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試論
Charles Bonnet syndromeの1例―病態仮説における1試論
著者: 浅海安雄1 富田克1 本岡大道1 石田重信1 前田久雄1
所属機関: 1久留米大学医学部精神神経科
ページ範囲:P.535 - P.541
文献購入ページに移動一般臨床の場面において幻視を訴える患者と遭遇することは稀なことではない。幻視はもっぱらアルコール離脱の際の振戦せん妄に代表されるように意識障害に伴って起こることが多く,当然それが「まぼろし」であるとの認識を欠くことがほとんどである。しかし,意識清明下において十分な病識を持ちながら鮮明かつ詳細に記述可能な幻視が出現することがある。スイスの哲学者であり,博物学者であるCharles Bonnetが白内障の自分の母方の祖父において起こった鮮やかな幻視について1782年に初めて記載し,その後1936年にMorsierがCharles Bonnet syndrome(以下CBS)と命名した2)。
比較的稀な症候群と考えられていたが,視覚障害のある高齢者には比較的高頻度に起こることがわかってきており,近年その報告は増加傾向にある。
今回我々は比較的典型的なCBSと考えられる症例を経験した。しかし,その訴えは「見える幻視がすべて,自分が一度も見たことのないものである。」という訴え,つまり「幻視の非再認性の再現性」を有するものであった。
既存のCBSの発生機序に関する仮説ではこの訴えは説明できなかった。CBSは視覚認知,記憶,意識などのさまざまな問題に関連して我々に多くの示唆や問題を投げかける。症例を報告するとともに,本症例を通じてCBSの病態における幻視出現のメカニズムについて脳の高次機能を取り入れた私見をまとめた。
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