文献詳細
文献概要
シンポジウム 児童思春期の攻撃性・衝動性の理解と援助-ライフサイクルの視点から考える
児童相談所からみた養育環境と子どもの攻撃性・衝動性
著者: 伊東ゆたか1
所属機関: 1東京都児童相談センター
ページ範囲:P.63 - P.72
文献購入ページに移動はじめに
児童相談所は,子どもの福祉という観点から低年齢の非行や虐待問題にかかわることが多い。本シンポジウムのテーマである「攻撃性・衝動性を示す子ども」を考える場合,それと強く関連する非行と虐待の相談の実態をみることで,おおよその輪郭がたどれるのではないかと考える。本稿では最近の児童相談所での調査や児童福祉現場で抱える事例を紹介し,養育環境と子どもの攻撃性の実態と対応の課題を示したい。
1. 児童相談所について
児童福祉法に基づき全国に187か所(2005年4月現在)設置され,原則として18歳未満の子どもに関する多様な問題を取り扱っている。相談内容の統計は,養護,保健,障害,非行,育成(性格行動,不登校,育児・しつけ)などに分類,集計されているが,全体の相談件数の中では知的障害・肢体不自由をはじめとする障害相談がおおよそ半数を占めている。歴史的には,戦後の孤児・非行,そして不登校など,その時代特有の課題に対応してきた。今日では深刻な児童虐待に即応できる強制権を持つ児童福祉の行政機関として注目されている。
一般に相談が受理されると,児童福祉司による調査(情報収集)が開始され社会診断が行われる。必要に応じて児童心理司による心理診断,医師による医学診断,子どもを保護した場合にはその行動診断も加わり,さまざまな視点から総合的に事例が検討され支援内容が決定される。児童相談所が児童福祉法に基づいて行う支援のうち最も濃密なものに,子どもを家庭から預かり社会的養護を行う「施設入所または里親委託」がある。これは年齢と状態に応じて乳児院,児童養護施設,児童自立支援施設などへの入所,また件数は少ないが里親に委託するものである。「児童福祉司指導」は行政処分で児童相談所への強制的な通所または家庭訪問により複雑な家庭環境に起因する問題を改善させることを目指している。そのほか専門的技術をもって計画的に指導・支援する「継続指導」,関係機関などと協力しつつ助言などを行う「助言指導」があり,個々に合わせて選択されている。
2. 児童相談所が受ける最近の相談(図1)
筆者の勤務する東京都では,その11か所の児童相談所で年間およそ3万件の子どもに関するさまざまな相談を受理しており15),全国の児童相談所の約1/10の規模となっている。2004年度には虐待相談が3,019件で相談件数全体の10%,非行相談は1,651件で6%を占めた。この2つの割合は高いものではないが,図1に示すように虐待相談は2年前の1.5倍,5年前の2.4倍と大幅に増加し非行相談も2年前の1.5倍と増えている。同時期5年間の東京都の児童人口(住民基本台帳による18歳未満の人口)は-1.1%微減しており,両相談件数の増加は最近の大きな変化であると読み取れる。その背景には養育環境の問題があり,後述するような攻撃性や衝動性を示す子どもが高率に含まれる。子どもと家族に問題の認識や改善の意志が乏しい場合が多く,介入や支援が難しいことも共通している。ちなみに図1に示した不登校に関する相談は5年前に比べ2割ほど受理件数が減ってきている。これは一般に不登校児に教育機関が柔軟に対応できるようになったためで,依然として児童相談所に持ち込まれる不登校事例は福祉的視点が重要となる場合が多い。
このように児童相談所は必要に応じて相談意志のない家庭に対しても直接働きかけたり,地域・関係機関と連携しながら子どもの福祉の向上を図ることができる特徴を持つ。他の相談機関よりも家族機能に重篤な問題がある事例に長期間対応することが可能で,今日この非行と虐待には児童相談所の機能を最大限に発揮して取り組んでいる。
児童相談所は,子どもの福祉という観点から低年齢の非行や虐待問題にかかわることが多い。本シンポジウムのテーマである「攻撃性・衝動性を示す子ども」を考える場合,それと強く関連する非行と虐待の相談の実態をみることで,おおよその輪郭がたどれるのではないかと考える。本稿では最近の児童相談所での調査や児童福祉現場で抱える事例を紹介し,養育環境と子どもの攻撃性の実態と対応の課題を示したい。
1. 児童相談所について
児童福祉法に基づき全国に187か所(2005年4月現在)設置され,原則として18歳未満の子どもに関する多様な問題を取り扱っている。相談内容の統計は,養護,保健,障害,非行,育成(性格行動,不登校,育児・しつけ)などに分類,集計されているが,全体の相談件数の中では知的障害・肢体不自由をはじめとする障害相談がおおよそ半数を占めている。歴史的には,戦後の孤児・非行,そして不登校など,その時代特有の課題に対応してきた。今日では深刻な児童虐待に即応できる強制権を持つ児童福祉の行政機関として注目されている。
一般に相談が受理されると,児童福祉司による調査(情報収集)が開始され社会診断が行われる。必要に応じて児童心理司による心理診断,医師による医学診断,子どもを保護した場合にはその行動診断も加わり,さまざまな視点から総合的に事例が検討され支援内容が決定される。児童相談所が児童福祉法に基づいて行う支援のうち最も濃密なものに,子どもを家庭から預かり社会的養護を行う「施設入所または里親委託」がある。これは年齢と状態に応じて乳児院,児童養護施設,児童自立支援施設などへの入所,また件数は少ないが里親に委託するものである。「児童福祉司指導」は行政処分で児童相談所への強制的な通所または家庭訪問により複雑な家庭環境に起因する問題を改善させることを目指している。そのほか専門的技術をもって計画的に指導・支援する「継続指導」,関係機関などと協力しつつ助言などを行う「助言指導」があり,個々に合わせて選択されている。
2. 児童相談所が受ける最近の相談(図1)
筆者の勤務する東京都では,その11か所の児童相談所で年間およそ3万件の子どもに関するさまざまな相談を受理しており15),全国の児童相談所の約1/10の規模となっている。2004年度には虐待相談が3,019件で相談件数全体の10%,非行相談は1,651件で6%を占めた。この2つの割合は高いものではないが,図1に示すように虐待相談は2年前の1.5倍,5年前の2.4倍と大幅に増加し非行相談も2年前の1.5倍と増えている。同時期5年間の東京都の児童人口(住民基本台帳による18歳未満の人口)は-1.1%微減しており,両相談件数の増加は最近の大きな変化であると読み取れる。その背景には養育環境の問題があり,後述するような攻撃性や衝動性を示す子どもが高率に含まれる。子どもと家族に問題の認識や改善の意志が乏しい場合が多く,介入や支援が難しいことも共通している。ちなみに図1に示した不登校に関する相談は5年前に比べ2割ほど受理件数が減ってきている。これは一般に不登校児に教育機関が柔軟に対応できるようになったためで,依然として児童相談所に持ち込まれる不登校事例は福祉的視点が重要となる場合が多い。
このように児童相談所は必要に応じて相談意志のない家庭に対しても直接働きかけたり,地域・関係機関と連携しながら子どもの福祉の向上を図ることができる特徴を持つ。他の相談機関よりも家族機能に重篤な問題がある事例に長期間対応することが可能で,今日この非行と虐待には児童相談所の機能を最大限に発揮して取り組んでいる。
参考文献
1) Greenwald R:The role of trauma in conduct disorder. In Trauma and juvenile delinquency. Theory, research and interventions. Greenwald R, ed. The Haworth Maltreatment & Trauma Press, New York, pp5-23, 2002
2) 法務総合研究所:少年院在院者の被害経験に関する調査.法務総合研究所研究部報告11,2001
3) 犬塚峰子,野田正人,才村眞理,他:児童相談所における非行相談に関する全国調査について.厚生労働科学研究費補助金(こころの健康科学研究事業)分担研究報告書,2005
4) 犬塚峰子,蓑和路子,清田晃生,他:児童相談所における非行相談に関する全国調査について(2).厚生労働科学研究費補助金(こころの健康科学研究事業)分担研究報告書,2006
5) 伊東ゆたか,犬塚峰子,野津いなみ,他:児童養護施設で生活する被虐待児に関する研究(1)-現状に対する子どもの否定的思いについて.子どもの虐待とネグレクト 5:352-366,2003
6) 伊東ゆたか,犬塚峰子,野津いなみ,他:児童養護施設で生活する被虐待児に関する研究(2)-ケア・対応の現状と課題について.子どもの虐待とネグレクト 5:367-379,2003
7) 近畿弁護士会連合会子どもの権利委員会 編:施設で暮らす子どもたちの人権-虐待を受けあるいは親とともに暮らせない子どもたちのケアと権利擁護.第22回近畿弁護士会連合会人権擁護大会シンポジウム第2分科会,基調報告書,2002
8) 厚生労働省社会保障審議会児童部会:児童虐待の防止等に関する専門委員会報告書.平成15年6月
9) Lewis DO:From abuse to violence. Psychophysiological consequences of maltreatment. J Am Acad Child Adolesc Psychiatry 31:383-391, 1992
10) 高橋三郎,染矢俊幸,大野裕 訳:DSM-IV-TR 精神疾患の診断・統計マニュアル.医学書院,2003
11) 東京都福祉保健局:東京の児童相談所における非行相談と児童自立支援施設の現状.平成17年3月
12) 東京都福祉保健局少子社会対策部:児童虐待の実態II.輝かせよう子どもの未来,育てよう地域のネットワーク.平成17年12月
13) 東京都福祉局(現福祉保健局):児童虐待の実態-東京の児童相談所の事例に見る.平成13年10月
14) 東京都児童相談センター:虐待を受けた子どもの精神医学的な影響-治療指導課の追跡調査結果から.平成14年3月
15) 東京都児童相談センター:事業概要 東京都児童相談所 2005年(平成17年)版.平成18年1月
16) Widom CS:The cycle of violence. Science 244:160-166, 1989
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