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オピニオン 操作的診断基準の有用性と限界をめぐる今日的問題
精神医学における症候学的診断基準の意義―生物学的精神医学の立場から
著者: 倉知正佳1
所属機関: 1富山大学医学部精神神経医学教室
ページ範囲:P.714 - P.716
文献購入ページに移動 精神医学で用いられている診断分類とその手引きとしては,世界保健機構(WHO)の国際疾病分類第10版(ICD-10)「精神および行動の障害」10)とアメリカ精神医学会の「精神疾患の診断・統計マニュアル」(DSM-Ⅲ1)~DSM-Ⅳ-TR3))がある。これらは,精神医学の臨床と研究における国際的な共通言語を提供し,それにより精神医学の進歩に大きな貢献をしている。
ICD-10の「臨床記述と診断ガイドライン」では,まず,各障害の概念が記述され,その後に診断ガイドラインが用意されている。このガイドラインは,臨床用の診断指針であり,厳密な意味での診断基準ではない。診断に必要な項目も,たとえば,統合失調症では,「少なくとも1つのきわめて明らかな症状(十分に明らかでなければ,ふつう2つ以上であること)」10)(p99)と述べられているなど,「臨床における診断決定にある程度の柔軟性が保持されるように記載されている」10)(p2)。これは臨床の実際に即しているともいえる。精神科では伝統的には,各精神障害(疾患)の記述的概念に基づいて診断が行われていた。それは,その障害の典型像に基づく診断なので,各医師が脳裡に描く典型像に相違がある場合は,それ以上の議論は困難になることが少なくなかった。診断ガイドラインを取り入れることにより,この点がある程度克服され,共通の土俵が提供されることになった。これは,DSM-Ⅲの長所を取り入れた結果と思われる。
ICD-10の「臨床記述と診断ガイドライン」では,まず,各障害の概念が記述され,その後に診断ガイドラインが用意されている。このガイドラインは,臨床用の診断指針であり,厳密な意味での診断基準ではない。診断に必要な項目も,たとえば,統合失調症では,「少なくとも1つのきわめて明らかな症状(十分に明らかでなければ,ふつう2つ以上であること)」10)(p99)と述べられているなど,「臨床における診断決定にある程度の柔軟性が保持されるように記載されている」10)(p2)。これは臨床の実際に即しているともいえる。精神科では伝統的には,各精神障害(疾患)の記述的概念に基づいて診断が行われていた。それは,その障害の典型像に基づく診断なので,各医師が脳裡に描く典型像に相違がある場合は,それ以上の議論は困難になることが少なくなかった。診断ガイドラインを取り入れることにより,この点がある程度克服され,共通の土俵が提供されることになった。これは,DSM-Ⅲの長所を取り入れた結果と思われる。
参考文献
1) American Psychiatric Association(高橋三郎,花田耕一,藤縄昭 訳):DSM-Ⅲ 精神障害の分類と診断の手引き.医学書院,p5,95,236,1980
2) American Psychiatric Association(高橋三郎,花田耕一,藤縄昭 訳):DSM-Ⅲ-R精神障害の分類と診断の手引き.医学書院,p99,1988
3) American Psychiatric Association(高橋三郎,大野裕,染谷俊幸 訳):DSM-Ⅳ-TR精神疾患の診断・統計マニュアル.医学書院,pp27-28,2002
4) Braunwald E, Fauci AS, Kasper DL, et al(eds.)(福井次矢,黒川清 監訳):ハリソン内科学 2 原著第15版.メディカル・サイエンス・インターナショナル,p2165,2003
5) Nakamura K, Kawasaki Y, Suzuki M, et al:Multiple structural brain measures obtained by three-dimensional magnetic resonance imaging to distinguish between schizophrenia patients and normal subjects. Schizophr Res 30:393-404, 2004
6) 尾崎紀夫:境界性パーソナリティ障害の診断体系を踏まえて生物学的検証について考える.松下正明,加藤敏,神庭重信 編,精神医学対話.弘文堂(印刷中)
7) Tsunoda M, Kawasaki Y, Matsui M, et al:Relationship between exploratory eye movements and brain morphology in schizophrenia spectrum patients. Eur Arch Psychiatry Clin Neurosci 255:104-110, 2005
8) 山末英典,笠井清登,加藤進昌:外傷後ストレス性障害の神経機構.神経進歩 50:153-159,2006
9) Yung AR, Phillips LJ, Yuen HP, et al:Psychosis prediction:12-month follow up of a high-risk(“prodromal”)group. Schizophr Res 60:21-32, 2003
10) World Health Organization(融道男,中根允文,小見山実 監訳):ICD-10精神および行動の障害.医学書院,p2,99,1992
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