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シンポジウム ストレスと精神生物学―新しい診断法を目指して
ストレスと性格―ストレス感受性の裏舞台
著者: 吉井光信1 中本百合江1 中村和彦12
所属機関: 1東京都精神医学総合研究所精神生物学研究分野 2浜松医科大学精神精神科
ページ範囲:P.1159 - P.1166
文献購入ページに移動パーソナリティは遺伝的要因と環境的要因から形成されている。統合失調症や気分障害などの精神疾患との関連で関心が持たれており,以前より一卵性双生児および二卵性双生児を対象に遺伝的要因の寄与が調べられてきた。近年は,患者のみならず健常人をも対象に遺伝子解析が行われ,パーソナリティに関与する遺伝子多型の報告が続々と出始めている。その発端となったのは,ドーパミンD4受容体遺伝子(D4DR)の多型が新奇追求性というパーソナリティ特性に関係するという報告である3)。最近では,ストレスによりうつ(鬱)病になるケースで,セロトニン輸送蛋白質の遺伝子多型により発症率の違いが生ずるという報告があり,話題になっている1)。我々もパーソナリティに関連するストレス感受性の研究を行っている。着目しているのは末梢型ベンゾジアゼピン受容体と呼ばれている膜蛋白質である。
抗不安薬として広く使われているベンゾジアゼピン系薬剤は,脳において抑制性伝達物質であるGABAの受容体(GABAA受容体)に作用し,抗不安作用・抗痙攣作用・催眠作用を発揮する。一方,末梢組織にもベンゾジアゼピン誘導体の結合部位があり,末梢型ベンゾジアゼピン受容体(peripheral-type benzodiazepine receptor;PBR)と呼ばれている。PBRは種々の末梢組織,特にステロイド産生組織である副腎皮質に数多く現れている。ステロイド産生の最初のステップは,ミトコンドリアにおけるコレステロールからプレグネノロンへの転換である。この反応の鍵を握るのがミトコンドリア膜を首座とするPBRである4)。
生体にストレスが加わると,いわゆる視床下部-下垂体前葉-副腎皮質系が働き,コルチゾールなどの副腎皮質ホルモンの分泌が促される。このようなストレスにより副腎皮質などの末梢組織のPBRが増加し,ストレスが繰り返されると逆に減少することが動物実験で示されている2)。
ヒトの場合は主として血小板で調べられており,動物実験と同じく,急性ストレスによりPBRが増加し,慢性ストレスによりPBRが減少するとの報告がある4)。したがって,血小板PBRはストレス状態を示す生物学的マーカーの1つであると考えられている。しかしながら,これまでの研究ではストレス反応をグループごとの比較により検討されており,個体間の差異(ストレス感受性)に関しては研究が行われていなかった。
我々はこれまでの研究で,ストレスを研究するうえで比較の対照群(control)として扱われる健常人を対象に,血小板PBRと不安レベルとがどのように関係するかを調べた。その結果,血小板PBR値は個人差が大きく,それらの値は心理テストによる不安レベルと関連することがわかった。すなわち,血小板PBR値は現在の不安状態(状態不安)よりもむしろ,不安に対する感受性・素因(特性不安)と相関することが明らかになった5)。したがって,通常の社会生活上でのストレスや不安に対する感受性に個人差があり,それが各人の血小板PBR値に反映しているものと解される。
最近の我々の研究で,このようなストレス感受性の違いにPBR遺伝子多型が関与することが示唆された。その一端を紹介する。
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