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雑誌目次

雑誌文献

精神医学48巻8号

2006年08月発行

雑誌目次

巻頭言

若き精神科医の育成

著者: 福居顯二

ページ範囲:P.826 - P.827

 数年前から京都洛北,岩倉にある福祉施設に知人を時々訪ねますが,大雲寺跡にある不動の滝,霊泉で有名な閼伽井の周辺は岩倉保養所の往時を偲ばせています。昨年機会があり,日本森田療法学会を担当し,以前から一度自分で調べたいと思っていた岩倉保養所,京都癲狂院について「京都の精神医療史」と題して発表しました。といっても,すでに精神医療史に造詣の深い先達の記した論文を渉猟したに過ぎませんが,学内の図書館に所蔵されている,「精神病約説」(神戸文哉訳),「癲狂院諸規則」,「癲狂院治療條則」「療病院雑誌」と,京都府資料館にある「京都府,府史第二篇, 癲狂院一件」などは実際に目を通しました。

 京都府が南禅寺方丈を借りて発足した癲狂院の特徴はいろいろありますが,特筆すべきは,①明治8(1875)年7月25日の開院式で,当時粟田口青蓮院に開設された療病院(京都府立医科大学の前身)に招かれていた外国人医師ヨンケルが祝辞の中で「病者ヲシテ庭園ニ逍遥シ花世遊観ニ情意ヲ慰メシム」と述べていること,②「癲狂院諸規則」15条の「患者ノ症緩ヤカナル者ハ養生ノ為ニ是迄手馴レタル職業ヲ為サシメルコトアルベシ」にあるように,患者さんにすでに今日の作業療法にあたるものを取り入れていたこと,③神戸文哉が主幹となり明治12(1879)年3月に発刊された「療病院雑誌」に,癲狂院における7年間の入退院記録(診断,予後,転帰や症例など)が詳細に記載されていることが挙げられます。いずれも精神障害を持つ患者さんに対して,英国式の優しいかつ人道的な処遇がなされていたことがよくわかります。しかし良質の医療は経済的に徐々に破綻を来し,わずか7年で廃院となりました。

展望

進行性核上性麻痺の精神症状

著者: 内門大丈 ,   都甲崇 ,   小阪憲司

ページ範囲:P.828 - P.837

はじめに

 進行性核上性麻痺(progressive supranuclear palsy;PSP)は,皮質基底核変性症(corticobasal degeneration;CBD)などとともにパーキンソン病関連疾患と呼ばれる。一方,最近の生化学的・免疫組織学的研究の結果,PSPは4リピートタウオパチーの一疾患であり,シヌクレイノパチーに分類されるパーキンソン病(Parkinson's disease;PD)やレビー小体型認知症(dementia with Lewy bodies;DLB)とは異なる生物学的背景を有することが明らかにされている。PSPはパーキンソニズムや核上性眼球運動障害といった特徴的な神経症状を呈することでよく知られているが,PDやDLBなどの他のPD関連疾患と同様に,認知障害や精神症状を合併することも少なくない。たとえば,PSPの認知障害はひと括りに皮質下性認知症(subcortical dementia)と称されることも多いが,近年の報告ではしばしば人格面での変化や抑うつなどの精神症状を呈することが示されている。PSPが神経症状を中心としたいわゆる「神経疾患」であり精神科医が主治医としてかかわることが少ない疾患であるために,こうしたPSPの認知障害や精神症状は看過されることも少なくない。しかし,他の神経変性疾患と同様に,進行性の疾患であることやその神経症状に対してドパミン作動薬の効果が限定的である現状を考慮すれば,患者の生活の質(quality of life;QOL)の視点からも認知機能や精神症状の評価を行い適切なケアを行っていくことは重要である。本稿では,PSPの概念と病態,さらに認知障害や精神症状を中心とした臨床的特徴とその病態生理,治療を概説し,最後に精神科医の役割に関しても述べる。

研究と報告

ビデオを用いた精神科臨床面接学習の残存効果に関するアンケート調査

著者: 太田敏男

ページ範囲:P.839 - P.847

抄録

 ビデオを使用した臨床面接検討の記憶や影響が後年どの程度残るかを調べる目的で,面接者として参加した30人に対し,3年以上を経過した時点でアンケート調査を実施した。記憶に残っている内容は相手よりも自分のことが多く,また意識・思考内容よりも表情,姿態,振舞,話し方などが多かった。そうした自分のイメージの多くは意外感や驚きの感情を伴って想起されていた。想起場面は検討会の様子とビデオ画面が多く,撮影時の面接自体は少なかった。有用性については,直後よりも後日に役立ったという回答が多かった。これらの回答には個人差が大きいことから,今後の同様な研究では,個々人に応じた目標設定ややり方の工夫が必要と思われた。

抗うつ薬による治療中に躁症状を呈した気分障害の臨床的検討

著者: 新屋美芳 ,   鈴木克治 ,   田中輝明 ,   増井拓哉 ,   高丸勇司 ,   小山司

ページ範囲:P.849 - P.856

抄録

 単極性うつ病として抗うつ薬による治療中に,DSM-IVに基づく軽躁病あるいは躁病エピソードの基準を満たしたことがある症例のうち,その後の経過で抗うつ薬使用中以外には躁転経験のない(「うつ病性障害群」と定義)11例と,自然躁転を経験した「双極性障害群」13例の臨床的特徴を比較した。

 抗うつ薬への感受性や躁病エピソードの症状項目の数に有意な差が認められた。抗うつ薬使用中の躁転に関して,当該うつ病相に対し最後に使用した抗うつ薬を開始してから61日以上経過して躁転し,かつDSM-IVの躁病エピソード基準Bの症状項目を4項目以上満たす場合,誤判定率1.1%で双極性障害の診断が可能と計算された。また,抗うつ薬使用中の躁転では自然躁転に比較して注意散漫が目立たなかった。

 今回の検討結果は,遡及的調査の限界はあるものの,抗うつ薬誘発性の躁病相に対して客観的な臨床指標により診断を確定できる可能性を示唆している。これらの指標により,治療の方向づけが早期になされ,的確な治療につながることが期待される。

飲酒運転実態調査

著者: 長徹二 ,   林竜也 ,   猪野亜朗 ,   原田雅典 ,   平野建二 ,   清水新二 ,   長内清行 ,   鳥塚通弘 ,   根來秀樹 ,   岸本年史 ,   関西アルコール関連問題学会飲酒運転調査委員会

ページ範囲:P.859 - P.867

抄録

 2002年6月1日より飲酒運転の基準変更と厳罰化の結果,飲酒運転による事故は大幅に減少したが,飲酒運転を習慣的に繰り返す者はいまだに多く認められる。飲酒運転の習慣性を持つ人の中には多くのアルコール依存症者が存在していると考えられる。今回はアンケート調査を実施して飲酒運転の実態について調べ,健常対象者とアルコール依存症者の道路交通法の改正に対する行動変化を中心に調査した。結果として,アルコール依存症者だけでなく,健常対象においても飲酒量の多い者,飲酒頻度の高い者,男性において飲酒運転の習慣性のリスクが高かった。加えて,アルコール依存症者や男性においては厳罰化による影響は不十分であり,周囲の支援体制や社会的風潮による影響によって,飲酒運転の減少がもたらされていた。飲酒運転の問題は行政や司法に加え,医療の協力が必要であり,協力体制を作っていくべきであると考える。

統合失調症患者の出生日と月の満ち欠けとの関係について

著者: 中嶋純洋

ページ範囲:P.869 - P.872

抄録

 ICD-10に基づいて統合失調症と診断された患者1,062名(男性580名,女性482名)の出生日の月齢分布を調査した。男性患者では明瞭な分布傾向を見いだすことはできなかったが,女性においては望(満月)および朔(新月)の時期に比較的多く,月齢5日前後と20日前後に谷を有するなだらかな分布傾向が比較的に普遍的(p=0.084)にみられた。しかし当調査では,同分布の不均等性を統計的有意性(p<0.05)をもって検出するには至らず,さらに母数を増やした調査が望まれる。女性統合失調症患者の出生日にみられる不均一な月齢分布は,人体への潮汐力の影響と関係している可能性がある。

maintenance ECTが寛解維持に有効であった遅発緊張病の1症例

著者: 朴秀賢 ,   吉田尚子 ,   廣田正志 ,   本間裕士 ,   岩崎俊司 ,   松原繁廣 ,   山岸昭夫 ,   朝井裕一

ページ範囲:P.873 - P.880

抄録

 遅発緊張病では薬物治療への抵抗性や不耐性のために治療に難渋することが少なくない。また,ECTは多くの場合有効であるが治療終了後の再発率が高いことが知られている。今回,我々は,薬物治療にて改善がみられなかったが,ECTにて改善が得られ,1年以上にわたってmaintenance ECTを継続することにより寛解が維持されている遅発緊張病の1症例を経験した。ECTは遅発緊張病の症状改善のみならず寛解維持にも有用であると考えられるが,報告が少なく,さらなる症例の集積による遅発緊張病へのmaintenance ECTの有効性,適切な施行方法,および認知機能障害などの副作用についての検討が必要と思われた。

新入学生に見出された初期統合失調症(中安)(第2報)

著者: 田中健滋 ,   長江信和 ,   藤本昌樹

ページ範囲:P.881 - P.892

抄録

 2003年度の○記入方式からマークシート方式に変更したUPI+ES(初期統合失調症)スクリーニングを2004年度新入学生に施行した結果,2003年度の2倍以上に相当する929名中51名(5.5%)の初期統合失調症が見出され,マークシート方式によるESスクリーニングのさらなる有効性が示された。さらに統合失調症の生涯有病率が1%前後であることからは広い意味での一次予防が実行できる可能性が示唆された。しかし同時にその大半が生涯にわたって統合失調症へは移行しないことなどから,初期統合失調症がすべて統合失調症を発病した初期ではなく,真の「初期統合失調症」,「前駆期精神病性障害」,その他の非統合失調症性疾患の3つ以上の臨床単位あるいは疾患に分けられる可能性が考えられた。また初期統合失調症ではWCST成績低下が認められ,これが主に統合失調症圏の病態であることを示す所見と考えられた。

短報

尿路系異常と腎不全に至った病的多飲患者の1例

著者: 山本暢朋 ,   織田辰郎

ページ範囲:P.893 - P.895

はじめに

 病的多飲水(psychiatric polydispia;PP)とは「検査所見の異常や臨床症状の有無にかかわらず,精神障害者において過剰な水分摂取がみられる病態」と定義され,糖尿病,腎障害,一次性の内分泌障害などの内科疾患による多飲水や,carbamazepine,抗利尿剤による低Na血症は除外される3)。PPは慢性の精神疾患,とりわけ慢性統合失調症患者に多く認められるが,合併症として生じる尿路系の異常に言及した報告は少ない。今回我々は,病的多飲水を繰り返す慢性統合失調症患者に巨大膀胱や水腎症などの尿路系異常と腎不全が生じた症例を経験したため,若干の文献的考察を加えこれを報告する。

気分安定薬とrisperidoneの併用療法が著効したrapid cyclerの1例

著者: 沼田周助 ,   谷口隆英 ,   三澤仁 ,   大森哲郎

ページ範囲:P.897 - P.900

はじめに

 DSM-Ⅳによるとrapid cycler(急速交代型,以下RC)の診断基準は,過去12か月間に少なくとも4回の大うつ病,躁病,混合性,または軽躁性エピソードの基準を満たす双極Ⅰ型またはⅡ型気分障害と規定され,気分障害外来でみられる双極性障害のおよそ5~10%に生じると言われている。

 RCに対する薬物療法として,lithium(Li),valproic acid(VPA),carbamazepine(CBZ),clonazepam(CNZP),各種ムードスタビライザーの併用療法,甲状腺ホルモンなどが有効16)とされているが,実際の診療では躁病相急性期を気分安定薬のみで乗り切れることはむしろ少なく,抗精神病薬の併用が必要となることも多い。抗精神病薬の中でも,非定型抗精神病薬は統合失調症ばかりではなく,近年,躁うつ病治療においても注目を集め,その有効性を示す二重盲験比較試験結果が報告され1,5,12,13,17,18),その一部は海外で保険適応を受けている。RCでの非定型抗精神病薬使用については二重盲験比較試験の報告はほとんどないが8),オープン試験や症例報告がいくつか海外で報告され11,14,15),本邦でもRCにquetiapine(QTP)が著効した症例が1例報告されている6)

 今回我々はRCの診断基準を満たす双極Ⅰ型障害の躁病に対して気分安定薬(VPA+CBZ)とrisperidone(RIS)の併用療法が著効した1症例を経験したため報告する。

精神疾患として治療されていた前頭側頭型痴呆の2症例

著者: 波平智雄 ,   城間清剛

ページ範囲:P.901 - P.904

はじめに

 変性型痴呆のうち,前頭側頭型痴呆(以下,FTD)はアルツハイマー型痴呆に次いで多いと言われている1)。初期は認知障害が前景に出ないために痴呆とされず,精神疾患と診断されることがある2,3)。したがってFTDの初期症状を理解し鑑別診断として念頭に置くことは重要と考えられる。今回筆者は,身体症状への固執をもとに医療施設受診を繰り返した2症例を経験した。2症例はそれぞれ神経症,うつ病とされていたが,頭部MRIや認知機能検査などからFTDと診断した。事例の経過を述べ考察を交え報告したい。

Risperidoneによる筋強剛が,錠剤から内用液に変更後改善した1例

著者: 中川誠秀 ,   広瀬徹也

ページ範囲:P.905 - P.907

はじめに

 悪性症候群は,向精神薬による薬物療法中に約0.5~1%の頻度で生じ,時には致死的となる重篤な副作用であり,高CPK血症は悪性症候群の必発の異常所見であることが知られている。非定型抗精神病薬は従来型の抗精神病薬に比較し,錐体外路症状や過鎮静などの副作用の発生率は低いが,悪性症候群の報告は数例みられる1,3,5)。悪性症候群の主症状として錐体外路症状がある一方,risperidone内用液は錠剤による内服投与より錐体外路症状が生じにくいという学会発表や臨床報告がある8)。したがって,risperidone oral solutionはその吸収効果の速さのため,最適最少量の投薬が比較的容易であることからも,悪性症候群の発症を抑制する可能性がある。今回,risperidone内用液に剤形変更をしたところ,高CPK血症の改善も続き筋強剛が改善した症例を経験したので報告する。

 (症例の匿名性のため,病像・経過以外の点で修正を加えてあることをお断りしたい。)

紹介

WHO/WPRO自殺予防会議

著者: 山本泰輔

ページ範囲:P.909 - P.914

はじめに

 2005年8月15~19日の5日間,マニラ(フィリピン)にある世界保健機関(World Health Organization;WHO)の西太平洋地域事務局(Regional Office for the Western Pacific;WPRO)で,同地域としては初めてとなる自殺予防会議が行われた。この会議にTemporary Adviserとして招かれた防衛医科大学校防衛医学研究センター行動科学研究部門教授・高橋祥友先生とともに,千葉県因幡健康福祉センター長・中川晃一郎先生らとオブザーバーとして出席する機会を得た(図1~3)。また日本からは厚生労働省大臣官房厚生科学課の伊藤弘人先生が参加した。筆者は普段,精神科医として自衛隊のメンタルヘルス活動や自殺予防に携わっているが,この会議で得た多くの知識は臨床家にとっても非常に有意義なものであると感じたので,ここに紹介したい。

私のカルテから

統合失調症に対する障害年金給付初診日主義への挑戦

著者: 森山成あきら

ページ範囲:P.915 - P.917

はじめに

 2003年3月,筆者は第23回日本社会精神医学会で『統合失調症に対する障害年金給付初診日主義の問題点』と題する一般演題発表をした。ここでいう初診日主義というのは,障害年金の支給認定が発症日ではなく医療機関の初診日に左右されていることを指している。発表の中で対比させたのは,同じく20代後半の青年であり,一方は20歳9か月,他方は20歳2か月で精神科クリニックを初診していた。双方とも20歳以降精神科受診まで保険料を払っておらず,前者は17歳時に胃潰瘍と自律神経失調症(心身症)で内科医院を受診し,後者は19歳時,帯状疱疹で皮膚科を訪れていた。前者では内科受診,後者では皮膚科受診を統合失調症の初診日として,再申請をしたところ,前者では障害2級の判定が下り,無拠出年金からの支給が決まった。しかし後者では不支給の決定がなされ,本人と家族はこれを不服として再審査を請求したがこれも棄却され,ついに裁判に訴えた。2年にわたる裁判の結果,2005年11月1日福岡地裁は原告の主張を認め,20歳前の発症を確認して,不支給処分は違法だとの判断を下した。2週間たっても国と社会保険庁は控訴せず,この判決が確定した。

 臨床医にとってこの事実を知っておくことは,患者の経済的基盤を支えるうえでも有意義であり,当事者の承諾を得て,以下に一連の経過を報告する。

抗うつ薬ミルナシプラン高用量投与例の検討―早期に職場復帰可能となった症例の検討

著者: 岡本康太郎

ページ範囲:P.919 - P.921

はじめに

 2000年国内唯一のセロトニン(5-HT)ノルアドレナリン(NA)再取り込み阻害薬(SNRI),ミルナシプラン(商品名;トレドミン)が発売され,うつ病治療の幅がさらに広がった。今回,日常診療において早期復職を目指してミルナシプラン高用量投与を行い,速やかな症状改善から寛解状態に達し,早期職場復帰が可能となった症例を多く経験したので報告する。

「精神医学」への手紙

SSRIによる性機能障害について―「抗うつ薬の功罪―SSRI論争と訴訟」を読んで

著者: 井貫正彦

ページ範囲:P.922 - P.924

 本誌2006年2月号の書評に紹介されたこの本は,SSRIにより自殺のリスクが増加するという副作用が黙殺され,その後訴訟に発展した薬害事件の経緯を詳述している。以前,厚生省(現厚生労働省)に勤務していたとき,薬害エイズ事件を経験した筆者にとって,震撼とさせる非常にショッキングな内容であった。筆者もまた,書評者同様,著者,監修者,訳者の勇気に拍手を送りたい。これに触発され,筆者はparoxetineによる性機能障害について取り上げたいと考えた。後述する通り,決して頻度は低くはなく,深刻な副作用であると考えられるにもかかわらず,日本ではあまり注目されず,製薬企業は添付文書で十分な注意喚起を行っていないのみならず,この副作用に対する製薬企業の対応には理解に苦しむ点があるからだ。

 筆者は,挙児希望を契機に,paroxetineによる射精遅延に気づいた,パニック障害の30歳代男性患者の症例を経験した。本症例ではparoxetine 20mg/日を使用していたが,射精遅延に気づいたためfluvoxamine 50mg/日に置換したところ,速やかに症状は消失した。

書評

産業メンタルヘルスの実際

著者: 中村純

ページ範囲:P.926 - P.926

 私が産業医科大学に赴任した時,当大学の評議員をされていた西園昌久 福岡大学名誉教授から,産業医教育にはリエゾン精神医学の知識と経験を活かすことが重要だとのお言葉をいただいた。私が産業医科大学に赴任した1998年から現在まで連続8年間,バブル崩壊後の不況や産業構造の変化など多くの複合的要因からわが国の自殺者は3万人を超えており,産業医にはメンタルヘルスの不調者への対応が必須となっており,産業医教育の責任を感じているところである。企業で働く人の自殺者は交通事故による死亡者数とほぼ同数であり,特に産業医学分野でのうつ病の早期発見・早期介入,復職への支援は重要な課題である。そこで,産業医にはより精緻な精神医学の知識や対応能力が必要である。保坂教授も精神科医として総合病院でのリエゾン・コンサルテーションサービスを実践された経験から,精神科医と一般医療機関の医師との連携(リエゾン)の重要性を認識されており,産業医活動をリエゾン精神医学の実践の場と考えられたと思われる。

 本書では精神医学の知識が産業医にもわかりやすく解説されている。産業医の多くは精神科以外の医師であり,精神医学の知識を整理することは重要である。さらに本書では上司のメンタルヘルスへの理解,対応,休職から復職に至るまでの過程での産業医のかかわり方,精神科医としての産業医活動の役割などについても解説されている。

標準生理学(第6版)

著者: 板東武彦

ページ範囲:P.927 - P.927

コアカリキュラム,CBTを念頭においた付録も充実させ,欧米の教科書にも比肩する良書

 本書は20年間で5版を重ねた名著であり,まさに標準的な生理学教科書としての地位を確保してきた。欧米の教科書にすぐれたものが多いなかで,わざわざ日本で教科書を作ることに意味があるのかと思う反面,やはり自分の国で作られた優れた教科書があるということは誇らしいことである。

 1人の著者が書いた教科書は全体の統一性に優れるが,やはり得意分野とそれ以外で内容に差が出てしまう。本書は分担執筆であり,各々の分野で,一流の著者が分担することにより,広い範囲で濃い中味を持つことができた。一方で,分担執筆の本の統一性を保つことは非常にむずかしい。著者の努力もさることながら,編集者の優秀さと努力を高く評価したい。

インフォームド・コンセント―その理論と書式実例[ハイブリッドCD-ROM付]

著者: 辻本好子

ページ範囲:P.928 - P.928

臨床に携わるすべての医療者,医学生へ

 基本的に,というよりも個人的に,いわゆるマニュアル本の類は好きではありません。しかし本書は,私たち患者はもちろん,忙しい医療現場のドクターも希求していたに違いない,まさに時代のニーズに即した待望の一冊。患者の立場として,「医療側からの説明の際にせめてもう少し“わかってほしいメッセージ”があれば…」と願っていた矢先の出会い。願わくは,臨床に携わるすべての医療者と医学生諸君がインフォームド・コンセントの原則をつねに見つめ,有効活用するために手元に置いてほしいと心から思いました。

 例えば胃がんと診断された患者の視点で,胃全摘術,胃切除術,腹腔鏡補助下胃切除術の説明文書実例を読んでみました。「なるほど」「そうか,そうか」と医療側が言わんとすることがよく理解でき,納得もできて,最後には「そう,こういう文書が手元にほしかった!」と思いました。ただ一つ,「間違っても日本中の病院が,医療者が,このままコピーした文書を手渡すだけであってほしくはない」とも願わずにはいられませんでした。

基本情報

精神医学

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-126X

印刷版ISSN 0488-1281

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