文献詳細
文献概要
特集 災害精神医学の10年―経験から学ぶ 国際的活動
9.11米国同時多発テロ事件と海外におけるメンタルヘルスケア
著者: 神山昭男1
所属機関: 1外務省診療所
ページ範囲:P.319 - P.323
文献購入ページに移動はじめに
米国有数の大都市において未曾有の大被害を引き起こし,全世界に衝撃を与えた米国の同時多発テロ事件,いわゆる,「9.11(Nine Eleven)」から早くも4年の月日が経過した。
本事件により3,000名を超える多数の人々が犠牲となり,事件発生直後から負傷者の救護,安否確認などが懸命に取り組まれたが,混乱が渦巻く中で作業は遅々として進まず,突然の大惨事への対応の困難さを世界中に認識させる結果となった。
その後,本事件を契機として世界各地で危機管理が見直され,テロ事件や災害時を想定した対応マニュアルの策定,避難・救助手段の確保,平時における訓練の実施,警備治安対策の強化,メンタルヘルス対策を盛り込んだ救援活動が新たな世界的潮流となってきた6)。
精神医学界においては,1994年に米国精神医学会がDSM-IVに外傷後ストレス障害(PTSD)の症状と治療を掲載,これを中心とした治療戦略を国際トラウマティック・ストレス学会が2000年に公表,飛鳥井らにより2005年に和訳されるなど2),PTSDとその周辺の話題をめぐるフレームワークが徐々に形成されてきた。
他方,世界各地の在外公館(大使館・総領事館)が対応した邦人援護件数は2004年度に16,000件を上回り,援護案件の約5%は病気に関連し,その約3割をメンタルヘルス関連問題が占めている。これには,生死にかかわるような強い衝撃を受けて発症するPTSDや他の精神疾患など,本格的なケアを必要とする事案が含まれ,在外公館における医療支援の役割が年々大きくなっている8)。
そこで,本稿では本事件の被害の中心となったニューヨーク市(以下「NY市」)における初期対応,PTSD関連の調査研究の成果,ならびに在外公館における取り組みを概括し,海外におけるメンタルヘルスケアの基本課題を論じた。
米国有数の大都市において未曾有の大被害を引き起こし,全世界に衝撃を与えた米国の同時多発テロ事件,いわゆる,「9.11(Nine Eleven)」から早くも4年の月日が経過した。
本事件により3,000名を超える多数の人々が犠牲となり,事件発生直後から負傷者の救護,安否確認などが懸命に取り組まれたが,混乱が渦巻く中で作業は遅々として進まず,突然の大惨事への対応の困難さを世界中に認識させる結果となった。
その後,本事件を契機として世界各地で危機管理が見直され,テロ事件や災害時を想定した対応マニュアルの策定,避難・救助手段の確保,平時における訓練の実施,警備治安対策の強化,メンタルヘルス対策を盛り込んだ救援活動が新たな世界的潮流となってきた6)。
精神医学界においては,1994年に米国精神医学会がDSM-IVに外傷後ストレス障害(PTSD)の症状と治療を掲載,これを中心とした治療戦略を国際トラウマティック・ストレス学会が2000年に公表,飛鳥井らにより2005年に和訳されるなど2),PTSDとその周辺の話題をめぐるフレームワークが徐々に形成されてきた。
他方,世界各地の在外公館(大使館・総領事館)が対応した邦人援護件数は2004年度に16,000件を上回り,援護案件の約5%は病気に関連し,その約3割をメンタルヘルス関連問題が占めている。これには,生死にかかわるような強い衝撃を受けて発症するPTSDや他の精神疾患など,本格的なケアを必要とする事案が含まれ,在外公館における医療支援の役割が年々大きくなっている8)。
そこで,本稿では本事件の被害の中心となったニューヨーク市(以下「NY市」)における初期対応,PTSD関連の調査研究の成果,ならびに在外公館における取り組みを概括し,海外におけるメンタルヘルスケアの基本課題を論じた。
参考文献
1) 江帾良晴:米国同時多発テロに関する企業におけるメンタルヘルスの対応.産業精神保健 10:285-288,2002
2) Foa EB, Keane TM, Friedman MJ:認知行動療法,PTSDガイドライン エビデンスに基づいた治療戦略.金剛出版,pp60-83,2005
3) 外務省:平成14年版外交青書.外務省,2002
4) 木村徹也:海外日系企業におけるテロ・誘拐に関する危機管理(メンタルヘルスの観点から),テロ等による勤労者のPTSD対策と海外における精神医療連携に関する研究.生労働省科学研究費補助金 労働安全衛生総合研究事業,pp95-106,2005
5) 木村広希:回想 9.11NY総.論座 2003年12月号:172-185,2003
6) 金吉晴:災害時地域精神保健医療活動ガイドライン 学校内の殺傷事件を事例とした今後の精神的支援に関する研究.平成13年度厚生科学研究費補助金厚生科学特別研究事業,2001
7) 神山昭男:フランスにおける精神科救急.日本精神科救急学会誌 5:34-39,2001
8) 神山昭男:海外在留邦人のメンタルヘルスケアーサポート・ネットワークの構築が急務.心と社会 34:52-61,2003
9) 神山昭男:テロ,大規模緊急事態におけるメンタルヘルス・ケア・ハンドブック.外務省領事移住部邦人保護課,pp65-73,2004
10) 神山昭男:海外における邦人医師によるPTSDケアの基礎的研究.テロ等による勤労者のPTSD対策と海外における精神医療連携に関する研究.平成15年度厚生労働省科学研究費補助金 労働安全衛生総合研究事業,pp91-103,2004
11) 神山昭男,丸山千佳:海外主要都市において邦人が利用可能な医療施設の現況─外務省医務官の現地調査報告から.テロ等による勤労者のPTSD対策と海外における精神医療連携に関する研究.平成16年度厚生労働省科学研究費補助金 労働安全衛生総合研究事業,pp5-94,2005
12) ニューヨーク教育相談室:9.11テロ事件とPTSD,テロ事件と子どもの心─日本人学校・補習校におけるPTSD調査とケア.慶應義塾大学出版会,pp69-116,2004
13) Schlenger WE, Caddell JM, Ebert L, et al:Psychological reactions to terrorist attacks:Findings from the National Study of Americans’ Reactions to September 11. JAMA 288:581-588, 2002
14) Thompson WC Jr:Lost Gross City Product 2001-2004. One year Later, The Fiscal Impact of 9/11 on New York City, Comptroller City of New York, New York, pp8-22, 2002
15) van der Kolk BA:衝撃的な体験が及ぼす心理的影響.サイコロジカル・トラウマ.金剛出版,pp17-46,2004
16) 横浜市ニューヨーク事務所:各機関による対応,同時多発テロの被害と救助活動─NY市の対応と今後の課題.横浜市総務局危機管理対策室,pp19-43,2002
掲載誌情報