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雑誌目次

雑誌文献

精神医学46巻12号

2004年12月発行

雑誌目次

巻頭言

精神医療の未来予想

著者: 平安良雄

ページ範囲:P.1254 - P.1255

 私が精神医学の研修をスタートしたころ,まだ現在の精神保健福祉法は施行されておらず,患者の同意が得られなくても家族の同意があれば,研修医の私であっても入院させることが可能であった。当時から境界型人格障害や摂食障害はすでに頻度が増加している疾患であったが,日常の外来で毎日のように出会う疾患ではなかった。抗精神病薬はハロペリドールとクロルプロマジンやレボメプロマジンが中心で,副作用には注意が必要という意識はあったが,錐体外路症状の出現はコンプライアンスが保たれている証拠であるとか,錐体外路症状が出現するくらいの量でないと治療効果がないと解釈されていた。抗うつ薬は三環系抗うつ薬が主流であったが,四環系抗うつ薬が新世代の抗うつ薬として脚光を浴びていた。睡眠薬は短時間作用型の薬が使用され始めた。精神科領域の治療薬で期待の大きかったのは,脳代謝改善薬,脳循環改善薬といわれたいわゆる抗痴呆薬,であった。精神科の研修として大学で勉強会や研修医向けの講義を受け,先輩たちが丁寧に教えてくれた。しかし,標準化されたものはなく,到達度を客観的に評価する仕組みもなく,指導医の熱意と忍耐強さに支えられていた。研究領域では,MRIが臨床で使われるようにはなっていたが,神経画像領域の研究への応用はわが国ではまだ始まりかけていた時代であり,動物モデルを使い,神経伝達物質の働きがさまざまな角度から研究された。

オピニオン 精神科専門医に求められる精神療法

良識ある精神医療のために

著者: 小倉清

ページ範囲:P.1256 - P.1258

 近年,医学は全体としてめざましい発展をとげてきている。さまざまな新しい知識や技術の開発に負うところが大きいのであろうが,それと共に医学はその恩恵を直接うける患者やその家族による理解や協力なしには発展してこなかったはずである。この理解や協力をうるには(compliance)informed consentが欠かせない手続きとなるわけである。このことは精神医学の臨床でもそのままあてはまる。したがって精神科専門医に求められる最低限の必須条件として,患者やその家族とごく良識ある話し合いを重ねることができる能力と実践とがまず挙げられると私は信ずる。この良識ある話し合いを重ねることに古いも新しいもない。ごくごく当り前のこと,基本中の基本であると思う。最近「精神療法はもう古い。薬物療法一本でよくなる」という言葉を臨床医の口からきくことが増えているように思うが,これは全くの勘違いの発言であるし,医者の思い上がりを示すものであると思う。

 臨床精神科医はお話し合いをするのが商売である。患者さんたちは「よく話をきいてくれるかどうか」で医者の質を判断していることが多いことくらい誰もが知っている。患者さんは医者がいうところの「精神療法」を必ずしも求めているわけではない。ただ話をきいてもらいたいのである。それが大切なのである。ここにおいて問題が生じることになる。患者さんとお話をする能力(あえて能力という)とその意志をもち合わせない医者が,臨床の場で困惑のあげくに「精神療法はもう古い」といって,自分の能力のなさと無責任さをごまかしているにすぎないのである。そういう医者を今後,精神科専門医と呼ぶのが相応しいかどうかという問題がここにある。では「良識ある話し合い」とは何か,「精神療法」とどこが違うのかという話になる。

統合的治療の中の精神療法

著者: 大野裕

ページ範囲:P.1259 - P.1261

はじめに

 精神科専門医に求められる精神療法について考えるように言われると,専門医として行うことができる精神療法について考えたくなるが,それだけでは不十分だと思う。もちろん精神科医として精神療法を行える力を身につけることは大切だが,それと同時に,精神療法的な姿勢を治療の中に取り入れたり,チームアプローチの中で精神療法を活用できるように支援していったりする力を身につけることも必要である。とくにわが国の臨床の現状を考えた場合には,後者のほうがより重要になってくると言ってもいいだろう。こうした件について私見を述べてみることにしたい。

欧日共通のサイコセラピスト資格

著者: 作田勉

ページ範囲:P.1262 - P.1264

はじめに

 精神科医療におけるサイコセラピーの重要さは述べるまでもないことである。歴史的には精神科の中心的治療法であったわけである。それが近年になって,薬物療法などの他の器質的治療法が導入され,それらは結果が見えやすいこと,論文を作りやすいことによって,より多くの研究費を集めることに成功したのである。その結果,精神科治療における重要度においては,サイコセラピーが,今なお半分程度を占めると思われるにもかかわらず,研究者の関心はマイナーなものになってしまっているのは残念なことである。

 この点については,欧米においても同様な傾向が認められてきた。アメリカでは近年,医療費の削減のため,サイコロジストによるサイコセラピーに対しても保険がおりるようになった。そのため,サイコセラピーはむしろサイコロジストによって行われるようになり,精神科医は薬物療法を中心とする器質的治療にさらに追い込まれるようになっている。

 その点では,アメリカのサイコロジストと精神科医は必ずしも協力的とはいえず,むしろ競合的関係が強くなっているようである。

 ヨーロッパでは,サイコセラピストの役割の重要性が認識されているが,他方,いいかげんなサイコセラピストはむしろ害を与える可能性があるため,サイコセラピストの資格認定が近年始まった。そしてサイコセラピストとして働く者は全員が欧州サイコセラピストの認定(European Certificate for Psychotherapy;ECP)を得る方向に進めるべく努力がなされている。

 ひるがえって日本のサイコセラピー教育,およびサイコセラピー研究は不十分なものである。各大学精神科でもインパクトファクターが全盛なため,サイコセラピーは次第にマイナーな存在に追いやられているのが実情である。

 しかし,精神医療は本来,研究業績のためでなく,患者治療のためにあるのであるから,サイコセラピーの建て直しは必要なことである。とはいえ,評価される業績への関心が最大となっている若手研究者は聞く耳を持たないかもしれないが。

精神科臨床に必要な精神療法とは

著者: 牛島定信

ページ範囲:P.1265 - P.1267

はじめに

 日本精神神経学会はようやく専門医制度を発足させることになった。精神療法に関して問題になってくるのは,専門医に求められる精神療法能力をどう定義づけし,どう測定するかであろう。しかし,これは非常に難しい問題である。精神分析とか森田療法のようにある種の枠組みが決まっている場合は別にして,一般精神科医,ことに精神医療の中での精神療法となると,事はそう簡単ではないのである。加えて,ここ20年ばかりの間に疾病観が急速に変容を遂げたこと,精神医療の構造が一変していることも忘れてはならない。

 精神療法とは,心因性疾患である神経症を対象に編み出された治療法であるが,神経症なる概念はDSM-Ⅲ以来,排除されてしまっている。もっとも心因的であると考えられた不安神経症からして,立派な生物学的基盤をもった精神疾患となっているのである。薬物療法が前面に出てきた。かつての神経症概念(Freud S)はほとんど通用しなくなったかの感がある。

 一方,治療構造に関しては,かつては医者と看護師がいれば精神医療は成り立っていたが,現在では,多様な職種が関与する統合的な治療システムの中での治療行為が原則である。たとえば,統合失調症の臨床現場では,精神科医の役割が急速に小さくなっていると密かにささやかれているという。診断と治療薬が決まれば,後は,看護師,臨床心理士,作業療法士,PSWその他の人たちがそれぞれの役割を担うようになっているのだ。これは何も統合失調症に限ったことではない。精神療法が唯一有効な治療法であるかのような認識の多い境界性人格障害にしても,現実は,薬物療法,入院治療,家族援助,社会療法,グループワークなどの統合的な治療システムなくして治療はほとんど進まないし,個人精神療法はそうしたシステムに支えられてはじめて可能になるのだ。さらに個人療法がすべての症例に必要だというわけでもない。最近の症例は問題行動をもっていることが多いために,こうした治療システムはいよいよ重要になっている。

研究と報告

中学生,高校生,大学生を対象とした身体像と食行動および摂食障害の実態調査

著者: 中井義勝 ,   佐藤益子 ,   田村和子 ,   杉浦まり子 ,   林純子

ページ範囲:P.1269 - P.1273

抄録

 京都府下の中学生,高校生,大学生を対象に,身体的背景,体重や体型に関する自己意識,食行動および摂食障害の実態を調査した。

 女子学生の1/3~1/2,男子学生の1/5に食行動の異常がみられた。やせすぎ(体格指数が18.5kg/m2以下)なのにやせ願望を有する人の割合は,男子学生では10%以下だが,女子学生では40~50%であった。

 DSM-Ⅳの診断基準に従って推定した摂食障害の頻度は,女子中学生で神経性無食欲症(AN)が0.5%,神経性大食症(BN)が0.3%,女子高校生でANが0.2%,BNが2.2%,男子高校生でANが0.0%,BNが0.3%,女子大学生でANが0.4%,BNが2.2%であった。

塩酸donepezil投与により意欲改善をみた右視床前部梗塞の1例

著者: 北林百合之介 ,   上田英樹 ,   國澤正寛 ,   濵元泰子 ,   田村雅也 ,   松本良平 ,   福居顯二

ページ範囲:P.1275 - P.1281

抄録

 右視床前部梗塞の1例を経験した。症例は76歳右利き女性。72歳より意欲低下,物忘れが出現。頭部MRIで右視床前部梗塞,右乳頭体萎縮,SPECTで右視床,右大脳半球の血流低下を認めた。神経心理学検査では前頭葉機能,記憶,構成の障害を認めた。記憶障害については時間的順序の記憶と遅延再生の障害が優位であった。塩酸donepezil投与後,両側前頭葉および右視床の血流が増加し,意欲の改善が認められた。右視床前部梗塞においては,連絡を持つ同側の前頭葉,その他の大脳皮質,Papez回路の機能障害から上述の症状が出現すると考えられた。また,同病態の改善に塩酸donepezilが有効である可能性が示唆された。

アルコール幻覚症からペラグラ脳症に移行した1女性例

著者: 馬場奏子 ,   馬場元 ,   大沼徹 ,   木村通宏 ,   高橋正 ,   鈴木利人 ,   新井平伊

ページ範囲:P.1283 - P.1288

抄録

 アルコール依存症から反復的にアルコール幻覚症をきたし,ペラグラ脳症に至った1症例を経験した。本例は統合失調症との鑑別を要したが,幻聴や妄想が習慣的な飲酒期間中に出現し,断酒後も相当期間続く傾向があった。また,上記の精神病状態に対して健忘も認めた一方,思考障害は目立たず,アルコール幻覚症と診断した。当院入院後に約1か月間の幻覚症を経てペラグラ脳症が顕在化した。本例はアルコール幻覚症の一部にアルコール依存による器質性精神障害に近縁な病態が存在する可能性を示唆しているものと思われた。今後アルコール幻覚症の病因におけるビタミンB群の関与についてより詳細な検討が必要であると思われた。

覚せい剤依存症成人患者における注意欠陥/多動性障害の既往―Wender Utah Rating Scaleを用いた予備的研究

著者: 松本俊彦 ,   上條敦史 ,   山口亜希子 ,   岡田幸之 ,   吉川和男

ページ範囲:P.1289 - P.1297

抄録

 我々は,男性覚せい剤依存症の成人患者34名について,Wender Utah Rating Scale(WURS)を用いて注意欠陥/多動性障害(AD/HD)の既往に関する評価,および,AD/HDの病歴を有する覚せい剤依存症の臨床的特徴に関する調査を行った。その結果,覚せい剤依存症者の55.9%が,WURSにおける英語版のカットオフ点以上の得点をした。また,WURSにおいてAD/HDの既往が疑われる群では,小・中学校時代の不登校の経験が多く,違法薬物の初体験年齢が低く,物に対して粗暴な傾向を自覚している者が多かった。また,Beck Depression Inventory-2およびBulimia Investigatory Test of Edinburghの得点が有意に高く,抑うつ的傾向および過食傾向が推測された。

著明な低体重を呈したアスペルガー障害の1例

著者: 斉藤陽子 ,   瀬口康昌

ページ範囲:P.1299 - P.1305

抄録

 今回我々は,著明なるいそうを呈したアスペルガー障害の症例を経験した。症例は18歳女性で,幼児期より偏食が目立ち,集団行動がとれなかった。15歳より糖尿病や脂肪肝などの発症を恐れ,不食,低体重となり,数か所の病院で摂食障害として入院治療を受けた。X年1月26kgで当院入院後,障害の特性に配慮した環境を設定し,また栄養士とともに個別の献立の作成を行い,栄養学的知識の学習をすすめた。その結果,摂取できる食品が増えていき,体重も増加した。また,入院中の対人場面でのさまざまな出来事を通して,有用な行動を身につけ,X+1年7月38.5kgで退院した。自閉症圏障害と低体重の合併についてさらに文献的考察を加えて報告する。

データマイニングによる非統合失調症性精神病群の幻聴所見の検討―満田の非定型精神病からの考察

著者: 深津尚史 ,   深津栄子 ,   安藤琢弥 ,   鈴木滋 ,   兼本浩祐 ,   林拓二

ページ範囲:P.1307 - P.1315

抄録

 幻聴は意識混濁を伴う気分障害や急性一過性内因性精神病でも認められるが,操作的診断基準ではschizophrenic symptomsとして一括して扱われ,統合失調症との症候学的相違が明確でない。今回,統合失調症や気分障害に分類困難な幻聴を伴う非統合失調症性精神病群の症候学的特徴をデータマイニングの手法から再考察した。方法として,幻聴のある精神疾患54例の半構造化面接所見を多変量解析し,統合失調症と非統合失調症性精神病群の幻聴類型上の分布を比較した。その結果,統合失調症では自我体験型や自我障害型に,非統合失調症性精神病群では対象体験型や夢幻様型の類型に分布が偏倚し,満田の非定型精神病概念を彷彿させる。

横紋筋融解症の3症例―99mTc筋シンチグラフィ所見を加えた病因に関する考察

著者: 辻野尚久 ,   畑俊彰 ,   片桐直之 ,   五十嵐雅文 ,   田口理英 ,   中村道子 ,   津布久雅彦 ,   菅原道哉

ページ範囲:P.1317 - P.1322

抄録

 精神科通院中に横紋筋融解症を発症した3症例に対してシンチグラフィを施行した。それぞれの集積像の所見を参考にして横紋筋融解症の発症機転について考察した。さらにシンチグラフィに関する有用性についてまとめた。今後,この検査を施行していくことは横紋筋融解症の発症機転の解明の一助になると考えられた。

短報

Donepezilによって遅発性ジスキネジアが改善した血管性痴呆の1例

著者: 田村達辞 ,   畑矢浩二 ,   吉村靖司

ページ範囲:P.1323 - P.1326

はじめに

 遅発性ジスキネジア(Tardive Dyskinesia;TD)は,抗精神病薬の長期投与に起因し,顔面表情筋,口周囲部,顎,舌や四肢体幹に出現する不随意運動である。その多くは3か月以上の服用で発現するとされ,定型抗精神病薬では1年後の累積罹患率が4.8%,4年後には15.6%との報告もある6)。危険因子としては,加齢,器質性脳病変,抗コリン薬などが指摘されており,定型抗精神病薬服薬1年での若年者の頻度約5%に対して,高齢者では22~30%とされる6)

 TDの治療は抗精神病薬の減量・中止を基本とするが,抗精神病薬中止後も遷延することも多い。また,実際の臨床では患者の精神病症状の悪化のために中止が困難な場合が多く,近年ではTDへのリスクが少ないと言われる非定型抗精神病薬への変更が試みられているが,最も推奨されているclozapineは現在本邦では使用できない。一方,危険因子である抗コリン薬の減量・中止も行うべきとされるが,TD患者の約20~50%に錐体外路症状が観察され6),これも減量・中止が困難な場合が少なくない。

 このような治療の困難さと関連して,TDの病態はまだ不明なところが多く,ドパミンのみならず,アセチルコリン,GABAなどの複合的な関与が想定されている3)。今回,我々は,TDにおけるコリン神経系の関与に着目し,TDの出現した血管性痴呆患者にコリンエステラーゼ阻害薬であるdonepezilを投与したところTDの著明な改善を認めたため,TD治療に関する貴重な症例と考え,考察を交え報告する。

Paroxetineの常用量投与中に重篤な肝機能障害を生じた神経性無食欲症の1例

著者: 井貫正彦 ,   遠藤博久 ,   佐藤恒信

ページ範囲:P.1327 - P.1329

はじめに

 神経性無食欲症(AN)の薬物治療で特に有効なものはないが,ANに合併することの多い不安,抑うつ,強迫性に対し抗不安薬や抗うつ薬を投与することは少なくない。今回AN患者に対しparoxetine(PRX)の常用量投与中に重篤な肝機能障害を生じた症例を経験した。この重大な副作用の報告は海外で数例あるが本邦ではない。症例を提示し若干の考察を加えるとともに,本邦で発売されている他のSSRI(fluvoxamine)にないPRXの薬理的特性につき注意喚起を促したい。

クエチアピン投与後せん妄を起こした妄想性障害の1症例

著者: 伊藤賢伸 ,   牛尾敬 ,   柴山雅俊

ページ範囲:P.1331 - P.1334

はじめに

 近年クエチアピンは,新しい抗精神病薬として統合失調症に使われるばかりでなく,せん妄,特に老年期のせん妄状態などの意識障害改善にも効果があるものとして注目されている6,7)。今回クエチアピンによりせん妄を生じた症例を経験したので報告する。

精神病患者におけるイソニアジド投与がハロペリドール血中濃度に及ぼす影響

著者: 有賀晶子 ,   石塚しげ子 ,   城井正憲 ,   斉藤幹郎

ページ範囲:P.1335 - P.1338

はじめに

 精神科病院で結核患者が発生した場合,周囲の二次的感染者に対して,抗結核薬の予防投与を行うか否かは,薬物相互作用などが不明のため難しい問題である。抗結核薬を予防投与する場合は,結核を発症する確率は低くなるが,薬物相互作用のため精神症状が不安定になる可能性もあり,予期せぬ副作用が出現する可能性もある。一方,抗結核薬の予防投与をしない場合は,結核の発症におびえなければならない。

 当院では1999年に1名の肺結核患者の発見を端緒として,肺結核の集団感染という事態に至った。数名の発症者が出た2001年より,感染者の発症予防のため,積極的に抗結核薬イソニアジド(以下INH)の投与を行うこととした。抗結核薬リファンピシンが酵素誘導によりハロペリドール(以下HPD)の代謝速度を速め,HPDの血中濃度を低下させることは知られているが3,5),INHが向精神薬に及ぼす影響についての報告5,6)は少なく,手探りでの投与開始となった。INH投与により,統合失調症の代表的治療薬であるHPDの血中濃度が影響を受けるかどうか,精神症状,副作用などに変化がみられるかどうかについて,同一個体で経時的に,かつ,多人数のデータが得られたので報告する。

同胞結婚にて,二世代にわたって統合失調症を発症した同胞の1例

著者: 今村文美 ,   荒木一方 ,   美濃部欣平

ページ範囲:P.1339 - P.1342

はじめに

 統合失調症が家族性に発症することがあるのは従来から知られており,最近では臨床遺伝学的にも分子遺伝学的にも多くの研究が発表されている。今回,真の同胞結婚にて,これまで統合失調症の遺伝歴がなかった家系に,二世代にわたって統合失調症が発症した症例に関して考察してみた。しかし,近親結婚と統合失調症の関係について記した文献は少なく,現在の統合失調症の遺伝・環境負因で研究発表されていることと,この症例から考えられる仮説,表現発現効果,同胞間の表現型の類似点など,さまざまな文献を参考にしながら若干の考察を記した。(注:各症例の症状をまとめるため,病歴中の症状記述に番号を付した)

私のカルテから

ClomipramineとFluvoxamineの併用投与により強迫症状が改善した1例―薬物動態学的考察

著者: 高尾哲也 ,   太刀川弘和 ,   朝田隆

ページ範囲:P.1343 - P.1344

 強迫性障害(OCD)の治療にはセロトニン再取り込み阻害薬(SSRIs)や三環系抗うつ薬(TCA)が有効である3)とされ,これらの単剤投与が一般的であるが,SSRIs,TCA両者の併用についても欧米では著効が得られたという報告がある2,6,8)。今回我々はClomipramine(CMI)とFluvoxamine(FLUV)の併用投与により著効を得たOCDの症例を経験した。わが国で積極的にOCDに対して両者を併用した例の報告はまれであるため,薬物動態学的観点から報告する。

 症例

 〈症例〉 64歳,男性。農業従事者。

 家族・遺伝歴 なし。

 病前性格 几帳面,真面目な性格。

「精神医学」への手紙

遺伝子診断ができる時代の精神科医として

著者: 大西次郎

ページ範囲:P.1346 - P.1347

 本年6月18日10)に日本産科婦人科学会「着床前診断に関する審査小委員会」がデュシェンヌ型筋ジストロフィー症(DMD)に対する着床前診断の実施を答申し,学会倫理委員会での審議と2度の公開倫理委員会を経て,7月23日2)の同学会臨時理事会で「申請症例に対する着床前診断の実施を認可する」との結論が付帯事項付で議決されました。これにより,学会の承認を受けたわが国で最初の着床前診断が行われることになります。このことは,精神科医にとっても注目すべきことと考えます。

 そのように申しますのは,遺伝性神経筋疾患のうち,精神症状を主訴に受療する可能性のある疾患はハンチントン病,歯状核赤核・淡蒼球ルイ体萎縮症,筋緊直性ジストロフィー症など決して稀有ではないからです。いずれも医学の急速な展開がもたらす発症前の遺伝子検査によって,健常者の将来発症はもちろん,その時期や経過まで概略が診断可能です。このため(とくに発症前の)遺伝子診断は,本人のみならず血縁者にも大きな影響を及ぼし,さらに対人関係,就学,就職,結婚,保険加入などへの差別を生じうるため,安易な実施を厳に慎む必要があります。日本人類遺伝学会では2000年1月に,それまでに存在した複数のガイドラインを改定して「遺伝学的検査に関するガイドライン」6)を発表,その中で「特定の変異遺伝子を保有するがゆえに不当な差別を受けることがないように,また必要に応じて適切な医療及び支援を受けることができるように努めるべきである」としています。その後,このガイドラインは日本産科婦人科学会,日本人類遺伝学会を含む遺伝医学関連8学会(2001年3月),同10学会(2003年8月)による改定を経て現在に至っており,さらに学会の自主規制では限界があるとして着床前診断の臨床実施の是非や,生命倫理全体の在り方についての政府・国レベルでの検討を求める要望書が政府に提出されています2,5)

動き

「第34回日本神経精神薬理学会」印象記

著者: 西口直希

ページ範囲:P.1348 - P.1349

 第34回日本神経精神薬理学会(NP)年会が加藤進昌会長(東京大学大学院医学系研究科精神医学教授)のもと,2004年7月21日から24日の3日間にわたり,東京「都市センター」にて開催された。今年は,より基礎と臨床の融合をはかる初の試みとして,第26回日本生物学的精神医学会(BP)年会(高橋清久会長,国立精神・神経センター名誉総長)との合同開催であった。そのため,内容も盛りだくさんで,興味深い講演も多く,連日30度を超える猛暑にもかかわらず,多数の参加者を集め大変盛況であった。シンポジウムやワークショップ,プレナリーレクチャーはそれぞれテーマにより,NP,BP個別か,あるいは合同で企画され,各会長をはじめ,プログラム委員の先生方によりきめ細かい構成がなされたことがうかがわれた。

 合同開催されたことにより,参加者はNP,BPの区別なくいずれのセッションにも参加できる点は非常によかった。シンポジウムは,「分子からこころを探る」,「薬理遺伝学の新展開―テーラーメード医療を目指して」,「統合失調症の脳機能と形態」,「環境化学物質と脳・行動」と多岐にわたるテーマで開催された。合同ワークショップは,「覚醒剤の過敏性変化は修復できるか」をテーマとし,ディスカッションが行われた。それぞれの企画では,分子生物学,薬理学,脳画像,あるいは臨床的な観点から各分野の専門家が積極的にディスカッションされていた。個人的には,合同シンポジウム「薬理遺伝学の新展開―テーラーメード医療を目指して」において,神経画像の分野での研究成果がわが国でめざましくあげられている点,糖尿病の専門家からその観点より精神医学研究への提言がなされ,共同研究についての可能性について意見が交換されていた点が新鮮で,特に興味深く拝聴した。基礎的な内容の演題は,一精神科医としては敬遠しがちになってしまうが,実際には非常にわかりやすく発表されていて,基礎研究には縁遠い者でも,興味深く聞くことができたのではないかと思われる。この点では,基礎と臨床の融合をはかるという本学会の目的は果たされていたのではないだろうか。

「第26回日本生物学的精神医学会」印象記

著者: 池尻義隆

ページ範囲:P.1350 - P.1351

 第26回日本生物学的精神医学会(BP)は,2004年7月21~23日の3日間,東京都千代田区の都市センターホテルにおいて,高橋清久会長(国立精神神経センター名誉総長・藍野大学学長)のもと,第34回日本神経精神薬理学会(NP)(加藤進昌会長,東京大学大学院精神医学教授)との合同年会として開催された。

 両学会が合同年会を開催したのは今回が初めてであったが,もともと両学会は,目指す方向が類似し会員層も重なることから関係が深く,これまでにもジョイントシンポジウムを開催するなどしてきた。したがって,今回の合同年会も会員にとって違和感のないものであった。とは言え,合同しつつ各学会の独自性をいかに出すかについて,両学会会長ならびに事務局の方々のご苦労は相当なものであったと思われる。しかしお陰で,参加者は有意義な時を過ごすことができた。応募演題数,参加者数ともに多く,両学会の合同開催は大成功であったと言える。さらに,今回は韓国の研究者も多数招待参加され,ポスター会場や懇親会場などで日韓の交流がみられた。両学会が今後アジア地域の学会として発展し,リーダーシップをとっていく端緒が感じられた。

基本情報

精神医学

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-126X

印刷版ISSN 0488-1281

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