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雑誌目次

論文

精神医学48巻7号

2006年07月発行

雑誌目次

巻頭言

集中内観を受けて

著者: 曽良一郎

ページ範囲:P.704 - P.705

 内観(内観法,内観療法)は50年ほど前に吉本伊信氏が「身調べ」と呼ばれていた自己省察法をもとにして創始された純国産の心理療法もしくは修養法です。森田療法とならび内観療法は日本独自の精神療法として精神医学の教科書にも記載され医学部の臨床講義でも紹介されますが,実際に内観療法を行っている医療施設は限られています。私の集中内観との出会いは岡山大学精神科に入局した際の指導医であった堀井茂男先生(現慈圭病院副院長)が大学病院の精神科の入院患者に集中内観を行っていたのが最初でした。1週間の集中内観の間,堀井先生が1~2時間ごとに入院患者に面接を行い,食事も,日に三度,自ら患者の部屋に運んで行かれるのを見て,研修医であった自分には集中内観を受ける側にも施す側にもとうていなれないと感じました。1週間という長い時間が確保できてはじめて可能な集中内観を受けるには相当な覚悟を要します。このことが実施されている医療施設が限られる一つの理由であろうし,私自身が集中内観を受けるまでに出会いから20年以上かかった理由の一つでもあったと思われます。

 私の専門領域が分子神経生物学の手法を用いた生物学的精神医学であることから,精神科医というよりも神経科学の基礎医学者として精神疾患を研究しているような印象をお持ちの方が多いように思います。確かに遺伝子ノックアウトマウスを作製・解析している期間は,遺伝子を切ったりつなげたりという組換えDNAの実験などに集中する必要がありましたので精神科臨床からはしばらく離れていました。しかし,精神科入局後は単科精神病院を含めて約10年間,精神科臨床を続けていましたので,自分では意識していないにもかかわらず心理療法の一つである内観に惹かれていたのだと思います。昨年は東北大学に赴任して4年目となり精神・神経生物学分野という新設の教室の立ち上げも一段落し,この機会を逃しては集中内観を受けることは一生ないだろうと思いましたので,スケジュールをやりくりして2005年秋に奈良内観研究所を訪れました。

オピニオン 操作的診断基準の有用性と限界をめぐる今日的問題

ICDの過去,現在,未来―国際的視点から,操作的診断を考える

著者: 新福尚隆

ページ範囲:P.706 - P.708

はじめに

 このテーマに関してオピニオンを述べられる専門家の多くは臨床精神科医で,臨床の立場からの意見が多いと思われる。私は,国際的な保健医療行政の立場からICDをはじめとする操作的診断についての意見を述べたい。

 WHOにとって診断基準作成の目的は,途上国を含めて世界中から,死亡,発病,有病に関しての信頼できるデータを集め,国際的な疾病動向をとらえ,有効な予防方法,治療方法を策定することである。ICDは,そうした目標を達成するための必要不可欠の道具である。ICD-10の第5章「精神および行動の障害」に掲載してある100の診断名(F00-F99)は,感染症や生活習慣病を含む3,000以上の診断リストの一部である。

操作的診断体系の今日的問題―精神病理学の見地から

著者: 加藤敏

ページ範囲:P.709 - P.713

 1875年パリでのメートル法の制定を皮切りに,全世界に波及する規格化の作業がさまざまな領域で順次進行していった。それは自己拡大していく人間相互の交流の必要性にこたえるうえでもごく自然な動きで,産業社会と科学的研究,医療の発展にとり欠かせない基本原理といえる。DSM,ICDによる精神障害の分類体系は,精神医学領域におけるこの文字通りグローバルな規格化の初めての実現形態といえる。こうして精神医学が共通語,あるいは標準語を手にした意義は大きい。しかしながら,計量化と視覚化がなかなか一筋縄では行かない領域だけに,この試みが大きな困難を伴うことは最初から予想されるところであった。

精神医学における症候学的診断基準の意義―生物学的精神医学の立場から

著者: 倉知正佳

ページ範囲:P.714 - P.716

 精神医学で用いられている診断分類とその手引きとしては,世界保健機構(WHO)の国際疾病分類第10版(ICD-10)「精神および行動の障害」10)とアメリカ精神医学会の「精神疾患の診断・統計マニュアル」(DSM-Ⅲ1)~DSM-Ⅳ-TR3))がある。これらは,精神医学の臨床と研究における国際的な共通言語を提供し,それにより精神医学の進歩に大きな貢献をしている。

 ICD-10の「臨床記述と診断ガイドライン」では,まず,各障害の概念が記述され,その後に診断ガイドラインが用意されている。このガイドラインは,臨床用の診断指針であり,厳密な意味での診断基準ではない。診断に必要な項目も,たとえば,統合失調症では,「少なくとも1つのきわめて明らかな症状(十分に明らかでなければ,ふつう2つ以上であること)」10)(p99)と述べられているなど,「臨床における診断決定にある程度の柔軟性が保持されるように記載されている」10)(p2)。これは臨床の実際に即しているともいえる。精神科では伝統的には,各精神障害(疾患)の記述的概念に基づいて診断が行われていた。それは,その障害の典型像に基づく診断なので,各医師が脳裡に描く典型像に相違がある場合は,それ以上の議論は困難になることが少なくなかった。診断ガイドラインを取り入れることにより,この点がある程度克服され,共通の土俵が提供されることになった。これは,DSM-Ⅲの長所を取り入れた結果と思われる。

操作的診断基準の有用性と限界をめぐる今日的課題―児童精神医学の立場から

著者: 山崎晃資

ページ範囲:P.717 - P.719

児童精神医学と操作的診断基準

 力動的精神医学を基盤にして発展してきた児童精神医学においては,伝統的に診断分類(グループ的接近,名称的診断)よりも診断フォーミュレーション(個人的接近,自己歴的診断)が重視されてきた。Kanner4)は,Diagnosis(診断)のギリシャ語の語源が「知識のすべて」という意味であることから,単なる疾病や状態に名称をつけることを越えて,その人についての知識を完全なものとするために,問題そのものについての認識,問題を生じた因子,問題を持つ子どもについての理解を包含したものでなくてはならないと強調した。

 1980年のDSM-Ⅲの登場は衝撃的であった。多軸診断が取り入れられ,第1軸に広汎性発達障害(最初は「全般性発達障害」と訳されていた)が,第2軸に人格障害と特異的発達障害が記載され,重複診断が推奨された。しかし,わが国では第4軸(心理社会的ストレスの強さ)と第5軸(過去1年間の適応機能の最高レベル)が,それほど活用されなかった。ここでは,DSM診断を取り上げて,児童精神医学における操作的診断基準の諸問題について述べる。

認知症における操作的診断基準の有用性と限界

著者: 三好功峰

ページ範囲:P.720 - P.722

はじめに

 DSMで代表される操作的診断は,一定のシステムに基づいて,すべての精神障害にいずれかの診断名をつけるという目的を持つと言えよう。そのために,精神病像の現象面を操作的に扱うことに徹底し,精神障害の背景にある事象についての考慮は敢えて行わないという立場が貫かれている。ことに器質性精神障害のような,生物学的な基盤が明らかで疾患分類が可能な精神障害においてさえも,症状分類が採用されている。一方では,このようなやり方によって,これまで精神医学の歴史のなかで大切にされてきた精神疾患に関する概念が,少なからず切り捨てられることになったことも確かである。ただ,従来診断と比べると,診断基準が示されているだけに客観的な診断が可能となるものであり,恣意的な診断を避ける意味でも有用である。

 ここでは,認知症における操作的診断基準の有用性と限界について考えてみる。

展望

虐待が脳におよぼす影響

著者: 田村立 ,   遠藤太郎 ,   染矢俊幸

ページ範囲:P.724 - P.732

はじめに

 2004年度の厚生労働省発表によるわが国の子ども虐待相談処理件数は,32,979件であり5年前(2000年度:17,725件)比べ約2倍,10年前(1995年2,722件)と比べ約12倍と増加の一途をたどっている(図1)。虐待の種類としては,身体的虐待(非偶発的,反復的,継続的,しつけ・体罰を超えている暴力),性的虐待(大人が子どもに対して,性的満足を満たすために行う行為),ネグレクト(養育者による養育の放棄・拒否,養育の無知)および心理的虐待(家庭内暴力を日常的に目撃させるような極端な心理的外傷を子どもに与える行為)が知られている。子ども虐待は,米国で1980年代に注目され始め,深刻な社会問題となったが,わが国で社会的に注目されるようになったのは,図1からも明らかなように,ここ数年のことである。単純計算できる話ではないが,わが国の子ども虐待に関する社会的認知,医学的な積み重ねは,米国に比し10年遅れているといっても過言ではないだろう。

 虐待と精神疾患の関係については,これまでも繰り返し報告されており,反応性愛着障害,外傷後ストレス障害(PTSD),解離性障害,反抗挑戦性障害,行為障害,気分障害,摂食障害,境界性パーソナリティ障害(BPD)や反社会性パーソナリティ障害など長期にわたり多彩な精神病状を示すといわれている32)。特に,解離性同一性障害やパーソナリティ障害のように,虐待が被虐待児の人格形成にも大きく影響を与えることから,小児期の虐待は発達期の小児の脳に何らかの影響を与えていることが示唆される。

 被虐待児(主にPTSD児)を対象にした過去の生理学的研究においては,強度聴覚刺激に対する反応における馴化の異常21,26),事象関連電位の異常所見20,22),知覚刺激の評価が困難で覚醒水準の調節が困難27),多動の行動パターンを示す過覚醒状態12)などが示されている。これらの報告をまとめて,van der Kolk35)は,被虐待児は,注意集中と刺激弁別に異常が生じているため,刺激に対して検討を行わずに即座に反応する傾向があるとまとめている。以上のように,生理学的の研究からは,被虐待児が健常児とは異なる病態生理を持つことがうかがえる。

 近年のneuroscience,特にneuroimaging技術の急激な進歩により,我々はin vivoで間接的に脳内の情報を知ることが可能となり,被虐待児の臨床症状に関連する脳の領域が徐々に明らかにされている。そこで本稿では,小児期の虐待が脳にどのような影響を与えるかについて,これまでのneuroimaging研究で明らかにされていることを紹介し,若干の考察を加えて論じていきたい。

研究と報告

言語性幻聴を呈した橋聴覚幻覚症の1例

著者: 菊地章人 ,   澤村岳人 ,   河本勝 ,   佐野信也 ,   野村総一郎

ページ範囲:P.733 - P.741

抄録

 橋病変に伴う幻覚症状では言語性幻聴はまれである。言語性幻聴が持続し,橋梗塞が責任病変と考えられた1例を報告した。症例は66歳男性。当院初診の2年前から「左側からだけ聞える」言語性幻聴が出現し,幻聴に対する批判力は保持されていたが,幻聴が増悪したため当院を初診した。疎通性は良好であり,見当識障害や記憶障害を認めず,幻聴への批判力が保たれていたので,器質性幻覚症が疑われた。神経学的所見から橋左側の障害が示唆され,MRIでは橋底部に小虚血性病変を認めた。経過を通じてリスペリドンが幻聴に有効であった。本症例の幻聴は橋を複雑に走行する聴覚路の直接的な障害による可能性が考えられた。

抑うつ寛解過程における微小再燃のメカニズム―Tellenbach:『メランコリー』の考察を通じて

著者: 小野博行

ページ範囲:P.743 - P.750

抄録

 出勤日は好調を維持できているが,連休・夏期休暇など連続した休みの期間に,日を追うにつれ,微小再燃といえるような悪化を示す症例につき,そのメカニズムを,Tellenbachの『メランコリー』の綿密な検討を通じて,外的評価系の中で与えられた役割を休日中には遂行できず,要求水準の実現不能が生じて,内的賞罰系の「賞-罰」バランスが「罰」方向に傾斜して行く過程が生じたものととらえ,その過程の開始をもたらす病理構造として「収縮期的緊張」の消失を挙げた。そして,抑うつ寛解の要件として,外的評価系からの持続的な役割遂行的賦活がなくても「賞-罰」バランスの安定性が保たれていること,すなわち「収縮期的緊張」の維持,を挙げた。

CNSループスの神経・精神症状に対してバルプロ酸が奏効した4例

著者: 竹内賢 ,   三浦至 ,   丹羽真一

ページ範囲:P.751 - P.757

抄録

 バルプロ酸が易刺激性,抑うつ,意識変容などの精神症状と頭痛などの神経症状に対し奏効したと思われるCNSループス症例を経験した。4症例は,いずれもSLEの増悪にほぼ一致して精神・神経症状を示し,SPECT所見,血清自己抗体所見からCNSループスと診断された。診断後,2症例では内科的治療の変更なしに,2症例では内科的治療とともにバルプロ酸の投与を行い,頭痛,倦怠感,意識変容,精神不穏などの速やかな改善を見た。CNSループスの改善がバルプロ酸内服のみによってもたらされたと断定はできないが,バルプロ酸投与はCNSループスに対し有用で試みる価値のある治療法と考えられた。

気分障害および不安障害における月経前症候群の頻度―健常女性との比較

著者: 伊藤ますみ ,   松原良次

ページ範囲:P.759 - P.763

抄録

 月経前症候群(PMS)または月経前不快気分障害(PMDD)と精神疾患との関連を探るために気分障害および不安障害における月経前の症状を調べ,健常対照群と比較した。その結果,いらいら感,抑うつ気分,不安が認められた例は対照群48%に対し,気分障害群76%,不安障害群69%であった。このうち重度の精神症状を示し,PMDDが疑われた例は対照群8.6%に対し,気分障害群31%,不安障害群20%と有意に高率だった。精神症状と身体症状の重症度には相関が認められ,気分障害群および不安障害群では対照群よりも有意に重症例が多かった。本結果よりPMSならびにPMDDと気分障害および不安障害との関連が高いことが示され,共通する病態基盤が推測された。

短報

橋外髄鞘崩壊症により生じた認知機能障害に塩酸アマンタジンが奏効した1症例

著者: 安藤英祐 ,   市村篤 ,   猪股誠司 ,   大屋彰利 ,   髙沢研丞 ,   山際武志 ,   山本理絵 ,   青木弘道 ,   藤山紘千 ,   自見英子 ,   二村泰弘 ,   青木孝之 ,   猪口貞樹 ,   松本英夫

ページ範囲:P.765 - P.768

はじめに

 中心性橋融解症(central pontine myelinolysis,以下CPM)は1959年にAdamsら1)が橋中央部に対称性に非炎症性の脱髄病変を認める症例を報告したのが最初である。続いてWrightら10)は橋以外の部位にCPM同様の病変が起こる例をまとめ,橋外髄鞘崩壊症(extrapontine myelinolysis,以下EPM)として報告した。今回我々はEPMの症例に塩酸アマンタジンを投与したところ,安静時振戦に加えて認知機能障害の改善を認めた症例を経験したので報告する。なお,報告にあたって口頭にて本人の同意を得た。また,科学的考察のために支障のない範囲でプライバシー保護のために症例の内容を変更した。

てんかんについての教育が効果的であったパニック障害の1例―夫のてんかん発作を契機に発症した女性の治療経過

著者: 宮﨑哲治 ,   松下兼宗 ,   村上伸治 ,   澤原光彦 ,   中川彰子 ,   青木省三

ページ範囲:P.769 - P.772

はじめに

 てんかんに対する誤解・偏見は現在でも思いの外深刻である。患者本人だけでなく,患者の家族も誤解・偏見のため不利益を被ることがあり,人知れず悩んでいることがある。今回我々は,実父にてんかんの既往歴があり,その事実を誰にも言えずまた子どもにてんかんが遺伝する不安を抱えながら生活していたところ,夫に強直間代発作が起こったためパニック障害を発症した女性の治療経過において,てんかんについての教育が効果的であった症例を経験したので,若干の考察を加え報告する。

Risperidoneの剤形変更に伴い副作用に改善がみられた5症例

著者: 上村恵一 ,   高橋義人 ,   安田素次

ページ範囲:P.773 - P.775

はじめに

 Risperidone(以下RIS)は日本で認可された最初の新規非定型抗精神病薬であり,統合失調症の陽性症状だけでなく,陰性症状にも効果があると報告されている2,7)。非定型抗精神病薬は,定型抗精神病薬に比べて錐体外路系副作用が生じにくく,高プロラクチン血症を来しにくいとされている7)。しかし,RISは新規非定型抗精神病薬の中では最も錐体外路症状が出現しやすく6),また高プロラクチン血症を来しやすい薬剤であるといわれている1,5)。錐体外路症状はいうまでもなく患者のADL(Activities of Daily Living)を妨げ,一方,高プロラクチン血症は無月経,性機能障害,骨密度の低下などを惹起することが指摘されている8)

 今回我々は,妄想型統合失調症(ICD-10:F20.0)と診断され,RIS錠剤から同用量の内用液に剤形変更されたA病院に通院もしくは入院中の患者5名を対象に,変更日および変更8週後に,BPRS(Brief Psychiatric Rating Scale),DIEPSS(Drug-Induced Extrapyramidal Symptoms Scale),および血中プロラクチン濃度をおのおの評価,測定したところ興味深い結果を得たため,若干の考察を加えて報告する。なおRISはいずれも夕食後1回投与であり,血中プロラクチン濃度測定のための採血は午前9~10時の間に施行した。また,対象の患者のうち4名については患者本人から,高齢にて疎通不良の1名については家族から口頭にて同意を得て,剤形変更を行った。

治療抵抗性統合失調症に対し使用したestriolによる不正性器出血がraloxifene投与にて改善した1例

著者: 萬谷昭夫 ,   藤川徳美 ,   大森信忠

ページ範囲:P.777 - P.779

はじめに

 統合失調症患者の抗精神病薬への反応性にはエストロゲンが関与していると考えられており8,9),エストロゲンにはdopamine系や5-HT系をdown-regulateする作用や神経成長因子への作用,脳保護作用などがあると報告されている。高齢の女性統合失調症患者に対してestradiol(E2)やestriol(E3)4)が臨床効果を認めたとの報告がいくつかみられる一方,エストロゲン投与による乳癌や子宮癌の発症や不正性器出血が問題となっており,子宮癌の発症を予防する目的でprogesteroneが広く併用されているが,逆に乳癌の発生頻度は増加する7)

 閉経後骨粗鬆症治療剤として開発された選択的エストロゲン受容体モジュレーター(SERM)のraloxifene(RAL) は乳腺,子宮ではエストロゲンに拮抗作用を示し,中枢神経においてはエストロゲン作用を示す10)ため,閉経後の治療抵抗性統合失調症患者治療における有効性と安全性が予想され,エストロゲンとRALを併用することにより乳癌,子宮癌の発症や不正性器出血を軽減できる可能性がある。

 今回我々はE3が効果のあった治療抵抗性統合失調症の女性患者に対し,E3にRALを併用することにより不正性器出血を改善させた症例を経験した。RALがエストロゲンによる副作用軽減に効果があると考えられたので報告する。

私のカルテから

多種精神疾患併存の人格障害患者の治療

著者: 田代信維 ,   帆秋孝幸

ページ範囲:P.781 - P.782

はじめに

 神経症圏内の疾患にあって種々の症状を訴えて来院する患者を散見する。中でも人格障害が基盤にあると,患者の問題行動でさらに症状が複雑化し,その診断と治療に戸惑うことも多い。本症例は,5種以上の疾患を抱えて来院したが,その治療経過で人格障害が明らかとなり,薬物療法に加え,人格障害の改善を期待して母子関係再教育4)を試みた。

Diazepamと抗コリン薬の中止で重度痴呆状態から劇的に回復した高齢者症例

著者: 上田諭 ,   小山恵子 ,   伍賀史子 ,   佐藤克彦 ,   薬師崇 ,   白川和枝

ページ範囲:P.783 - P.785

はじめに

 痴呆の診断で,薬剤誘発性をはじめとするせん妄との鑑別は常に念頭に置くべき問題であろう。今回筆者たちは,服用していたdiazepamと抗コリン薬の中止により,重度の痴呆状態から劇的に回復した高齢者症例を経験したので,臨床経過を示し考察した。

動き

精神医学関連学会の最近の活動―国内学会関連(21)

著者: 高橋清久

ページ範囲:P.787 - P.812

 今年も精神医学に関連した学術団体の活動の様子をお知らせする時期になりました。私がこの欄を大熊国立精神・神経センター名誉総長から引継いでからはや4年が経ちました。その間にご紹介する団体の数も47から56へと大変増加しました。この発展振りは精神医学が学際的な学問であることや,社会の関心が「こころ」に向かっていることと無関係ではないと思います。

 本欄は日本学術会議の精神医学研究連絡委員会の活動として当時の島薗会員が始められたものです。島薗先生は13,14,15期の3期9年を勤められ,その後大熊先生が16,17期の2期6年を勤められました。私は18,19期と二期会員をつとめ,現在は連携会員として日本学術会議に在籍しております。

書評

英国保健省 精神保健に関するナショナル・サービス・フレームワーク―5年の経過

著者: 松原三郎

ページ範囲:P.813 - P.813

 本書は英国保健省が1999年から10年計画で取り組んできた精神保健医療福祉改革の初期の5年間の報告書である。このような諸外国の精神保健施策に関する報告書の翻訳は他に例がなく,わが国の精神保健施策を見直す貴重な資料である。本書がわが国の精神保健関係者に与える影響は計り知れない。関係者必読の書と言っても過言ではない。

 本書は2人の翻訳者(伊勢田堯氏,田中英樹氏)による序文から始まっており,この報告書は,それまで経済的効率を重視しすぎたサッチャー政権の施策のために荒廃した医療と福祉を,1997年に誕生したブレア政権が「公正」と「効率」の双方を重視した新しい施策へ転換したことから始まるなどの解説がされている。国民保健サービス(NHS)の改革は,疾患別のナショナル・サービス・フレームワーク(NSF)を設定することで進められ,これを推進するためにイングランド国立精神保健研究所(NIMHE)が設立され,科学的なモニタリングと分析に基づいて進められている。

モーズレイ 実地精神医学ハンドブック

著者: 青木省三

ページ範囲:P.815 - P.815

 本の紹介に入る前に,訳者の洲脇寛先生のことを記したい。洲脇先生は私が研修医だったころ,その大学病院精神科の病棟医長をされており,私にとっての精神科医の最初のモデルであった。

 ある時,急性期の患者さんが離院しようとでもしたのか,閉鎖病棟から勢いよく走り出てきた。それに気づくと,彼はさっと駆け寄り,ふんわりとしかしガッチリと抱きかかえたのだ。そのシーンは私の記憶に今もしっかりと刻まれていて,臨床家のあるべき姿として事あるごとに蘇ってくる。患者さんの意思に反した強制はできる限り少なくしたい。しかし,治療を引き受けた以上,責任を持って治療にあたらなければならない。矛盾した思いであるが,しかし毅然として両立させる。傍らで呆然と立っていた私とガッチリと抱き止めた洲脇先生。その一瞬は私に多くのことを考えさせた。

21世紀のリチウム療法

著者: 渡邉昌祐

ページ範囲:P.816 - P.816

 平素からリチウムの基礎・臨床の研究を精力的に進めておられる寺尾教授が「21世紀のリチウム療法」を出版された。最近のリチウム臨床研究のメタ解析の発表論文をわかりやすく解説しながらリチウムの臨床効果を再評価し,まとめた内容である。

 取り上げてある項目は,躁病急性期,抗躁効果の予測,うつ病急性期,躁うつ病相の維持と予防,予防効果の予測,自殺の予防,抗うつ薬抵抗性うつ病,コタール症候群を伴ううつ病,統合失調症であり,さらに,二重盲検比較試験による人格障害,知的障害者の問題行動に対するリチウムの評価,さらに,周期性思春期障害に対する間欠的投与方法,または前駆症状期の間欠投与,ステロイド投与中のうつ状態のリチウム療法の経験が取り上げられている。

基本情報

精神医学

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-126X

印刷版ISSN 0488-1281

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