞれ1~4名が参加し,わが国で行われた最新の研究成果が発表された。韓国の研究の進歩にもめざましいものがあり,本大会は日韓にとって画期的なものとなった。

 なかでも特筆すべきは,日韓合同の若手精神科医セッションである。今年2月のケアンズ会議(世界生物学的精神医学会のプレコングレス)に続いて,日本若手精神科医会(Japan Young Psychiatrist Organization;JYPO)と韓国若手精神科医グループが協力して企画した2つのシンポジウムと講演が行われた。統合失調症とうつ病に関する両国の話題と研究成果が紹介され,流暢な英話をこなす若い世代間で活発に意見が交換された。Zohar教授と神庭教授(九州大学)による教育的なコメントがあり,それがこのセッションを一段と盛り上げた。また閉会式では,来年大阪で開催されるJSBP・日本神経精神薬理学会合同大会がアジア地区の若手精神科医(45歳以下)が優れた演題発表をもって応募すれば100名の参加を助成する用意があるとアナウンスされ,大きな関心が寄せられた。そして,こうしたアジア・太平洋地区の精神医学の交流が,日韓の若手精神科医を中心にこれから一段と発展するに違いないという期待感が会場にあふれていた。次いで,本大会で行われたポスター発表の中から国際学術委員会が選考して10題を選び,その表彰式が行われて盛会裡に大会の幕を閉じた。残念ながら閉会式には日本からの参加者の姿は少なく,宴の後という印象が残った。これまでの環太平精神科医会に加えて,アジア・太平洋地区の若い精神科医が手を結ぶ時代がきたことを改めて実感した大会であった。ちなみに世界生物学的精神医学会は2005年6月28日からウィーンで開催される予定である。 (東北福祉大学大学院精神医学)

「第19回日本老年精神医学会」印象記

著者: 高橋恵

ページ範囲:P.1132 - P.1133

 第19回日本老年精神医学会は,2004年6月25,26日の両日,信州大学医学部精神医学教室天野直二教授主催のもと,長野県松本文化会館(松本市)で開催された。おりしも梅雨の合間で,曇り空と雨とが交互にみられたが,会場は緑豊かな競技場や体育館の近くの鮮やかな緑に囲まれた広々としたホールで,ゆったりとした雰囲気の中,老年精神医学の多岐にわたる数々の演題を聞くことができた。参加者は約800名で,一般演題も口演82題,ポスター34題と両者で100を超える演題の発表があり盛況であった。

基本情報

精神医学

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-126X

印刷版ISSN 0488-1281

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