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雑誌目次

雑誌文献

精神医学46巻8号

2004年08月発行

雑誌目次

巻頭言

精神科医としての30年

著者: 林拓二

ページ範囲:P.790 - P.791

 私が大学を卒業した1970年の初め,「精神医学」誌に西丸四方先生の「巻頭言」が掲載されていた。その「我亡霊を見たり」は,西丸先生が30数年の臨床医としての経験を経た上で綴った文章であるが,私もまた30数年を精神科医として過ごし,ふと,西丸先生の当時の感慨とどのような差異があるのだろうかと考えている。

 当時の西丸は,そこで概略次のように書いている。「大学にいたころは荒廃とか早発性痴呆というものはなくなったものと妄想していた。しかし,精神病院に勤めるようになると,昔私が治療して治ったと思った患者が亡霊となって病院に沈殿しており,私の名前を覚えていて呼びかけてくる」と。

オピニオン 心神喪失者等医療観察法の論点をめぐって

付添人業務を通じて,ガップリ四つで―最高裁審判規則制定における留意事項を提起

著者: 伊賀興一

ページ範囲:P.792 - P.795

日弁連の医療観察法施行に対する立場

 2003年7月10日,心神喪失等の状態で重大な加害行為を行ったものの医療および観察等に関する法律(以下,医療観察法という)が成立した。2005年3月施行をめざしたさまざまな準備が関係機関,関係者において進められている。

 日弁連においても,新設される付添人業務に取り組むことが要請されることから,成立した医療観察法の構造・目的・手続等を改めて検討し,各地弁護士会での登録,研修,そのための準備を進めている。

新制度の危うさ―決定の基準と鑑定

著者: 中谷陽二

ページ範囲:P.796 - P.798

 筆者は心神喪失者等医療観察法(以下,「新法」)の法案作成や施行の準備作業に参画していないので,ここではアウトサイダーの立場で,法律の条文に即して問題点を指摘したい。新法への批判および対案についてはすでに明らかにしており1~3),ここでは限られた紙幅で制度の核をなす裁判所の決定とそのための鑑定に絞って検討する。

 早速,条文を見てみよう(ゴチックは条文,下線は引用者)。

医療観察法治療適合性の判定:4次元モデル

著者: 平野誠 ,   村上優 ,   須藤徹

ページ範囲:P.799 - P.801

 2003年7月に心神喪失者等医療観察法(以下新法)が公布され,その施行へ向けた準備がなされている。法案成立への過程で修正された新法下での入院等の要件は,一義的には再犯防止ではなく「触法精神障害者への医療の必要性」が中心的な要件であり,あくまで社会復帰のための制度であることが明確化された。筆者は,この新しいシステムの中で指定医療機関として対象者の治療を実際に担っていく(であろう)臨床の立場から意見を述べてみたい。

心神喪失者等医療観察法制定の意義

著者: 山上皓

ページ範囲:P.802 - P.804

はじめに

 医療観察制度の制定は,触法精神障害者(犯罪行為を行った精神障害者)の処遇にある重大な制度的欠陥を是正し,国として責任ある医療的処遇を彼らに保障できるようになったことに,最大の意義がある。この制度のもとで,遅れてきたわが国の司法精神医療が新たなスタートを切ることになる。

展望

「病識」再考

著者: 池淵恵美

ページ範囲:P.806 - P.819

なぜ「病識」か―本論のめざすもの

 病識の用語は日常的に使用されているが,その内包する概念は個人差が大きいことと思われる。次項でくわしく議論することになるが,ここではとりあえずよく使われるJaspers21)の定義「人が自己の体験に対し,観察し判断しながら立ち向かうことを疾病意識とし,そのうちの“正しい構えの理想的なもの”が病識とされる」(筆者による要約)のなかで,ひろくJaspersのいう疾病意識について取り上げ,それに便宜上「 」をつけて「病識」と表現することとする。「病識」をめぐる問題は,不安障害でも,気分障害でも,器質性障害でもみられ,その重要性は統合失調症に劣らないであろう。しかし障害によってその性状(そしておそらくは成因)がさまざまに異なり,一律に論じることを困難にしている。また,これまでの実証的研究は主に統合失調症を対象としたものが多い。そこで本論では統合失調症に絞って論を進めることにする。

 統合失調症においては,「病識」欠如はもっともよく観察される所見の1つであろう。ここでは「病識」欠如をどう評価するか,そして統合失調症をどう診断するかという問題が基盤にあるが,たとえば1973年のWHOによる国際的なコホート調査71)では病識の欠如が97% に認められた と報告されている。そして「病識」欠如が治療者・患者関係のもっとも大きな障害となることは,誰しも同感するところである。近年はさまざまな社会的資源が整備されてきているが,「病識」が不十分な場合にはこうしたせっかくの資源も利用に至らず,結果として社会的孤立の道を歩むことになる。治療面でも,McEvoyら44)が指摘するように,他の精神症状が改善しても,しばしば「病識」が一緒に改善しないことがあり,病識欠如は予後の悪さと関連性が高く17),いわば治療抵抗性である。このように,「病識」は統合失調症の長期転帰を考える上で,重要である。英米圏でも多数のレビューが出されており,古くから関心の高い領域であるが,近年では操作的基準による「病識」評価が提案され,実証的研究とともに概念の再考が行われるようになっている2)

研究と報告

器質的障害のある前頭葉てんかんの1例―運動関連電位による焦点部位の検討

著者: 五十嵐雅文 ,   麓正樹 ,   有田秀穂 ,   菅原道哉

ページ範囲:P.821 - P.826

抄録

 運動関連電位は,筋放電をトリガーとして逆行性加算平均を行い,随意運動に先行する脳電位を求める方法である。今回我々は通常の発作間欠期の脳波では異常が認められず「ヒステリー発作」とされてきた前頭葉てんかんの1例を経験した。焦点部位の検討のため左右手関節の運動課題を負荷し,運動関連電位を測定した。右手運動負荷時に運動関連電位の異常と,繰り返し右手運動を行うことでCzに陽性棘波が認められた。これは過去の報告とあわせ考えると,臨床発作の前駆状態と考えられた。運動領野が関係すると考えられる症例に運動課題を課し,運動関連電位や脳波を記録することで,焦点部位の推定の一助となる場合があると考えられる。

非単純ヘルペス脳炎患者の経時間的SPECT所見

著者: 橋本直樹 ,   森清 ,   本間次郎 ,   中島幸治 ,   栃木昭彦 ,   朝倉聡 ,   北川信樹 ,   志賀哲 ,   小山司

ページ範囲:P.827 - P.833

抄録

 意識障害が遷延した非単純ヘルペス脳炎の1例に,経時的にSPECT検査を施行した。症例は37歳男性で,意識障害を主訴に来院した。MRIでは異常所見を認めなかったが,髄液検査とSPECT検査の所見より,非単純ヘルペス脳炎と診断した。意識障害がいったん軽快した後に再度増悪し,この際のSPECT検査の所見より脳炎の再増悪と判断し,抗ウイルス剤を投与したところ良好な結果を得ることができた。本症例によって,SPECTが脳炎において,特にMRIで異常所見を呈さないような症例で,急性期の診断のみならず,亜急性期,慢性期の病勢の判定にも有用である可能性が示唆された。

高機能自閉症とアスペルガー障害における顔の表情についての自動的処理とその発達的変化

著者: 神尾陽子 ,   齊藤崇子 ,   山本幸子 ,   井口英子

ページ範囲:P.835 - P.844

抄録

 自閉症とアスペルガー障害における対人的障害は,意識されないコミュニケーションの自動的側面の障害と密接に関連することが明らかになっている。本研究は,閾下で呈示される顔の表情に対して,自動的な情動反応が高機能広汎性発達障害の児童青年において生じるかどうかを,閾下プライミングの手続きを用いて検証した。その結果,児童では定型発達群,高機能広汎性発達群ともに表情によるプライミングが生じなかった。青年では,定型発達群においてのみ表情による閾下プライミングがみられたが,高機能広汎性発達障害群では顔の表情の有無はプライミングに影響しなかった。これらより,自閉症とアスペルガー障害における対人的処理の自動的側面の機能不全が示され,扁桃体仮説と症状形成における経験要因の関与の可能性が示唆された。

短報

統合失調症患者におけるWAIS-R簡易実施法の有用性の検討

著者: 植月美希 ,   笠井清登 ,   荒木剛 ,   山末英典 ,   前田恵子 ,   清野絵 ,   岩波明 ,   加藤進昌

ページ範囲:P.845 - P.848

はじめに

 Wechslerにより1981年に開発されたWAIS-R12)(Wechsler Adult Intelligence Scale-Revised:日本版は1990年に標準化10))は,現在臨床場面でもっともよく使用されている知能検査の1つである。

 同年齢集団の中での個人の知能水準の位置を知りうる知能指数(IQ)が算出でき,言語性IQ,動作性IQ,全検査IQに分けて算出することができるという特徴をもつ10)。しかし,本検査の施行にはおよそ1時間を要し,短時間で正確なIQを得ることは難しい。そこで,Kaufmanら2)により20分以下で実施可能なWAIS-R簡易実施法が作成された。Kaufmanらは2下位検査実施法(実施時間12分),3下位検査実施法(同16分),4下位検査実施法(同19分)の3種類の簡易実施法を作成し,それぞれ信頼性・妥当性が高いことを示している。日本においては,三澤ら7)によってWAIS-R簡易実施法が開発されている。Kaufmanらと同様,2~4下位検査実施法の3つが作成され,それぞれ信頼性・妥当性が高いことが示された。WAIS-R簡易実施法は,健常者のみならず,さまざまな障害をもつ者を対象とした研究でもその有用性が示されている。三澤らは,脳機能障害,脳性麻痺,脊髄損傷および脊髄性疾患,外傷性脳損傷および脳腫瘍後遺症など,視覚障害,頸随損傷,聴覚障害という7つの障害グループの人々に加え,精神遅滞者,自閉症患者,高齢者を対象にして,WAIS-R簡易実施法の有用性を検討している。その結果,7つの障害グループでは2~4下位検査実施法による推測IQと全検査IQとの間にそれぞれ0.7以上の強い相関が,精神遅滞者では0.6以上の,自閉症患者では0.7以上の,高齢者では0.8以上の強い相関があることが示されている。

 WAIS-Rは,統合失調症の臨床および研究にも広く利用されている1,3,6,11)。統合失調症患者においては,長時間の心理検査に抵抗を示す場合があり,IQ測定に簡易実施法の施行が求められる状況が少なくない。また,統合失調症の臨床研究や生物学的研究においては,患者群および健常対照群の全般的知能を評価しておくことが重要であるが,対象者の多い研究においてはWAIS-R全検査の施行は実際上困難である。しかしながら,我々の知る限り,日本人統合失調症患者を対象としてWAIS-R簡易実施法による推測IQと日本版WAIS-R全検査IQとの関係を検討した報告はまだない。統合失調症では一般に言語性IQと動作性IQの差が大きく,言語性IQのほうが高いという傾向が示されているが1,3,6),このようなプロフィールの偏りが簡易実施法によるIQ推定に影響を及ぼすかどうかも不明である。こうした背景から,本研究では日本人統合失調症患者におけるWAIS-R簡易実施法の有用性を検討した。

メチルフェニデートが奏効した,脳波異常を伴った成人期の注意欠陥/多動性障害の1症例

著者: 林田麻衣子 ,   宮岡剛 ,   安田英彰 ,   高岡佳美 ,   岡崎四方 ,   安川玲 ,   水野創一 ,   田中良恵 ,   野田恭仁子 ,   阿部多樹夫 ,   稲垣卓司 ,   堀口淳 ,   松本貴久

ページ範囲:P.849 - P.853

はじめに

 近年,成人期の注意欠陥/多動性障害(AD/HD)が注目され12),一般書でも詳細に記述されている10,14)。しかしながら,成人のAD/HDの特質については疫学的検証が行われていないと指摘されており12),また,精神科領域において詳細な治療経過を記述した症例報告はわずかである9)。今回,我々はメチルフェニデートが奏効した,脳波異常を伴った成人期の注意欠陥/多動性障害の1例を経験した。興味深いと思われたので報告し,若干の考察を加える。

特別寄稿

アリピプラゾールの創薬性―統合失調症治療における新しいドーパミンD2受容体パーシャルアゴニスト

著者: 融道男

ページ範囲:P.855 - P.864

はじめに

 近年統合失調症に対して,非定型抗精神病薬が使われる機会が多くなってきている。ここで紹介するアリピプラゾールは非定型抗精神病薬に含まれるが,他の薬剤と比べて,その作用機序は大きく異なっている。

 アリピプラゾールの特徴は,ドーパミンD2受容体パーシャルアゴニストとして,シナプス前部のドーパミン自己受容体にはアゴニスト作用を有する一方,シナプス後部のD2受容体に対してアンタゴニスト作用を有することである。パーシャルアゴニストは,シナプス間隙での内因性の神経伝達物質の濃度によって,アゴニストにもアンタゴニストにもなる。この作用により,ドーパミン機能系を安定化させることが可能になる。

 アリピプラゾールは,統合失調症の陽性・陰性症状の両方に効果があり,副作用はきわめて少ない。急性錐体外路症状,遅発性錐体外路症候群,高プロラクチン血症,体重増加,鎮静などの頻度が低く,糖・脂質代謝に悪影響はしない22)。米国では2002年に認可され,統合失調症の陽性・陰性症状に対して,第一選択薬として広く使用されている。海外ではアリピプラゾールの安全性・忍容性が高く評価されており,今後わが国でも統合失調症の治療において重要な選択肢として注目されている。

私のカルテから

Perospironeによって精神病後抑うつが改善した統合失調症の1例

著者: 都甲崇 ,   内門大丈

ページ範囲:P.865 - P.867

はじめに

 精神病後抑うつ(postpsychotic depression)は,統合失調症の急性期後に出現するうつ状態を指し,1976年にMcGlashanとCarpenterによって初めて記載された3)。統合失調症の経過中には気分障害症状がさまざまな形で出現することがあるが,精神病後抑うつは自殺企図に帰結することもあることから特に注意が必要である9)。精神病後抑うつに対する薬物治療には抗うつ薬が用いられることもあるが,抗うつ薬の使用は精神症状を賦活する可能性もあり,その有効性については一定の見解が得られていない。今回筆者らは,risperidoneによる急性期症状の改善後に出現した精神病後抑うつに対して,perospironeを追加し症状の改善が得られたと考えられる1例を経験したので,若干の考察を加えて報告する。

シンポジウム 精神障害治療の新展開

精神医学・医療の変遷と将来

著者: 山下格

ページ範囲:P.869 - P.874

 東京都精神医学総合研究所の設立30周年にあたり, その開設・運営に尽力し,多くの優れた業績をあげて,わが国の精神医学・医療の発展に貢献した関係の方々のご功績に,こころから敬意を表する。

統合失調症の薬物治療の新展開

著者: 糸川昌成

ページ範囲:P.875 - P.883

はじめに

 18世紀以前,統合失調症の患者は宗教施設や救貧院などに収容され,精神発達遅滞,孤児,痴呆患者などといっしょに手当てされていた。クレペリンが,1896年に統合失調症の概念を「早発性痴呆」としてまとめた時,その治療観は悲観的であり,病像・経過が多様であってもいずれは人格荒廃に至ると記された。このように不治の病と記された統合失調症が,可治の疾病として現在のように積極的に治療されるようになるには,1951年のクロールプロマジンの発見をきっかけとする抗精神病薬の時代が到来したことが大きな要因と考えられる。

 抗精神病薬によって臨床上もたらされた顕著な影響は,統合失調症の予後の好転だった。1930年代の米国で報告された統合失調症の寛解・軽快率は21~35%だったが26,27),1970年代には61~70%に上昇している32,37)。わが国でも,1939年に寛解・軽快率が33.5%と報告されたが10),1970年代には79~80.5%に上昇している15,40)。家族療法や生活技能訓練など心理・社会的アプローチの発達も予後の好転に寄与したことは事実であるが,抗精神病薬が普及した1960年代を境に寛解・軽快率の大きな上昇がみられており,薬物療法の果たした影響は大きかったと考えられる。

 抗精神病薬の誕生は,臨床上の影響のみならず統合失調症研究へも大きな貢献を果たした。多くの「定型」抗精神病薬がドーパミン受容体の遮断作用を共有している事実29)が,統合失調症の「ドーパミン仮説」の根拠の1つとなった。1970年代に提唱された「ドーパミン仮説」は,死後脳研究,動物モデル,画像解析,遺伝子解析など多くの分野で研究を啓発した。

児童青年期の精神病理をめぐる心理社会状況と治療の新展開

著者: 西園マーハ文

ページ範囲:P.885 - P.891

はじめに

 最近,メディアでは,児童期や青年期の精神病理に対する関心が高く,引きこもり,虐待,少年犯罪関連の病理などの話題が報道されない日はないといってよいほどである。医療現場でもこれらの年齢層の相談件数は増えており,児童精神科を専門とするある病院の外来では,1992年から2001年の10年間に外来新患患者数が2.5倍になっているという21)。このような現象の理由はさまざまに議論されているが,病理的な子どもたちの実数が増えていることと,児童の病理に対する関心が高まったことに関連して受診行動が増加していることの両方の要素があるだろう。一方,援助を必要とする子どもたちの病理の内容も変化しつつある。

 近年,児童青年精神医学の様相を変化させた大きい因子の1つに,アメリカ精神医学会による診断基準DSM1,2,3)が日本でも使用されるようになったことが挙げられる。それ以前の精神医学の教科書に記載されていた児童に関する記述は,精神遅滞や自閉症など,特別の施設やクラスでの療育を必要とする種類のものが中心であった。当時の教科書に記述されたその他の障害としては,チック,夜尿症などの症状にとどまり,普通学級で,日常的に精神科医療との連携が必要なケースがさほど多いわけではなかった。しかし,DSM-Ⅲ以降アメリカの診断基準が国際的にも広まり,日本でも広く用いられるようになってきた。DSM-Ⅳ3)の中の「通常,幼児期,小児期,または青年期に初めて診断される障害」には多数の疾患名が含まれる。また,これ以外のカテゴリーの中にも,気分障害など児童期や青年期にも患者の多い疾患がある。その後研究が進み,DSM-Ⅲ当時の「小児期,思春期発症疾患」の枠からは独立して独自のカテゴリーができた,摂食障害のような疾患もある。

 「通常,幼児期,小児期,または青年期に初めて診断される障害」には,従来から知られている精神遅滞や自閉性障害以外に,注意欠陥/多動性障害やアスペルガー障害,学習障害など,以前日本ではあまり使用されなかった診断名が多く含まれているが,これらは普通学級に通う子どもたちの中にみられる問題である。このような中では,健康者と臨床例をどのように区別し,どのような場合に専門家と連携をとるかが問題となる。メディアでこれほど子どもたちの精神病理が問題になるのも,病理的な現象と健康な子どもの接点が大きくなり,健康な子どもと病理的な子どもは結局どのような違いがあるのかというテーマが過去よりも問題になってきているからとも言えるであろう。

覚せい剤依存治療に向けた新展開

著者: 池田和隆 ,   山本秀子 ,   高松幸雄 ,   原口彩子 ,   梅野充 ,   妹尾栄一

ページ範囲:P.893 - P.898

はじめに

 本稿では,まず覚せい剤乱用の現状とその治療の限界・問題点を説明し,幻覚・妄想などの精神病症状だけでなく依存の根本である渇望感を治療することが重要であることを論じる。次に,渇望感の基礎メカニズムや渇望感抑制薬の可能性に関する研究の進展を紹介する。また,依存患者の状態を正確に把握するためには依存重症度を客観的に評価するシステムが必要であるが,日本ではこのようなシステムの導入や開発が立ち後れていることを述べる。最後に,覚せい剤依存治療に向けた筆者らの研究方針を紹介したい。

基本情報

精神医学

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-126X

印刷版ISSN 0488-1281

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