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雑誌目次

論文

精神医学47巻6号

2005年06月発行

雑誌目次

巻頭言

精神医療の質と治療文化

著者: 池淵恵美

ページ範囲:P.588 - P.589

 筆者は病棟医長をしており,デイケア責任者でもあるところから,そこで行われている精神医療・サービスがはたして良質のものであるのかどうかをしばしば自問する。「質」を規定する要因はもちろん様々な次元のものがあり,たとえばわが国の医療制度であるとか,職員の配置数であるとか,個人的には改変することが困難なものも多い。そうしたいわば下部構造の中で,私たちが望み得る良質のものを提供できているか,という問いである。何で計るのかといわれれば,平均在院日数や再入院率などの数値もあるが,利用した患者さんやご家族がどの程度よくなったと感じ,また満足していただけているのか,また私たちが自己の力量を十分発揮して援助し,その結果改善したかといったいわば「実感」が,専門家としての私たちの自負心に連なるように思われる。そして適切な診断のもと,有効な薬物療法が行われることは必須であるけれども(そしてそのことは簡単に達成できることではないが),「質」は心理社会的治療の質にかなりの部分規定されるように感じるのは,筆者がその分野を専門としているからであろうか。

オピニオン メチルフェニデートの有用性と有害性をめぐって

Methylphenidateのうつ病に対する有効性について

著者: 樋口輝彦

ページ範囲:P.590 - P.594

はじめに

 Methyphenidate(MPD)の依存・乱用の問題は今日,社会問題にもなるほど重要課題になっている。MPDは精神刺激薬であり,覚醒作用を有することは広く知られている。MPDの適応症は「ナルコレプシー」と「抗うつ薬で効果不十分な難治性,遷延性うつ病」であり,小児のAD/HDに対してはoff-labelで用いられている。MPDの乱用・依存を肯定する医療関係者はいないが,現実には医師の処方したMPDによって乱用者,依存者が生じていることを考えると,今のままでよいという意見はたぶん,どこからも出てこないであろう。しかし,最近,MPDの適応症からうつ病を削除したいというメーカーの動きがあると聞くが,この議論をする前提はあくまでも科学的根拠によるべきであり,社会問題化している依存・乱用の防止と分けて論ずべきであると考える。うつ病の適応を削除するのはうつ病に有効性がない,あるいは安全性が担保できないことが根拠にされるべきで,依存・乱用の問題と分けて論じないと混乱するのである。そこで,ここではMPDがうつ病に有効か,安全かについて,これまでの内外の比較試験を中心にレビューすることにした。

メチルフェニデート乱用・依存の現状

著者: 尾崎茂 ,   和田清

ページ範囲:P.595 - P.597

はじめに

 メチルフェニデート(以下,MPH)は,ADHDやナルコレプシーに対する臨床効果が認められている一方で,乱用者の間では「合成覚せい剤」,「Vitamin R」,「skippy」などと呼ばれる依存性薬物でもある。薬理学的にはコカイン同様の脳内ドパミントランスポーター(DAT)阻害作用により,線条体や側坐核などで細胞外ドパミン濃度を増加させ,快感(“High”)がもたらされると考えられている。

過眠症治療におけるメチルフェニデートの有用性と有害性

著者: 本多裕

ページ範囲:P.598 - P.600

Methylphenidateの適応症としての過眠症と治療上の有用性

 Methylphenidateは眠気を覚ます効果が強いことから,過眠症,とくにナルコレプシーや特発性過眠症(短時間エピソード型)の治療上なくてはならない薬剤である。ナルコレプシー患者は長期間にわたって日中居眠りを繰り返すので,仕事上の面談や電話中に眠りこむとか,作業中にけがをするなど周囲の人にとってみると怠けている,たるんでいると思われてしまうことが多い。このため職を追われたり不利な配置転換を受けたり,社会生活上様々な困難・不利益を日常的にこうむっている。情動脱力発作,入眠時幻覚,睡眠麻痺,夜間熟眠困難などの症状も日常生活に苦痛を来している。繰り返す日中の眠気に対し,methylphenidateは信頼できる治療薬剤である。しかし長期間にわたるmethylphenidateによる治療の効果,信頼性,副作用,依存性,耐性などを詳しく調べた文献は少ない2)

注意欠陥/多動性障害への使用

著者: 山崎晃資 ,   成瀬浩

ページ範囲:P.601 - P.604

偶然から中枢刺激薬がAD/HDに使用されるようになった

 注意欠陥/多動性障害(AD/HD)(ここではDSM-Ⅳの表記を用いる)の子どもが,薬物療法の対象と考えられるようになったのは,1937年のBradley Cの報告からといわれている。彼は,脳機能障害が疑われる子どもたちに気脳写検査を行っていたが,検査後の激しい頭痛を軽減させるためにamphetamineを試用した。ところがamphetamineを服用した子どもたちの教師から,頭痛は改善されなかったが,計算能力が著しく向上したという報告を相次いで受けた。このようにして偶然に見つけられたamphetamineの効果を,Am J Psychiatry(1937)とPediatrics(1950)に発表した。しかし,amphetamine療法の追試はしばらくの間なされなかった。

展望

統合失調症の転帰に関する文化精神医学知見

著者: 野口正行 ,   加藤敏

ページ範囲:P.606 - P.616

はじめに

 前稿(本誌47巻5号)では統合失調症の発症率,症状をめぐる普遍性の問題について文化精神医学研究を展望し,検討を加えた。本稿で取り扱う統合失調症の転帰の問題については,IPSS81),DOSMD23)でも地域差があることが再現性を持って確認された。そのため,ここでは普遍性はあまり問題とはなっていない。むしろ転帰は,統合失調症にとって文化が持つ意味に直接アプローチするよい機会として注目を集めているところである。統合失調症が文化を含めた環境に埋め込まれていることを前稿で主張したが,転帰に関してはこの点がさらに主題的に取り扱われることになる。本稿では,統合失調症の経過,転帰に対して,文化が与える影響について検討してみたい。そして文化への着目が統合失調症の心理社会治療にとっていったいどのような意味があるのかを考えてみたい。

研究と報告

摂食態度と自尊感情,抑うつ,ストレス対処行動との関連について

著者: 岡本百合 ,   吉原正治 ,   大田垣洋子 ,   黒崎充勇

ページ範囲:P.617 - P.621

抄録

 男子大学生(N=200),女子大学生(N=200)の摂食態度,自尊感情,抑うつ気分,ストレス対処行動について検討した。男子大学生では,BITEとSDS,EATに有意の正の相関が認められ,SDSとCISS-Eに有意の負の相関が認められた。女子大学生では,EATとCISS-T,RSES,BITEとRSESの間に有意の負の相関が,EATとSDS,CISS-Eの間に有意の正の相関が認められた。さらに,女子大学生をEAT20点以上の高得点群と20点未満の低得点群に分け,摂食障害患者群(N=50)を含む3群間で自尊感情を比較した。摂食障害患者群でRSESの得点が最も低かった。自尊感情やストレス対処への介入が,摂食障害の治療や予防に効果がある可能性が示唆された。

東京武蔵野病院精神科リハビリテーション・サービス(MPRS):10年目の予後調査(第2報)―受療者への満足度調査

著者: 前田恵子 ,   林直樹 ,   寺田久子 ,   佐藤美紀子 ,   平田昭子 ,   永嶺和子 ,   五十嵐幸代 ,   松本雪枝 ,   西村隆史 ,   浅井健史 ,   北中淳子 ,   串上憲司 ,   加藤美穂 ,   岡田和史 ,   谷口陽介 ,   萬谷智之 ,   伊藤圭子 ,   ,   野田文隆

ページ範囲:P.623 - P.630

抄録

 東京武蔵野病院リハビリテーション・ユニットにおいて行われた,精神科リハビリテーションサービス(Musashino Hospital Psychiatric Rehabilitation Service;MPRS)の10年を振り返っての予後調査の第2報として,地域に退院していった受療者のサービスへの満足度を調査した。質問紙法にて,オリジナルの調査票,Client Satisfaction Questionaiare日本語版CSQ-8Jの2種類を用いた。その結果,受療者は,入院中より退院後の生活への満足度が高いこと,MPRSが一定の満足度をもって受け入れられたこと,サービスの内容については退院準備や退院後の地域生活に密着した援助により満足している傾向を示した。これらにより,病院の行えるリハビリテーションプログラムの意義と課題が示唆された。

異なる臨床経過を示し,非定型皮質基底核変性症が疑われた4症例

著者: 丸井和美 ,   井関栄三 ,   日野博昭 ,   森美登里 ,   二橋那美子 ,   村山憲男 ,   木村通宏 ,   江渡江 ,   新井平伊

ページ範囲:P.631 - P.636

抄録

 皮質基底核変性症は比較的まれな神経変性疾患で,錐体外路症状や不随意運動よりなる多彩な運動障害と失行・失語・前頭葉症状などの大脳皮質局在症状がみられ,症状はしばしば非対称性を示す。病変の局在により臨床症状の出現様式は様々で,一側性の運動障害で発症し臨床診断基準を満たす定型例に対し,非定型例では診断が困難であることがある。今回,前頭葉症状・非流暢性失語・パーキンソニスムを含む非定型な臨床像を示し,皮質基底核変性症が疑われた4症例の臨床経過と画像所見を提示した。このような非定型例に遭遇することはまれではなく,皮質基底核変性症は精神科領域でも診断上念頭に置くべき疾患と考えられる。

学校へのアウトリーチ手法による思春期精神保健支援―「日本型ESMH」導入に向けての試み

著者: 菅原誠 ,   福田達矢 ,   坂井俊之 ,   熊谷直樹 ,   野津眞 ,   川関和俊

ページ範囲:P.637 - P.645

抄録

 主に小中学生の思春期精神保健上の問題事例に対して,学校からの要請に応じて精神科医を含む専門職チームが,主に学校内でアウトリーチ手法を用いて見立てや相談,助言を行う「初期介入支援」を20例に対して行った。この結果,精神科医療の必要性が判断され受診支援を行った事例が8例(40%),学校への助言により適応が改善した事例が6例(30%)あり,さらに不登校10事例のうち5例(50%)が再登校し,学校へのアウトリーチ手法による支援の有用性が示された。当支援と類似点の多い米国のESMHと対比して,日本へのESMH導入における課題を指摘し,当支援が日本の現状に合ったESMH導入モデルとなる可能性について考察した。

精神科訪問看護の効果に関する実証的研究―精神科入院日数を指標とした分析

著者: 萱間真美 ,   松下太郎 ,   船越明子 ,   栃井亜希子 ,   沢田秋 ,   瀬戸屋希 ,   山口亜紀 ,   伊藤弘人 ,   宮本有紀 ,   福田敬 ,   佐藤美穂子 ,   仲野栄 ,   羽藤邦利 ,   大塚俊男 ,   佐竹良一 ,   天賀谷隆

ページ範囲:P.647 - P.653

抄録

 精神科訪問看護が統合失調症患者の社会生活の継続に及ぼす効果の有無を,患者が訪問看護を受け始めた前後2年間における精神科病棟への総入院日数,1回入院あたりの入院日数の変化について検討した。13都道府県の21施設から訪問看護サービスの提供を受けた経験を有し,調査協力への同意が得られた138名の患者について,サービス提供施設の記録に基づくスタッフへの聞き取り調査を行い,基本属性,社会経済的状況,他の社会資源の利用状況,精神科病棟への入退院,受診状況,訪問看護の状況について調査した。その結果,総入院日数,1回入院あたりの入院日数の双方とも訪問ケア開始前後の比較において大幅に減少し,統計的にも有意差がみられた。この差は,訪問ケア開始時に対象者が入院しているか,通院中であるか,訪問ケア以外の社会資源を利用しているかにかかわらず同様であった。

公的機関における支援を受けた社会的ひきこもり事例に関する1年間の追跡研究から

著者: 吉田光爾 ,   小林清香 ,   伊藤順一郎 ,   野口博文 ,   堀内健太郎 ,   土屋徹

ページ範囲:P.655 - P.662

抄録

 公的相談機関において社会的ひきこもりを主訴とする家族・本人を対象に支援を行い,50事例に対して,質問紙による1年間の追跡調査を行った。その結果,1年後時点において,多くの事例で,家族との関係の改善,問題行動の減少,他者との交流の頻度の上昇など,生活状態に関する改善が認められた。また,全対象者の約2割は1年後の時点で社会参加を果たしており,定義上「社会的ひきこもり」から回復したと考えられた。また,家族においては,精神的健康度や対処可能感でエントリー時点と比して向上がみられ,メンタルヘルスの改善が認められた。

AIDS寛解下で幻覚妄想状態を呈した1例

著者: 遠藤裕介 ,   谷井一夫 ,   頴原禎人 ,   和久津里行 ,   忽滑谷和孝 ,   宮田久嗣 ,   中山和彦

ページ範囲:P.663 - P.669

抄録

 近年,AIDSの治療に高活性抗レトロウイルス療法(highly active antiretroviral therpy:HAART)が導入され,AIDSが寛解状態に至る症例が増加している。今回我々はHAART導入後,AIDS寛解状態で幻覚妄想状態を呈し,HIV脳症が疑われた症例を経験したので報告する。症例は35歳男性,同性愛者。27歳時にAIDS告知。29歳時よりHAART導入となり,以後免疫機能は寛解状態にあった。35歳時,誘因なく幻覚妄想状態を呈し,種々の除外診断の結果,HIV脳症の発症と考えられた。AIDS寛解状態であっても,精神症状を呈するケースではHIV脳症である可能性に留意していく必要がある。

短報

Fluvoxamineからparoxetineへのswitchingにより強迫症状が著しく軽快した統合失調症の1症例

著者: 谷川真道

ページ範囲:P.671 - P.674

はじめに

 近年,強迫症状を合併した統合失調症の治療に関しては抗精神病薬と5-HT再取り込み阻害薬(serotonin reuptake inhibitors;SRI)が併用される傾向にある2,4,5)。今回筆者は,慢性の統合失調症に合併した強迫症状(洗浄強迫)に対し,risperidone(RIS)にSRIの1つであるfluvoxamine(FLV)からparoxetine(PRX)へのswitchingによる薬物併用療法を行ったところ,強迫症状の著しい改善がみられた症例を経験した。FLVからPRXのswitchingにより強迫症状が軽快した統合失調症の報告は本邦においては少ないため,ここに若干の考察を加え報告する。

 なお,症例に関してはプライバシー保護のため主旨を損ねない範囲内で改変させていただいた。

鉄代謝異常による青年期アカシジアの1症例

著者: 善本正樹 ,   穂積慧

ページ範囲:P.677 - P.679

はじめに

 アカシジアとは,“座ったままではいられない”という意味を表す言葉である。その特徴的な症状は,古くから知られていたが,特発性パーキンソン病や脳炎後パーキンソンニズムに伴うことがあり,アカシジアは錐体外路症状の一型であると考えられるようになった。アカシジアは,患者に強い苦痛を与えることが多く,最悪の場合には,患者は,その苦痛から逃れるために自殺を選択することさえある。しかし,アカシジアの診断は,その症状の愁訴性や多彩さのために見逃されやすく,精神疾患の症状との鑑別で苦慮することも多い3)

 今回,強い不安・焦燥と妄想様症状を呈して統合失調症と鑑別が困難であった,鉄代謝異常による青年期アカシジアの症例を経験した。この症例を通して,アカシジアの診断と治療の重要さを再認識したので報告する。

低用量のselegiline(MAO-B阻害薬)が奏効した非定型うつ病の1例

著者: 北島明佳 ,   馬場元 ,   田村陽子 ,   鈴木利人 ,   新井平伊

ページ範囲:P.681 - P.684

はじめに

 従来,三環系および四環系抗うつ薬による薬物療法や電気けいれん療法などがうつ病の主な治療法として用いられてきたが,近年SSRIやSNRIなどが普及し,うつ病の治療法の選択肢の幅も広がっている。しかし,それらによる治療でも十分な改善が認められないうつ病患者の一群も存在し,その中に非定型うつ病がある。本症の臨床的特徴は,気分反応性のある抑うつ気分や過眠,過食,疲労感,過敏な対人関係であり,三環系抗うつ薬に比べMAO(monoamine oxidase)阻害薬に良好な反応を示す2,7)といわれている。

 今回筆者らは,過眠を伴う非定型うつ病と考えられる症例にMAO-B阻害薬であるselegilineが著効した1例を経験したので若干の考察を含めて報告する。

Marchiafava-Bignami病を合併した神経性無食欲症の1例

著者: 三好和輝 ,   黒崎充勇 ,   森信繁 ,   片桐秀晃 ,   山脇成人

ページ範囲:P.685 - P.688

はじめに

 Marchiafava-Bignami病(以下MB病と略)は,その多くが中年男性のアルコール多飲による栄養不良状態から生じる脳梁の脱髄壊死という特徴的な病理所見を呈する疾患である。その臨床所見は痴呆,けいれん,せん妄などの非特異的な精神症状や半球離断などの神経心理学的症状であり,従来の報告はほとんどが剖検報告であった。現在ではMRIの普及により早期の臨床診断が可能となり1),それに伴い近年では軽症例や明らかな臨床症状がなく検査でのみ異常を認める症例の報告も増えている2)。しかし,非アルコール性MB病の報告は国際的にもまれである5)。若年発症で,摂食障害による低栄養状態に起因すると考えられた特徴的な脳梁病変を呈した症例を呈示する。

「精神医学」への手紙

非定型抗精神病薬とエネルギー平衡の崩れ

著者: 岸敏郎

ページ範囲:P.690 - P.690

 本誌47巻1号に掲載された安宅らによる論文「Olanzapine服用患者における体重変化,耐糖能および脂質代謝の検討」に関連する知見を加えたい。そこで考察されているように,セロトニン情報伝達系,とくに5-HT2c受容体を介するものは重要と思われ,その根拠は5-HT2c受容体欠損マウスが示す過食と肥満である1)。抗肥満ホルモン,レプチンについては,その血中濃度が高まるにもかかわらずなぜ肥満するか,すなわちレプチン抵抗性の解明が待たれる。また,5-HT2c受容体を有するレプチン反応性メラノコルチン産生ニューロンが視床下部弓状核に局在する1)。中枢神経系に広く分布するメラノコルチン4受容体(MC4-R;melanocortin-4 receptor)はエネルギー平衡調節を担う2)。たとえば,MC4-R欠損マウスは肥満,過食,耐糖能障害を来し,欧米肥満人口の3~5%にMC4-R遺伝子異常がみられる2)。以上から,レプチン・セロトニン作動性メラノコルチン神経系の解析は,安宅らが論じた非定型抗精神病薬による有害事象の克服に寄与すると考えられる。

書評

DSM-IV-TRケーススタディ─鑑別診断のための臨床指針

著者: 石郷岡純

ページ範囲:P.691 - P.691

すべての精神科医が通読すべき1冊

 待望久しかったアメリカ精神医学会によるDSM-IV-TRケーススタディの日本語訳が,このたび出版された。著者はDSM-IV改訂の際の編集委員長であるAllen Frances・デューク大学精神科教授とRuth Rossである。

 このケーススタディには74例が収録されており,16章に分かれる各疾患カテゴリーで数例ずつを提示し,症例ごとに鑑別診断を含む診断へのプロセス,および治療方針まで解説するという体裁で構成されている。呈示される症例は適度に教科書的であるがリアリティもあり,解説も抑制の利いた語り口で進められているため受け入れられやすく,操作的診断法がはじまって四半世紀たった今このような診断スタイルがある普遍性に到達し,決して無味乾燥なものではないことを実感できる書物となっている。

知っておきたい 医療監視・指導の実際

著者: 佐藤牧人

ページ範囲:P.692 - P.692

医療機関の管理上の問題点や事故に至った経緯などを具体的に示す

 今ほど医療機関が医療行為の安全性の確保や院内感染防止対策に真剣に取り組んでいる時代はないと言っても過言ではない。現場の管理者はもちろん医療スタッフ全員が,当たり前のことをていねいに取り組みながら相当の工夫と努力を払っている。しかし,残念ながら事故や院内感染事例は後を絶たず,患者からの苦情やマスコミへの対応に苦慮する状況がみられる。

 一方,保健所・行政は長年,医療法に基づく病院の監視(立入検査)業務を行ってきた。ともすると形式的な監視にとどまりがちだった立入検査は,この数年,反省を込めて各自治体で急速に見直しが進められており,本来の目的である良質かつ適切な医療の提供体制の構築をめざした検査のあり方が模索されている。

基本情報

精神医学

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-126X

印刷版ISSN 0488-1281

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