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試論
ICFの精神医療への導入―ICFに基づく精神医療実施計画書の開発
著者: 岡田幸之1 松本俊彦1 野口博文1 安藤久美子2 平林直次2 吉川和男1
所属機関: 1国立精神・神経センター精神保健研究所司法精神医学研究部 2国立精神・神経センター武蔵病院精神科
ページ範囲:P.41 - P.48
文献購入ページに移動国際生活機能分類International Classification of Functioning, Disability and Health;ICF(WHO,2001)23)は国際障害分類International Classification of Impairments, Disabilities and Handicaps;ICIDH(WHO,1980)24)の改訂版である。ICIDHは「①疾患・変調」によってもたらされる体の一部分の「②機能・形態障害」が個人のレベルの「③能力障害」を生じ,それが社会生活の中で「④社会的不利」という形で表れるという考え方に基づいていた。ICIDHをどのように発展させたのかという点に注目して,ICFの主要な特徴を3つ挙げるとすると以下のようになる。
第一にICFでは,(1)障害というマイナスの面だけを評価するのではなく,生活機能のプラスの面を重視して包括的に評価する。上記のICIDHの①~④の4つの領域もそれぞれ「①健康状態」「②心身機能・身体構造」「③活動」「④参加」というニュートラルな言葉で定義し直している。これは,個人が持っている能力こそが適応を支えるのであり,提供される支援もその能力を活かすことに注目するというストレングスモデル15)に合致したものである。
第二にICFでは,(2)相互作用を重視する。ICIDHでは疾患・変調から社会的不利への一方向の病因論的なモデルであったのに対して,ICFでは社会的な活動や参加の制限が逆に機能や能力の障害を招くこと(典型的には,筋肉の廃用性萎縮が挙げられるが,同様のことは精神機能にも認められる)などにも注目している。このことによって①~④の4つの領域を双方向,相互作用的なものとして再配置している。
第三にICFでは,(3)相対性を重視している。実際の生活機能というのは,背景因子,つまり人それぞれが置かれた場(環境因子)や個人の特性(個人因子)によって決まるものである(たとえば,同じ精神機能であっても,置かれている生活環境によって適応状態は異なる)という点を強調している。
こうしたコンセプトで作られたICFが医療やリハビリテーションにもたらす意義は,精神医学の文脈でも示されているが1~5,7,8,14,16~18,21),必ずしも精神科臨床への導入が進んでいるわけではない。その一番の障壁は,ICFの具体的な利用方法が示されていないところにある。
そこで筆者らはICFの3つの特徴を最大限に引き出しながら精神医学の実践分野のなかで利用する方法を模索しようと考えた。その第一として,成年後見制度における鑑定へのICFの利用を,とくに能力が背景因子によって相対的に決定されることに注目して提案した9~11)。また,心神喪失者等医療観察法(以下,医療観察法)制度に関しては,そこで行われる評価はともすると症状やリスクといったものだけに偏りがちであるから,社会復帰を促進するうえでは生活全般を包括する全人的な医療の視点を導入することが不可欠であることを指摘し,ICFの採用によってこれを実現する方法論を検討してきた22)。
本論では,障害者自立支援法やグランドデザインといったこれからの課題に取り組むうえでもICFはきわめて重要なものであるとの認識に立ち,成年後見制度や医療観察法にとどまらない,一般の精神科臨床の実践を支援する道具としてICFを有効活用することを目的として開発している精神医療実施計画書を紹介する。その試案を提示し,このようなかたちでICFを精神医療に導入する意味について若干の考察を加える。
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