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文献詳細

雑誌文献

精神医学47巻3号

2005年03月発行

文献概要

展望

死別後の病的悲嘆に関する欧米の見解―「病的悲嘆」とは何か

著者: 瀬藤乃理子12 村上典子3 丸山総一郎2

所属機関: 1神戸大学医学部附属病院小児科 2神戸親和女子大学大学院文学研究科心理臨床(精神医学研究室) 3神戸赤十字病院心療内科

ページ範囲:P.242 - P.250

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はじめに
 死別は,誰もが一生のうちに何度か経験する普遍的な出来事であるが,時には非常に強い衝撃を伴う出来事として人に襲いかかる。ストレスフルなライフイベントに関しては,HolmesとRahe10)やPaykelら31)の研究が著名であるが,「家族の死」はその中でも上位を占めている(表31))。
 通常,死別後の遺族の悲嘆過程はある程度予測可能な行程をたどることが知られている30)。多くの人は,死別直後には抑うつ気分 ,睡眠障害,泣き悲しむといった急性の悲嘆反応を示すが,時間の経過とともにその症状は軽減し,自然にその悲嘆から回復していく6)。それがたとえ深刻な喪失や心的外傷体験を伴ったとしても,専門家の援助なしで悲嘆の過程を処理できる,十分な情緒的資源や人間関係を持った人がたくさんいるのである。
 しかし一方で,ある状況下においては,自分の力では悲嘆を処理できず,病的な状態に発展する場合がある。この「病的悲嘆」に関して,歴史上最初に述べたのはFreudであった9)が,その後も欧米においては,死別後の喪の過程に現れる病的な状態をどうとらえ,病的な悲嘆を診断の中でどう位置づけるかといった論争が,今なお続けられている。
 残念ながら,日本においては,死別などの喪失悲嘆に関する研究は立ち遅れており,遺族が持つ悲嘆の苦痛や,死別後の心理・社会的問題に対する専門家の知識や認識も高いとはいえない。また,遺族が死別後に何らかの困難な状況に陥っても,適切に相談や援助を行ってもらえる場所がわからず,問題が長期化・複雑化してしまう場合も多い。
 社会的にも昨今は,賠償・補償事例における精神疾患の診断において,病的悲嘆が混在するケースなどでPTSD概念が拡大解釈されるケースが多くみられる19)。黒木22)によると,PTSDの発症時期や心的外傷体験の程度がDSM-Ⅳの診断基準に満たなくても,弱い外傷体験の重複でPTSDと診断できると考える精神科医は多く,精神疾患の診断の枠組みとしても大きな問題になっている。
 そこで本稿では,この「病的悲嘆」に関して,その定義や概念などこれまで欧米で論争になってきた事柄を整理し,「病的悲嘆とは何か」について考察する。

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-126X

印刷版ISSN:0488-1281

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