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雑誌文献

精神医学49巻10号

2007年10月発行

文献概要

資料

日本における精神科疾病分類(ICDおよびDSM)に関するアンケート調査―New Zealandとの比較も踏まえて

著者: 長峯正典18 勝強志28 加藤隆弘38 上原久美48 藤澤大介58 佐藤創一郎68 吉野相英1 野村総一郎1 新福尚隆7

所属機関: 1防衛医科大学校精神科学講座 2土佐病院 3九州大学医学部精神科 4横浜市立大学精神医学教室 5慶應義塾大学医学部精神神経科 6慈圭病院精神科 7西南学院大学人間科学部社会福祉学科 8日本若手精神科医の会

ページ範囲:P.1045 - P.1052

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はじめに

 World Health Organization(WHO;世界保健機構)はおよそ100年もの間,International Classification of Disease(ICD;国際疾病分類)を発展させ,American Psychiatric Association(APA;米国精神医学会)はDiagnostic and Statistical Manual(DSM;精神疾患の分類と診断の手引き)を別個に発展させてきた。現在はICD-10(1992年)2),およびDSMⅣ-TR(2000年)3)が利用可能であり,我々の耳にも随分と馴染んできたと言える。

 ICDは当初,国際的に通用する死因統計を記録するシステムとして出発し,およそ10年ごとの改定会議を経て現在まで発展してきた。その過程でICDは単なる死因統計を記述するだけでなく,保健にかかわる幅広い領域を扱うものとなり,さらに1992年のICD-10からは臨床や研究を目的とした診断分類としての役割にも重点が置かれるようになった。ICDはその序論にも述べられているように,諸障害に関する最新の情報が網羅された理論的なものではない。世界各国のエキスパートの意見を参考に作成されており,諸学派・諸地域において国際的に受け入れられることが重視されている。

 一方DSMはICDよりも歴史が浅く,その初版は1952年にAPAによって作成され,当初より臨床のための分類であることが明確にされていた。1980年に発表されたDSM-Ⅲ1)以降は多軸評価システムが導入され,さらに病因論からは中立的立場である操作的診断基準が全面的に採用された。その診断信頼性を検討する目的で大規模な実地試験がなされたことや,ICDとの互換性が意識されたことも特記に値する。また,DSMの診断カテゴリーの有用性などに関しては,主に臨床研究のデータを基に検討されていることも大きな特徴である。

 現在の両バージョンはこのような試みがなされてきた結果であるが,次なる改訂版として現在ICD-11とDSM-Ⅴの作成が計画されており,新たな診断基準の理念および方法論に関して議論がなされている。それに際し,両診断基準の有用性に関する現場での評価の声が求められているものの,利用者が疾病分類に何を求め,何を必要としているかといった調査については我々が知る限りこれまでになされていない。これらを調査する目的でNew ZealandのMellsopらによってアンケート調査がデザインされ,すでにNew Zealandではアンケート調査が実施されている9)。今回我々はMellsopらより依頼を受け,本邦でも同様の調査を実施することとした。

 本邦での精神科疾病分類に関するアンケート調査の結果を,New Zealandでの結果も交えて報告する。

参考文献

1) American Psychiatric Association:DSM-ⅢDiagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders. Washington, D. C., 1980
2) American Psychiatric Association:DSM-ⅣDiagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders. Washington, D. C., 1994
3) American Psychiatric Association:DSM-IV-TR Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders. Washington, D. C., 2000
4) Cooper JE:Prospects for Chapter Ⅴof ICD-11 and DSM-Ⅴ. Br J Psychiatry 183:379-381, 2003
5) 藤縄昭,北村俊則:精神医学における操作的疾病分類学―症状学の効用と限界.精神科治療学 6:549-554,1991
6) Kendell R, Jablensky A:Distinguishing between the validity and utility of psychiatric diagnoses. Am J Psychiatry 160:4-12, 2003
7) Kramer M, Sartorius N, Jablensky A, et al:The ICD-9 classification of mental disorders. A review of its development and contents. Acta Psychiatr Scand 59:241-262, 1979
8) Kupfer DJ, First MB, Regier DA:A Research Agenda for DSM-Ⅴ. American Psychiatric Association, Washington, D. C., 2002
9) Mellsop GW, Dutu G, Robinson G:New Zealand Psychiatrist views on Global Features of ICD-10 and DSM-IV. Aust NZJ Psychiatry 41, 2007(in press)
10) Nakane Y, Nakane H:Classification systems for psychiatric diseases currently used in Japan. Psychopathology 35:191-194, 2002
11) Sartorius N, Kaelber CT, Cooper JE, et al:Progress toward achieving a common language in psychiatry. Results from the field trail of the clinical guidelines accompanying the WHO classification of mental behavioral disorders in ICD-10. Arch Gen Psychiatry 50:115-124, 1993
12) 新福尚隆:操作的診断基準の有用性と限界をめぐる今日的問題―ICDの過去,現在,未来―国際的視点から,操作的診断を考える.精神医学 48:706-708,2006
13) 高橋誠,高橋三郎,染矢俊幸:DSM診断はどこまで受け入れられたか? 精神医学 43:831-839,2001
14) World Health Organization:The ICD-10 International Classification of Mental and Behavioral Disorders. Clinical Description and Diagnostic Guidelines. Geneva, 1992

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-126X

印刷版ISSN:0488-1281

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