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雑誌目次

雑誌文献

精神医学49巻10号

2007年10月発行

雑誌目次

巻頭言

精神状態像の基礎構造

著者: 臺弘

ページ範囲:P.992 - P.993

 筆者が「精神医学」誌に巻頭言を書くのは3回目である。初めは本誌35巻4号(1993)で精神科の3治療(精神・生物・生活療法)を,次の41巻3号(1999)には症状論と機能論の統合を述べた。筆者の臨床の原点は都立松澤病院であるが,群馬大学で江熊要一と共著の「精神科外来診療の手引」(1966)を発表した頃から生活臨床に収斂し,東京大学を経て診療所の外来で地域医療にかかわって今日に至っている。今回は精神科医療の実践の原点が「精神状態像の基礎構造」にかかわるという月並みな意見を自己流に語らせていただく。

 言うまでもないことながら,精神症状の理解には相手の主観的内容を広い共感をもって了解し説明できることが目指される。それには客観的観察・判断で得られた状態像の理解と生活歴,環境状況,家族・遺伝歴を総合した判断が必要である。医療が患者の障害の改善・回復を目指し「生活の価値」QOLを高める目標を持つからには,所見の真実の立証と内容の整合も求めねばならない。この作業は受動的な診る・聴くだけでなく,能動的に問いや試み・課題への働きかけ・治療や生活への参加を促し,さらに神経・生物学的な諸検査の裏付けも必要となる。「問い」は「求め」である。ここでは簡易客観指標が重要となる。

展望

意識障害とその展望

著者: 兼本浩祐

ページ範囲:P.994 - P.1002

はじめに

 精神科領域において意識障害について論じようとする場合,臨床的有用性を重視するのか17),それとも意識という概念そのものに取り組もうとするか14)によって論じられるべき対象に若干の齟齬が生じてくる。たとえばEy Henriの意識野6)という概念を突き詰めて考えると,現前の成立という哲学的な議論が必然的に必要になってくるし,したがって,統合失調症のある種の病態をも意識障害の範疇において考える必要が出てくる。統合失調症を意識障害論の範疇で論ずるのは,より神経学的な意識障害論の方向に親和性を高めている昨今の我々の医学的な思考の流れからは違和感があるが,意識障害を現前の成立の問題として広く考える立場は,精神医学においては実際は伝統的であって,そもそもKraepelinの意識障害論には「外的刺激を内的印象に変化させる過程」の障害という文言がみられ19),Mayer-GrossはKraepelinのこの考えを外的印象を一定の意味を帯びた内的印象に変化させること,すなわちゲシュタルト形成することであると再定義してより明確化している21)。ゲシュタルト形成とは現前の成立という概念と実際にはきわめて近い。

 しかしながら,意識障害という言葉を臨床で用いる場合,統合失調症における現前の成立の揺らぎまでをその範疇に入れると実際上の使い勝手は悪くなってしまう。その理由は,意識障害という術語には,外因性・器質性の障害を鑑別するという役割が医学においては伝統的に割り当てられてきたからであり17),意識障害が存在すると判断することはしばしば外因性の障害であるという意味を含意してきたからである。この点に注目し,意識障害を急性一過性の大脳機能全般の不全症候群としてとらえ直そうとする試みも古くからあり,Bonheofferの急性外因反応型,DSM-IIの脳器質性症候群“organic brain syndrome”の急性型といった概念はそれぞれカバーする範囲に微妙なずれはあるものの,いずれも器質性であること,急性一過性の状態であること,脳の特定の部位に限局した病巣によるものではなく脳全体の機能低下によるものであることなどで枠づけられる病態を一つにくくって検討することで,意識障害という言葉を巧みに回避しつつ,急性に出現した逸脱行為あるいは行動異常が器質因を持つ場合の特徴を抽出して,心因性や内因性の病態とそれとを弁別する手助けにしようとするものであった。

 こうした接近方法は確かに意識という困難な用語を回避し得る利点があるが,意識という概念は法体系を含めた我々の近代社会の成立にきわめて深く関与しており,意識障害の概念を回避した場合,実践的にはきわめて使い勝手の悪い分類体系が出現してしまう場合がある。

 意識論は,昨今,本邦においても盛んに論じられつつあり,たとえば神経心理学の視点から大東による卓抜な総説が最近発表されている22)。神経心理学的な立場からの総説としては大東の論考は非常にスタンダードで現時点でのこのトピックに関する話題はほぼそこで尽くされていると言ってもよい。したがって,屋上屋を重ねないために,本稿では臨床実践において意識障害概念への取り扱いの問題が混乱を引き起こしている具体例を,せん妄と新国際てんかん発作分類を例にとって提示し,そのうえでEy,Damasio,Edelmanの意識論を題材にして各論説への批判的な展望を行った。

 紙幅の関係ですべての文献を挙げられなかったこと,またせん妄の項は「精神科治療学」で刊行予定の拙論を抄録したものであることをあらかじめ断わっておく。

研究と報告

統合失調症における言語性記憶の近赤外線スペクトロスコピーによる検討

著者: 伊藤文晃 ,   中村真樹 ,   三浦伸義 ,   藤山航 ,   松本和紀 ,   松岡洋夫

ページ範囲:P.1005 - P.1012

抄録

 統合失調症の認知機能障害に関してはこれまで多くの報告があり,その中でも言語性記憶は最も強く障害されているとされている。今回我々は,統合失調症の患者17名と健常者17名に対して,記銘の際にカテゴリ化を要する単語記憶課題を施行し,その際の前頭葉血流変化を近赤外線スペクトロスコピー(NIRS)を用いて測定した。課題成績は患者群で有意に低下しており,また単語記銘に伴う両側前頭前野での酸素化ヘモグロビン濃度変化は患者群で有意に低下していた。統合失調症の患者は言語性記憶の際にカテゴリなどの手がかりを効率よく利用することができない可能性があり,それには前頭前野の活動の低下が関与していることが示唆された。

統合失調症の徘徊行動にolanzapineとparoxetineの併用が著効した1例

著者: 福中優子 ,   堀広子 ,   中村純

ページ範囲:P.1013 - P.1018

抄録

 徘徊行動を伴う統合失調症の治療に対し,olanzapineとparoxetineの併用が有効であった1例を報告する。統合失調症の陰性・陽性症状に対してはolanzapineが奏効したが,頑固な徘徊行動は残存していた。徘徊行動を強迫行為と考えparoxetineの追加投与を行ったところ,徘徊行動は著明に改善した。統合失調症に強迫性障害を伴うことは決して珍しいことではなく,最近では第二世代抗精神病薬とselective serotonin reuptake inhibitors(SSRI)との併用が有効であった症例が数多く報告されている。しかし徘徊行動に注目した報告は我々の知る限りなく,興味深い症例と考えられた。

短報

広汎性発達障害の行動・情緒的特徴の性差―Child Behavior Checklist/4-18による検討

著者: 神谷美里 ,   吉橋由香 ,   宮地泰士 ,   辻井正次

ページ範囲:P.1021 - P.1024

目的

 広汎性発達障害(以下,PDD)の発生率について,男性に比して女性が少ないことは古くから指摘されている。こうした女子例の少なさもあってか,特性の性差を検討した報告は数が少ない。しかし,臨床像に性差があることはすでに指摘されており4),より詳細な検討が望まれる。

 そこで本研究では,行動・情緒的な特徴にどのような性差があるのか,Child Behavior Checklist/4-18(以下,CBCL)を用いて検討する。CBCLは子どもの行動や情緒の問題を包括的に評価する質問紙であり,諸国で広く使われているものである。これまで,CBCLから明らかにされてきたPDDの特徴として,「社会性の問題」や「思考の問題」が顕著であることが指摘されている1,2)。しかし,性差による特徴の違いについての検討は十分されていないため,本研究ではこれについて検討することとする。

ベンゾジアゼピンの関連が推測された老齢初発のspike-wave stupor

著者: 門家千穂 ,   細川清 ,   高橋正幸 ,   藤本明

ページ範囲:P.1027 - P.1031

はじめに

 “Spike-wave stupor”は両側同期性棘徐波複合bilateral synchronous spike and waveの頻回,連続性の出現と,それに相応するなんらかの精神変調を呈する病態を指して,NiedermeyerとKhalifeh6)が,てんかんの治療経過中に例外状態として提唱したことに始まる。細川は,本邦において,てんかんの既往もなくこの状態が唯一の精神神経学的な表出である症例や,中枢神経疾患の慢性経過中などにまれに出現することがあることから,棘徐波重積状態症候群spike-wave status syndrome2)を提唱した。

 今回,病因はなお不明であるが,高血圧,多発性脳梗塞の既往のある69歳のやや高齢の男性が,不眠を主訴としてベンゾジアゼピン服用中,強直間代発作後にspike-wave stuporに合致する状態を呈した。その臨床経過を述べ,若干の考察を行いたい。

Aripiprazoleへの処方変更により遅発性ジスキネジアが改善した統合失調症の1症例

著者: 櫛野宣久 ,   安藤英祐 ,   細野玄哉 ,   松本英夫 ,   玉井康之

ページ範囲:P.1033 - P.1036

はじめに

 錐体外路症状(extrapyramidal symptoms,以下EPS)は抗精神病薬内服による副作用である。遅発性ジスキネジア(tardive dyskinesia,以下TD)は抗精神病薬の数年以上にわたる長期投与によって出現するEPSの一つで,定型抗精神病薬と比較して非定型抗精神病薬ではより少ないとされている。またTDは難治性のEPSとしても知られ,治療法も確立されておらず,その出現は精神疾患の治療のみならず社会復帰や患者のQOLにも影響する。

 今回我々は非定型抗精神病薬による治療中にTDが出現しaripiprazole(以下APZ)へ処方変更することによってTDが改善した症例を経験したので報告する。TDについてはAbnormal Involuntary Movement Scale4)(以下AIMS)を用いて評価した。なお報告にあたって,口頭にて本人および家族の同意を得た。また科学的考察のために支障のない範囲でプライバシーに配慮し,症例の内容を改変した。

資料

障害年金認定基準の問題性

著者: 河本純子

ページ範囲:P.1037 - P.1043

はじめに

 障害者の生活を支える所得保障の制度として障害年金の果たす役割は大きい。しかしながら,国民年金法は法制定当初(1959年),障害の範囲を視覚障害・聴力障害・平衡機能障害・咀嚼機能障害・音声言語機能障害・肢体不自由の,いわゆる外部障害に限定していた7)。1964年の改正で,結核性疾患による病状障害と換気機能障害,非結核性疾病による呼吸器の機能障害および精神の障害(いわゆる内部障害)が対象となったが,この経緯は後々にも年金受給要件に精神の障害を有する者が受給困難となりやすい問題を残していると指摘されてきた。

 その1つは,すでに議論されている9)。初診日の保険料納付要件は,病識を持ちにくく病状の重い時期に社会関係から孤立しがちな精神疾患の実態に即していない,ということである。

 他の問題としては,障害程度の認定基準が,精神の障害について的確に評価することができるものではないことが挙げられる。初診日の保険料納付要件を満たしていても,必ずしも障害の程度にふさわしい保障が得られるとは限らない。診断書の記載では障害に該当しないと判断され年金が不支給となったり,現実に障害の状態が深刻な者が低い等級にしか認定されない例を日常的に散見する。

 そこで本稿では,年金の請求について筆者が関与した25例の診断書記載内容と実際に認定された障害程度について検討し,その問題性を指摘することとする。

 25例の診断書は検討のための諸条件整備のためかなり過去のものであるが,見出された問題点は今日でもなお克服されていない。これらの問題点について関心を持ち,個々の事例に応じて是正に向けた問いかけを繰り返していくことが年金制度の適正な運用を促進するうえで必要であると考え,参考のために25例以外の最近の再審査請求事例を併せて報告する。

日本における精神科疾病分類(ICDおよびDSM)に関するアンケート調査―New Zealandとの比較も踏まえて

著者: 長峯正典 ,   勝強志 ,   加藤隆弘 ,   上原久美 ,   藤澤大介 ,   佐藤創一郎 ,   吉野相英 ,   野村総一郎 ,   新福尚隆

ページ範囲:P.1045 - P.1052

はじめに

 World Health Organization(WHO;世界保健機構)はおよそ100年もの間,International Classification of Disease(ICD;国際疾病分類)を発展させ,American Psychiatric Association(APA;米国精神医学会)はDiagnostic and Statistical Manual(DSM;精神疾患の分類と診断の手引き)を別個に発展させてきた。現在はICD-10(1992年)2),およびDSMⅣ-TR(2000年)3)が利用可能であり,我々の耳にも随分と馴染んできたと言える。

 ICDは当初,国際的に通用する死因統計を記録するシステムとして出発し,およそ10年ごとの改定会議を経て現在まで発展してきた。その過程でICDは単なる死因統計を記述するだけでなく,保健にかかわる幅広い領域を扱うものとなり,さらに1992年のICD-10からは臨床や研究を目的とした診断分類としての役割にも重点が置かれるようになった。ICDはその序論にも述べられているように,諸障害に関する最新の情報が網羅された理論的なものではない。世界各国のエキスパートの意見を参考に作成されており,諸学派・諸地域において国際的に受け入れられることが重視されている。

 一方DSMはICDよりも歴史が浅く,その初版は1952年にAPAによって作成され,当初より臨床のための分類であることが明確にされていた。1980年に発表されたDSM-Ⅲ1)以降は多軸評価システムが導入され,さらに病因論からは中立的立場である操作的診断基準が全面的に採用された。その診断信頼性を検討する目的で大規模な実地試験がなされたことや,ICDとの互換性が意識されたことも特記に値する。また,DSMの診断カテゴリーの有用性などに関しては,主に臨床研究のデータを基に検討されていることも大きな特徴である。

 現在の両バージョンはこのような試みがなされてきた結果であるが,次なる改訂版として現在ICD-11とDSM-Ⅴの作成が計画されており,新たな診断基準の理念および方法論に関して議論がなされている。それに際し,両診断基準の有用性に関する現場での評価の声が求められているものの,利用者が疾病分類に何を求め,何を必要としているかといった調査については我々が知る限りこれまでになされていない。これらを調査する目的でNew ZealandのMellsopらによってアンケート調査がデザインされ,すでにNew Zealandではアンケート調査が実施されている9)。今回我々はMellsopらより依頼を受け,本邦でも同様の調査を実施することとした。

 本邦での精神科疾病分類に関するアンケート調査の結果を,New Zealandでの結果も交えて報告する。

市立旭川病院精神科における児童思春期患者の実態―1996~2005年の10年間の外来統計から

著者: 武井明 ,   目良和彦 ,   宮崎健祐 ,   佐藤譲 ,   原岡陽一 ,   本田陽子 ,   太田充子

ページ範囲:P.1053 - P.1061

はじめに

 少子化や高度情報化といった急激な社会変化に伴って,家族関係のあり方や学校の役割が徐々に変わり始めている可能性がある。そのような変化の中で,子どもたちの心の問題が複雑化かつ多様化して,不登校,ひきこもり,いじめ,摂食障害,発達障害,児童虐待,自殺などが社会的な関心を集めるようになった。しかし,児童思春期患者の診療を専門的に行っている精神科の医療機関が全国的にみて数少ないのが現状である。

 市立旭川病院精神科(以下,当科と略)では,1980年代から不登校をはじめとする思春期患者が増加した20)。そのため,思春期の子どもたちが気軽に受診できる精神科外来の必要性が高まったことから,1991年1月に思春期外来を専門外来として開設し,道北地域における児童思春期の精神科医療を担ってきた。我々は,これまでに定期的に思春期外来の患者動向を報告してきたが11,16),今回は過去10年間の統計を集計し,児童思春期患者の最近の特徴を報告する。

紹介

英国イングランドの精神障害者ケアマネジメント(ケースマネジメント)

著者: 三野善央 ,   山口創生 ,   三浦惟史

ページ範囲:P.1063 - P.1071

はじめに

 わが国の精神保健福祉サービスは,精神病院入院中心から地域ケア中心へと大きく変化しようとしている。実際,ここ20年ほどで精神科通院患者数は急激に増加し,それは最も重篤な精神疾患と考えられる統合失調症においても認められている。しかしながら精神病院在院患者数は34万人程度でここ数年の間大きな変化がなく,これは国際的に見ても非常に多いことから批判がなされ7),施設症の問題も指摘されている13)。こうした中で,2003年の新障害者プランでは,社会的入院と考えられる7万2千人の地域への移行が目標とされ,そのための具体的な方策が検討されている。

 精神障害者のケアマネジメントは,わが国での地域ケアを推進する重要な手段として注目されている。また現在重視されている根拠に基づく実践(evidence based practice;EBP)の立場からしても,精神障害者ケアマネジメントは,再入院予防,在院期間の短縮などに有効な手段と考えられる。したがって,新たな7万2千人の在院患者の地域への移行を考えた場合,ケアマネジメントの展開は不可欠の要素と考えられる12)

 これまでに,わが国では精力的に精神障害者ケアマネジメントのあり方が検討されてきた12)。そうした中で,英国イングランドにおけるケアマネジメントのあり方とその発展を検討することは,わが国での地域ケアの進展に寄与すると考えられる。

The Zucker Hillside HospitalでのECT認定コースへ参加して

著者: 鈴木一正

ページ範囲:P.1073 - P.1076

はじめに

 2006年2月に,米国のThe Zucker Hillside Hospital(ZHH)で行われた5日間のECT(電気けいれん療法)の実践と理論に関する認定研修コースに参加したので報告する。

私のカルテから

Perospironeにより心気症状が改善した統合失調症の1例

著者: 藤川美登里 ,   都甲崇 ,   平安良雄

ページ範囲:P.1077 - P.1079

はじめに

 近年,risperidoneやperospironeといったセロトニン・ドーパミンアンタゴニスト(SDA)に代表される第2世代抗精神病薬は,統合失調症の薬物療法の主流になりつつあり,統合失調症の薬物療法における選択肢は格段に広がった3)。また,第2世代抗精神病薬間の効果の違いや副作用の発現率の相違についての報告も,多数みられるようになっている。

 Perospironeは,薬理学的に陽性症状の改善に作用するD2受容体阻害作用に加えて,陰性症状への効果や錐体外路症状の軽減と関連する5-HT2A受容体阻害作用が強いことが知られている4,6)。さらに,perospironeでは,5-HT1A受容体への作用によって抗不安作用や抗うつ作用がもたらされると考えられている4)。臨床的にもperospironeの投与によって,不安や抑うつ気分,神経症症状の軽減がみられたとする報告は少なくない1,2,5,7)

 今回我々は,嘔気・嘔吐などの心気症状に対し,perospironeが奏効した1例を経験したので報告する。

書評

―武田雅俊,加藤敏,神庭重信 著―Advanced Psychiatry脳と心の精神医学

著者: 大森健一

ページ範囲:P.1081 - P.1081

 現代社会の変化・進展は実にめまぐるしく目を見張る思いである。科学の進歩はこの人間社会にさまざまな利便をもたらし,生活は50年前と比較すると想像もできないほどの豊かなものとなった。しかしこのような状況の下で,いやむしろこのような状況下でこそ人々の生き方は,あるいは人間関係は,さらには心のありようは,複雑・困難なものとなり,混乱と混迷を来している。したがって心を病む人々も増加し,国民の精神医療に対する要請・期待が高まっている。

 また一方で,私が精神科医としてその第一歩を踏み出した40年前の頃とは,精神疾患の病態もその背景の社会・文化生活を反映して,その中核は別として,辺縁の拡大と多様化が著しい。このような状況の中で,現代の新しい精神科臨床を解説するまとまった著書を多くの精神科医が期待している。

―浜田 晋 著―街角の精神医療 最終章

著者: 兼本浩祐

ページ範囲:P.1082 - P.1082

窓の外に広がる辺境の記録と思い

 終わりを全うするということはどういうことだろうか。勲章をもらうことか,それとも教授や大病院の院長などの役職を歴任することか。最終章と副題を打たれた本書の終わりにはチェーホフの『桜の園』が引用されている。

 「上野も半ば崩壊した。私もこの地を去っていく。どこかへ」という最後の言葉は,三十年の苦闘の歴史をこれと言って誇るでもなく,冷徹に現状を眺めながら,しかしそこで本当に根をおろして生きてきた人だけが語ることができる感慨に満ちている。本書には,すべてがもう変わってしまい自らも年老いながら,生きることはそれでも良いことだったと『桜の園』で思うチェーホフの終章が確かによく似合っている。

―大熊輝雄,松岡洋夫,上埜高志 著 齋藤秀光,三浦伸義 執筆協力―脳波判読step by step入門編(第4版) 脳波判読step by step症例編(第4版)

著者: 松浦雅人

ページ範囲:P.1083 - P.1083

臨床脳波判読医養成に効果的な標準テキスト

 脳波は波形が複雑に変動するだけでなく,頭蓋上の多くの部位から長時間にわたって記録するため,全体を総合的に把握しなければならない。初学者にとってはどこから手をつけてよいかわからず,取りつきにくいとの印象を持つのもうなずける。本書はこれから脳波判読を習得しようとする人のために書かれたもので,初版が1986年なので20年の歴史を持つことになる。前回の第3版の改定から7年を経過し,今回さらに加筆・増補が行われた。

 「入門編」ではステップ1からステップ14まで,段階を追ってていねいに脳波判読の手ほどきをしてくれている。各ステップにはたくさんの練習問題がついており,たとえば1週間に1ステップの練習問題をクリアすることを目標にすれば,3~4か月で脳波判読の基本を修得できる。脳波図版は原寸大であり,計測用の脳波スケールがついているのも親切である。手を使って脳波波形にスケールを当てて,実際に計測することではじめて波形の観察力が深まる。ステップ1では周波数や振幅の計測のしかたを体験し,次いでステップ2からステップ3にかけて位相や左右差,分布や局在など,次第に複雑な波形の計測法を学ぶ。さらに,脳波記録法,アーチファクト鑑別法,賦活法,成人脳波,睡眠脳波,異常脳波とステップアップしていく。ステップ11からは小児脳波の分野に入り,ステップ14の老年者の脳波判読を終えると,すべての年代の脳波判読をカバーしたことになる。

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編集後記

著者:

ページ範囲:P.1088 - P.1088

 電子ジャーナルが普及し,外国語雑誌は図表付で全文が閲覧できるものが増えている。料金体系は複雑で,冊子体とのセットで購読する場合,電子ジャーナルは無料,あるいは5~20%程度の上乗せ料金を取られる。電子ジャーナルのみ分離販売される場合もあり,料金は冊子体より安いケースもあれば,同じか逆に高いケースもある。雑誌購読料は年々高騰している。しかし電子ジャーナルの利点は非常に大きく(研究者にとっては情報の迅速性・検索機能など,図書館にとっては重複購入削減・雑誌管理経費や書架スペースの節約など),大学・研究機関ではなくてはならないものになっており,今やどの機関も高い購読料に悲鳴を上げている。

 このような現状への対抗措置の一つとして「リポジトリ」が始まっている。リポジトリとは,論文や報告書をデータベース化して学内外に無料で公開する仕組みで,研究者は自身の論文別冊,あるいはその電子媒体(著者最終稿でも可)を附属図書館などに提出し,図書館ではそれを全文閲覧できる形に電子化する。その際著作権を確認し,著者,論文名,キーワードなどを(メタデータ)取り出し整理したうえで「リポジトリ」に登録する。登録された情報はGoogleなどの検索エンジンにかかり広く一般に利用される,という仕組みである。欧米ではすでに取り組まれ,日本でも国立情報学研究所のリードで参加機関が年々増え,いわば国策の領域に入っている。仮にすべての研究者が自身の発表論文をリポジトリに登録すると,電子ジャーナルは不要となり一大革命になるとされる。

基本情報

精神医学

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-126X

印刷版ISSN 0488-1281

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