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文献詳細

雑誌文献

精神医学48巻1号

2006年01月発行

文献概要

試論

解離性障害における離隔について―「2つの私」の視点

著者: 柴山雅俊1

所属機関: 1東京大学医学部精神神経科

ページ範囲:P.73 - P.79

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はじめに

 我々の最近の経験でも離人症状は,解離性障害と診断された症例42例中39例(92.9%)に確認され,解離症状としては高頻度にみられる症状である。DSM-Ⅳでは離人症性障害を「自分の心的過程あるいは身体から離隔して(detached),あたかも自分が外部の傍観者であるかのように感じている持続的または反復的な体験」2)としている。本論文ではこの離隔,すなわち解離性離隔dissociative detachment4)を取り上げる。

 近年,解離の多彩な症候を連続体としてとらえるのではなく,2つに分ける立場がみられるようになった。Brown3)は解離を1型と2型に分け,前者に解離性健忘,解離性遁走,解離性同一性障害などを含め,後者に離人・疎隔症状,体外離脱体験を含めている。Allen1)もほぼ同様の分類を行い,区画化compartmentalizationと離隔detachmentに分けている。区画化は心的組織の切り離しに重点がおかれるのに対し,離隔は意識変容的色彩をときに伴い,自己感,身体,外界などの体験にまつわる分離感を特徴とする。

 本論文では解離性離隔を中心に取り上げ,その病態構造について考察する。さらに解離の意識構造についての考察とともに,離隔と周辺症状との関連性についても言及する。参考のため提示する2症例は,解離性障害としては一般的な症例である。

参考文献

1) Allen JG:Traumatic Relationships and Serious Mental Disorders. John Wiley & Sons Ltd, New York, pp20-43, 2001
2) American Psychiatric Association:Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders. 4th ed. Text Revision, Washington DC and London, 2000(高橋三郎,大野裕,染谷俊幸 訳:DSM-Ⅳ-TR精神疾患の診断・統計マニュアル.医学書院,2002)
3) Brown RJ:The cognitive psychology of dissociative states. Cognitive Neuropsychiatry 7:221-235, 2002
4) Holmes EA, Brown RJ, Mansell W, et al:Are there two qualitatively distinct forms of dissociation? A review and some clinical implications. Clin Psychol Rev 25:1-23, 2005
5) 宮本忠雄:実体的意識性について─精神分裂病者における他者の現象学.精神経誌 61:1316-1339,1959
6) 長井真理:内省の構造.岩波書店,1991
7) 大森荘蔵:時間と自我.青土社,1992
8) Sartre JP:L’être et le néant. Gallimard, Paris, 1943(松浪信三郎 訳:存在と無,人文書院,1956)
9) 柴山雅俊:ヒステリーの時間・空間性障害についての一考察.臨精病理 13:261-269,1992
10) 柴山雅俊:解離性障害にみられる周囲世界に対する主観的体験.精神医学 47:359-372,2005
11) 安永浩:分裂病者にとっての「主体他者」─その倫理,二重身のファントム論的考察.安永浩 編,分裂病の精神病理 6.東京大学出版会,pp53-95,1977
12) 安永浩:分裂病症状の辺縁領域(その1)─意識障害総論と神秘体験.湯浅修一 編,分裂病の精神病理 7,東京大学出版会,pp275-316,1978
13) 安永浩:精神医学の方法論.金剛出版,1986
14) 安永浩:離人症.土居健郎,笠原嘉,宮本忠雄,他 編:異常心理学講座4 神経症と精神病1.みすず書房,pp213-253,1987

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-126X

印刷版ISSN:0488-1281

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