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雑誌目次

論文

精神医学47巻3号

2005年03月発行

雑誌目次

巻頭言

思い立ったときが旬―ゼネラリストのすすめ

著者: 中山和彦

ページ範囲:P.228 - P.229

私たちに託された統合失調症の研究
 私の母校である東京慈恵会医科大学は今年で創立124年目に当たる。そのなかで精神医学講座は開講102年目である。その関係で数年前より開講100年記念誌の作成に執りかかった。私は編集委員長として否が応でも,教室の歴史にとどまらず,改めて精神医学史を調べることになった。もともと医学史には興味があったので,むしろこれを機にさらに虜になった感がある。その記念誌に3代目教授の新福尚武先生からお聞きしたことで,興味深い一節がある。新福先生は,1937年,九州帝国大学の卒業である。恩師である下田光造教授は,新入医局員の訓辞として,次のように言われたという。「精神分裂病(統合失調症)という難しい病気がある。君達の世代に頼むぞ」。新福先生は正直に「分裂病は難しい。私は若かったからね。それならうつ病で成果を挙げてやろうと取り組んだ」とある。

 確かに当時に比較すれば,病態,治療学に格段の進歩はみられていると思うが,実態はどうであろうか。隔離,長期入院治療から外来へ,また地域生活へ戻すためにいったいどのようなことが進行しているだろう。やはり統合失調症の治療は症状の鎮静が主体といえないだろうか。むしろ本来の精神活動も含めた過剰な鎮静を暗黙の了解としていまだに潜行しているように見える。なぜなら,地域社会に戻していくためには,今の治療方法では広い意味の鎮静は避けられない。すなわち治療方法が1952年以来の薬物治療に軸足があるからである。心理,社会,生物学的見地のバランスが取れているとはいいがたい。確かに症状軽快後の社会復帰,地域中心の受け皿として,形は進んでいるようであるが,むしろそのことが鎮静医療を促進しているようにみえることもある。

オピニオン 心療内科と精神科の住み分け

心療内科と精神科の役割分担

著者: 吾郷晋浩

ページ範囲:P.230 - P.232

はじめに
 本誌編集委員会より与えられたテーマは,「心療内科と精神科の住み分け」である。これは,かつて日本心身医学会の初代理事長故池見酉次郎先生の時代より両科で話し合われ,その当時としては一応の決着をみていたテーマである。それは,日本心身医学会の改訂された心身症の定義の中に表現されている。
 ここでは,まず心療内科と精神科は,本来どのような疾患を診療対象としているかについて,次いで現在引き起こされている問題を解決するためには,どのようにしたらよいかについて,私見を述べてみたい。

精神科医から見た心療内科

著者: 青木省三

ページ範囲:P.233 - P.234

はじめに
 教科書的にいうと,心因やストレスなどが主たる要因となって生じる身体疾患(心身症)を診るのが心療内科,身体疾患ではない身体症状を診るのが精神科ということになる。しかしながら現実の心療内科には,少なくとも①心身症を診る,②非精神病圏の精神疾患を診る,③現在の内科学が高度に細分化されている中で,全人的包括的に身体疾患を診る,という3つの側面があるように思う。本稿ではこの3つの側面について,精神科医の立場から考えてみたい。

心療内科と精神科のかかわり―両科の共通点と相違点

著者: 久保千春 ,   千田要一

ページ範囲:P.235 - P.237

はじめに
 心身症は,「身体疾患の中で,その発症や経過に心理社会的な因子が密接に関与し,器質的ないし機能障害が認められる病態をいう。ただし,神経症やうつ病など,他の精神障害に伴う身体症状は除外する」と定義2)されている。このように,心身症は器質的疾患と機能的疾患の両方にまたがっており,心療内科では,主に内科領域の心身症を対象疾患(表1)としている。しかし,現代日本では,高度情報化社会,経済不況,核家族化など複数のストレス因子が相まって,うつ病や不安障害がこれまでになく急増し,精神科だけでなく,心療内科でもこれらの精神医学的疾患を診療することが多くなってきている。さらに,副作用が少なく効果発現が早い向精神薬の開発が進んだため,精神医学的疾患の初期や軽症の患者は,精神科より,心療内科に行ってしまうことが稀ではなくなっている。このような状況下,心療内科と精神科の区別に関して,患者やマスコミだけでなく,医療従事者においても混乱していることが少なくない。そこで,本稿では,心療内科の理論基盤である心身相関について触れ,それぞれの対象疾患や治療法を詳しく述べることで,心療内科と精神科の共通点と相違点について浮き彫りにしていきたい。

大学における心療内科の現状

著者: 久保木富房

ページ範囲:P.238 - P.240

はじめに
 心療内科と精神科の住み分けについては,わが国に心療内科を導入した故池見酉次郎(九大心療内科初代教授)以下,故石川中(東大心療内科初代教授),鈴木仁一(東北大心療内科初代科長)らはそのことを重要事項と考えていた。わが国における40年の心療内科の歴史は,内科の中での位置づけと精神科との住み分けのための活動に集約されると言っても過言ではない。
 人間のストレス反応は,頭痛や発熱などの身体症状(身体化),不安やうつなどの精神症状(精神化),さらに飲酒量や喫煙量の増加などに示される行動上の変化(行動化)の3つに大別される。このストレス反応として表現される身体症状を心身症としてとらえることが可能である。日本心身医学会の教育研修委員会は1991年に「心身医学の新しい診療指針」を作り,その中に心身症の定義(改訂版)を発表している。それによると心身症とは,「身体疾患の中で,その発症や経過に心理社会的因子が密接に関与し,器質的ないし機能的障害が認められる病態をいう。ただし神経症やうつ病など,ほかの精神障害にともなう身体障害は除外する」となっている。ここでいう器質的障害とは十二指腸潰瘍のように,十二指腸に潰瘍を形成しているものを意味し,機能的障害とは緊張型頭痛のようにストレスによって頭痛や肩こりが生じるが,現在の医学的検査では特に異常を認められないものを言う。心療内科の臨床において対象とする病態は主に心身症である。しかし,一方では歴史的に心療内科では症状や病気だけでなく,人間全体を診療対象とすべきであるという考え方(これは全体医学,総合医学などと呼ばれている)がある。池見の言うところのbio-psycho-socio-ethical approachである。心身症に限定しようとする狭義の心療内科と後者の考え方を入れた広義の心療内科が存在する。

展望

死別後の病的悲嘆に関する欧米の見解―「病的悲嘆」とは何か

著者: 瀬藤乃理子 ,   村上典子 ,   丸山総一郎

ページ範囲:P.242 - P.250

はじめに
 死別は,誰もが一生のうちに何度か経験する普遍的な出来事であるが,時には非常に強い衝撃を伴う出来事として人に襲いかかる。ストレスフルなライフイベントに関しては,HolmesとRahe10)やPaykelら31)の研究が著名であるが,「家族の死」はその中でも上位を占めている(表31))。
 通常,死別後の遺族の悲嘆過程はある程度予測可能な行程をたどることが知られている30)。多くの人は,死別直後には抑うつ気分 ,睡眠障害,泣き悲しむといった急性の悲嘆反応を示すが,時間の経過とともにその症状は軽減し,自然にその悲嘆から回復していく6)。それがたとえ深刻な喪失や心的外傷体験を伴ったとしても,専門家の援助なしで悲嘆の過程を処理できる,十分な情緒的資源や人間関係を持った人がたくさんいるのである。
 しかし一方で,ある状況下においては,自分の力では悲嘆を処理できず,病的な状態に発展する場合がある。この「病的悲嘆」に関して,歴史上最初に述べたのはFreudであった9)が,その後も欧米においては,死別後の喪の過程に現れる病的な状態をどうとらえ,病的な悲嘆を診断の中でどう位置づけるかといった論争が,今なお続けられている。
 残念ながら,日本においては,死別などの喪失悲嘆に関する研究は立ち遅れており,遺族が持つ悲嘆の苦痛や,死別後の心理・社会的問題に対する専門家の知識や認識も高いとはいえない。また,遺族が死別後に何らかの困難な状況に陥っても,適切に相談や援助を行ってもらえる場所がわからず,問題が長期化・複雑化してしまう場合も多い。
 社会的にも昨今は,賠償・補償事例における精神疾患の診断において,病的悲嘆が混在するケースなどでPTSD概念が拡大解釈されるケースが多くみられる19)。黒木22)によると,PTSDの発症時期や心的外傷体験の程度がDSM-Ⅳの診断基準に満たなくても,弱い外傷体験の重複でPTSDと診断できると考える精神科医は多く,精神疾患の診断の枠組みとしても大きな問題になっている。
 そこで本稿では,この「病的悲嘆」に関して,その定義や概念などこれまで欧米で論争になってきた事柄を整理し,「病的悲嘆とは何か」について考察する。

研究と報告

精神障害者の生活の質の向上と社会資源との関連性

著者: 掛川秋美 ,   真崎直子 ,   清原千香子 ,   椎木千賀夫 ,   下野正健

ページ範囲:P.253 - P.259

抄録
 支援者の視点からみた,精神障害者の「生活の質の向上」と社会資源との関連性を,3,018名を対象にして統計学的に評価した。
 現在整備が進められている社会資源は,傷病名が神経症性障害と比較して薬物依存症,気分障害と統合失調症の対象者の「生活の質の向上」に促進的に働く(1.6~1.8倍)ととらえられていた。一方,発病からの経過年数が10年未満に比べて30年以上の対象者と,通算入院期間が1年未満に比して10年以上の対象者では,促進が阻害される(20~40%)と考えられていた。
 今回の結果から,現在整備が進められている社会資源は,ある特定の精神障害者には有効であることが示唆された。しかし,発症後長く経過した対象者や長期入院者には,質的に異なる別の枠組みの社会資源が必要であることが推測された。

神経性無食欲症の心拍変動について

著者: 中井義勝 ,   坂本智子 ,   藤田正俊 ,   野間俊一 ,   林拓二

ページ範囲:P.261 - P.265

抄録
 14例の神経性無食欲患者(AN群)と,22例の健常人(10例のやせ群と12例の正常群)を対象に,心電図を記録し,心拍変動解析ソフトを用いて,スペクトル解析を行った。健常人においては,RR間隔は副交感神経機能を表現する高周波数領域(HF)とは正の相関が,交感神経機能を表現する低周波数領域(LF)とHFの比(LF/HF)とは負の相関があった。しかし,AN群ではRR間隔はHF,LF/HFいずれとも相関がなく,AN群では,健常人と異なり心拍数調節が自律神経によって調節されていなかった。さらにAN群では罹病期間がLH/HFと正の相関があった。すなわち罹病期間の長いAN患者は交感神経機能が亢進していた。

うつ病重症度スケールの妥当性検討と改訂版の提唱

著者: 小泉暢大栄 ,   塩入俊樹 ,   染矢俊幸

ページ範囲:P.267 - P.276

抄録
 近年,東大心療内科により開発されたうつ病重症度スケール(TDSS)は,精神科以外の身体科医によるうつ病診断を目的としたもので,抑うつ気分,興味の喪失および無価値感の3症状のみから構成される非常に簡易なものである。今回我々はTDSSの妥当性を検証するために以下の検討を行った。
 対象は2003年5~9月の5か月間に新潟大学医歯学総合病院精神科外来を初診した319名で,DSM-Ⅳ-TR診断に加えて患者および精神科医によるTDSS評価を施行した。
 結果は,TDSSは一定の有用性を有するものの,患者の自己評価は症状を重く訴えていることが多く,正確な診断のためには精神科症候学の修得が重要であると思われる。また,より有用性を高めるためにTDSS改訂版を提案した。

カプグラ様症状を合併した重症強迫性障害の1例

著者: 中村浩平 ,   澤村岳人 ,   菊地章人 ,   佐藤豊 ,   佐野信也 ,   野村総一郎

ページ範囲:P.277 - P.284

抄録
 神経症圏病態に生じたカプグラ様症状の報告は少ない。思春期男性が,強迫性障害を発症し,その経過の中で,人物だけでなく,場所や物についての妄想的な入れ替わり体験を訴えた。親に対する暴力のために入院を余儀なくされたが,haloperidolとfluvoxamineの併用が有効であった。全経過を通じて疏通性は保たれ,その他の精神病症状を認めず,統合失調症とは鑑別された。本症例では,「違ってしまったら」という強迫的疑念が,将来への不安の影響を受けて「違うものになってしまった」と妄想的様態にまで発展したが,その基盤には,一流大学を出て法律専門家になるという家族(家系)で共有されていた原則が強く関連していると推察された。

若年統合失調症者における改訂版Wechsler成人知能検査の臨床的検討

著者: 服部功 ,   内田隆子 ,   落合明子 ,   宮内利郎

ページ範囲:P.285 - P.289

抄録
 改訂版Wechsler成人知能検査を受けた若年統合失調症者で,本研究への協力に同意した24名(男性4名)を対象とし,同検査の下位検査で,便宜的に得点の個人内差が1以上の場合を高得点,-1以下の場合を低得点とし,「対象者の症状・問題行動」「低得点の下位検査」「高得点の下位検査」における項目間の関連を検討した。この検討から,「修学困難や実務処理の拙さから自閉性が生じているかもしれない」「実務処理能力の低さが身体化の心理機制につながっているかもしれない」「ある知的機能が低下を示す一方で,別の機能が良好に保たれている可能性」が示された。患者ごとに知的機能を検討することで,患者の障害に応じた援助を提供し得ると思われた。

LASMIとWCSTによる統合失調症患者の退院可能性の評価

著者: 川西洋一 ,   袴塚景子

ページ範囲:P.291 - P.295

抄録
 長期入院中の慢性統合失調症患者の生活障害と認知障害が退院に及ぼす影響を調べるため,これらを精神障害者社会生活評価尺度(Life Assessment Scale for the Mentally Ill:LASMI)とWisconsin Card Sorting Test(WCST)を用いて評価し,転帰との関連を調査した。対象は,社会復帰病棟に在棟し単身生活や社会復帰施設への退院を目指す患者14名であり,1年6か月後の転帰により,退院群7名と入院継続群7名に二分された。2群間でLASMIとWCSTのスコアを比較したところ,LASMIにおいては,「日常生活」,「労働または課題の遂行」,「自己認識」が退院群において有意に評価がよいという結果が得られ,WCSTにおいては,「達成カテゴリー数」,「正解数」,「%エラー」の評価が退院群で有意によいという結果が得られた。行動観察から得られる生活障害の評価に加え,その背景にある認知障害の評価も退院可能性を評価する際の重要な指標になると考えられた。

短報

抗うつ薬中止により社会復帰に至った双極性うつ病の2症例

著者: 鈴木克治 ,   田中輝明 ,   増井拓哉 ,   朝倉聡 ,   井上猛 ,   小山司

ページ範囲:P.297 - P.300

はじめに
 双極性障害の薬物療法において,うつ病相に対する抗うつ薬の使用の是非に関する見解には賛否両論がある。ラピッドサイクラーをはじめ,抗うつ薬による病相の頻発化が明らかな場合,抗うつ薬の中止が治療戦略として推奨される一方で,特に本邦では,欧米でうつ病相に有用とされるlamotrigineやbupropionなどが上市されていないこともあり,うつ病相に対する治療薬として単極性うつ病と同様に抗うつ薬が繁用される傾向がある。抗うつ薬が双極性障害の縦断的経過に悪影響を与えることについては多くの指摘がなされているものの,我々の知る限り,双極性うつ病に対し抗うつ薬を中止して実際に良好な社会的転帰が得られたという報告は見当たらない。今回我々は,繰り返すうつ病相のため長期にわたり休職を余儀なくされていた難治性の双極性障害に対し,抗うつ薬を中止したところ,病相が完全に消失し復職に至った男性2症例を経験したので報告する。

長時間の意識喪失を呈したレビー小体型痴呆の1臨症例

著者: 谷村淳 ,   島田秀穂 ,   長弘之 ,   東麻衣子 ,   馬場元 ,   鈴木利人 ,   新井平伊

ページ範囲:P.301 - P.304

はじめに
 レビー小体型痴呆(dementia with Lewy bodies;以下DLB)は,1970年代より小阪10)が初老期ないし老年期に進行性の認知機能低下とパーキンソン症状,さらに特有の精神症状を示す痴呆性変性疾患として注目し研究してきた疾患であり,1995年の国際ワークショップで臨床像と病理所見の診断基準が作成された。とくに臨床的特徴では,必須症状として進行性の認知機能低下が,中核症状として注意や覚醒度の変動を伴う認知機能の動揺,繰り返す幻視,パーキンソン症状が挙げられている5,10)。最近ではREM睡眠行動異常や抑うつ症状も注目され5),臨床的にはなお症状や治療に関して検討の余地が残されている。
 今回,我々は幻覚に少量のリスペリドンが有効で,また経過中,長時間の意識障害を呈したDLBの1例を経験した。DLBの臨床的特徴を検討するうえで興味ある症例と思われ,若干の考察を加え報告する。

試論

病的悲嘆はPTSDといい得るか

著者: 土橋功昌 ,   辻丸秀策 ,   千葉起代

ページ範囲:P.305 - P.312

はじめに
 1995年の阪神・淡路大震災,地下鉄サリン事件を契機として,わが国においてもPTSD(Post-Traumatic Stress Disorder;心的外傷後ストレス障害)という精神医学的な専門用語が,一般にも広く知られるようになった。また,ガルーダ・インドネシア航空機事故やえひめ丸沈没事故においても,生存者(Survivor)のうちの何人かはPTSDとの診断を下され,そのことがマスコミによって大きく取り上げられたことは記憶に新しい。このように,大規模な自然災害や人為的な災害による外傷体験が,PTSDを引き起こす要因の1つとされており,診断学的にいえばそのような体験なくしてはPTSDと診断されない。
 さて,PTSDという疾患概念は,DSM-Ⅲ(APA,1980)において初めて採用されたが,その後も改訂のたびに基準の内容が変更されており,現在のDSM-Ⅳ(APA,1994)によると,PTSDは不安障害(Anxiety disorder)のサブカテゴリーに分類され,診断のための詳細な基準が設けられている2)。しかし,PTSDは概念そのものについてもまだ流動的であり,診断基準の問題や,疾患概念としての独立性に関しても,今後もさらなる検討が必要との指摘もある14)

私のカルテから

うつ病の再発として経過観察された原発性副甲状腺機能亢進症の1症例

著者: 沼田周助 ,   須田顕 ,   加藤温 ,   笠原敏彦

ページ範囲:P.315 - P.318

はじめに
 副甲状腺機能亢進症に伴うカルシウム代謝異常は,感情面における軽微な人格変化で症状が始まり,抑うつ気分,食欲不振,無気力,無関心などの精神症状を呈するため,精神科疾患と診断され,内分泌疾患の発見が遅れることがある。実際に,精神科疾患と誤診され,経過観察された原発性副甲状腺機能亢進症(primary hyper parathyroidism,以下PHPT)の症例が,すでにいくつか報告されている2,6)。今回我々は,うつ病の既往があった患者が再び抑うつ状態となり,うつ病の再発と考えられ治療されるも悪化の一途をたどった原発性副甲状腺機能亢進症の1例を経験したため,若干の考察とともに紹介する。

特別寄稿

日本の精神医学・医療研究の現状と課題―特に研究費の側面から

著者: 高橋清久

ページ範囲:P.321 - P.330

 わが国の精神医学・医療研究の歴史は古いが,比較的豊富な研究費の下に研究が体系化されてきたのはごく最近のことである。また,研究が目指す方向性をみても,これまではかたや精神病理学的研究があり,こなた生物学的研究があり,その双方ともに診断・治療・支援など真に当事者やその家族に役立つ研究という視点は乏しかった。その多くは研究者の興味のおもむくままに研究が相互の関連なく行われてきていたという観がある。やっとこの10数年の間に,診断と治療のためのガイドライン研究や精神疾患の予防研究,介入疫学研究など主として厚生労働科学研究事業や精神神経疾患委託費班研究の活動を中心として,臨床に役立つ研究を行おうとする機運が生まれてきた。特に最近,厚生労働科学研究事業に大型の研究費がつき,その中で行政的研究も含めて,精神医療の現場に還元し得るような研究が進められているのは喜ばしいことである。
 本稿では,主として研究費や研究体制の面から,わが国の精神医学・医療研究の現状を分析し,今後の方向性について論じてみたい。

動き

「第38回日本てんかん学会」印象記

著者: 橋詰清隆

ページ範囲:P.332 - P.333

 第38回日本てんかん学会は,静岡てんかん・神経医療センターの八木和一会長の下で,静岡のグランシップ(静岡コンベンション&アーツセンター)にて2004年9月30日(木),10月1日(金)の2日間にわたって行われた。
 空路から乗り継いで新幹線で静岡駅に着くと,温暖な静岡の気候はすでに秋色の濃くなった北海道に住む我々にとってはかなり暑いと感じられ,さっそく上着を脱ぐことになった。会期中,多少の雨も降ったものの,おおむね天気には恵まれ,滞在したホテルの部屋からは富士山や日本平が眺望できた(機種変更したばかりの最新の携帯電話で写真を撮ったのだが,なぜかピンボケでお見せできないのが残念)。 会場は芸術的な建造物で,静岡駅からJRで1駅に立地しており,傘がなくても雨に濡れずに通うことができた。

「第17回日本総合病院精神医学会」印象記

著者: 赤穂理絵

ページ範囲:P.334 - P.335

 第17回日本総合病院精神医学会が,順天堂大学医学部精神医学教室新井平伊教授の主催により 2004年11月26,27日(金,土)の2日間,東京で開催された。参加者は700名を超える盛況であった。
 第1日目は,「EBMとNBMのクロストーク」と題されたシンポジウムで幕を開けた。今大会会長の新井平伊先生が,臨床経験の積み重ねを基にして“客観性”,“再現性”を重視していこうという趣旨で掲げられた大会テーマ「臨床的科学性の追求」にふさわしいシンポジウムであった。午後のシンポジウム「総合病院精神科と地域精神医療」では社会復帰施設をはじめとする社会資源との連携,急性期・合併症治療病棟の運営について現状の問題点と今後の課題が提議された。ワークショップ1「がん医療における緩和ケアチームの実践」では,2002年4月から実施された緩和ケア加算によって,全国の病院に急速に広まりつつある緩和ケアチームの実践が報告された。報告はいずれも,早期から緩和ケアチームに取り組み,豊富な経験を積み重ねてきた施設からのもので,今後緩和ケアチームを開設していく施設には,大変参考になるものであった。特に「緩和ケア医」には身体科,精神科の枠を超えたスキルが求められるということ,多職種からなるチームメンバーの専門性をどう生かすかなど,このワークショップで提示された問題は,緩和ケアチームの今後の展望として重要な観点と考えられた。

書評

精神科医が見たレオナルド・ダ・ヴィンチ

著者: 越野好文

ページ範囲:P.337 - P.337

 レオナルド・ダ・ヴィンチは謎に包まれている─ダ・ヴィンチその人も,そしてその作品も。「最後の晩餐」は謎に満ちており,「モナリザ」もしかり。そしてダ・ヴィンチ出生の謎,鏡文字の謎。それらには,ダ・ヴィンチ自らが仕掛けた謎もあれば,歴史のベールに覆われ,謎となったものもある。
 それらの謎に立ち向かったひとりの精神科医にして名探偵が,元仙台大学大学院教授の一条先生である。本書は先生のダ・ヴィンチの謎解明プロジェクトの記録である。わずか163ページのコンパクトな本であるが,その背後には丹念に集められた膨大な文献・資料,現場へ出かけて行っての綿密な作品の観察,そして深い思索・推理が隠れている。絶版になった資料の原本を入手するためにアメリカの古書店にまで注文したとのことである。そしてできあがった本は,多くの挿絵を活用し,西洋美術に造詣の深い人にも,それほどでもない人にもわかりやすい。しかも,説得力を持って良質の探偵小説のようにダ・ヴィンチの真実への道を解き明かしてくれる。

基本情報

精神医学

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-126X

印刷版ISSN 0488-1281

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