日本における精神科疾病分類(ICDおよびDSM)に関するアンケート調査―New Zealandとの比較も踏まえて
著者:
長峯正典
,
勝強志
,
加藤隆弘
,
上原久美
,
藤澤大介
,
佐藤創一郎
,
吉野相英
,
野村総一郎
,
新福尚隆
ページ範囲:P.1045 - P.1052
はじめに
World Health Organization(WHO;世界保健機構)はおよそ100年もの間,International Classification of Disease(ICD;国際疾病分類)を発展させ,American Psychiatric Association(APA;米国精神医学会)はDiagnostic and Statistical Manual(DSM;精神疾患の分類と診断の手引き)を別個に発展させてきた。現在はICD-10(1992年)2),およびDSMⅣ-TR(2000年)3)が利用可能であり,我々の耳にも随分と馴染んできたと言える。
ICDは当初,国際的に通用する死因統計を記録するシステムとして出発し,およそ10年ごとの改定会議を経て現在まで発展してきた。その過程でICDは単なる死因統計を記述するだけでなく,保健にかかわる幅広い領域を扱うものとなり,さらに1992年のICD-10からは臨床や研究を目的とした診断分類としての役割にも重点が置かれるようになった。ICDはその序論にも述べられているように,諸障害に関する最新の情報が網羅された理論的なものではない。世界各国のエキスパートの意見を参考に作成されており,諸学派・諸地域において国際的に受け入れられることが重視されている。
一方DSMはICDよりも歴史が浅く,その初版は1952年にAPAによって作成され,当初より臨床のための分類であることが明確にされていた。1980年に発表されたDSM-Ⅲ1)以降は多軸評価システムが導入され,さらに病因論からは中立的立場である操作的診断基準が全面的に採用された。その診断信頼性を検討する目的で大規模な実地試験がなされたことや,ICDとの互換性が意識されたことも特記に値する。また,DSMの診断カテゴリーの有用性などに関しては,主に臨床研究のデータを基に検討されていることも大きな特徴である。
現在の両バージョンはこのような試みがなされてきた結果であるが,次なる改訂版として現在ICD-11とDSM-Ⅴの作成が計画されており,新たな診断基準の理念および方法論に関して議論がなされている。それに際し,両診断基準の有用性に関する現場での評価の声が求められているものの,利用者が疾病分類に何を求め,何を必要としているかといった調査については我々が知る限りこれまでになされていない。これらを調査する目的でNew ZealandのMellsopらによってアンケート調査がデザインされ,すでにNew Zealandではアンケート調査が実施されている9)。今回我々はMellsopらより依頼を受け,本邦でも同様の調査を実施することとした。
本邦での精神科疾病分類に関するアンケート調査の結果を,New Zealandでの結果も交えて報告する。