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雑誌目次

論文

精神医学47巻7号

2005年07月発行

雑誌目次

巻頭言

雑感

著者: 本橋伸高

ページ範囲:P.700 - P.701

 早いもので,精神科医となって四半世紀が過ぎた。この間のわが国の精神科の動きを自分なりに振り返ってみたい。精神科の動きとは言っても,大学での勤務経験が長かった点についてはご容赦願いたい。

研究と報告

児童青年期発症の統合失調症における前駆症状の男女比較

著者: 小瀬朝海 ,   砂原千穂 ,   山田敦朗 ,   高山学 ,   石田芳久 ,   西田寿美 ,   郭哲次 ,   篠崎和弘

ページ範囲:P.703 - P.708

抄録

 児童青年期(18歳以下)に統合失調症を発症した患者51人(男子36人,女子15人)の発症年齢(前駆症状の出現年齢),前駆症状の男女差を調査した。平均発症年齢は,男子13.7±1.5歳,女子14.3±2.0歳であった。前駆症状は,認知の変化(被害関係念慮,奇異な思考内容,幻覚様体験など),行動の変化(不登校,攻撃性・暴力など)が多く,不登校は男子に,幻覚様体験の訴えは女子に多く認める傾向があった。この年代は抽象化・言語化能力に男女差が出現するため,表出される前駆症状にも男女の違いが生じると考えられた。不登校などの場合も前駆症状である可能性を視野に入れ,早期介入に努めることが重要である。

解離性障害にみられた幻聴

著者: 柴山雅俊

ページ範囲:P.709 - P.716

抄録

 解離性障害43例にみられた幻聴について報告した。幻聴は88%にみられ,その内容は命令,死の促し,中傷などが多かった。また聴覚過敏,呼名幻声,音楽幻聴,要素幻聴などの症状は初期統合失調症よりも高頻度にみられ,鑑別上重要であることを指摘した。また解離性幻聴の立ち現れを内部と外部の観点から検討し,解離性幻聴では統合失調症のような内部と外部の矛盾的二重構造はみられず,自然な区別が保たれているとした。さらに幻覚体験に対する判断についても言及し,表象と知覚の融合という構造について考察した。さらに自傷行為や自殺企図を呈する患者の多くにみられる死を促す幻聴についても考察を加えた。

抑うつ症例における身体症状と出社困難の関係について

著者: 小野博行

ページ範囲:P.717 - P.723

抄録

 企業労働者がうつ病を発症した後,回復過程において,うつ病に特異的な諸症状はほとんど消失しているにもかかわらず,出社をめぐって頭痛・腹痛・めまいなど不特定な身体症状が出現し,出社困難を呈している症例は少なくない。その身体症状の特徴として,①日単位では,起床時や出社前から身体症状は出現するが職場に着くと時間経過とともに軽くなる,②週単位では,月曜など休日明けがもっともひどく,曜日を追うごとに軽くなる,などを挙げて,このような現象を,企業労働者のうつ病の回復過程において,その心身状態は職場という外的評価系と主体との機能連関が乖離して不安定な動揺状態にあり,統合的なホメオスタシスがもたらされないためであると考えた。

幻視に対してtrazodoneが奏効したレビー小体型痴呆の2症例

著者: 井貫正彦 ,   遠藤博久 ,   八木下敏志行

ページ範囲:P.725 - P.732

抄録

 レビー小体型痴呆(DLB)の幻視に対してtrazodoneが奏効した2症例(糖尿病合併例と高度のparkinsonism合併例)を経験した。幻視に対して通常投与される非定型抗精神病薬については,2症例ともneuroleptic sensitivityがあり重篤な副作用が出現しやすいと考えられ,慎重にならざるを得なかった。特に,高度のparkinsonism合併例ではいっそうの慎重さが求められた。また,最も推奨されるquetiapineは,糖尿病合併例では投与禁忌であった。幻視の発現にセロトニン(5-HT)系の関与が指摘されており,本経験から,DLBの幻視に対して5-HT2受容体遮断薬であるtrazodoneは,効果,安全性の両面で試みる価値があると考えられた。今後も抗精神病薬以外の薬物療法の蓄積が期待される。

過量服薬を行う女性自傷者の臨床的特徴―リスク予測に向けての自記式質問票による予備的調査

著者: 松本俊彦 ,   山口亜希子 ,   阿瀬川孝治 ,   越晴香 ,   持田恵美 ,   小西郁 ,   伊丹昭 ,   平安良雄

ページ範囲:P.735 - P.743

抄録

 女性自傷患者81例を対象として,自記式質問票による向精神薬の過量服薬に関する調査を行った。過量服薬経験の有無,および,過量服薬による医療機関での解毒治療経験の有無に関して比較を行い,さらに,有意差の得られた項目を独立変数に,過量服薬の経験および解毒治療の経験を従属変数として,ロジスティック回帰分析を行った。その結果,過量服薬経験では,Bulimia Investigatory Test of Edinburgh(BITE)の得点(p=0.006;オッズ比,1.10,[1.03~1.17]),解毒治療経験では,BITE得点25点以上(p=0.005;オッズ比,4.87,[1.60~14.86])が関係する要因として抽出された。自傷者における様々な程度の過量服薬には,BITE得点で示される過食傾向が密接に関係していることが示唆された。

入院うつ病患者に対するクリニカルパスのバリアンス分析―単極性うつ病と双極性うつ病との比較

著者: 和田健 ,   佐々木高伸 ,   日域広昭 ,   波田紫 ,   吉村靖司 ,   山下美樹

ページ範囲:P.745 - P.751

抄録

 〈目的〉うつ病患者に対するCPを適用した入院治療において,単極性および双極性うつ病患者を比較し,バリアンスについて分析する。

 〈対象と方法〉2002年9月から14か月間に広島市立広島市民病院精神科に入院し,退院したICD-10を満たす単極性および双極性うつ病の患者63名を対象とした。

 〈結果〉うつ病性障害では17例(34.7%),双極性障害では7例(50%)にバリアンスが発生した。両群間で男女比や入院時のMADRS,BDI,CGI-Sの各スコア,抗うつ薬の用量に差はなく,バリアンスの発生率にも統計学的な有意差はなかった。

 〈結論〉両群間でCPの適用基準や期間設定は同じでよい可能性が示唆された。

短報

成人期発症のde la Tourette's syndromeに塩酸Perospironeが奏功した1例

著者: 辻井農亜 ,   楠部剛史 ,   岡田章 ,   柴育太郎 ,   人見一彦

ページ範囲:P.753 - P.755

はじめに

 多彩な運動性チックおよび1つ以上の音声チックが1年以上の期間中,間欠的にみられるものはTourette症候群(以下TS)と診断される。大部分の症例では成人期になると症状は軽快,消失するとされるが少数例では成人期まで重症なチックが続き,また成人後に再発してより重篤な症状を呈するという4,9)。だが,成人期に初発するTSの報告はほとんどみられない1,3,5,12)。今回我々は,運動性チックと複数の音声チックを呈し,臨床経過から成人期に発症したTSと診断され,薬物療法として塩酸perospironeが奏功した症例を経験したので報告する。

失書で発症し緩徐に進行したprobable dementia with Lewy bodiesの1症例

著者: 北林百合之介 ,   上田英樹 ,   松本良平 ,   中村佳永子 ,   鷲見長久 ,   山下達久 ,   福居顯二

ページ範囲:P.757 - P.760

はじめに

 変性性痴呆疾患の一部は,大脳皮質の巣症状など非典型的な症状で発症,経過することがあり,病態把握や診断に苦慮することが多い。今回,我々は65歳頃に失書で発症し,失読,着衣失行,左半側空間無視などの症状が緩徐に出現した後,69歳頃より痴呆が全般化し,特発性パーキンソニズム,認知機能の変動,幻視や妄想など多彩な症状を伴った1例を経験した。症例について紹介しその病態および診断について文献的考察を加える。

Estriol投与にて症状の改善を認めた女性の遅発性統合失調症の1例

著者: 藤川徳美

ページ範囲:P.761 - P.763

はじめに

 統合失調症(以下Sと略す)の発症年齢は,男性では17~19歳がピークだが,女性では25~30歳と45~50歳と二相性を呈するという性差を認める。抗精神病薬への反応性は,若年女性は同世代男性より薬物への反応性が良いが,高齢女性は薬物への反応性が悪く錘体外路徴候が出やすいと言われている。この性差にはestrogenの関与が考えられており,Seemanら6,7)は「Sのestrogen仮説」を提唱している。つまり,①女性におけるestrogen分泌が発症年齢を遅らせる,②estrogen血中濃度が高い妊娠中は症状は再発しにくい,③estrogen血中濃度が低下する産後や閉経後などに発症・再発しやすいことが説明できると提唱している。

 ここ数年,高齢の女性S患者に対してestrogenを投与し,効果を認めたとの報告がいくつかみられるようになった。これらの報告ではいずれもestrogenの中では最も生物学的活性が強力なestradiol(E2)を使用したものである。今回我々はより生物学的活性が低く安全性の高いestriol(E3)にて精神症状の改善を認めた女性の遅発性Sの1例を経験したので報告する。

Olanzapineの付加療法が有効であった治療抵抗性うつ病の2例

著者: 都甲崇 ,   平安良雄

ページ範囲:P.765 - P.768

はじめに

 近年SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)やSNRI(セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬)の使用がわが国でも可能となり,うつ病の薬物治療の選択肢は大きく広がった。しかし,これらの薬剤を含めた抗うつ薬の十分な使用によっても,約30~50%の症例では十分な反応が得られないことが知られている3)。こうした治療抵抗性うつ病には,抗うつ薬の変更,炭酸リチウムや甲状腺ホルモン剤の追加,抗うつ薬の多剤併用,電気けいれん療法などが行われることが多いが3),近年,抗うつ薬の付加療法としてのolanzapineの有効性が明らかになり注目されている2,4)。今回筆者らは,抗うつ薬による治療と炭酸リチウムの付加療法に反応が得られなかった経過を有するうつ病に対してolanzapineを追加し,効果の得られた2症例を経験したので,若干の考察を加えて報告する。なお,いずれの症例に対しても,うつ病に対するolanzapineの効果は海外では報告されているものの,わが国では追試がなされていないことを説明し,同意を得た後に服薬を開始した。さらに今回の症例報告に関する同意を文書で得た。

統合失調症の学生への復学支援―医療から教育に移行する際の精神科校医の機能

著者: 福田真也

ページ範囲:P.769 - P.772

はじめに

 大学生の休学率は3%,退学率は2%にも及ぶが5),その理由として精神障害,特に統合失調症によるものは多い。仮に復学できた場合も様々な困難が残り,医療機関での治療だけではなく,大学内でも精神科校医など専門家による個別の援助を要する症例が多いが,支援体制は不十分であり,どのような援助が必要かについての課題も多い4)。今回,筆者が大学保健管理センターの常勤の精神科校医として,精神病院から退院後に復学し卒業まで援助した症例を経験したので,医療から教育への枠組みを作る機能を中心に考察した。なお,当センターは精神科校医が専任(常勤)でおり,内科医である所長(医学部と兼任),大学病院から派遣される非常勤の4名の内科医,専任の保健師,事務職員から構成されている。

私のカルテから

カタレプシーを伴った進行性核上麻痺の1症例

著者: 清水宗夫 ,   川上さやか ,   稲田英利子 ,   田上和 ,   山口直明 ,   宮坂佳幸 ,   川口才市 ,   宮島裕明

ページ範囲:P.773 - P.775

はじめに

 初老期に発症する進行性核上麻痺progressive supranuclear palsy(PSP)はごくまれな疾患といわれていたが,近年精神科,神経内科,老年病科などから時々報告されるようになった。PSPと確定診断できる神経学的徴候が現れる前に,またはその時期とほぼ一致して種々様々な精神症状が出現することはよく知られている。その精神症状の中で亜昏迷状態を来したものも何例か報告されているが,カタレプシーを呈した症例は,筆者らの調査では,天野1)が報告した1例のみである。このたび入院当初の数日間カタレプシーが認められたPSPを経験したので報告する。

ペロスピロンにより幻覚妄想および抑うつ状態が軽快したパーキンソン病の1症例

著者: 助川鶴平 ,   柏木徹 ,   宮岡剛 ,   和氣玲 ,   堀口淳

ページ範囲:P.777 - P.778

はじめに

 パーキンソン病では,その自然経過において抑うつ状態がみられることが多い2)。また,抗パーキンソン病薬による治療中には幻覚・妄想などの精神症状が現れる場合がある4)。今回,長期にわたり抑うつを伴っていたパーキンソン病患者において,幻覚妄想状態が出現し,新規の抗精神病薬であるペロスピロンを投与したところ,錐体外路症状を悪化させることなく幻覚妄想状態が改善し,さらに長期間継続してみられていた抑うつも改善した症例を経験したので報告する。

動き

精神医学関連学会の最近の活動―国内学会関連(20)

著者: 高橋清久

ページ範囲:P.779 - P.806

 今年も精神医学に関連した学術団体の活動の様子をお知らせする時期になりました。私がこの欄を大熊国立精神・神経センター名誉総長から引継いでからはや4年が経ちました。その間にご紹介する団体の数も47から61へと大変増加しました。この発展振りは精神医学が学際的な学問であることや,社会の関心が「こころ」に向かっていることと無関係ではないと思います。

 本欄は日本学術会議の精神医学研究連絡委員会の活動として当時の島薗会員が始められたものです。島薗先生は13,14,15期の3期9年を勤められ,その後大熊先生が16,17期の2期6年を勤められました。私は18期から会員となり現在2期目です。その日本学術会議が今,新しく生まれ変わろうとしています。2005年4月に日本学術会議法が改正され,所属が総務省から内閣府に格上げされました。すでに内閣府にある総合科学技術会議は短期的な科学技術の施策を,日本学術会議は長期的なわが国の科学技術施策を検討するという役割分担となります。今後はこの2つの科学学術機関が車の両輪として,わが国の科学技術施策を進めていくわけです。

書評

精神科 必須薬を探る

著者: 田辺英

ページ範囲:P.809 - P.809

 精神科臨床で最初に覚えるべき薬は何か。研修医に質問されて返答に困ったことがある。少ないと十分ではないし,多すぎても使いこなせない。特にここ数年新しい向精神薬が登場し,治療の選択肢が増えた。臨床の幅が広がったのは確かだが,従来薬との使い分けなどは議論の最中と聞く。誰か膨大な情報を整理してくださらないか。そう思っていたところに必須薬という切り口で,精神科治療のエッセンスを1冊にした本が出版された。

 題名の「探る」という言葉が,本書の性格をよく表している。まず,必須薬の条件が吟味される。それから具体的な薬が提案される。筆者らと必須薬を探っていくうちに,「本当に必要な向精神薬」とは何かを一緒に考えさせられる構成になっている。

Kaplan & Sadock's Comprehensive Textbook of Psychiatry, 8th edition

著者: 越野好文

ページ範囲:P.811 - P.811

 アメリカ精神医学には,FreedmanとKaplanらが,精神医学と行動科学の教育を促進することを目的に開発した総合的な教育システムがある。精神医学の専門的な能力を育て,精神疾患を有する人々に対する最高のケアを保証することをゴールとしている。システムの頂点に位置するのが,1967年に初版が刊行されたComprehensive Textbook of Psychiatryである。

 精神医学の進展に合わせて改訂を繰り返し,現在では精神医学の知識を百科事典的に概説した宝庫に成長し,“壁のない大学”と呼ばれる。信頼性は高く,我々の研究会の討論では「カプランに書いてある」との一言で皆が納得する。このたびわずか4年で改訂された第8版は,半数以上の執筆者が交代し,50以上の新しい項目が書き加えられ,前版より700頁以上紙数が増えた。従来からの項目も新しい視点で書き直され,時代にマッチした生き生きとした教科書として登場した。

基本情報

精神医学

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-126X

印刷版ISSN 0488-1281

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