短報
統合失調症患者におけるWAIS-R簡易実施法の有用性の検討
著者:
植月美希
,
笠井清登
,
荒木剛
,
山末英典
,
前田恵子
,
清野絵
,
岩波明
,
加藤進昌
ページ範囲:P.845 - P.848
はじめに
Wechslerにより1981年に開発されたWAIS-R12)(Wechsler Adult Intelligence Scale-Revised:日本版は1990年に標準化10))は,現在臨床場面でもっともよく使用されている知能検査の1つである。
同年齢集団の中での個人の知能水準の位置を知りうる知能指数(IQ)が算出でき,言語性IQ,動作性IQ,全検査IQに分けて算出することができるという特徴をもつ10)。しかし,本検査の施行にはおよそ1時間を要し,短時間で正確なIQを得ることは難しい。そこで,Kaufmanら2)により20分以下で実施可能なWAIS-R簡易実施法が作成された。Kaufmanらは2下位検査実施法(実施時間12分),3下位検査実施法(同16分),4下位検査実施法(同19分)の3種類の簡易実施法を作成し,それぞれ信頼性・妥当性が高いことを示している。日本においては,三澤ら7)によってWAIS-R簡易実施法が開発されている。Kaufmanらと同様,2~4下位検査実施法の3つが作成され,それぞれ信頼性・妥当性が高いことが示された。WAIS-R簡易実施法は,健常者のみならず,さまざまな障害をもつ者を対象とした研究でもその有用性が示されている。三澤らは,脳機能障害,脳性麻痺,脊髄損傷および脊髄性疾患,外傷性脳損傷および脳腫瘍後遺症など,視覚障害,頸随損傷,聴覚障害という7つの障害グループの人々に加え,精神遅滞者,自閉症患者,高齢者を対象にして,WAIS-R簡易実施法の有用性を検討している。その結果,7つの障害グループでは2~4下位検査実施法による推測IQと全検査IQとの間にそれぞれ0.7以上の強い相関が,精神遅滞者では0.6以上の,自閉症患者では0.7以上の,高齢者では0.8以上の強い相関があることが示されている。
WAIS-Rは,統合失調症の臨床および研究にも広く利用されている1,3,6,11)。統合失調症患者においては,長時間の心理検査に抵抗を示す場合があり,IQ測定に簡易実施法の施行が求められる状況が少なくない。また,統合失調症の臨床研究や生物学的研究においては,患者群および健常対照群の全般的知能を評価しておくことが重要であるが,対象者の多い研究においてはWAIS-R全検査の施行は実際上困難である。しかしながら,我々の知る限り,日本人統合失調症患者を対象としてWAIS-R簡易実施法による推測IQと日本版WAIS-R全検査IQとの関係を検討した報告はまだない。統合失調症では一般に言語性IQと動作性IQの差が大きく,言語性IQのほうが高いという傾向が示されているが1,3,6),このようなプロフィールの偏りが簡易実施法によるIQ推定に影響を及ぼすかどうかも不明である。こうした背景から,本研究では日本人統合失調症患者におけるWAIS-R簡易実施法の有用性を検討した。