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雑誌目次

雑誌文献

精神医学46巻2号

2004年02月発行

雑誌目次

巻頭言

脱入院化時代は来るか

著者: 江畑敬介

ページ範囲:P.112 - P.113

 2001年10月におけるわが国の精神病床数は357,385床(人口万対28.1床),平均在院日数は373.9日であった。入院患者のうち,1年以上の在院者が69.5%,5年以上は43.1%であった。このように精神病床数が多いことと長期在院者が多いことは,かねてより内外からの批判に曝されてきた。

オピニオン 神経内科専門医の新たな認定制をめぐって

神経内科専門医制の新たな出発

著者: 金澤一郎

ページ範囲:P.114 - P.116

 このたび,貴誌の企画に際して「オピニオン」を専門医制について書くようにとの依頼を受け,迷いながらもお引き受けした。日頃から精神神経科の先生方には診療上のみならず,学会運営においても色々とお世話になっているからお引き受けしたのであり,本来ならばこんなにややこしくて難しい話は神経学会の中だけで十分,外に向けての発言はできれば避けたい,というのが本音である。その最大の理由は,当面の相手である専門医認定制協議会が腰砕けの状態であり,もう一方の相手である厚生労働省が何とも不可解な状態にあるからである。このことはあとでもう一度触れることにする。

 そもそも,精神神経学会と神経学会との関係は複雑である。神経学会は内科学教室で神経学を勉強していた若い人たちを中心として,それに精神神経学教室の中でもっぱら神経学を専門とする人たちの一部が合流し,さらに脳神経外科の応援を得て1960(昭和35)年に新しく作り上げた学会であった。新しいといっても,神経学そのものの歴史は古く,わが国でも1892(明治25)年にまで遡ることができる。パーキンソン病にしても,脊髄小脳変性症にしても,あるいは末梢神経炎や筋ジストロフィーにしても,精神神経科と内科が両方で診ていた時代が長かった。そんなわけで,いざ昭和40年頃に神経内科が独立した時には,特に精神神経科からの抵抗が強かったと聞いている。無理やり離婚させられたようなものであるから,生身を割かれる思いであったろう。今でもこうした抵抗感が多少はくすぶっていると理解している。けれども,その後40年ほどの間に,神経内科はもちろんのこと,精神神経科も内科全体も大いに発展した。今でも神経学を主な専門領域としておられる精神神経科の方々には必ずしもハッピーとは言えない状態かもしれないが,それぞれが一応の成長を遂げたことは確かであり,この離婚は成功であったと考える。ただ,神経内科から見た時に,今でも喉に引っかかった魚の小骨のような問題が一つだけ残っている。それは,診療科の標榜についてであり,医療法に付随した条文に神経科を神経内科と読み代えるという文言があることである。つまり,例えばあの病院に神経科(精神神経科ではありません)という標榜科があると,神経内科は標榜できないということである。

精神神経科専門医とその独自性―専門医資格の広告にあたって

著者: 佐藤光源

ページ範囲:P.117 - P.118

 日本医学会と日本医師会,学会認定医制協議会が専門医認定制協議会を組織したのは周知のことであるが,昨今,学会認定医を同協会の“専門医”(以下,“協会専門医”)として認定し,その資格を広告する動きが本格化しつつある。現時点ですでに22学会の認定専門医が“協会専門医”として受理されており,これからさらに増えようとしている。情報を公開して国民の選ぶ権利を保障するのはまことに結構なことであるが,学問的な理由ならともかく,広告を許可するために専門医を認定するのだから,その専門性は国民にわかりやすい名称で表示すべきだろうし,当然のことながら,その名称は学問的に妥当なものでなくてはならない。それは,複数の診療科が同じ領域を診療対象にしている場合に特に大切なことで,そうした配慮を欠くと無用な混乱を生じかねない。

 なかでも脳にかかわる診療科群がまさしくそうで,それまでの精神神経科(あるいは神経科)に加えて,ここ半世紀の間に心療内科,神経内科,脳神経外科,老人内科,小児神経科があいついで登場した。特に精神神経科は,心療内科や神経内科と対象疾患が重なりやすい。このような重なり合った領域であるにもかかわらず,これからは各診療科が協会認定の専門医資格を一般社会に広告できるようになったのである。専門医資格を広告すれば医療の質が上がるという協会側の考えが,医療収入を生命線とする医療機関に適切に受け止められ,本当に実効を上げるのか心許ないところである。協会の専門医にドクターズフィーを設けるという話もあるが,診療科間の「なわばり争い」的な混乱を助長するようなことだけはあって欲しくない。精神神経科関連の専門医認定には十分な現実検討が必要であるが,精神神経科(神経科)の現状を考えると,このさい診療科としての専門性や独自性を明確にする良い機会でもある。そうした状況の中で,日本精神神経学会は2002年8月の総会で,協会認定専門医制に対応できるように学会認定医制を実施することを決めた。早ければ2004年度の総会に,その委員会案が提出されることになろう。

精神医学と神経学の緊密な共同作業は今後も必要である

著者: 三好功峰

ページ範囲:P.119 - P.120

 このたび,いくつかの学会が,わが国の新しい専門医制度の中で,重要な決断を迫られた。それぞれの学会が専門医制度を持ち,自由な形で専門医(あるいは認定医)を認定してきたが,専門医を標榜することができるようにするという新しいシステムの中で,基本領域診療科(Ⅰ群:内科,小児科,精神科,外科,整形外科,眼科,耳鼻科など)と自らの学会(Ⅱ群)との関係を明らかにすることが必要となった。

 日本神経学会は,新たな専門医システムの中で,基礎領域診療科(Ⅰ群)として内科を選択し,その上のsubspeciality(Ⅱ群)として神経内科専門医(これまでは神経学会認定医)をおくこととした。このシステムの中では,基本領域診療科は同時に複数の認定を受けることができないという条件があるので,たとえば,内科と小児科の専門医を兼ねることができない。精神医学においても,もし専門医制度が発足することになれば,精神科専門医と神経内科専門医を兼ねることはできない。この選択は神経学会のほとんどの会員が神経内科の医師であるという実情からすればやむをえないかもしれないが,内科以外の領域を専門とするものにとっては多少割り切れない思いを残すことになった。

日本神経学会(1902)に由来する日本の精神科医の望む神経内科専門医制

著者: 山口成良

ページ範囲:P.121 - P.123

 1902年4月に日本精神神経学会の前身である日本神経学会が創立され,機関誌神経学雑誌が創刊された1)。その発刊の辞に,「或は精神病と云ひ,或は神経病と名くるも,等しく是れ神経器官の機能障礙にして,其徴候に多少の差異あるのみ。両者の間毫も劃然たる限界の存するを認めず,中略,此に於て乎則ち同学の士に檄して専門の学会を組織し,名けて日本神経学会と云ひ,精神機能と神経系統との生理的及び病理的講究を主旨とする雑誌を発刊し,云々」とあり,学会の発足当時から日本の精神科医は,神経器官の機能障害としての精神疾患と神経疾患とをともに診ようという心構えがあったものと思われる。

 内村4)もその『回顧と経験』の中で,「その気もちの中には,精神医学的神経学は,精神医学にとっても,神経学にとっても,必要欠くべからざるものだとの確信があったからである」と述べている。

展望

痴呆の薬物療法

著者: 都甲崇 ,   小阪憲司

ページ範囲:P.124 - P.132

はじめに

 痴呆でみられる症状は,中核症状である認知障害と随伴症状である精神症状や行動障害に分けられ,薬物療法もそれぞれの症状に対して行われる。かつてはきわめて限定的であったその薬物療法は,近年のさまざまな新薬の登場とエビデンスの蓄積によって大きく変化した。認知障害に対しては,アセチルコリンエステラーゼ(acetylcholinesterase;AChE)阻害薬の使用が可能となり,その使用頻度が急増している。さらに現在,認知障害に対する多数の薬剤の開発が進められている。また,精神症状や行動障害は近年まとめてBPSD(Behavioral and psychological symptoms of dementia)と呼ばれるが,その薬物療法ではかつてのhaloperidolに代わってrisperidoneやolanzapineなどの非定型抗精神病薬が使用されることが多くなった。本稿では,まず,認知障害に対する薬物として,AChE阻害薬とグルタミン酸NMDA(N-methyl-D-aspartate)受容体阻害薬であるmemantineについて概説する。AChE阻害薬では,わが国ではdonepezilのみが使用可能であるが,現在galantamineの臨床開発が進められている。また,memantineは重度のアルツハイマー型痴呆(Alzheimer-type dementia;ATD)に対する治療薬として世界で唯一承認されている薬剤であり,わが国でも臨床開発が行われている。また,BPSDに対する薬物としては,現在わが国で使用可能な向精神薬の中で,痴呆に対する使用頻度の高い薬剤を取り上げ,いずれの薬剤についても二重盲検比較試験の結果を中心に紹介する。

研究と報告

加害的自生視覚表象

著者: 小林聡幸 ,   片山仁 ,   加藤敏 ,   阿部隆明

ページ範囲:P.133 - P.139

抄録

 面前の他者に対して加害的なことを言う,あるいは考えるという,加害的自生発話(思考)(加藤,1997)に類似して,他者に危害を及ぼす場面の視覚的イメージ,すなわち加害的自生視覚表象を主症状とする症例を経験した。症例は初診時20歳の女性。加害的自生視覚表象のほかには一時的に幻聴も伴った。この症状は1年ほど続き,その間,著明な意欲低下を伴ったが,やがて良好な転帰をとった。加害的自生視覚表象は加害的自生思考の変種であり,加害的自生思考と同様に,能動性を障害された統合失調症患者が,対峙的な他者関係の中で不本意にせよ攻撃性を向けるという点で能動性を集約するという自己治癒的契機を持っていることが推測された。しかし,その加害的体験は単なる思考ではなく視覚化されることによって,あくまでイメージの中での他者への攻撃という形をとって,いわば体験が被覆され,ある種の安定化を見て長期に続いたものと考えられる。

社会不安障害における価値観―古典的対人恐怖との関連

著者: 永田利彦 ,   大嶋淳 ,   和田彰 ,   山田恒 ,   太田吉彦 ,   山内常生 ,   池谷俊哉 ,   切池信夫

ページ範囲:P.141 - P.147

抄録

 社会不安障害は社会文化的な背景との関連が指摘されているにもかかわらず,これまで,家族的な価値観との関連についての実証的な検討はされていない。そこで,家族的な価値観と文化結合症候群とされる古典的対人恐怖症(山下の確信型,笠原の第3群)との関連を検討した。対象は社会不安障害55例で,うち確信型(第3群)37例,通常型18例と対照群40名である。全員に価値観尺度,Social Phobia Scale,Social Interaction Anxiety Scaleを記入してもらった。その結果,確信型(第3群)群は通常型群に比べ,「親子関係」で有意に高得点を,「競争心」で高得点の傾向を示した。以上から,確信型(第3群)と家族的な価値観の関連が示唆された。

昏迷状態を呈したCNSループスの1例―免疫学的指標と123I-IMP SPECTを用いた病態の評価

著者: 松本良平 ,   北林百合之介 ,   上田英樹 ,   吉田卓史 ,   木下清二郎 ,   国澤正寛 ,   岸川雄介 ,   福居顯二

ページ範囲:P.149 - P.153

抄録

 昏迷状態を呈したCNSループスの1例を経験し,髄液免疫学的指標とSPECTを用いて継時的に評価する機会を得た。本症例では,精神症状の活発な時期にはIL-6,抗ribosomal P抗体,抗neuronal抗体の上昇が認められ,症状の軽快に伴って低下した。SPECTにおいては,臨床症状の改善に伴い,異常な脳血流分布パターンは改善し,同時に平均定量脳血流値は低下した。本症例で認められた,症状改善に伴う髄液各種抗体価の低下,血流分布パターンの改善および定量脳血流値の低下は,CNSループスによる中枢神経系での炎症機転が,治療により改善したことを反映している可能性があると考えられた。

髄液HCV抗体反応を認めた進行麻痺の1例

著者: 正山勝 ,   畑中史郎 ,   北端裕司 ,   郭哲次 ,   篠崎和弘

ページ範囲:P.155 - P.160

抄録

 髄液においてHCV抗体が陽性を示した進行麻痺の症例を経験した。症例は52歳,男性。痴呆症状を主とした進行麻痺で,悪性症候群,慢性C型肝炎,誤嚥性肺炎を合併し死亡した。髄液においてHCV抗体反応を調べたところ,RIBAではc100p(-),c33c(2+),c22p(±),NS5(1+),SOD(-),第3世代抗体では6.7で陽性を示した。今回の結果は,血清からの移行抗体であった可能性もあり,HCVの中枢神経への親和性を積極的に支持するとまではいえなかったが,髄液中でHCV抗体が陽性を示したとする報告は過去にみられず,その臨床的意義については今後の症例の蓄積,検討を待つ必要があると思われた。

バルプロ酸が用量依存的に病相予防効果を発揮した双極性感情障害の1症例

著者: 谷口隆英 ,   友竹正人 ,   大森哲郎

ページ範囲:P.161 - P.165

抄録

 症例は68歳,男性。34歳時に発病し,躁・うつの各病相を繰り返していた。63歳時に躁病エピソードが生じ,その後1年9か月間に6回のエピソードが生じた。他の気分安定薬では効果不十分または副作用が生じたため,バルプロ酸(VPA)の投与を開始した。400~800mg(血中濃度22~28μg/ml)を投与した9か月間は,軽症化したものの6回の気分変調が生じた。VPAを1,400mg(血中濃度72~85μg/ml)としたところ,短期間の軽躁状態が1回生じたのみで現在までの約3年間VPA単剤でほぼ寛解状態を維持することができている。VPAによる気分障害の治療に際しては,血中濃度を測定しながら効果を評価し,十分な用量を投与することが重要であると考えられた。

痴呆症にみられたせん妄について―痴呆病棟入院患者における実態

著者: 塩崎一昌 ,   日野博昭 ,   瀬川光子 ,   小阪憲司

ページ範囲:P.167 - P.172

抄録

 せん妄は,痴呆症に合併しやすく,その介護や看護において最も問題になる症状である。我々は,自宅または介護施設から精神科病院痴呆病棟に入院した男性227名,女性207名の計434名の患者について,入院時にせん妄を伴った群と伴わなかった群に区分し,患者側の要件や介護者の状況などについて比較検討した。

 せん妄群には男性が有意に多く,入院時年齢の平均値が有意に高かった。身体合併症の併発率はせん妄群で有意に高率で,内訳としては高血圧と心疾患の合併率が有意に高かった。診断については,せん妄群の入院患者には血管性痴呆やレビー小体型痴呆が有意に多かったが,逆にアルツハイマー型痴呆や前頭側頭型痴呆は有意に少なかった。介護者について,せん妄群では妻のみが介護している状況が有意に高率だった。入院時にみられた精神症状や行動異常については,せん妄群では,睡眠障害,暴力・興奮,幻覚・妄想,自傷行為・希死念慮といった項目が有意に高率であった。以上は痴呆症におけるせん妄合併の危険要因と考えられた。

せん妄に対するSerotonin-Dopamine Antagonist(SDA)の有用性

著者: 浅井清剛 ,   東麻衣子 ,   石塚卓也 ,   島田秀穂 ,   辻昌宏 ,   新井平伊

ページ範囲:P.173 - P.182

抄録

 せん妄の薬物療法において,近年では薬剤の有効性だけでなく,副作用をはじめとする安全性の問題が考慮されるようになっている。今回我々は,serotonin-dopamine antagonist(SDA)に分類されるrisperidoneおよびperospironeのせん妄の薬物療法における有用性について,入院治療を行った自験例30例(risperidone群23例/perospirone群7例)を対象に検討を行った。

 risperidone,perospironeともにせん妄患者に対する有効率は高く,両薬剤間でも統計学的有意差は認められなかった。risperidoneは1日投与量1~3mg程度という低用量でせん妄改善に効果が認められ,最大血中濃度時間(Tmax)が約4時間と比較的長いため夕食後投与が有効だった。perospironeは1日投与量4~10mg程度でせん妄改善に効果が認められ,Tmaxが約1.4時間と比較的短いため眠前投与が有効だった。

短報

緊張病性昏迷にvalproateが有効であった統合失調症の1例

著者: 細川大雅 ,   梅景正 ,   津田均 ,   加藤進昌

ページ範囲:P.183 - P.186

はじめに

 統合失調症の緊張病性昏迷に対しては一般的に抗精神病薬が用いられるが,時に治療に難渋する。今回我々は定型および非定型抗精神病薬,benzodiazepine系薬剤が無効であった昏迷に対し,valproate(VPA)が有効であった症例を経験したので,考察を加え報告する。

統合失調症様症状を呈した22q11.2欠失症候群の1例

著者: 門家千穂 ,   氏家寛 ,   和気洋介 ,   岡久祐子 ,   黒田重利

ページ範囲:P.187 - P.190

はじめに

 DiGeorge 症候群,軟口蓋心臓顔貌症候群(velo-cardio-facial syndrome),円錐動脈幹異常顔貌症候群(conotruncal anomaly face syndrome)は症状に共通点の多い疾患であるが,これらはすべて22番染色体長腕11領域の微小欠失を持つことから,最近は22q11.2欠失症候群と呼ばれることも多くなってきている。22q11.2欠失症候群は元々小児科領域の疾患であったが,近年,本症の成人例では高率に統合失調症様症状を呈するという報告が相次いでおり,その罹患危険率は一般集団の約25倍とされる7)。一方,統合失調症の2%に22q11.2の微小欠失が認められ,これは一般集団の80倍である4)。本邦では22q11.2欠失症候群で統合失調症様症状を呈した例の報告は調べたかぎりでは7例3,5,8)しかなく,その臨床像の特徴の描出にはさらなる症例の蓄積が必要である。今回,我々は統合失調症様症状を呈した22q11.2欠失症候群の1例を経験し,その臨床像と治療反応性において若干の知見を見いだしたので報告する。

音楽幻聴(および言語性幻聴)を示した脳血管性痴呆の1例

著者: 大原一幸 ,   岩井雅之 ,   立田知大 ,   湖海正尋 ,   守田嘉男

ページ範囲:P.191 - P.193

はじめに

 音楽幻聴は,耳疾患を有する高齢者,統合失調症者などにおいて報告されている1,2)。前者の音楽幻聴は,感覚遮断によるもののほか,脳器質性疾患でみられる非精神病性非言語性(要素性)の部分解体現象,すなわち幻覚症あるいはEyのいう幻覚症性エイドリー4)として理解されることが多い。統合失調症でみられる音楽幻聴については,馬場ら1)は「記憶表象から始まる仮性幻覚であり,病勢に応じて真性幻覚へ移行する可能性を持つ」と述べ,Clérambaultの精神自動症3),あるいは精神幻覚からの考察を加えている。我々は,難聴のない,脳血管性痴呆と考えられる高齢者男性に音楽幻聴(および言語性幻聴)が出現した症例を経験した。本例の音楽幻聴は,感覚遮断や幻覚症性エイドリー(幻覚症)からは理解できず,「仮性幻覚から進展した精神自動症」と考えられたので,若干の考察を加え報告する。

電気けいれん療法施行後に肺梗塞を呈した統合失調症の1例

著者: 賀古勇輝 ,   栗田紹子 ,   櫻井高太郎 ,   山中啓義 ,   山田淳 ,   嶋中昭二 ,   浅野裕

ページ範囲:P.195 - P.198

はじめに

 肺梗塞は臨床症状や血液生化学検査に特異的なものがないことから診断の困難な疾患の1つとされている3)。また,精神疾患と肺梗塞の関連も指摘されており,誘因として向精神薬の服用2,5,7,8)や身体拘束1),昏迷状態4)による血流の停滞などが挙げられている。今回我々は,幻覚妄想状態,亜昏迷状態のため身体拘束を要し,薬物療法では速やかな改善が得られず,電気けいれん療法(ECT)施行後に肺梗塞を呈した統合失調症の1例を経験したので報告する。

非定型抗精神病薬服用患者におけるインスリン抵抗性

著者: 八尾博史 ,   大林長二 ,   橋本喜次郎 ,   須藤徹 ,   高島由紀 ,   福田賢治

ページ範囲:P.199 - P.201

はじめに

 2001年に本邦で非定型抗精神病薬のフマル酸クエチアピンとオランザピンが発売され,錐体外路系の副作用が少ない4)ことから大きな期待をもって迎えられた。しかし,残念なことに両薬剤による高血糖,糖尿病性ケトアシドーシス,糖尿病性昏睡(死亡例を含む)が報告され,2002年4月オランザピンと同11月クエチアピンに緊急安全性情報が出された。両薬剤ともに糖尿病の患者,糖尿病の既往歴のある患者には禁忌とされたが,高血糖を引き起こす機序は十分に解明されたとはいえず,危険な高血糖予防のための対策はいまだ十分ではない。Newcomerら6)は,非定型抗精神病薬オランザピンとクロザピンは定型抗精神病薬に比し,有意な血糖上昇をもたらし,その機序としてインスリン抵抗性があることを指摘した。本邦の報告では,非定型抗精神病薬による重篤な高血糖を来した症例は清涼飲料水の多飲がそのきっかけとなっていることが多く,清涼飲料水の多飲が可能で,検査結果の異常値への対応が遅れやすい外来通院中の患者に特に危険性が高い2)。そこで本研究では,当所外来通院中の統合失調症患者のうち非定型抗精神病薬服用例の糖代謝異常について検討したので報告する。

私のカルテから

右側脳室前角の奇形を伴った統合失調症の1例

著者: 切原賢治 ,   笠井清登 ,   沖本啓治 ,   山末英典 ,   松尾幸治 ,   綱島浩一 ,   山田晴耕 ,   阿部修 ,   加藤進昌

ページ範囲:P.203 - P.205

はじめに

 統合失調症の病因として,周産期における神経発達障害仮説が提唱されている6)。その脳構造上の根拠として,統合失調症において透明中核腔の残存が健常者に比べて有意に高頻度である4)ことなどが報告されている。筆者らは頭部MRI上,右側脳室前角の高度な狭小化を伴った統合失調症の36歳男性例を経験した。統合失調症において脳室の高度狭小化・閉塞という奇形を伴う例は文献上報告がなく,ここに報告する。

動き

「第1回国際内観療法学会」印象記―東洋の知恵を世界へ

著者: 巽信夫

ページ範囲:P.206 - P.207

 第1回国際内観療法学会が,第6回日本内観医学会と合同で,2003年10月10日~12日の3日間にわたり,川原隆造大会長(鳥取大学・精神行動医学教室教授)のもと,米子コンベンションセンターで開催された。

 わが国独自の内観については,すでに学際的な日本内観学会が,さらに医療分野にあって,日本内観医学会が設立され学術的研鑽が積み重ねられてきている。同時に,フロイド・ユングを育んだ西洋精神療法のメッカ,ウィーンを中心に,次第に欧米諸国に拡がり,さらに中国や韓国などでも注目されつつある。

「第15回日本アルコール精神医学会」印象記

著者: 前田久雄

ページ範囲:P.208 - P.209

 2003年9月5,6日,京都の「ぱるるプラザ京都」で開催された第15回日本アルコール精神医学会(会長/京都府立医科大学大学院医学研究科精神機能病態学講座福居顯二教授)は,学ぶことの多い,大変充実した学会であった。アルコールだけにとどまらず有機溶剤,覚せい剤など他の依存性物質も扱われ,その内容も,診断,合併症,画像所見,治療,自助グループ,司法といった臨床から,前臨床的基礎研究まで網羅されていた。

「第33回日本神経精神薬理学会年会(奈良)」印象記

著者: 仲神龍一 ,   綱島浩一

ページ範囲:P.210 - P.211

 第33回日本神経精神薬理学会年会が2003年10月8日から10日の3日間にわたり,中嶋敏勝会長(奈良県立医科大学薬理学講座)のもと,奈良市の奈良県文化会館にて開催された。文化会館は奈良公園に程近い場所に位置し,周囲には世界遺産にも指定されている仏教寺院,春日大社などをはじめとした古い文化財が散在している。幸いにして好天に恵まれ,古都奈良の落ち着いた風情の中,澄み渡った青い空とちらほらと色づき始めた木々が印象的だった。

 本学会の会則には神経精神薬理の進歩発展を図ることとある。本学会には基礎医学から臨床医学までの幅広い観点からの参加があり,また,政府,文部科学省が,近年研究を地域住民社会の産業・経済に還元することを推奨していることも踏まえられ,本年会は「神経精神薬理と市民生活とのハーモナイゼーションを求めて」というテーマで盛大に行われた。以下にその印象を講演や発表などにそれぞれ分けて述べてみたい。

基本情報

精神医学

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-126X

印刷版ISSN 0488-1281

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