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雑誌目次

論文

精神医学48巻9号

2006年09月発行

雑誌目次

巻頭言

現代社会とコミュニケーション

著者: 山田茂人

ページ範囲:P.936 - P.937

 うつ病をはじめとする精神的原因で長期休職する勤労者は年々増加しており,大きな社会問題となっている。さまざまな職種の中で特に教師の長期休職者の増加が著しい。文部科学省の発表によると,2003年度に長期病休した教師は6,017人で,そのうちの3,195人が精神科関連疾患による休職であり5割を超えている。15年前に比べて全体で1.6倍に増加しているが,その増加分のほとんどが精神科関連の疾病によるものである。また一般企業の長期休職者に比べて教師の復職率は低く,休職延長者が多いことが特徴である。教師には授業以外の職種がなく,一般企業のように復職後の職種を変更するなどの環境調整ができないという事情もあるようだ。現在の教師にかかるストレスの大きさと置かれている立場の厳しさに同情を禁じ得ない。実際,日々の外来診療でも数名の教師を診察しているが,業務の大変さをせつせつと訴えられる。学級運営の難しさ,生徒の親の身勝手さ,同僚との関係,教育行政の締め付けなどきりがないが,特に教育現場の荒れは聞きしに勝るものがある。生徒に背を向けて黒板に板書しようとすると,物が飛んでくるので,背後に気を配りながら授業を進めることもあるらしい。私が生徒のころは,よそ見をしていると教壇からチョークが飛んでくることもあったので,当時とは立場が逆転しているようである。ひところ学級崩壊という言葉をよく耳にしていたが,最近はあまり話題にならないので,もう下火になったのかと思っていたらそうではなく,日常的になって別に珍しくないだけだそうである。学級崩壊が起きていないクラス担任の先生もいつそうなるかという不安にさらされている。もともと教師を志望する人はまじめで几帳面な人が多いと思われ,これだけのストレスがあればうつ病を発症するのも肯ける。受診される教師の年齢はさまざまであるが,教師としての力量に関係なくベテランといわれる年齢の人も多く,その分クラスをまとめられないことに対する自信喪失と絶望感は深い。これまでもしばしば言われてきたことであるが,これは教師の努力により解決されるような問題ではなく,生徒とそれを取り巻く環境の変化に原因があり,広く社会的な問題としてとらえるべきである。精神科を受診される教師の方々は最近の社会の変質の犠牲者といえる。

特集 新医師臨床研修制度に基づく精神科ローテート研修の評価

新医師卒後研修について―七者懇談会卒後研修問題委員会の立場から

著者: 小島卓也 ,   関健

ページ範囲:P.939 - P.946

はじめに

 新医師卒後研修が始まって2年間が経過し,最初の修了生が誕生した。この機会にこれまでの経過を振り返り,研修の成果を検討し,今後の研修制度の見直しに向けて準備する必要がある。本稿では,これらについて精神科七者懇談会(日本精神神経学会,精神医学講座担当者会議,日本精神科病院協会,国立精神療養所院長協議会,全国自治体病院協議会,日本精神科診療所協会,日本総合病院精神医学会)を中心に行ってきた活動について述べていきたい。

一自治体立総合病院の経験から卒後研修を考える

著者: 青木勉 ,   川副泰成

ページ範囲:P.947 - P.952

はじめに

 国保旭中央病院は,千葉県北東部の農村部に位置し,総病床数986(一般730,精神250,感染症6),診療科34科で,1次から3次まで対応可能な救命救急センターを併設する自治体立の基幹病院である。1日の平均外来患者数は約3,600名で,併設の救命救急センターを受診する患者数は年59,000名を超える(2005年度)。

 2004年度より臨床研修の義務化とともに,精神科研修が必修となった。国保旭中央病院では,1981年に臨床研修指定病院となって以来,臨床研修が義務化されるまでに,80名を超える研修医が精神科研修を行っており,それまでの実績は以前に報告している2,4)。2003年度からは,法による義務化に1年先行して,すべての基本研修科目と必修科目を研修医全員がローテートすることになった。

 今回は,以前にも報告したが,義務化以降の精神科の初期研修1)とともに後期研修についてもあわせて報告する。

精神科卒後研修―自治体立単科病院の立場から

著者: 小高晃

ページ範囲:P.953 - P.959

はじめに

 精神科の卒後研修は新臨床研修制度の導入,日本精神神経学会専門医制度の導入により大きく変わろうとしている。当院も従来からの大学医局を通しての後期研修医の受け入れに加え,4つの管理型研修病院の協力病院として,初期精神科研修の受け入れを開始した。本稿では主に新臨床研修制度実施以後1年間の当院の研修の現状を振り返り,今後の課題を考えてみたい。

卒後研修―国立病院機構単科精神科病院の立場から

著者: 吉住昭 ,   杠岳文

ページ範囲:P.961 - P.968

はじめに

 2004(平成16)年度より臨床研修が必修化され,精神科は1年遅れでスタートした。当院は2005(平成17)年度,7つの管理型病院(2大学,1県立,2国立病院機構,2民間)から44名の研修医師を受け入れた。そのために,受け入れ当初にはすでに14名の医師が指導医講習を受講し,準備を整えていた。

 独立行政法人国立病院機構に属する一病院として,臨床,研究,教育・研修,情報発信の機能が今まで以上に重要視されている。たとえば国立病院機構の臨床評価指標測定マニュアル〔2006(平成18)年4月改訂〕を見れば,精神科単科の病院であるかを問わず各病院共通指標に49の項目が挙げられている。これらの項目は,診療業務に関する評価(クリニカルパスの実施症例など),臨床業務に関する評価(治験実施症例数など),教育研修業務に関する評価(研修医,レジデント数など),その他特記事項に関する評価などからなっている。そして臨床研修医受入実人数の項では,測定目的として「医療従事者の養成に係る評価」とあり,目標値の設定には「中期目標の期間中に国立病院機構として受け入れる臨床研修医数について,20%以上の増加を目指す」としている。また,経済的には,国からの運営費補助金が徐々に減額される中,1人当たり月10万円が研修医に係る費用として交付されている。また,修練医とも呼ばれる臨床研修終了後の医師に対する説明会も,2005(平成17)年度には国立病院機構独自に開催した。このように,新人医師の教育,ひいては若手医師の安定確保と供給は国立病院機構としても重要課題としてある。このようなものとしてある臨床研修に対し,肥前精神医療センターで2005(平成17)年度の臨床研修をどのように実施したか,さらにその研修を研修医がどのように評価したかを述べる。

精神科における卒後研修―日本精神科病院協会の立場から

著者: 長尾卓夫

ページ範囲:P.969 - P.973

はじめに

 2004(平成16)年4月より新医師臨床研修制度が始まり,今年の4月より2年間の臨床研修を終えて後期研修に入った。ここでこれまでの経由について少し触れておきたい。

 2002(平成14)年に精神科の臨床研修が必修となることが決定されたが,それもぎりぎりのところでの攻防の末やっと必修化されたという経過がある。その際,日本精神科病院協会(日精協)では,今後の精神科医の育成と他科志望の研修医にも精神科および患者さんについてもよく理解をしてもらい身体合併症を持つ精神疾患の患者さんを嫌がらずに受け入れてもらえるようにするためには,どうしても臨床研修の必修化が必要であるとして積極的に活動した経過がある。一方大学の講座担当者の一部でこの必修化について消極的であったことは不思議でならない。そういった危機的背景もあって,精神科における臨床研修についてもきちんとした指導体制をとり,研修医から精神科の研修をしてよかったという評価を得るようにしなければ次回の見直しにおいて研修の必修科目から外される恐れがあるという危惧を抱いたところである。このため,2002(平成14)年10月に精神科臨床研修についての精神科七者懇談会によるシンポジウムを日本医師会の星常務理事(当時)の協力によって日本医師会館で開くことができた。そして臨床研修指導医講習会を精神科単独で行うことを決め,日精協が事務局となり精神科七者懇談会の主催で行うこととなり,各地で講習会が開かれたのは周知のことである。

 この新医師臨床研修制度のスタートによって2年間の実質的な現場への医師の供給が停止し,医師の派遣をしていた大学が医師を引き上げるところもあった。またこれまで大学各科医局に入局して専門科目の研修を行った後に各病院に派遣されていた,いわゆる医局講座制が,後期研修のためにどの程度の入局者があり,どの程度維持されるのかが大きく注目されるところであった。まだその全容は不明であるが,厚生労働省のアンケート調査や日精協のアンケート調査によってわかった概略について触れるとともに,今後の精神科臨床研修のあり方について触れてみたい。

精神科卒後研修―講座担当者の立場から

著者: 平安良雄 ,   佐藤玲子 ,   上原久美 ,   塩崎一昌 ,   河西千秋 ,   小田原俊成

ページ範囲:P.975 - P.980

はじめに

 2004(平成16)年4月から実施された,臨床研修必修化に伴い,研修医2年目に全研修医が最低1か月の精神科研修を受けることとなった。精神科が必修化として認められた背景には,社会からの要請を含めさまざまな要因があった。またその実現に向けては精神科七者懇談会など諸団体の努力によるところが大きい3)

 横浜市立大学医学部においては,インターン制度廃止直後から約35年間にわたって,いわゆるスーパーローテーション研修が実施され,2年間の研修期間を終えて,自らが目指す専門領域に進む(同時に入局する)研修制度が行われてきた。当精神医学教室においても,2年間の初期研修中に3か月間の精神科研修医を受け入れてきた。その大部分は研修後精神科医を目指し当教室に入局したが,精神科以外の専門領域に進んだ者も多い。私たちは,今回の精神科必修化に伴う研修医受け入れにおいて,準備会議を定期的に持ち,これまでの研修医受け入れの経験をふまえて新たに研修プログラムと指導方針を設定した1)

 本稿では2005(平成17)年度1年間の研修指導結果を振り返り,精神医学講座担当者会議の一員としての立場から,大学附属病院で精神科研修を受けることの利点と欠点を示し,問題点の解決と今後の方向性を考察した。

研究と報告

1歳6か月健診における広汎性発達障害の早期発見についての予備的研究

著者: 神尾陽子 ,   稲田尚子

ページ範囲:P.981 - P.990

抄録
 自閉症およびその他の広汎性発達障害(Pervasive Developmental Disorder;PDD)の早期発見を目的として,1歳6か月健診を受診した659名の幼児を対象に親記入式の23項目からなる質問紙(Modified Checklist for Autism in Toddlers;M-CHAT)を用いて2段階のスクリーニングを行った。2歳時での評価面接の結果,DSM-IV-TRの診断基準と合致した11名がPDDと診断された。M-CHAT全項目中,不通過だった合計項目数および重要10項目中,対人志向性,共同注意行動,象徴機能と関連する8項目が有意にPDD群を定型発達群から区別した。本研究は予備的な段階にあるが,日本語版M-CHATが十分な信頼性と妥当性を有し,PDDのスクリーニング手続きにおける補助的ツールとして有効であることを示唆した。

短報

Fluvoxamineの投与後アカシジアを呈し自殺企図に至った老年期うつ病の1症例

著者: 石川博康 ,   下村辰雄 ,   神林崇 ,   清水徹男

ページ範囲:P.993 - P.995

はじめに

 選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)の副作用として,アカシジアを含む錐体外路症状が知られている。SSRIによる錐体外路症状の頻度は0.25%程度とされ,副作用としては比較的まれである。我々はfluvoxamineの単剤投与直後よりアカシジアを生じ,自殺企図を理由に入院に至った老年期うつ病の症例を経験したので報告する。

Beer PotomaniaとWernicke-Korsakoff脳症が合併したアルコール依存者の1症例

著者: 佐藤晋爾 ,   水上勝義 ,   山里道彦 ,   桜井華奈子 ,   白岩伸子 ,   朝田隆

ページ範囲:P.997 - P.999

 アルコール依存者では,種々の身体疾患を合併することが知られており,とりわけ重要なのは,離脱せん妄,アルコール性精神病,Wernicke-Korsakoff脳症7),橋髄鞘融解症,肝性脳症などが挙げられる5,13)。一方,1971年にDemanetら3)により報告された“beer potomania(beer drinker's hyponatremia)”(以下BP)については,精神科領域での報告はきわめて少なく,本邦の精神科医にはなじみの薄い病態である。

 今回,臨床的にBPであった可能性が高い1女性例を経験した。若干の文献的考察を加え報告する。なお,病歴は個人が特定できないよう一部改変した。

クエン酸フェンタニールにより生じた嘔気に対してオランザピンが奏効した1症例

著者: 安藤英祐 ,   菅原ゆり子 ,   藤山紘千 ,   栃倉未知 ,   青木孝之 ,   松本英夫

ページ範囲:P.1001 - P.1003

はじめに

 我々はがんによる疼痛に対して投与された麻薬性鎮痛薬による激しい嘔気のため,疼痛コントロールが困難な症例を経験した。疼痛に対して数種類の麻薬性鎮痛薬を使用したが軽快せず,クエン酸フェンタニールの使用により疼痛は改善した。しかし同時に激しい嘔気が出現して投与量を増加することが不可能であった。この嘔気に対して数種類の制吐剤を使用したが軽快せず,少量のオランザピンを投与したところ,嘔気の改善を認めたので報告する。なお,報告にあたって口頭にて本人の同意を得た。また,科学的考察のために支障のない範囲でプライバシー保護のために症例の内容を変更した。

双極Ⅱ型障害と強迫性障害が併発した1症例

著者: 戸田裕之 ,   野村総一郎

ページ範囲:P.1005 - P.1007

はじめに

 強迫性障害(obsessive-compulsive disorder;OCD)と気分障害との関係は,古くから論じられており,気分障害はOCDの最も一般的な併発症であるとされている。これらの報告では,OCDに併発する気分障害は,大うつ病性障害(major depressive disorder;MDD)と気分変調性障害に限定されている場合が多く,双極性障害(bipolar disorder;BPD)との関係について触れられることはあまりなかった。しかしながら,近年,OCDとBPDの関係についての報告も散見されるようになっており,BPDの併発が治療抵抗性と関連していることなどが指摘されている。今回我々は,OCDで発症し,BPDを併発して,抑うつ症状・強迫症状が遷延し治療に難渋した症例を経験したので,若干の文献的考察を加えて報告する。

資料

思春期外来における自傷患者の臨床的検討

著者: 武井明 ,   目良和彦 ,   宮崎健祐 ,   佐藤譲 ,   原岡陽一

ページ範囲:P.1009 - P.1017

はじめに

 近年,手首や前腕を自傷する若者の増加が精神科医療2,3,5,12,27,28)や教育現場13)から指摘されるようになった。また,自傷に関連した出版物が相次いで出版されたり9,15,17,21),インターネット上では「自傷系サイト」と呼ばれる自傷者のホームページが数多く掲載され,自傷行為は社会的にも注目される現象になっている8,22)。このような自傷は,1970年代後半に手首自傷症候群(wrist cutting syndrome)として欧米からわが国に紹介されたものの16),その後十分な実証的な研究がなされないまま現在に至っている。

 今回我々は,このような自傷患者の特徴を明らかにするために,精神科思春期外来を受診した自傷患者についての臨床的な検討を行ったので報告する。

特別寄稿

Mogens Schou教授のご逝去を悼む―Mogens Schou教授とリチウム

著者: 中根允文

ページ範囲:P.1019 - P.1023

はじめに

 2005年9月29日の夕刻,デンマーク・オーフスにてMogens Schou教授が亡くなられた。享年86歳であった。彼の長女(医師Dr. Jette Kraft)の方によって10月4日,0時30分のe-mail連絡で知らされた。9月29日朝,ポーランドでの学会から帰宅後肺炎に罹患していることがわかり,正午頃に入院して治療されたが不帰の人になられたとのことであった。こころからお悔やみを申し上げたい。

 2005年4月23日に開催された第25回リチウム研究会(東京)で,「Mogens Schou教授とリチウム」と題する特別講演の機会を与えられ,その折にSchou教授自身が提供された「AUTOBIOGRAPHY-My journey with lithium-」をもとに講演したので,その内容の一部を紹介して,改めて彼の素晴らしさを偲ぶことにする。

 私自身は1974年から約1年間,Denmark第二の都市にあるAarhus大学医学部精神科のRisskov精神病院でErik Strömgren教授が主宰するInstitute of Psychiatric Demographyに留学した。同病院は当時,約800床の入院施設や外来治療棟・専門治療外来棟などとともに,Schou教授が主宰する精神薬理学研究所,あるいはJohannes Nielsen助教授が指導する精神科遺伝学研究室などもあり,非常に多くの精神科医や精神医学者が国内・国外から集い競っていた。本来はStrömgren教授およびAnnalise Dupont助教授のところで,精神医学的疫学の研鑽を積むことになっていたが,隣接する建物の研究室におられたSchou教授と懇意にさせていただき日本の躁うつ病治療状況を紹介したりしており,「リチウム」が日本で市販されていないことへの懸念を度々聞かされていた。「リチウム」をカタカナででもいいから教えてほしいと言われて,下手な字で書いたらそれを自分の部屋に飾っておられたりしていたのを記憶している。Strömgren教授は1938年に「Bornholm study」という膨大な疫学知見を単著で公表しておられ,長崎でisland surveyを少しずつ進めていた私は同教授のもとで疫学研究ないし地域研究を学習したいと留学したことで,その念願が叶っていたものである。ただ,私がデンマークから帰国しようとする頃には,東京医科大学の清水宗男教授(当時)がSchou教授のもとに留学され,本来だと清水先生がSchou教授のことをより詳細に承知しておられると思う。

私のカルテから

ペロスピロンへの置き換えによって高プロラクチン血症が改善した統合失調症の1例

著者: 勝瀬大海 ,   都甲崇 ,   小阪憲司 ,   平安良雄

ページ範囲:P.1025 - P.1027

はじめに

 近年,リスペリドンやペロスピロンといったセロトニン・ドーパミンアンタゴニスト(SDA)に代表される第二世代(非定型)抗精神病薬がいくつか使用されるようになり,統合失調症の薬物療法における選択肢は格段に広がった。また,SDAは従来の第一世代(定型)抗精神病薬に比べ錐体外路症状などの副作用の発現率が低く,統合失調症治療の第一選択薬として用いられることが定着している。さらに,最近では新規抗精神病薬間の副作用の発現率の相違についての報告も多数みられるようになり,多くの症例で副作用の発現を最小限に抑えながらよりよい治療効果を得ることが可能となりつつある。

 錐体外路症状以外の抗精神病薬による副作用の1つとして,高プロラクチン血症が知られている。高プロラクチン血症は無月経,乳汁分泌を引き起こすことから,特に女性患者においては服薬コンプライアンスの低下につながることが多い。最近,我々はペロスピロンがリスペリドンに比して高プロラクチン血症を起こしにくいことを報告した3)

 今回,この結果を治療の場で応用し良好な治療経過を得ることができた統合失調症の1症例を経験したので若干の考察を加え,ここに報告する。なお,本症例は発病後に妊娠・出産を経験しており,統合失調症患者の出産とその問題点と対応についての私見も加えた。

高齢で発症した躁病の1例

著者: 真田健史 ,   尾鷲登志美 ,   宍倉久里江 ,   塚原健介 ,   高塩理 ,   大坪天平 ,   三村將 ,   上島国利

ページ範囲:P.1029 - P.1031

はじめに

 老年期うつ病は有病率が高く,社会的関心も高い病態であるが,高齢者の躁病は比較的まれであり,発症機転に関する議論も十分ではない。今回,約10年前に脳梗塞を発症し,高齢で初めて躁状態を呈した症例を経験したので,二次性躁病の可能性も含め報告する。

動き

「第4回アジア児童青年精神医学会」印象記

著者: 白瀧貞昭

ページ範囲:P.1032 - P.1033

 第4回アジア児童青年精神医学会議(4th Congress of ASCAPAP)が本年,6月14~16日の3日間,フィリピン,マニラで開催された。会長を務めたのは国立フィリピン大学医学部精神医学教授のCornelio G. Banaag, Jr.であり,会議の行われた場所は首都マニラ市のすぐ隣のケソン市にあるクラウン・プラザ・ガレリア・マニラホテルであった。参加者は全体で300名ほどで,うち,国外からの参加者は9か国,108名であった。日本からは10名ほどであったという。最近,アジアで開催される児童青年精神医学の国際会議は,世界児童青年精神医学会(IACAPAP)会議が2000年のイスラエル,2002年のインド会議が共に地域紛争の影響で中止されたり,2003年のASCAPAPの台湾会議もSARS蔓延の影響で日程が何度も変更余儀なくされたりで,予定通りの開催がスムースに実施されないという流れが続いている。今回の第4回ASCAPAPマニラ会議も実は2~3度,日程が変更されていたし,さらに,昨年あたりからフィリピン国内の政情不安(大統領への糾弾活動)も日本のマスコミを通じてたびたび伝えられていた。筆者の知る日本からの若手の研究者も当初,参加を予定していたのが外務省渡航危険情報に不安を感じて予定を取りやめたぐらいである。結果的に,マニラに6日間ほど滞在したが,何ら不安に感じられるような事態は発生しなかった。

 アジア児童青年精神医学会議は1996年4月に日本児童青年精神医学会がアジアの諸国に呼びかけて最初の会議を東京で開催したのがきっかけで,その後3~4年ごとにアジアの各地で開催されてきた。創立会長として西園昌久先生,また,初めから現在に至るまで事務局長として東海大学名誉教授の山崎晃資先生が多大の貢献をしておられる。第2回ASCAPAP会議は1999年5月6,7日に韓国,ソウルでKang-E. Michael Hong教授が会長を務めて開催され,さらに第3回ASCAPAP会議は2003年11月8,9日,台湾(台北市)でWei-Tsuen Soong教授が会長となって開催されている。

書評

―新現代精神医学文庫―アルコール性障害

著者: 和田清

ページ範囲:P.1035 - P.1035

 人は一日の区切りとして,一日の疲れを癒すために,晩酌をしてきた。同時に,「アルコールは社会の潤滑油である」という言い方があるように,古来,人は飲酒を人間関係形成のための重要な一手段として利用してきた。わが国では「宴会」にはアルコールは付き物であり,時には「無礼講」といった形で職場を中心とした社会習慣として定着している。しかし,その一方で,「酒乱」という言葉をはじめとして,飲酒による他者への絡み,暴力などを極度に忌み嫌う社会的ラベリングも存在する。このような一見相反する状況を社会学者,清水新二は「ともに飲み,社会規範を踏み外すことなく酔いを共有することが,わが国における適正飲酒の重要な一側面である」と評した。

 そもそも,アルコールはどのような機序で「酔い」をもたらし,耐性を生みだし,依存を形成するのであろうか?離脱時の振戦せん妄,けいれんはどうして起きるのであろうか?そして,認知障害は?

The Treatment of Epilepsy, 4th ed.

著者: 兼本浩祐

ページ範囲:P.1037 - P.1037

 “The Treatment of Epilepsy”は,1996年の初版が出版されて以来,北米ではてんかん治療に関して最も定評のある成書の1つであり,本書はその第4版に当たる。本書は一見大部の本であるが,通覧すればすぐにわかるように,てんかん治療に関するほぼすべての疑問が本書一冊でおおよそ答えられるような形で,きわめてコンパクトにそれぞれの事項がまとめられている。てんかん診療における治療に関するさまざまな項目に関して,必要最小限で最新の知識の源泉としてこれ以上の本を望むのは難しい。ただ,本書の使用方法は基本的には教科書的な通読ではなく,辞書的な検索であることは意識しておいたほうがよい。本書の前書きは,まるでページを割くのを惜しむかのように短く書かれていて,できるだけ多くの知識をできるだけコンパクトにリストアップしようとした編者らの良心的な編集姿勢がそこにも現れているように思える。

 基本的なレフェランス・ブックとして使用するのに加えて,本邦の読者にはこの秋から来年にかけて次々に市販される予定の“新”薬(すでに他の国では10年以上の使用経験があるので“ ”を付けた)についての貴重な情報源としても有用であると思われる。たとえば,トピラメイトの頁をめくると,レノックス症候群でこの薬剤がかなり効果を発揮する場合があること,また時に治療抵抗性の発作重積状態を終結させる効果を発揮する場合があることなどがわかる。また,てんかん外科の項目では,たとえば海馬硬化と“dual pathology”,さらにMRIで病巣のない場合のてんかん外科手術の適応とか,具体的に知りたい項目について,ほぼ網羅的に節が設けられているのが嬉しい。多くの著者が執筆しているため,必ずしもすべての項目で最短距離で知りたい知識にたどり着けるわけではないが,多くの項目では特定のてんかんの治療について得たい情報を比較的容易に得ることができる。

精神科治療薬処方ガイド―Essential Psychopharmacology:The Prescriber's Guide

著者: 本橋伸高

ページ範囲:P.1039 - P.1039

 評者が学生の頃の講義では,何年も使っているためボロボロになったノートの内容をひたすら板書している教官が多かった。現在では,わが国において教育の質を高める動きが活発になっており,教育技術の向上のための講習が頻繁に行われている。このような中で,米国の教科書には学ばされるところが非常に多い。特に,Stephen M. Stahlの“Essential Psychopharmacology:Neuroscientific Basis and Practical Applications, Second Edition”(仙波純一訳「精神薬理学エセンシャルズ」)は,高度な内容をわかりやすい図を中心に解説しており,しかも教育用のCD-ROMが原書には付属しているため,評者は学生や研修医の教育にしばしば利用させてもらっている。

 このたび,同じ著者による処方の実践ガイドが翻訳されたことは,臨床家にとって新たな武器を手にしたことになる。本書では精神科で用いられる101の薬物それぞれについて,治療,副作用,投薬法と用法,特別な患者,精神薬理学の技法の5項目,および主要な参考文献という同じ書式で構成されており,各項目は簡潔しかも実践的にまとめられている。わが国を中心に用いられているペロスピロンやゾテピンについての記載があるのもうれしい。特筆すべきは,効果があった場合,効果がなかった場合,部分的な反応のあった場合それぞれについての方針が述べられていることに加えて,最後にある「臨床の知恵」の記載であり,実際に薬物を使用する際にきわめて有用である。ここでは,著者の30年におよぶ臨床経験とエビデンスの統合が見事に達成されている。たとえば,「リチウムは最初の気分安定薬であり,なお治療の第1選択である。しかし,古い薬物であり,双極性障害では新しい薬物ほど使用が奨励されないために,十分に活用しきれていないであろう」といった記載にめぐり合うことができる。もちろん,作用機序や副作用の機序についての説明は前著同様に明快である。また,薬の種類の分類や副作用の中で体重増加と鎮静の程度を示すのにアイコンが用いられており,一目でわかる工夫がなされているほか,薬物相互作用,小児と青年期患者,妊娠・授乳についての記載が充実しているため,日常診療で大いに役立つこと受けあいである。

抗精神病薬の「身体副作用」がわかる―The Third Disease

著者: 中村純

ページ範囲:P.1040 - P.1040

精神科は「身体」に着目する時代に-内科医からのメッセージ

第2世代抗精神病薬のインパクト

 統合失調症に対する薬物療法が始まって50年余り経ったが,その発展は副作用克服の戦いの歴史ともいえる。

 1996年にわが国にも第2世代抗精神病薬(非定型抗精神病薬)の導入がなされて,現在までに5剤(リスペリドン,オランザピン,クエチアピン,ペロスピロン,アリピプラゾール)の新しい抗精神病薬の使用が可能となった。

 これらは錐体外路症状の出現が比較的少なく,陽性症状のみならず陰性症状にも効果を示す薬剤として注目を浴びている。しかも統合失調症の治療戦略として,治療初期からリハビリテーション期を見据えた生活指導と薬物療法の併用によって良好な予後を期待できるようになった。これらの新しい抗精神病薬は「患者中心の精神医療」へと医師や家族の意識を向けたのである。

基本情報

精神医学

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-126X

印刷版ISSN 0488-1281

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