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雑誌目次

雑誌文献

精神医学47巻4号

2005年04月発行

雑誌目次

巻頭言

「生活習慣病」としての精神疾患

著者: 寺尾岳

ページ範囲:P.346 - P.347

 生活習慣と疾患との関連は古くはHippocratesが指摘したことである。Hippocratesはすべての疾患の原因は体液の不均衡にあると推定し,この是正には生活習慣や環境を変えることが重要と考えた。具体的には,入浴や汗をかくこと,散歩やマッサージを推奨した。精神疾患がすべて体液の不均衡によるとは考えにくいが,今日「癒し」をキーワードに温泉やアロマセラピー,マッサージ,サプリメントの摂取など,いろいろなものが商業ベースに乗ってきていることは確かである。もっともらしい(素人が納得しやすい)コマーシャルで,エビデンスの乏しい手段が喧伝されるのを見聞きするにつけ,落ち着かない気持ちになるのは私だけだろうか? 科学的な検討の後に,エビデンスのはっきりしたものが生き残り,そうでないものが捨て去られるべきと考えるのは私だけではないだろう。

展望

精神疾患の遺伝子研究

著者: 中村雅之 ,   佐野輝

ページ範囲:P.348 - P.358

はじめに

 近年,精神医学は,大きな変化の波にさらされている。従来の症候論的精神神経医学に対し,神経科学の急激な進歩によって物質論的病因論および診断・治療論を基盤に置いた疾病の再認識,再分類が進みつつある。また,社会的背景とともに疾病構造も大きく変化しつつある。もとより心の病に関しては,脳,身体,心理,家族,社会といったさまざまなレベルでの多面的な研究が必要であるが,現代の科学や技術の驚異的な発展によって,それらが脳の微細な構造の変化,あるいは物質の変化によるものとして説明できるようにもなってきている。筆者たちは,精神疾患の病態を分子レベルで解明し,治療に応用することを目標として,分子生物・遺伝学的なアプローチ法を用いて研究を行ってきたが,自身の研究を交えて,最近の精神疾患の遺伝子研究について述べてみたい。

研究と報告

慢性期の統合失調症患者における早急な結論判断バイアス

著者: 山崎修道 ,   荒川裕美 ,   清野絵 ,   古川俊一 ,   笠井清登 ,   加藤進昌 ,   丹野義彦

ページ範囲:P.359 - P.364

抄録

 慢性期の統合失調症患者が,早急な結論判断バイアスを持つかどうかを検討した。早急な結論判断バイアスは,①情報収集バイアスと②確信度バイアスに分けられる。慢性期の統合失調症患者群は健常者群よりも,決断までの情報収集量が少なく,したがって,情報収集バイアスを持っていた。しかし,強い確信をすぐに持つことはなく,確信度バイアスは持たなかった。患者群は,情報を十分に収集した後でも,確信度が上がらなかった。

解離性障害にみられる周囲世界に対する主観的体験

著者: 柴山雅俊

ページ範囲:P.365 - P.372

抄録

 従来指摘されることが少なかった解離性障害の主観的体験について検討した。対象(42名)は解離性健忘(4.8%),離人症性障害(9.5%),解離性同一性障害(28.6%),特定不能の解離性障害(57.1%)に分類された。主観的体験,とりわけ空間的変容症状を対人状況にみられる対人過敏症状と非対人状況にみられる気配過敏症状に分類し,検討した。対人過敏症状は人込み恐怖(90.5%),視線恐怖(81%),人が怖い体験(78.6%),外出恐怖(76.2%)などであり,気配過敏症状は被注察感(97.6%),背後存在感(92.9%),家宅内存在感(69%),窓周辺存在感(66.7%)などであった。

脳血管性痴呆に合併した抜毛症―Paroxetineが有効であった1例

著者: 挾間玄以 ,   植田俊幸 ,   川原隆造

ページ範囲:P.373 - P.377

抄録

 症例は70歳,女性。64歳より記銘力低下,計算力低下が出現。68歳頃より頭髪の抜毛行為が生じ,次第に悪化するため受診となる。初診時,頭髪は前頭部から頭頂部にかけてほとんど認められなかった。認知機能検査では軽度の痴呆を呈し,頭部MRIにより大脳基底核の小梗塞や,T2強調画像で広範な脳室周囲の高信号域を認めたことから,脳血管性痴呆に合併した抜毛症と診断した。抜毛行為はparoxetineを40mg/日投与することで消失した。治療としてセロトニン再取込み阻害薬が有効であり,またSPECTによる両側前頭側頭葉や大脳基底核の血流低下やMRI所見から,脳血管性病変によるセロトニン神経系の障害が抜毛行為の発現に関連していると考えられた。

高齢期うつ病の退院1年後経過と再入院の危険因子―非高齢期うつ病と比較して

著者: 寺田倫

ページ範囲:P.379 - P.384

抄録

 高齢期うつ病75例を対象に,入院から退院1年後までの経過と,経過に関連がある因子を調べ,非高齢期うつ病例と比較した。高齢期うつ病例の経過は,経過良好だった例42.7%,再入院例30.7%,痴呆の症状が認められた例24.0%,身体合併症で転院になった例2.7%だった。非高齢期うつ病例に比べ,経過が良好だった患者の割合は有意に低かった(高齢期42.7%,非高齢期75.4%)。高齢期うつ病で再入院した例は,脳の虚血性変化のみられる率が有意に高く,心理社会機能評価において社会機能の得点が低かった。高齢期うつ病の中には,器質性変化が大きく関与し経過が不良なうつ病の一群が存在することが示唆された。

自殺予防対策の一環としての一般診療所医師に対するうつ病診療調査

著者: 畑哲信 ,   土田札美 ,   菊地百合子 ,   須藤桂 ,   梅宮れいか ,   阿蘇ゆう

ページ範囲:P.385 - P.392

抄録

 一般診療所医師300名を対象として,うつ病診療についてアンケート調査を行った。その結果,139名から回答が得られた(回収率46.3%)。一般診療所受診者でうつ状態と判断される割合は全外来患者の2.4%(95%信頼性区間:1.3~3.6%)と推定された。この数値とプライマリケアにおけるうつ病有病率についての文献値などから,一般診療医師によるうつ病検出力は,高々20%前後と考えられた。うつ病研修を受けた者はうつ病診療にかかわる割合が高く(p<0.001),うつ病診療にかかわった者は自殺予防についての問題意識が高かった (p<0.0001)。一般科医師に対するうつ病・自殺予防研修について考察した。

短報

多飲水・水中毒から全身性炎症反応症候群(SIRS)を経て播種性血管内凝固(DIC)に至った統合失調症の1例

著者: 原田研一 ,   山本健治

ページ範囲:P.395 - P.398

はじめに

 統合失調症を主とする慢性精神障害患者において時にみられる行動異常として多飲水(polydipsia)がある。摂取された水分量が排尿,発汗,不感蒸泄などによる水分排出能を上回った場合,希釈性の低Na血症が生じ,その程度が著しいと水中毒(water-intoxication)として臨床症状を呈することになる。水中毒の臨床症状は概して脳浮腫に起因しており,けいれん発作や意識障害などの神経症状,および精神病症状悪化などの精神症状が認められる。

 また,多飲水・水中毒の生命予後は必ずしも良好とはいえず,重篤な身体合併症により死に至る場合もある2)。今回我々は,多飲水・水中毒から重篤な身体合併症として播種性血管内凝固(disseminated intravascular coagulation;DIC)に至った統合失調症の1例を経験した。本症例では,その経過を遡及的に検討するとDICに先行して全身性炎症反応症候群(systemic inflammatory response syndrome;SIRS)を呈していた。我々の知る限りでは,多飲水・水中毒の帰結としてDICを呈したとする報告はなく,多飲水・水中毒から重篤な身体合併症としてDICが生じる可能性があること,また早期の治療的介入に際して精神科領域においてもSIRSの概念が有用であることなど示唆に富む症例と思われるので,若干の考察を含めて報告する。

大きな透明中隔腔・ベルガ腔の残存を認めた統合失調症を伴う22q11.2欠失症候群の1例

著者: 秋久長夫 ,   笠井清登 ,   尾内秀雅 ,   尾内廸生

ページ範囲:P.399 - P.403

はじめに

 22q11.2欠失症候群は,心血管奇形,顔貌の異常,胸腺低形成,口蓋裂,低Ca血症などを特徴とし,常染色体第22番長腕11領域の微小欠失を原因とした遺伝子疾患である。近年,22q11.2欠失症候群に統合失調症などの精神障害の合併が多くみられることから,22q11.2が統合失調症の関連遺伝子の1つである可能性が指摘されている2,6,13,14)

 22q11.2欠失症候群の脳構造異常について,これまで正中構造物の異常,脳室拡大,灰白質の縮小,脳梁の形成不全などが報告されている1~3,13)。正中構造物の異常について,海外の報告では透明中隔腔(CSP),ベルガ腔(CV)の残存が高頻度に認められるとされている1,3,13)。一方,本邦でも近年22q11.2欠失症候群と統合失調症の関連がトピックスとなってきており,22q11.2欠失症候群に何らかの精神障害を合併した症例報告が我々の知る限り計8例ある4,11,12,15)。しかし,本邦のこれらの報告では,脳構造の異常に注目した検討はなされていない。統合失調症患者でCSPやCVの残存が健常者より高頻度で認められる5,7,8,18)ことは,統合失調症の神経発達障害仮説20)の1つの証拠として考えられている。我々は今回,統合失調症を伴う22q11.2欠失症候群の1症例に大きなCSPおよびCVを認めた。このことは,22q11.2と神経発達障害,さらに思春期以降の精神病症状発現との関連を示唆する興味深い所見と思われたので報告する。なお,本報告にあたっては,本人に十分な判断力がないため,両親の同意を得た。

炭酸リチウム投与中に甲状腺中毒症を生じ,アメンチアを呈した1例

著者: 石井元康 ,   長峯正典 ,   小林伸久 ,   澤村岳人 ,   吉田猛 ,   吉野相英 ,   野村総一郎

ページ範囲:P.405 - P.407

はじめに

 炭酸リチウムは甲状腺機能低下症を引き起こしやすいことが広く知られている。一方炭酸リチウムが無痛性甲状腺炎を引き起こし,一過性に甲状腺中毒症を呈する報告もあるが,本邦では稀である3,4,6,7)

 今回我々は炭酸リチウム投与中のうつ病患者が甲状腺中毒症となり,一過性にアメンチアを呈した1症例を経験した。甲状腺機能亢進症と炭酸リチウムの関連について考察し報告する。

うつ状態を伴うPTSDにパロキセチンが非常に有効であった症例

著者: 島雅彦

ページ範囲:P.409 - P.411

はじめに

 パロキセチン(paroxetine,商品名パキシル)はSSRIに属する抗うつ薬であるが,PTSDにも効果があることは諸外国でも認められており,アメリカ・イギリス・ドイツなどの国ではPTSDにも適応が認められている薬剤である。

 今回,うつ状態を伴うPTSD症例にパロキセチンを使用して非常に有効であった症例を経験したので報告する。

試論

精神科医療と社会一般の倫理観とのかかわりについての1試論―臨床現場の視点から

著者: 林直樹

ページ範囲:P.413 - P.419

はじめに─問題の所在

 精神科医療は,精神障害の治療を第一義とする営みではあるものの,治療の目指すものやその道筋は決して自明ではない。それらは患者の考えと一致しないことすら稀ではない。それは,社会一般の倫理観(以下,これを社会倫理と略注1))が入り込まざるを得ない領域でもある。ここに精神科医療と社会倫理との関連を論じる必要が生じる。もちろん,この両者は,出発点を異にするものである。しかし,精神科医療は,患者の対人関係,そして社会とのかかわりを重要な領域としており,人間の福利を向上させるという目的で社会倫理と重なりが大きいために,両者のかかわりには浅からざるものがあると考えなければならない。

 医療と倫理に関連する議論には,①ヒポクラテスの誓いや日本医師会の倫理要綱の一部にみられるような医療従事者がその職業倫理的姿勢を自分たちで内発的に規定したもの8,9)と,②医療技術の著しい発展やその影響力の増大に伴って生じる問題を社会倫理の立場から検討するために発展してきた領域である医療倫理学として位置づけられるものとに大別できる。精神科医療の倫理についての議論は従来,①の側面が主と受け止められていたと思われるが,昨今では②に属するものが急増している8)。②は多くが医療の外部からの議論であり,そこには医療者の行動規範を社会一般の視点から作成するという側面がある。同様の状況は,精神科医療においても生じている。この状況を理解するためには,その歴史的背景に着目する必要がある。精神科医療活動の倫理規範を扱ったハワイ宣言(1977)には,旧ソ連の精神医学の政治的乱用が,そしてわが国のいわゆる精神保健法の改正(1987)には,1984年に栃木県U病院において入院患者への虐待による致死事件が発生したことが,それぞれ契機となっていたことはよく知られている。このような動きが積み重なって,現在の精神科医療には,患者の権利擁護などを目的とする様々な社会倫理的な規定が組み込まれてきている。この中で,精神科医療の倫理についての議論は,近年特にその必要性が高まっているといえる。

 本稿のテーマは,精神科医療の治療的介入に含まれるべき社会倫理的側面と精神科医療に内在する論理とのかかわりについての検討である。ここでは,主に患者の示す問題行動への治療的介入の社会倫理的側面および精神科医療への社会倫理的要請と,医学としての側面を代表する精神医学の論理とを併置しながら議論することによって,精神科医療の倫理について考察が加えられる注2)。これらを視座において議論を進めることによって,我々は1つの社会的活動としての精神科医療についての理解を豊かにすることを期待することができる。

資料

緊急措置入院の臨床的意義―栃木県における措置診察の調査に基づいて

著者: 堀彰 ,   中村研之 ,   島田達洋 ,   木村修 ,   平澤俊行

ページ範囲:P.421 - P.429

はじめに

 緊急措置入院とは,急速を要し,規定による手続(2人以上の指定医が診察すること,診察に当該職員が立ち合うこと,家族などに通知をし診察に立ち会わせること)を採ることができない場合において,指定医をして診察をさせた結果,精神障害者であり,かつ,ただちに入院させなければ精神障害のために自身を傷つけまたは他人を害するおそれが著しいと認めたときは,国もしくは都道府県立の精神病院または指定病院に入院させることができる規定である9)

 緊急措置入院では通常の措置入院よりも簡略な手続で措置権限を行使するものであることから,通常の措置症状よりも自傷他害のおそれの程度が「著しい」と認められる場合でなければならないとされている。精神保健福祉法詳解などでは,症状が急迫し,自殺しようとして未遂に終わった場合や,他人を殺害した事実がある場合などは,著しいという要件を満たす場合に該当すると解釈されている9,10)。しかし,これには異論があり,自傷他害のおそれの著しさは,必ずしも自殺未遂や殺害などの過去の行為の重大さを意味するのではなく,むしろ自傷他害のおそれと密接な関連にある精神障害の症状急迫に規定されるところが大きいという意見がある6,7)。このように緊急措置入院における措置要件,特に自傷他害の「著しい」おそれの解釈については意見の相違が大きいが,どのように解釈するのが適切なのか実態に基づいて検討する必要がある。

 緊急措置入院の規定は,1965年の精神衛生法改正により新設されたものであり,精神症状の発生は突発的な場合が多く,措置入院に規定されている手続をとる間に急迫症状が起こった場合の応急の措置として定められたものである4,9)。しかし,緊急措置入院の運用の実態については,都道府県によってばらつきがきわめて大きく,1995年度でも緊急措置が機能している自治体は調査した41都道府県のうち26に過ぎない2)。また,全国の緊急措置入院の過半数を占める東京都でも,緊急措置入院が増加し始めたのは1987年の措置入院の激増以降であり,緊急措置入院に由来する措置入院の割合が措置入院の過半数に達したのは1997年度である8)。緊急措置入院は精神科救急の事態に対応するものとして導入されたが,実際の運用には地域差などの問題点があり,緊急措置入院が精神科救急としてどのような役割を果たしているか実態に基づいて検討する必要がある。

 我々は措置入院に関して実証的な研究1,5)を開始しているが,栃木県で実際に緊急措置入院となった患者を対象に,その問題点と臨床的な意義について,特に上述した緊急措置入院の措置要件と精神科救急における役割に注目して検討し,興味のある結果を得たので報告する。

私のカルテから

高齢期に慢性うつ状態を呈し,腺腫摘出後劇的な改善を認めた原発性副甲状腺機能亢進症の1例

著者: 小林桜児 ,   三浦興一郎 ,   安田秀 ,   松本俊彦 ,   平安良雄

ページ範囲:P.431 - P.433

はじめに

 原発性副甲状腺機能亢進症(primary hyperparathyroidism,以下pHPT)は,悪性腫瘍と並んで高カルシウム (Calcium,以下Ca) 血症を呈する主要な疾患であり,中高年の女性に好発する。線維性骨炎,腎結石,消化性潰瘍などの典型的症状以外に,多彩で非特異的な精神・身体症状を呈することも多い。特に高齢者の場合,加齢に伴う症状や精神疾患などと誤解される可能性があり,リエゾン精神医学の現場においては重要な問題である。

 今回,我々は7年間に及び遷延した抑うつ状態を経て,pHPTが発見され,腺腫摘出後,劇的な症状の改善をみた高齢女性の症例を経験したため,ここに報告する。

室料差額システムとその臨床

著者: 木村一優

ページ範囲:P.435 - P.437

はじめに

 医療法人社団一陽会陽和病院は,8つの病棟で構成される456床の単科精神病院であり,それぞれが機能別に運用されている。筆者が担当する東3B病棟は,34床中24床は差額病床で,10床は非差額病床である。非差額病床は差額病床空き待ちの待機病床で,東3B病棟へ入院する場合,非差額病床を利用するにしても,差額契約を行っている方は差額病床が空けばそこへ転床し,差額を希望しない方はあらかじめ転棟になることが常に前提となっているという契約をする。このような室料差額システムを運用するにあたり,非差額病床から差額病床へ転床や他病棟へ転棟する際になんらかの反応を示す方がいる。ここでは4症例を呈示し,考察を加えたので報告する。

Quetiapineが有効であった双極性障害の1例

著者: 岩田正明 ,   挾間玄以 ,   白山幸彦 ,   植田俊幸 ,   吉岡伸一 ,   川原隆造

ページ範囲:P.439 - P.442

はじめに

 Quetiapineは非定型抗精神病薬の1つとして,統合失調症の陽性症状のみならず陰性症状の改善にも有効であり,また錐体外路症状など副作用の発現が少なく忍容性に優れるなどの特徴を持つ薬剤として注目されている3)。一方,海外においてquetiapineは双極性障害における躁病相に対しても有効性が認められ1,2,4,5), 躁状態への適応も取得している。この度我々は,quetiapineが双極性障害に対し有効であった1例を経験した。わが国では双極性障害に対するquetiapineの使用効果は十分に検討されていないため,若干の考察を加えて報告する。

塩酸ぺロスピロンへのスイッチングによって改善した激越うつ病の1例

著者: 今村文美 ,   荒木一方

ページ範囲:P.443 - P.445

はじめに

 Perospirone(PER)は,国産初の非定型抗精神病薬であり,serotonin dopamine antagonist(SDA)として位置づけられている。近年,統合失調症の幻覚・妄想状態だけではなく,統合失調症の抑うつ,不安に対してのPERの効果を報告した論文は散見される。しかしながら,うつ病の適応は有しておらずうつ病に対して有効であったという報告はいまだ少ない状況である。今回,我々は,抗うつ薬に加えて種々の抗精神病薬を併用したが,奏効しなかった激越うつ病に対し,併用抗精神病薬をPERに変更することで抑うつ気分,不安・焦燥,身体的愁訴,罪業妄想に改善を認めた1例を経験したため,若干の薬理学的特徴を考察に加えて報告する。

メトホルミン投与にて体重減少効果がみられた糖尿病を合併した統合失調症の1例

著者: 藤川徳美

ページ範囲:P.447 - P.449

はじめに

 統合失調症の薬物療法の問題点の1つとして肥満があり,精神科病院においては長期入院中の患者の肥満とそれに併発する耐糖能異常,脂質代謝異常が問題となっている。さらに,非定型抗精神病薬のオランザピン,クロザピンは従来の薬剤より,肥満,耐糖能異常を生じやすいといわれており,精神科における肥満対策は重要な問題となってきている。

 統合失調症患者は食事制限,運動療法を厳格に行うのが困難な場合が多いため,血糖,血中脂質のコントロールが不良な症例が多い。体重減少を期待して様々な薬物療法も行われているが,決定的な方法がないのが現状である。今回,糖尿病を合併した統合失調症に対し,メトホルミンを投与したところ4か月で約7kgの体重減少効果が得られた症例を体験した。精神科領域において,メトホルミンで体重減少効果が得られたという報告は本邦ではまだないので文献的考察を加えて報告する。

動き

「第45回日本児童青年精神医学会」印象記

著者: 白瀧貞昭

ページ範囲:P.451 - P.451

 第45回日本児童青年精神医学会総会が2004年11月3日(水)~5日(金)の3日間,名古屋大学発達心理精神科学教育研究センター 本城秀次教授が会長を務めて名古屋国際会議場にて開催された。連日,多数の参加者が集まったが,特に初日は祭日のためもあって,ここ数年では最多の1,300人を超える参加者があったという。会場の名古屋国際会議場は広く,ゆったりとしたスペースが会議室の周辺にあり,これだけ多くの参加者があっても学術的集会としての静かな雰囲気が十分保たれていた。

 総会プログラムを少し紹介してみる。特別講演2題,会長講演,シンポジウム3題,一般口演103題,ポスター発表23題,症例検討7題,教育講演11題,ランチョンセミナー,教育に関する委員会セミナー,福祉に関する委員会セミナー,子どもの人権と法に関する委員会パネルディスカッションなど多彩なプログラム内容であった。中でも,教育講演11題というのは初めての試みで注目を惹いたし,後で多くの人の意見を聞いてみたが大好評であった。もちろん,若い人たちにとって勉強になったことはいうまでもない。シンポジウムは「1.自閉症の原因を考える」,「2.解離性障害」,「3.乳幼児精神医学」の3題が3日間にわたって毎日行われた。一般口演の中で目立ったのが,近年,社会での興味,関心の高まりと並行する,いわゆる軽度発達障害(ADHD,高機能広汎性発達障害,学習障害など)に関する演題が全体の4割を超える数であったことである。しかし,この軽度発達障害への関心の高さは逆に,この領域がまだ未解明の点が多く残されている領域であることをも示すものであろう。事実,たとえば,ADHDの診断はたぶん,本当はもっと少ない数のはずであろうと思わせるほどの頻度でなされている可能性がある。これは,我々のADHD概念の認識不足による過剰診断によるものであろう。高機能広汎性発達障害についていえば,本当に概念的にADHDと重なりあう部分があるのか否か決めがたい事例があるのも事実である。この場合は我々の概念規定の未熟さによるというよりも高機能広汎性発達障害そのものがADHDと実際にオーバーラップする部分があることによるのかもしれない。他方,学習障害(LD)を扱った演題はもうほとんどみられず,数年前にはもう少しあったはずのLDへの関心が急速に消褪しつつあることを示す結果になっていた。

「第18回世界社会精神医学会」印象記

著者: 新福尚隆

ページ範囲:P.452 - P.453

はじめに

 2004年10月24~27日,神戸国際会議場で,快晴に恵まれて,世界34か国より多くの参加者を得て第18回世界社会精神医学会が開催された。私は,全体のプログラムの副委員長,および地元での開催の責任者として,その企画,運営に参加した。したがって,客観的立場で印象記を書くには,あまり適任ではないように思う。それで,学会開催中,私が参加したいくつかのプログラムの印象や,学会の特徴,メインテーマなどについて,学会を通して感じたことを,主催者および参加者の両方の視点で紹介することをご了承いただきたい。第18回世界社会精神医学会では,大江健三郎氏の特別講演をはじめ3つの特別講演,17の基調講演,60のシンポジウム,多くの特別プログラムを含み,400を超える演題が発表された。最終的な参加者数は,国内905名,海外204名の合計1,109名であった。

書評

精神療法の実践的学習―下坂幸三のグループスーパービジョン

著者: 土居健郎

ページ範囲:P.454 - P.454

 本書は帝京大学精神医学教室において下坂幸三氏の指導のもと11年続いた精神療法研修の記録のまとめである。討論された症例数すべてで56,その中で本書に紹介されたのは5例,いずれも女性で,正確な診断名はともかく人格障害的な病像が前面に出ている。どの症例も病歴,入院後面接の経緯,折にふれて発せられた下坂氏のコメント,さらに他の医師の発言を含めすべて逐語的に記録され,終わりに担当した研修医と下坂氏の感想が付せられている。ところでこれらの記録を読んで第一に感心したのは皆さん実に親切でていねいだということだ。これは下坂氏も同じであって,氏は決して発表者を詰問しない。非を正す場合も控え目に指摘するだけで,きわめて紳士的である。したがって氏が何を狙ったか記録からは必ずしも明らかではないが,幸い本書の巻末に下坂氏を囲んでの「下坂ゼミ11年をふり返って」と題した大変おもしろい座談会の記録が載っている。この中の下坂氏の発言がきわめて示唆的なので,以下いくつか引用してみよう。

 「どうも精神療法というものはいつも入門しかないのではないかと思うのです。」「開業して1対1の面接で境界例の大軍に接した時は本当に参りました。伝染してしまって自分が境界例になってしまって……。家族面接を入れてから楽になりました。」「(精神療法は)万人ができるというふうに私は思っているのです……。精神療法が全くできないなんていうことは,人間関係を結んでいるわけですからあり得ないと思います。」「長い間精神療法を続けている上で最近の大きな味方になっているのは,道元の徹底した思索です……。何か尊敬する他者が心の中に棲みついていないと,長いことこの稼業をやっていくことは難しいと私は思っています。」「(境界例の場合),話は必ず戯曲仕立てとし,私小説風でなってはならない。」下坂氏はなお最後の「あとがき」で,患者の発言の意味を十分に聞き出すことの重要性と,氏が目指したのは「学派以前的な精神療法」であることに言及しているが,これらを含め,以上引用した下坂氏の発言すべてに対し,私は心からのエールを送りたい。

基本情報

精神医学

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-126X

印刷版ISSN 0488-1281

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