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雑誌目次

雑誌文献

精神医学48巻11号

2006年11月発行

雑誌目次

巻頭言

睡眠と私

著者: 内山真

ページ範囲:P.1160 - P.1161

 私が初期研修を終えようとしていた頃,指導を受けていた先生に,終夜睡眠脳波の手伝いをしながら,睡眠の研究をするように言われた。当時,私はドイツ語を勉強して内因性精神疾患の研究に取り組みたいと密かに思っており,正直なところ,睡眠の研究は大変だとも感じたが,言い出すことができず,先生の助言に従うことにした。こうして,私は終夜睡眠脳波の手伝いを始めるようになった。このような経緯から始めた睡眠の勉強も,20年を超えた。この折に,睡眠について感じていることを少し書きたいと思う。

 一般の新聞や雑誌などで,現代社会に特有のストレスが不眠に悩む人々を増加させている,という記載が時々みられる。しかし,この言葉に確たる証拠はない。ストレスによる不眠症が急増している原因が現代社会にあるのならば,昔は不眠が少なかったと言えるのだろうか。この疑問に対して,3~4年前に米国の歴史学者Ekirchの書いた総説を読んだことから,必ずしも事態が単純ではないことを知った。

オピニオン 認知症のBPSDに非定型抗精神病薬を使用すべきか否か

適切な判断と十分なICのもと非定型抗精神病薬を用いる

著者: 新井平伊

ページ範囲:P.1162 - P.1164

はじめに

 米国FDAが認知症における非定型抗精神病薬投与に関して警告3)して以来,臨床では大きな困惑と混乱が生じているといえる。そこで,改めてBehavioral and Psychological Symptoms of Dementia(BPSD)の治療に非定型抗精神病薬を使用せざるを得ない状況について考察してみるが,ここでは中でも焦燥,興奮,不穏,幻覚,妄想といった症状に対する薬物療法について論じることを理解されたい。また,あらかじめ確認しておく必要があるのは,わが国では認知症における非定型抗精神病薬投与は今のところ保険適用外使用に当たることである。この点は,直面する問題に速やかに対応せざるを得ない臨床とは異なる観点ではあるが,後述するように医療の実践において大きな問題となるのも事実である。

BPSDに対する非定型抗精神病薬の使用をめぐって

著者: 池田学

ページ範囲:P.1165 - P.1167

はじめに

 認知症の行動異常ないし精神症状は,患者本人を苦しめるだけでなく介護者の介護負担を増大させ,入院や入所の時期を早める直接的な原因となる点で重要である。従来から認知症の症状は,認知症の病態の中核をなす認知機能障害を中心とする中核症状と,そこから二次的に派生してくる精神症状,行動異常,不眠,失禁といった周辺症状あるいは随伴症状に分類されてきた。後者は,周囲からみて迷惑である,あるいは問題であるというニュアンスで問題行動などと呼ばれることもあった。

 ところが,レビー小体型認知症(DLB)における幻視や前頭側頭葉変性症(FTLD)における常同・強迫行動のように,認知機能障害と並んで,あるいはむしろ,認知機能障害よりも病態の本質にかかわっている可能性のある精神症状や行動異常の存在が注目されるようになってきた4)。また,これらの症状は介護者の側からみれば問題のある行動であっても,患者にとっては目的のある行動であったり,そこには何らかの誘因があるはずであると解釈する考え方も普及してきた6)。そのような背景の中で,これらの症状は国際老年精神医学会でBehavioral and psychological symptoms of dementia(BPSD)「認知症の行動および心理症状」と呼ぶことが提唱され,改めて注目を集めるようになってきている。

やってやれないことはない?

著者: 田北昌史

ページ範囲:P.1168 - P.1170

はじめに

 認知症の臨床症状は記憶障害や失見当識などの認知機能障害を主とする中核症状と幻覚,妄想,興奮,せん妄などの周辺症状がみられる。周辺症状は近年BPSD(behavioral and psychological symptoms of dementia)と呼ばれている。納冨らは精神科病棟入院時における認知症患者のBPSDの出現頻度を報告しているが4),「不眠,夜間せん妄,刺激性,他動および徘徊」といった症状が入院患者の50%以上で認められていた。

 逆に考えれば,これらのBPSDは認知症患者が精神科病棟に入院する要因となっていると言え,BPSDを改善することが介護者や家族の介護負担の軽減のために重要と考えられる。

 BPSDに対する薬物療法は,従来は主としてハロペリドールなどの定型抗精神病薬が使用されていたが,錐体外路症状や過鎮静などの副作用がみられる場合も多く,その安全性は高いとは言い難かった。

 近年本邦でのリスペリドンをはじめとする非定型抗精神病薬の発売に伴って,BPSDに対して非定型抗精神病薬の有効性が学会などで報告され,一時非定型抗精神病薬はBPSD治療のスタンダードとなる様相であった。

 しかし認知症のBPSDに対する非定型抗精神病薬の使用について,その危険性を警告した2005年のFDAの勧告(ブラック・ボックス警告)1)以来,臨床医の中で非定型抗精神病薬をBPSDの治療に用いることははばかるムードとなっている。

 この警告は非定型抗精神病薬とプラセボの比較に基づいて出されているが,その後定型抗精神病薬と非定型抗精神病薬を比較した場合は定型抗精神病薬が危険であるとの報告6)もあり,実際の臨床現場ではますます混乱した状態が続いている。

 本間らによる日本老年精神医学会のアンケート調査2)では,非定型抗精神病薬をBPSDに使用している医師は「ブラック・ボックス」警告以降「従来どおり使っている」とした医師が21.9%,「十分注意して使っているので問題ない」とした医師が18.3%であったのに比べ,「使っているが,困っている」と回答した医師が54.1%と過半数で臨床医の困惑した状況を示していると考えられる。

 筆者は非定型抗精神病薬をBPSDに用いることについて否の立場で論陣を張るわけであるが,正直に言えば筆者自身は日常の臨床で非定型抗精神病薬をBPSDに対して使用しており,日頃の臨床と矛盾した立場からの主張をすることになり,きわめて苦しい主張となる。その点を考慮して以下の論をお読みいただければ幸いである。

認知症のBPSDに対する非定型抗精神病薬の使用について

著者: 工藤喬 ,   武田雅俊

ページ範囲:P.1171 - P.1175

BPSDに対する非定型抗精神病薬の効果

 リスペリドン,オランザピン,クエチアピンなどの非定型抗精神病薬は,定型抗精神病薬に比べ錐体外路症状などの副作用発現が少なく,高齢者にも使用しやすい。したがって,認知症のBPSDに対して非定型抗精神病薬の臨床治験がいくつかなされてきた(表)。これらの成績より,各薬剤の使用量は常用量の1/2以下あるいは1/3以下に抑えられているが,おおむね各薬剤はBPSDに有意な効果があり,かつ認知症の中核症状を悪化させることはないことが示されている。ただ,残念なことは,これらの研究では定型抗精神病薬との効果あるいは副作用の比較がほとんどなされていないことである。また,非定型薬間での比較検討のデータも少ない。

研究と報告

双極性うつ病に対するcabergolineの効果および安全性に関する後方視的検討

著者: 田中輝明 ,   長房裕子 ,   鈴木克治 ,   増井拓哉 ,   北市雄士 ,   中川伸 ,   井上猛 ,   小山司

ページ範囲:P.1177 - P.1182

抄録

 近年,双極性うつ病の治療ガイドラインが提唱されているが,本邦で使用可能な薬剤は限られており,抗うつ薬による躁転の問題もいまだ解決には至っていない。今回我々は,双極性うつ病に対するドパミン受容体アゴニストcabergoline(CBG)の効果および安全性について,診療録から後方視的に調査し検討した。気分安定薬にCBGが追加された双極性うつ病患者8名のうち5名(62.5%)で8週間後に改善を認め,3名(37.5%)は1年後でも有効と判断された。4名(50%)に副作用を認めたが,減量または中止にて速やかに改善が得られた。本研究の結果から,CBGは双極性うつ病に対して有効かつ安全であると考えられた。

海外渡航中にヘロインなど麻薬依存に至った1症例についての検討

著者: 倉田健一 ,   田村達辞 ,   一ノ瀬真琴 ,   清水賢 ,   小沼杏坪

ページ範囲:P.1183 - P.1189

抄録

 ヘロインは,その強力な多幸感,精神・身体依存形成作用の強さなどから「世界最大の麻薬」とされ,その乱用が欧米諸国においては大きな社会問題となっている。本邦ではヘロインなどの麻薬は,「麻薬及び向精神薬取締法」により規制され,医師または麻薬取締職員,警察官などによる届出・通報制度が義務づけられているが,その届出は年間数名程度で推移している。しかし,近年,麻薬などの使用を勧誘する安易な情報がインターネット上で氾濫し,また興味を持つ若者の危機意識の薄さから,今回報告した症例のように,渡航時に麻薬を不正に摂取する例も多くなっている。そのため,精神科医療機関においても麻薬依存症に関する臨床上の特徴,診断,治療法を再検討して把握しておく必要があると思われる。

改訂版ロールプレイテストの信頼性および妥当性の検討―統合失調症の社会生活技能の評価に向けて

著者: 佐々木隆

ページ範囲:P.1191 - P.1198

抄録

 社会生活技能についての検証可能なモデルに沿った定量評価を目的として,1994年に作成したビデオ版ロールプレイテストを,認知機能障害の関与が大きいと推測される受信-処理技能の評価を十分行えるようにするなどして,改訂版ロールプレイテストを作成した。同意を得た統合失調症36名にテストを実施し,実用性があると考えられた。評価者間信頼性は実用上問題のない値を示した。因子分析を行ったところ,社会生活技能のモデルに合致した4因子が抽出され,構成概念妥当性のあることが裏付けられた。外的基準のうち,精神障害者社会生活評価尺度の対人関係尺度と総合スキルに有意な相関を認め,基準関連妥当性が裏付けられた。

思春期における自殺企図の臨床的検討―入院を必要とした症例を中心に

著者: 三上克央 ,   猪股誠司 ,   早川典義 ,   大屋彰利 ,   安藤英祐 ,   大園啓子 ,   市村篤 ,   松本英夫

ページ範囲:P.1199 - P.1206

抄録

 厚生労働省の最新統計によると,15~19歳の死亡原因のなかで自殺の死亡順位は2位であるが,本邦の思春期における自殺企図の臨床研究はほとんどみられない。そこで,2004年10月1日~2005年11月30日の14か月間に自殺企図で当院救命救急センターを受診した20歳未満の症例のなかで,身体的に入院治療を必要とした34名(連続サンプル)を対象とし,DSM-Ⅳに基づいた精神医学的診断,本人の自殺企図歴,生物学的第一親等者の自殺企図歴と精神障害歴,心理・社会的要因について検討した。性別では88.2%が女性であった。また精神障害が79.4%に認められ,そのうち気分障害の割合が26.5%でもっとも高く,破壊的行動障害および物質依存・乱用による自殺企図の割合はそれぞれ5.9%,2.9%であった。さらに広汎性発達障害を11.8%に認めた。そして自殺企図歴が55.9%にみられ,生物学的第一親等者で精神障害歴がある者は26.5%であった。また心理・社会的要因では家族の問題を有した者の割合が50.0%で最も高かった。欧米での先行研究と比較したところ,性差では女性がより多い傾向にあり,また精神障害では破壊的行動障害と物質依存・乱用が少ない傾向であった。さらに,心理・社会的要因では反社会的問題が少ない傾向を認めた。思春期の自殺企図の再企図防止のためには,本邦における思春期の自殺企図の特徴を把握したうえで治療的介入方法を考察することが重要と考える。

自傷患者の治療経過中における「故意に自分の健康を害する行為」―1年間の追跡調査によるリスク要因の分析

著者: 松本俊彦 ,   阿瀬川孝治 ,   伊丹昭 ,   里吉万生 ,   持田恵美 ,   越晴香 ,   小西郁 ,   山口亜希子

ページ範囲:P.1207 - P.1216

抄録

 女性自傷患者53例の1年間追跡調査から,治療経過中における自傷行為と過量服薬の出現と患者の心的外傷体験,自傷様態,過去の過量服薬歴,アルコール乱用,過食傾向,衝動的傾向,解離傾向との関連を検討した。その結果,自傷行為がみられた者は58.5%,過量服薬がみられた者は30.2%であり,また自傷に対する縫合処置を受けた者は11.3%,過量服薬に対する医学的治療を受けた者は18.9%であった。さらに自傷に対する縫合処置を受けた者では生活機能の低さと著明な過食傾向が,過量服薬がみられた者では過去の性的虐待歴が特徴的に認められた。これらは治療経過中における自傷行為や過量服薬のリスク要因としての意義があると考えられた。

短報

Milnacipranにてけいれん発作を生じたうつ病の1例

著者: 藤脇聡 ,   藤川徳美 ,   辻誠一 ,   大森信忠

ページ範囲:P.1217 - P.1219

はじめに

 Milnacipranは現在本邦唯一のSNRI(serotonin noradrenaline reuptake inhibitor)であり,副作用の少ない抗うつ薬として知られている。今回,うつ病にてmilnacipranを投与中,けいれん発作が誘発された1例を経験した。我々の調べた限りでは,てんかんの既往のない症例でmilnacipranによりけいれん発作が誘発されたという報告はないため,抗うつ薬とけいれん発作との関連について考察を加えて報告する。

Quetiapineからzotepineへの変薬によりアカシジアが消失した1例

著者: 辻誠一 ,   藤川徳美 ,   大森信忠

ページ範囲:P.1221 - P.1223

はじめに

 アカシジアは錐体外路症状のなかで最も多く,抗精神病薬服用者のおよそ30%に出現すると言われている。患者の苦痛感は著しく,場合によっては興奮や攻撃性を伴うため精神症状が悪化したと誤診され,抗精神病薬が増量され,かえって症状を悪化させてしまうことがある。このような場合には早期にアカシジアを疑い,抗精神病薬の減量や変薬を行うことが大切である。今回,筆者らはquetiapineを使用中にアカシジアが出現し,zotepineに変薬したところアカシジアが消失した症例を経験したので報告する。

2,5-dimethoxy-4-iodophenethylamine(2C-I)摂取により,知覚変容,聴覚過敏,錯視,横紋筋融解症を呈した1例

著者: 山本理絵 ,   安藤英祐 ,   飯塚進一 ,   市村篤 ,   三上克央 ,   新見隆之 ,   梅澤和夫 ,   松本英夫 ,   猪口貞樹

ページ範囲:P.1225 - P.1227

はじめに

 近年,本邦では脱法ドラッグと称される薬物が流通し,これらによる急性薬物中毒の症例が多数報告されている。薬事法改正が可決されたり,東京都の条例が適用されて規制の対象になると,その化学構造式に類似した物質が製造,販売されるため,その乱用は後を絶たない。最近では麻薬にすでに指定されている4-bromo-2,5-dimethoxyphenethylamine(以下,2C-Bと略す)の化学構造式に類似した2,5-dimethoxy-4-iodophenethylamine(以下,2C-Iと略す)が登場したが,2005年6月1日に東京都の知事指定薬物に新たに指定された。今回,我々は2C-Iを服用し多彩な精神症状を呈した症例を経験したので報告する。なお,報告にあたって口頭にて本人に同意を得た。また科学的考察に支障のない範囲で,プライバシー保護のために症例の内容を変更した。

統合失調症外来例に対するSDA長期投与の臨床評価―Perospirone単独投与例とrisperidone単独投与例の比較

著者: 福智寿彦 ,   湯浅省志 ,   北村岳彦 ,   兼本浩祐

ページ範囲:P.1229 - P.1231

はじめに

 近年,risperidone(RIS)をはじめとするいわゆる非定型抗精神病薬の統合失調症治療における有用性はほぼ一般に認知されたといってよい状況であるが,本邦で発売されている非定型抗精神病薬4剤を例にとっても,それぞれの薬剤プロフィールの相違についてはいまだ検討の途上である。その中でも特に,D2受容体と5-HT2A受容体遮断作用を有する点において共通し,ともにserotonin dopamine antagonist(SDA)と呼ばれているperospirone7)(PER)とRIS5)の相違に関しては,PERが本邦で開発され,世界的には注目されることが少なかったことも相まって,特に臨床的なデータの蓄積が不十分な状態が続いている。しかしながら,特に不安・抑うつ症状に関しては,RISよりPERにおいてより改善する傾向が多かったとする報告が散見されており1,9),非定型抗精神病薬の先駆けであるRISにおいて注目されているawakening現象と統合失調症の不安・抑うつを関連させて論じている論文などを念頭におくと8,11),この相違は臨床上重要である可能性がある。

 今回我々は,両剤の臨床的な違いを明らかにしたいと考え,外来通院中の統合失調症患者において,それぞれの薬剤が単独で投与された症例を選択し,1年間経過観察を行い,Lindenmayer6),またそれときわめて類似した山科ら12)を参照してPANSSの5つの下位分類に関して前後を比較した。

LithiumとCyclosporinの併用療法中に,lithium投与中止を余儀なくされた,強皮症を伴った双極性障害の1例

著者: 淵上学 ,   岡本泰昌 ,   篠原清美 ,   高見浩 ,   山下英尚 ,   山脇成人 ,   熊谷和彦

ページ範囲:P.1233 - P.1236

はじめに

 双極性障害患者の気分安定化や病相予防におけるlithiumの有用性は広く知られている。しかし,至適血中濃度の幅は狭く,血中濃度上昇にて消化器症状や中枢神経症状,運動機能症状といった重篤な中毒症状を起こすため,排泄を阻害する一部の利尿剤やnonsteroidal anti-inflammatory drugs(NSAIDs)との併用に注意が必要である5)

 今回,免疫抑制剤であるcyclosporin投与によると考えられる血中濃度上昇を認め,lithium投与中止に至った双極性障害の1例を経験したため,文献的考察をふまえて報告する。

特別寄稿

生活療法の基礎理念とその思想史

著者: 臺弘

ページ範囲:P.1237 - P.1252

はじめに

 筆者は精神科治療についての持論として「生活療法」が薬物療法を中心とする「生物学的治療」と「精神療法」とともに3本柱の一つに数えられることを幾度か提唱してきた。生活療法は外国由来の理念に発する治療ではなく,わが国の診療実践から生まれた貴重な術語である。それにもかかわらず,その意義は国内でさえ十分に理解されず,意図的に活用されてもいないのは残念である。これはわが国の精神保健とリハビリテーションが戦後の半世紀にたどった歴史にみられる発展と挫折の不幸な社会的な経歴によるところが多い。それには提唱者たちが,精神障害者の治療やリハビリの実践に当って「生活」の持つ意味について明確な吟味を怠ってきたことにも責任がある。精神科医療にとって生活概念が独特な内容と広がりを持つことは,国際的にみても認識されているとはいいがたいので,この論議は必要であろう。このような反省から,筆者は本文によってその基礎的な理念と思想史を論じようとする。

私のカルテから

繰り返す吐き気を主訴に受診した片頭痛に対して,バルプロ酸が奏効した1症例

著者: 竹内賢

ページ範囲:P.1255 - P.1256

 頭痛は日常臨床で最も遭遇しやすい症状の一つであるが,適切な診断・治療がなされていないケースも多い。特に片頭痛は,近年日本頭痛学会の積極的な啓蒙活動もあり,日常診療での診断率も上がっているものの,不定愁訴としてとらえられ,適切な治療をなされない患者も相当いるのではないかと思われる。今回,主訴が吐き気であったために不定愁訴と解され,頭痛の存在に注目されることのなかった高齢の片頭痛症例を経験したので報告し,sodium valproateの片頭痛の予防薬としての有用性についても言及する。

精神疾患を疑われたウイルス性脳炎の1症例

著者: 福本拓治 ,   片桐秀晃 ,   村岡満太郎

ページ範囲:P.1259 - P.1260

はじめに

 ウイルス性脳炎の急性期の症状は発熱,髄膜刺激症状,意識障害などであるが,初期には錯乱,せん妄,異常行動などの精神症状が前景に出現する症例も少なくない。精神症状が前景にある場合,ウイルス性脳炎が見過ごされ,発見が遅れる可能性があるため注意が必要である。今回我々は,複数の病院を受診したが,精神症状が前景に出ているため精神疾患と診断されて夜間に単科精神科病院(当院)を受診し,ウイルス性脳炎と診断した症例を経験した。精神科病院に勤める筆者らの心理状況も交えながら若干の考察を加えて報告する。なお,個人情報保護のため内容を若干修正した。

書評

慢性うつ病の精神療法―CBASPの理論と技法

著者: 伊豫雅臣

ページ範囲:P.1261 - P.1261

精神科臨床医必読書! 臨床に役立つ慢性うつ病の精神療法

 うつ病は近年一般の方々にも広く知られるようになってきました。その治療についても,抗うつ薬と休養により改善し,また周囲の人たちはうつ状態のときには励まさないということも知られてきています。そして,うつ病は一過性の「心の風邪」とも表現されることも多い疾患となっています。

 しかし,本当にそうなのでしょうか。確かに上記のように回復していく方々が多くいらっしゃる一方で,慢性化する方々も多く存在するのが現実です。監訳者のひとりである古川らは,うつ病患者の10~20%以上の人で2年以上持続し,慢性化すると報告しています。また薬物療法や休養が重要であるとともに,精神療法も重要であることが,特にBeckにより開発された認知療法が広まるにつれ認識されてきています。しかしそれでも治療に難渋し,限界を感じる精神科医は多くいると思われます。

神経病理インデックス

著者: 中野今治

ページ範囲:P.1263 - P.1263

神経病理学を学ぶための道標となる好著

 見知らぬ街,新しい地を行くときに必要なのは地図である。ただし,この地図は闇雲にすべてを書き込み,詳しくさえあればよいというものではない。案内の地図には何を載せるかよりも何を載せないかが重要である。神経疾患症例の脳あるいはその標本を前にしたときに必要なのは指南書--いたずらに網羅的でなく,地図と同じく簡にして要を得た指南書である。

 書評子はかつて本書の著者と同じ研究所に在籍した関係で,著者の研究室の膨大な症例コレクションを承知している。本書の執筆に際し,その中からどれを捨てるかということが最も頭の痛い点であったとの著者のつぶやきを耳にしている。何を捨て何を載せるかが考え抜かれたのが本書と言える。

医療現場におけるパーソナリティ障害―患者と医療スタッフのよりよい関係をめざして

著者: 有賀徹

ページ範囲:P.1264 - P.1264

パーソナリティー障害を知る最良の書

 この度,『医療現場におけるパーソナリティ障害 患者と医療スタッフのよりよい関係をめざして』が上梓された。救急医療に携わったことのある読者であれば,よく理解されていることと思うが,救急医療において精神医学的な支援を要する局面は多々あって,身体的な治療が一段落するや,しばしば精神科医にコンサルテーションをあおぐ。そのような中で,“パーソナリティ障害”を指摘される事例もまた少なからず経験される。そこでは,“パーソナリティ障害は病気なのか,病気でないのか”について質疑をしたり,一般的な精神病に比して“パーソナリティ障害は10倍も苦労が多い”などと聞いたりするものの,結局のところ,精神医学に疎い我々一般医にとって“パーソナリティ障害”を理解することはやさしいものでは到底なかった。これが我々一般医の本音である。

 本書の副題には「患者と医療スタッフのよりよい関係」が謳われているが,まずは我々が一定水準まで“パーソナリティ障害”を知ることがこのための大前提であろう。本書はその意味で我々一般医にそれを叶えてくれる,言わば“傑出した”良書である。もちろん,本書は実際の精神科診療に関するカンファランスを契機にまとめられたもので,精神科医にとってもこの分野で十分に役立つ内容が含まれている。それらは,著者らが大変よく噛み砕いて,親切に説明していることで一見してよくわかる。精神医学の奥の深さや社会とのつながり等々,きわめて含蓄の豊かなことに驚く。

基本情報

精神医学

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-126X

印刷版ISSN 0488-1281

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