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研究と報告
加害的自生視覚表象
著者: 小林聡幸1 片山仁1 加藤敏1 阿部隆明1
所属機関: 1自治医科大学精神医学教室
ページ範囲:P.133 - P.139
文献購入ページに移動面前の他者に対して加害的なことを言う,あるいは考えるという,加害的自生発話(思考)(加藤,1997)に類似して,他者に危害を及ぼす場面の視覚的イメージ,すなわち加害的自生視覚表象を主症状とする症例を経験した。症例は初診時20歳の女性。加害的自生視覚表象のほかには一時的に幻聴も伴った。この症状は1年ほど続き,その間,著明な意欲低下を伴ったが,やがて良好な転帰をとった。加害的自生視覚表象は加害的自生思考の変種であり,加害的自生思考と同様に,能動性を障害された統合失調症患者が,対峙的な他者関係の中で不本意にせよ攻撃性を向けるという点で能動性を集約するという自己治癒的契機を持っていることが推測された。しかし,その加害的体験は単なる思考ではなく視覚化されることによって,あくまでイメージの中での他者への攻撃という形をとって,いわば体験が被覆され,ある種の安定化を見て長期に続いたものと考えられる。
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