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雑誌目次

雑誌文献

精神医学46巻7号

2004年07月発行

雑誌目次

巻頭言

ダウンサイジングと悪魔の囁き

著者: 藤井康男

ページ範囲:P.672 - P.673

 自分で企画して,自分に振り向けた論文で,呻吟している。考えついた時は調子が高かったのですぐ書けると思ったが,「精神科病院のダウンサイジングと治療技法の進展」というテーマは大きくて,とりとめがつかない2)。5月の札幌学会のセミナーも同じような内容のつもりだが,本当にできるだろうか。

 そもそも,この企画は「欧米から各種の治療技法が次々と紹介されてはいるが,わが国ではそれらを使いこなせてはいない。それは,これらの治療技法が精神科病院のダウンサイジング(病床削減)やクロージング(閉鎖)とスタッフの地域化という中で発達したという戦略的意味をわかっていないためじゃないのか」という思いつきからであった。

展望

人格障害の90年―Koch, Schneider,そしてDSM-Ⅲ

著者: 中谷陽二

ページ範囲:P.674 - P.684

はじめに

 今日,人格障害は精神医学のトピックスの1つとなり,日常臨床においても他の精神障害に劣らない重みをもっている。こうした人格障害論の活況は1980年のDSM-Ⅲ1)を転換点とする大きな流れのように思われる。

 DSM-Ⅲから遡ることおよそ90年,Kochは『精神病質低格』12)を著した。Kochの学説はSchneider25)によって精神病質問題の全領域を切り開いたと評され,他方ではMeyerにより移入されることでアメリカ精神医学での精神病質に姿を変えた15)。Kochの概念は中田16)の言葉を借りれば「精神病質概念の1原点」であり,ひいては現代の人格障害論の源流をなすと言えるであろう。

 DSM-Ⅲが局面を塗り替えたことで,それ以前の90年はあまり顧られなくなっている。しかし人格障害をめぐるさまざまな今日的課題を解く鍵はDSM-Ⅲの前史に埋もれているかもしれない。小論ではKoch,Schneiderを主軸としながら精神病質/人格障害概念の流れをたどり,DSM-Ⅲで何が変わったか,またその得失は何かについて論じてみたい。

研究と報告

社会不安障害におけるパーソナリティー障害―大うつ病性障害との関連

著者: 永田利彦 ,   大嶋淳 ,   和田彰 ,   山田恒 ,   太田吉彦 ,   山内常生 ,   池谷俊哉 ,   切池信夫

ページ範囲:P.685 - P.690

抄録

 社会不安障害の本邦におけるパーソナリティー障害の併存率の報告はほとんどなく,SAD以外のI軸障害とII軸障害の関連が検討されることはなかった。そこで,98例の社会不安障害患者を対象にパーソナリティー障害の併存率を検討し,さらに大うつ病性障害の生涯診断との関連を検討した。その結果,86例(88%)に回避性パーソナリティー障害,31例(32%)に強迫性パーソナリティー障害,それぞれ18例(18%)に依存性と妄想性パーソナリティー障害,16例(16%)に自己敗北型パーソナリティー障害を認めた。その中で,妄想性,自己敗北型パーソナリティー障害のみが大うつ病性障害の生涯診断群に有意に多かった。このようなことから,社会不安障害に直接関連するパーソナリティー障害がある一方,大うつ病性障害の生涯診断を持つ場合に併存することが多いパーソナリティー障害があった。

社会的ひきこもりの家族支援―家族教室の結果から

著者: 畑哲信 ,   前田香 ,   阿蘇ゆう ,   廣山祐治

ページ範囲:P.691 - P.699

抄録

 社会的ひきこもりを抱える16名の家族を対象として,7日間の家族教室を行い,開始時および終了時に一般健康調査票(GHQ),家族機能評価尺度(FAD)を測定した。開始時検査で,GHQ陽性の家族が7名(43.5%)と,家族への負担の大きさがうかがわれた。検査を完了できなかった家族ではGHQが特に高得点で,負担が大きい家族に対する介入の継続性の問題が示された。全体としては家族教室の効果はいずれの指標にも有意ではなかった。一部のケースに本人への支援を行ったが,支援した家族ではしなかった家族と比較して家族機能の有意な改善が得られた(p<0.05~p<0.01)。支援の是非の判断にはGHQが有用であった

クリニカルパスによる急性期統合失調症治療―BPRSと薬物療法などの解析

著者: 橋本喜次郎

ページ範囲:P.701 - P.707

抄録

 3か月のクリニカルパス(以下パス)を治療に用いた急性期統合失調症患者の解析を通して,急性期治療におけるパスの意義,退院予測性,至適薬物療法などを検討した。

 パス適用者を一定の条件で成功群と不成功群に定義した。パス適用33例は,成功群18例と不成功群15例に分けられ,入院期間の平均はおのおの60.4日と132.7日であった。両群は,入院時並びに退院時においてもBPRSの総計点で有意差はなかったが,入院2週目と4週目で成功群が有意に改善していた。処方解析では,入院と退院の両時点で処方量に差は認められなかったが,最大処方量で不成功群は有意に量が多く,処方の変更率でも成功群に比し有意に高かった。

 上記の背景には,患者個々の薬物への反応性の違いが示唆された。また,急性期統合失調症の治療では,入院2週目のBPRS改善率が入院期間を予測する客観的指標に成り得ることが示唆され,3か月の標準的な入院期間以外に,別期間の設定プランが必要と考えられた。

46歳時に情動脱力発作が出現したナルコレプシーの1例

著者: 竹内暢 ,   内村直尚 ,   小鳥居湛 ,   小峰史香 ,   前田久雄

ページ範囲:P.709 - P.714

抄録

 35,6歳時に睡眠発作で発症し,46歳時に情動脱力発作が出現したナルコレプシーの症例を経験した。ナルコレプシーの診断は,睡眠障害国際分類によると,情動脱力発作を必須とする基準と,主に終夜ポリグラフ所見などを必須とする基準の2本立ての構造になっている。診断を行う際には,病歴聴取は,情動脱力発作の確認が行われれば,睡眠時無呼吸症候群などのその他の過眠症との鑑別は容易であるが,情動脱力発作がない症例や晩発する症例では,終夜ポリグラフ等の客観所見が必要であり,情動脱力発作の存在にこだわり過ぎると診断の機会を逸する恐れがある。このような症例においては,HLA検査や髄液オレキシン検査も,早期診断の一助になると考えられた。

過食症に対する集団療法を中心とした入院治療

著者: 鈴木健二 ,   武田綾 ,   竹村道夫 ,   村山昌暢 ,   樋田洋子

ページ範囲:P.715 - P.721

抄録

 この研究は,過食症に対して集団療法を中心とした入院治療を行っている2つの病院の共同研究である。2つの病院の治療スタッフが集まり治療の原理と方法について議論し,過食症はアディクションモデルで説明できること,入院治療においてはアルコール依存症の治療技法を応用できることを確認した。また2つの病院の1年間の入院患者の分析を行い,対象患者は年齢が高く,慢性化していてさまざまな精神科合併症を抱えていることが共通していた。結論として,集団療法を中心とした過食症に対する入院治療は,過食症に対する従来からの消極的な入院とは異なる積極的入院治療のひとつのモデルとなりうることを示した。

看護師の事故頻性に関連する要因―共分散構造分析を用いた検討

著者: 吉田由紀 ,   大坪天平 ,   田中克俊 ,   伊川太郎 ,   尾鷲登志美 ,   高塩理 ,   幸田るみ子 ,   青山洋 ,   松丸憲太郎 ,   上島国利

ページ範囲:P.723 - P.730

抄録

 女性看護師861人(平均年齢±SD:27.5±7.1歳,range:20~60歳)を対象に,最近6か月間に経験したインシデントとアクシデントの頻度に関連する要因を調べるための自己記入式質問票調査を行った。事故頻性に関する探索的分析の結果,年齢が若い,病棟勤務である,強迫傾向が強い,抑うつが強い,外向性性格が弱いことが統計学的に有意な要因としてあげられた。共分散構造分析による解析では,事故頻性と関連する要因として年齢が若い,病棟勤務であること,抑うつが強いことが有意な要因として抽出された。事故頻性を低減するためには,病棟の若年看護師への組織的介入(働きやすい環境整備,管理・指導・援助体制の構築),および,抑うつに関するメンタルヘルス教育と抑うつへの個人的介入が重要であることが示唆された。

短報

ペロスピロンが著効した皮膚寄生虫妄想を呈した統合失調症の1例

著者: 奥川学 ,   延原健二 ,   吉村匡史 ,   木下利彦

ページ範囲:P.733 - P.735

はじめに

 皮膚寄生虫妄想は,現実には実在しないにもかかわらず,虫が皮膚を這い回り,刺したり,噛んだりするような皮膚の異常感覚を訴え,寄生虫症に罹患しているという妄想内容を呈する疾患である。その治療に関しては,強固な妄想的確信に加えて高齢者に対する抗精神病薬の副作用のため難渋することが多い9)

 今回我々は,「皮膚寄生虫妄想」を呈した統合失調症の1例を経験し,その治療にペロスピロンを処方したところ著効したので若干の考察を加えて報告する。

紹介

The Schizophrenia Quality of Life Scale 日本語版(JSQLS)

著者: 兼田康宏 ,   今倉章 ,   大森哲郎

ページ範囲:P.737 - P.739

はじめに

 Wilkinsonら5)は,統合失調症患者の認知と関心を測定する,妥当で実用的な自己記入式質問票として,Schizophrenia Quality of Life Scale(SQLS)を開発した。近年,医療現場において,疾病の治療のみならず病者の「生活の質(以下,QOL)」が注目されており,統合失調症患者においても,重要な関心事の一つとなっている。従来,統合失調症患者のQOL評価には,Medical Outcomes Study 36-item short-form health survey questionnaire(SF-36)4)やHeinrichsらのQuality of Life Scale(QLS)2)などが用いられてきた。QOLの評価に関しては,疾病特異的で自己評価式の尺度の重要性が指摘されているが1),SF-36は,自己評価式であるものの,疾病特異的ではなく,また,QLSは疾病特異的ではあるが,自己評価式ではない。そこで,Wilkinsonらは統合失調症患者のQOLを評価するために,実用的で,コンパクトな自己評価式尺度として,SQLSを作成した。SQLSは,30項目からなる質問表であって,各項目は0点から4点で採点される(:「一度もない」=0;「ほとんどない」=1;「時々ある」=2;「よくある(たいていできる,よく思う)」=3;「いつもある(いつもできる,いつも思う)」=4)。SQLSは,3つの領域(心理社会関係,動機/活力,そして症状/副作用)を評価し,臨床試験や治療介入の評価を主な目的としている。また,SQLSはすでに,信頼性が高く,妥当で実用的であることが示されている4)。我々は,その有用性に着目し,臨床応用のために,原著者の許可を得た上で,日本語版(JSQLS)を作成したので,ここに紹介する。日本語訳にあたっては,まず,2名が独立して仮日本語訳を作成し,その後訳者2名に第3者を加えた計3名で協議した上で日本語訳を作成し,さらにその後,原文を知らない者2名に独立して日本語訳のback-translationを行わせ,この英文のそれぞれを原著者に確認してもらった。なお,JSQLSの信頼性,妥当性については,すでに検討されている3)

ニュージーランドにおける地域を基盤にした精神保健サービス

著者: 植田俊幸

ページ範囲:P.741 - P.748

はじめに

 ニュージーランドは南北二つの大島と付近の小島からなる国であり,日本の7割にあたる27万平方キロの国土に約380万人が居住している11)。牧畜を中心とした農業が盛んで,羊毛や乳製品を多く輸出している。精神保健に関しては,当事者を中心とした地域精神保健サービスが1990年代後半から急速に発展し,政策レベルでサービス変革が成功した例として世界的に注目されている。筆者は,2003年6月10日から14日まで,ニュージーランド精神保健委員会のメアリー・オーヘイガン氏の企画協力により,ニュージーランドの地域精神保健の現状を視察したので報告する。

私のカルテから

駆梅療法後も脳血流量の改善がみられなかった進行麻痺の1例

著者: 石川智久 ,   鉾石和彦 ,   森崇明 ,   牧徳彦 ,   小森憲治郎 ,   中川賀嗣 ,   池田学 ,   田辺敬貴

ページ範囲:P.749 - P.752

はじめに

 進行麻痺は Treponema pallidumの感染により,びまん性に髄膜および脳実質が侵され,感染後10~20年後に発病する疾患である。近年の脳機能画像の発達に伴って,進行麻痺例においてもSPECTやPET所見の報告がなされており,治療前後の所見の変化や臨床症状との関連について議論されている。治療前から1年以上にわたって縦断的に脳血流と臨床症状の変化について述べた報告もある4)が,我々の知る限り,神経心理学的所見について縦断的に検討した報告はない。

 我々は,痴呆症状で発症し,抗生剤による治療が奏効した1例の脳血流所見,神経心理学的所見を報告した1)。今回,同一の症例について,治療後3年6か月経過時に臨床症状,脳血流所見,神経心理学的所見を再評価する機会を得たので報告する。

Parkinson病治療中に体感幻覚症状を呈しolanzapineが有効であった1例

著者: 谷口和樹 ,   松尾幸治 ,   沖本啓治 ,   綱島浩一 ,   加藤進昌

ページ範囲:P.753 - P.754

はじめに

 Parkinson病の治療においてはレボドパおよび脱炭酸酵素阻害薬との配合剤(以下,L-DOPA)やbromocriptineなどのドパミン受容体作動薬が中心となっている。しかしこれらの薬剤により幻覚・妄想といった精神病様症状を生じうる。治療はL-DOPAを減量あるいは定型抗精神病薬投与が行われるが,Parkinson症状が増悪し,難渋することが多い。

 今回我々はParkinson病に対し,L-DOPAを投与され,15か月後に体感幻覚症状を呈した1例を経験した。種々の抗精神病薬で効果が乏しかったが,olanzapine少量投与により体感幻覚症状の改善を認めた症例を経験したので報告する。

動き

精神医学関連学会の最近の活動―国内学会関連(19)

著者: 高橋清久

ページ範囲:P.757 - P.779

 本記事は日本学術会議の精神医学研究連絡会(研連)の活動の一環として関連学会の活動状況をお知らせするものである。各学会の代表の方にお願いして,活動状況を記載していただき,毎年この時期にまとめて読者の皆様方にお伝えしている。ここ数年を振り返ってみても学会活動がとみに活発になっている様子が伺い知れてうれしく思う。

 精神医学研連に登録している学会数は21であるが,今後その数が増えることを期待している。研連の活動はあまり知られていないようであるが,その重要な機能の一つに科学研究費の審査委員に関する情報の提供がある。科学研究費は昨今の不況にもかかわらず毎年増加の一途であり,審査委員の数も増加している。所属する学会から審査委員が出ることは,その領域の研究活動の活性化にもつながるものである。

 本記事で紹介される各学会が,今後も活発な活動を展開されることを念じている。なお,記載の時期が学協会間で必ずしも一致していないが,多くは2003年度末のものであり,理事長名など現状とは異なる部分があることをお断わりしておきたい。 (第19期日本学術会議会員 高橋清久)

基本情報

精神医学

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-126X

印刷版ISSN 0488-1281

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