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文献詳細

雑誌文献

精神医学49巻11号

2007年11月発行

文献概要

シンポジウム ストレスと精神生物学―新しい診断法を目指して

オーバービュー―ストレスを科学する

著者: 加藤進昌12

所属機関: 1昭和大学烏山病院 2昭和大学医学部精神医学教室

ページ範囲:P.1147 - P.1149

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ストレスとは何か

 PTSD(外傷後ストレス障害)という病名は今日ではすっかりおなじみの言葉になった。その病態はストレスによる心身の反応のいわばモデル,代表ということができる1~4)。ストレスという概念は,ハンガリー系カナダ人科学者であるSelye, Hansによって生み出された。彼はそれ以前に,アメリカ人生理学者であるCannon, Walterが提唱した,生体が恒常性を維持する仕組みであるホメオスタシス理論をもとに,生体が侵害刺激を受けてそれに適応しようとして破綻する場合に刺激に対応しない,非特異的反応が起こること(=ストレス)をホルモンの反応として証明した。これが今日でいう視床下部―下垂体―副腎皮質(HPA)系反応である。

 一般にストレッサーである侵害刺激がくると生体は警告期もしくは即時反応として交感神経系が緊急動員される。これを担う物質はアドレナリン,脳ではノルアドレナリンであり,副交感神経系はとりあえず不要不急として抑制される。いわば「火事場の馬鹿力」期である。第二段階は適応期あるいは抵抗期であり,生体は恒常性を取り戻す方向に働く。ここでHPA系の各ホルモンが働くが,もっとも重要な物質が副腎皮質ホルモンであるコルチゾールである。そして安定期あるいは咀嚼期に入る。この時期では免疫系が重要である。ステロイドホルモンは免疫系を一般に抑制する。急性期にはホルモンで対抗するのが重要であり,免疫は役に立たない。一方,安定期には免疫系が「さっきは急だったからうっかりしたけど今度来たら負けないぞ」と備えるわけである。

参考文献

1) 加藤進昌,樋口輝彦 編:PTSD:人は傷つくとどうなるか.日本評論社,2001
2) 加藤進昌 編:特集:PTSD.こころの科学 129,2006
3) Kato N, Kawata M, Pitman RK, eds:PTSD:Brain Mechanisms and Clinical Implications. Springer-Verlag, 2006
4) McEwen BS 著,加藤進昌 監訳,定松美幸 訳:とらわれの脳.学会出版センター,2003

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-126X

印刷版ISSN:0488-1281

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