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文献詳細

雑誌文献

精神医学47巻5号

2005年05月発行

文献概要

展望

統合失調症の発病率と症状についての文化精神医学知見

著者: 野口正行12 加藤敏2

所属機関: 1佐野厚生総合病院精神神経科 2自治医科大学精神医学教室

ページ範囲:P.464 - P.474

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はじめに
 今年(投稿時)はKraepelinの「比較精神医学」40)が世に出てちょうど百周年になる。この論文は現代の文化精神医学の嚆矢として著名であり,統合失調症が文化を越えた普遍性を持つのか,それとも文化によって相対的であるのかという議論を喚起し続けてきた18,32)。それゆえ,この問題について今年(投稿時)は文化精神医学にとって1つの節目となる年である。
 ところでこの統合失調症の普遍性という問題は,そもそも日本で日本人を相手に臨床を行う我々にどの程度関係してくる事柄なのだろうか。この問題は文化理論に関心のある一部の精神科医のみの関心を引く些末な問題にすぎないのだろうか。結論から言うならば,この問題はそれ以上のものを含んでいると筆者は考える。統合失調症が普遍的であるという主張は,この障害がいろいろなところでみられるという以上のものを含意する強い主張である。統合失調症が文化を越えてどこにでも一定の割合で発症し,類似の症状を呈する。それゆえ,それは中核に生物学的基盤を有していて,その基盤は文化には左右されないということをこの主張は含意している。それゆえ,この主張は近年の「生物学化biologization」の潮流にとって有力なエビデンスとして非常に重要な意味を持っている。統合失調症の原因をどう考えるか,そしてそれをどう治療していくかという本質的な点にまでこの問題は絡んでくるし,ひいては精神疾患そのものの定義付けにまで関係してくるのである。それゆえ,Kraepelinの著作のちょうど1世紀後に,統合失調症の普遍性と文化いう問題について取り上げることは時宜にかなったものと言えるだろう。
 この機会に本論文では,統合失調症について行われてきた文化精神医学的研究を整理することで,この問題について検討するよすがとしたい。なお,紙数の都合から,本稿で取り上げる研究はWHOの大規模な研究が行われた1970代以降のものを中心としたい。さらに取り上げるテーマも,本稿でまず発症率と症状を取り上げ,経過と転帰については次稿に譲ることとしたい。なお,本稿はすでに以前の展望57)で取り上げた精神疾患の普遍性の問題を統合失調症に即してさらに検討を深めたものである。

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-126X

印刷版ISSN:0488-1281

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