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自閉症の対人認知研究の動向―顔研究からのレッスン
著者: 神尾陽子1
所属機関: 1九州大学大学院人間環境学研究院
ページ範囲:P.912 - P.923
文献購入ページに移動はじめに
本稿では,自閉症に特異的とされてきた「対人関係性の病理」について,行動レベルおよび神経盤レベルにおける最近の諸研究を概観する。ただし,「対人関係性」と言った場合,人のすべての精神活動に触れてしまいかねない。また,自閉症の多様な表現型(autism phenotype)を一括りにすることで,結果が相殺されて見えなくなる危険性がある。そこでQTL解析でのアプローチのように,自閉症を複数の形質の複合体としてとらえ,その表現型要素の1つに限定して議論を進めるのも,意義があると思われる。今回は,なかで最も知見が豊富な「顔認知」12,24)を中心として,「対人認知(social cognition)」と関連づけた議論を進めていきたい。他者の顔やまなざしをどのように知覚し体験するのかは,自然なコミュニケーションとは何かについて考える際に,適切で魅力的な素材である。
はじめに自閉症と定型発達の対人認知について現在提唱されている理論的仮説を紹介する。次に,他者の顔認知に関する研究を概観して,自閉症の顔を媒介としたコミュニケーションは,定型発達のそれとどのような点で異なるのか,自閉症と定型発達における顔認知は,それぞれ発達に伴いどのように変化するのかなどについて考える。最終的には,これらをもとに自閉症における対人認知の障害とはどのようなものかについて発達的観点から再検討したい。
本稿では,自閉症に特異的とされてきた「対人関係性の病理」について,行動レベルおよび神経盤レベルにおける最近の諸研究を概観する。ただし,「対人関係性」と言った場合,人のすべての精神活動に触れてしまいかねない。また,自閉症の多様な表現型(autism phenotype)を一括りにすることで,結果が相殺されて見えなくなる危険性がある。そこでQTL解析でのアプローチのように,自閉症を複数の形質の複合体としてとらえ,その表現型要素の1つに限定して議論を進めるのも,意義があると思われる。今回は,なかで最も知見が豊富な「顔認知」12,24)を中心として,「対人認知(social cognition)」と関連づけた議論を進めていきたい。他者の顔やまなざしをどのように知覚し体験するのかは,自然なコミュニケーションとは何かについて考える際に,適切で魅力的な素材である。
はじめに自閉症と定型発達の対人認知について現在提唱されている理論的仮説を紹介する。次に,他者の顔認知に関する研究を概観して,自閉症の顔を媒介としたコミュニケーションは,定型発達のそれとどのような点で異なるのか,自閉症と定型発達における顔認知は,それぞれ発達に伴いどのように変化するのかなどについて考える。最終的には,これらをもとに自閉症における対人認知の障害とはどのようなものかについて発達的観点から再検討したい。
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