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雑誌目次

論文

精神医学49巻2号

2007年02月発行

雑誌目次

巻頭言

血管障害とうつ病

著者: 木村真人

ページ範囲:P.116 - P.117

 わが国は他国に例をみない急速な少子高齢化が進展しており,人口動態統計によると65歳以上の人口割合は2005年に初めて20%を超えたが,2025年には30%程度になり,3~4人に1人が高齢者という時代がすぐそこまで来ている。

 高齢者のメンタルヘルスを考えたとき,認知症とともにうつ病対策も非常に重要な課題である。高齢者のうつ病は,機能的な要因,心理社会的な要因とともに器質的な要因が絡んだ複雑な病態である。とくに器質的要因については血管障害との関連が明らかにされている。本稿では血管障害とうつ病について筆者が関心を持っている点について述べたい。

研究と報告

精神科臨床スタッフの感情表出に影響を与える要因―Nurse Attitude Scaleの信頼性・妥当性と下位尺度の意味するものについての検討

著者: 香月富士日 ,   後藤雅博 ,   染矢俊幸

ページ範囲:P.119 - P.127

抄録

 臨床スタッフの患者に対する感情表出を測定するためのNurse Attitude Scale(NAS)の信頼性・妥当性の検討を行い,さらに下位尺度(敵意・批判・肯定的言辞)が意味するものの検討を行うことで,スタッフへの適切なサポートのあり方について検討した。臨床スタッフ281名を対象に3つの尺度(NAS,Feeling Checklist日本語版,精神障害者に対する態度尺度)を用いて調査を行い,NASの下位尺度と有意な関係があった項目について重回帰分析を行った。それぞれの下位尺度について有効な示唆が得られたが,特に批判については寄与率が54.6%であり,今回示した独立変数は批判の構造をよく説明しているものと考えられた。

摂食障害における社会不安障害

著者: 永田利彦 ,   山田恒 ,   村田進哉 ,   河口剛 ,   森下愛 ,   切池信夫

ページ範囲:P.129 - P.135

抄録

 摂食障害における社会不安障害(以下,SADと略す)の併存の有無によりその臨床像を比較し,摂食障害におけるSAD概念の有用性を検討した。対象は摂食障害患者196例で,半構造化面接によりI軸障害の生涯診断,パーソナリティ障害の診断を行った。その結果,33例(16.8%)にSADの生涯診断を認め,その全例においてSAD発症が摂食障害の発症に先行し,面接時もSADと診断され,32/33(97%)までが全般性SADであった。SAD併存群と非併存群では年齢,現在の摂食障害診断には差がなく,SAD非併存群のほうが最低Body Mass Indexが低く,最大過食回数,嘔吐回数が多かった。一方,SAD併存群のほうが大うつ病性障害,気分変調性障害の併存が有意に多く,自殺未遂,自傷が多い傾向を認めた。SAD併存群のうち,14例に薬物療法と認知モデルの説明を行ったところ,5例(36%)に有効であった。今後,前方視的な検討が必要と考えられた。

前頭葉機能に関する行動評価尺度Frontal Systems Behavior Scale日本語版の標準化と信頼性,妥当性の検討

著者: 吉住美保 ,   上田敬太 ,   大東祥孝 ,   村井俊哉

ページ範囲:P.137 - P.142

抄録

 前頭葉機能に関する行動評価スケールは数少なく,日本語版として標準化されたものは存在しなかった。本研究では,米国で作成されたFrontal Systems Behavior Scale(FrSBe)の日本語版を作成し,その信頼性・妥当性を検討した。健常者528名を対象に配布・回収し解析した結果,下位尺度得点のいずれかに年齢・性・教育年数が影響したため,原版同様に分類した標準化表を作成した。また,再検査信頼性はおおむね良好であった。さらに外傷性前頭葉損傷患者群10名について健常群と比較したところ,自己評価版,家族評価版とも全下位尺度で有意な差を認めた。日本語版FrSBeは前頭葉機能に関する行動評価尺度として有用と考える。

精神科看護師が職場で被るトラウマ反応

著者: 大岡由佳 ,   前田正治 ,   田中みとみ ,   髙松真理 ,   矢島潤平 ,   大江美佐里 ,   金原伸一 ,   辻丸秀策

ページ範囲:P.143 - P.153

抄録

 精神科看護師は,業務中において患者からの暴力などに遭遇することが多いが,そのような衝撃的出来事やトラウマティック・ストレスの程度に関する研究報告は少ない。本研究は,看護師が遭遇する衝撃的出来事の傾向と外傷後ストレス障害を含む健康状態の把握を目的に,看護師に対して質問紙調査を実施した。看護師の経験した衝撃的出来事は,身体的暴力・言語的暴力・自殺の目撃などであり,9割の看護師がこれらの出来事に遭遇していた。IES-RによるPTSD事例率は14.5%と非常に高く,全般的メンタルヘルスや対処行動を悪化させていた。今後ケアシステムを十分に検討していく必要性が明らかとなった。

本邦成人におけるRey-Osterrieth複雑図形の基準データ―特に年齢の影響について

著者: 山下光

ページ範囲:P.155 - P.159

抄録

 視空間認知機能や視覚性記憶,実行機能の検査として欧米を中心に多用されているRey-Osterrieth複雑図形の,日本の健常成人の基準データを収集した。18~24歳,25~34歳,35~44歳,45~54歳,55~64歳,65~74歳までの6つの年齢層において各24名(男女12名ずつ)から構成されている計144名のデータを検討した結果,(1)模写の成績には年齢,性別,教育歴の効果は認められない,(2)再生の成績には年齢の効果が認められ55~64歳で顕在化するが,性別や教育歴の効果は認められない,(3)3分後再生から30分後再生にかけての情報の減少はきわめて少ないことがわかった。

初発および再発統合失調症の急性期入院症例におけるクライエント・パス(患者による治療経過評価)を利用した治療経過の特徴

著者: 渡部和成

ページ範囲:P.161 - P.169

抄録

 クライエント・パス(患者による治療経過評価)を用いた初発および再発統合失調症入院患者の急性期治療の結果を比較検討した。入院時BPRSが高い初発群のほうが入院期間は短かった。初発群ではパスの開始は遅い傾向があったが初期と回復前期の終了は再発群より早かった。各期での症状評価の改善度は両群で同様であった。患者心理教育への参加度は,初発群で初期と回復前期において再発群より高い傾向があった。以上より,初発群では入院時に重症であっても慎重にパスに導入すると早期の症状改善と治療に対する主体性の獲得を期待できる一方,再発群では早くパスを開始できるが抑うつ・不安症状が強く患者心理教育への主体的な参加が不十分であり長い入院になるように思われた。本研究の結果から,再発入院患者の治療では,患者に統合失調症治療への理解と主体性をよりいっそう高めることを促し,安心して治療に取り組めるようにサポートしていくことが重要であると思われた。

短報

記憶障害を訴え続ける心気症(mnestic hypochondria)の1例

著者: 村田佳江 ,   仲秋秀太郎 ,   早野順一郎

ページ範囲:P.171 - P.174

はじめに

 心気症とは,医学的な検査所見では異常がないにもかかわらず,自分が重篤な病気ではないかと疑い,執拗に再検査を要求することが多い疾患である1)。患者がこだわる症状は,頭痛や耳鳴り,しびれなどさまざまである。BerriosとHodges2)は,ケンブリッジにおけるメモリークリニックの患者データに基づき,神経心理学的な検査異常を認めないにもかかわらず,記憶障害を強く訴え続ける患者群を,心気症の一つととらえ,健忘症状を訴える心気症(mnestic hypochondria)という概念を提唱した。このような症例は,物忘れ外来などで少なからず遭遇すると思われるが,心気症の症例としての報告は,我々の知る限り,まだ十分に報告されていない。

 今回,検査結果に異常がないにもかかわらず,長年にわたり記憶力が悪いと訴え続けた症例を経験した。BerriosとHodges2)の提唱する心気的な健忘症状の1例と考えられたので報告する。なお,本報告にあたっては患者本人からの書面による同意を得ている。

毎日の浣腸で減薬が可能となり,巨大結腸,イレウス傾向の改善を見た1例

著者: 平田祐子 ,   上野秀樹 ,   分島徹 ,   岡崎祐士

ページ範囲:P.175 - P.177

はじめに

 薬物治療は精神療法や行動療法同様,精神疾患の治療において治療の軸となる。精神科治療薬は単一の神経伝達系に作用するのではなく,さまざまな副作用を有する。可逆的な副作用もあれば不可逆的なものもあり,重症度も違う。その中で慢性的な便秘には日常的に遭遇し,イレウス,巨大結腸も散見される。

 巨大結腸症はX線造影で結腸の最大径が7cm以上のものをいう。以前羽生ら3,4)が報告したが,長期入院患者に慢性の便秘が多く,下剤の投与量も多い。巨大結腸は一般に不可逆的と考えられているが,今回我々はイレウスを繰り返し,巨大結腸を呈してから10年が経過し体重減少が著しかった1症例に対し,毎日のGlycerine enema(以下GE)を試みたので報告する。

右前頭葉眼窩面損傷後に多彩な精神症状を呈した1例

著者: 吉見明香 ,   都甲崇 ,   中村慎一 ,   浅見剛 ,   中川牧子 ,   六本木知秀 ,   塩崎一昌 ,   平安良雄

ページ範囲:P.179 - P.182

はじめに

 器質的な脳障害後に精神症状が出現することは少なくなく,その内容は多岐にわたる。古くは情動障害として,Schneider9)により記述され,その後さまざまな研究者により情動障害の概念で報告されてきた。近年では,DSM-III-Rによる記述がなされ,Koponenら5)によれば,外傷性脳損傷の既往を持つ60例の30年間の経過中,約60%の症例でAxis 1に該当する精神障害が認められたとされている。また,他の多くの疫学調査によっても,頭部外傷の既往を有する場合には,その後精神疾患を発症する可能性が高いことが示されている。しかしながらその症状や経過はさまざまであり,損傷部位と精神症状との関連についても不明な点が多い。

 今回我々は,12歳時の交通外傷による前頭葉眼窩面損傷後,経時的にさまざまな精神症状を呈した1例を経験したので,前頭葉損傷と精神症状の関連について考察を加えて報告する。

向精神薬大量服用の後,悪性症候群およびギラン・バレー症候群を発症した1例

著者: 赤澤美歩 ,   津田真 ,   前林佳朗 ,   石黒淳 ,   河瀬雅紀 ,   福居顯二

ページ範囲:P.183 - P.186

はじめに

 総合病院救急外来では,大量服薬による自殺企図患者は比較的よくみられる。その中の大多数は胃洗浄,輸液管理などの処置のみで,重い急性薬物中毒症状を呈することなく経過するが,まれに誤嚥性肺炎や肝機能障害など重篤な身体合併症を生じ,厳重な身体管理を要する症例にも遭遇する。今回我々は,向精神薬の大量服用による緊急入院後,悪性症候群を発症して呼吸不全および血小板減少を生じ,その後危機的状況はいったん改善したが,引き続きギラン・バレー症候群を併発し,長期療養とリハビリテーションが必要となった境界性人格障害の症例を経験したので報告する。なお,今回の発表につき患者本人の同意を得た。

4-acetoxy-N-methyl-N-isopropyltryptamine(4-AcO-MIPT)過量服薬により知覚変容,幻視,意識障害,脱抑制を呈して高所からの飛び降りに至った1症例

著者: 安藤英祐 ,   市村篤 ,   矢野広 ,   大屋彰利 ,   煙石洋一 ,   山際武志 ,   猪股誠司 ,   遠藤由貴 ,   大西雄一 ,   尾形和生 ,   猪口貞樹 ,   松本英夫

ページ範囲:P.189 - P.192

はじめに

 近年,本邦では脱法ドラッグと称される薬物が流通し,これらの使用による急性薬物中毒の症例が報告されている1,6,11)。脱法ドラッグはインターネットなどで容易に購入できるようになっており10),薬事法の改正や東京都の条例の適用により規制の対象薬物に指定されると,その薬物の化学構造式に類似した物質が製造,販売されるためその乱用は後を絶たない7,9)。有名なものに5-methoxy-N,N-diisopropyltryptamine(5-MeO-DIPT,通称「ディプト」「ゴメオ」)が挙げられるが,2005年4月17日以降は麻薬に指定され,次に販売された5-methoxy-N-methyl-N-isopropyltryptamine(5-MeO-IPT,通称「ミプト」)も2005年6月1日以降は東京都の知事指定薬物に指定され取り締まりの対象になった11)。今回我々は5-MeO-IPTの化学構造式を変えた4-acetoxy-N-methyl-N-isopropyltryptamine(4-AcO-MIPT,通称「ラビリンス」)を過量服薬して知覚変容,幻視,意識障害,脱抑制を呈し,その結果として高所からの飛び降りに至った1症例を経験したので報告する。なお報告にあたって口頭にて本人の同意を得た。また,科学的考察のために支障のない範囲でプライバシー保護のために症例の内容を変更した。

資料

せん妄の薬物療法においてベンゾジアゼピン系薬剤はどのように使用されているか

著者: 和田健 ,   佐々木高伸 ,   日域広昭 ,   高石佳幸 ,   三舩禎子 ,   波田紫

ページ範囲:P.193 - P.197

はじめに

 せん妄の薬物療法においては,健康保険上適応として認められている薬剤がほぼないと言ってよいわが国の現状の中で種々の薬剤が使用されている。それらの中には,古典的とも言えるhaloperidol3,6),最近広く使用されているquetiapine11),risperidone10)などの非定型抗精神病薬,セロトニン2受容体遮断作用を有する抗うつ薬であるtrazodone9),mianserin13),そしてベンゾジアゼピン系薬剤(以下,BZ)がある。これらの薬剤の選択については,せん妄の重症度とともに患者自身や医療スタッフの安全を脅かす行動につながるリスクを評価したうえで,まずは速やかな鎮静,場合によっては入眠を要するのかどうかを判断しなければならない14)。胃管や胃瘻なども含めて経口投与が可能であるのかどうか,患者が協力的かどうかなども重要な決定要因となる。

 速やかな鎮静を要する場合にまず選択されるのはhaloperidolの経静脈投与と思われる3,6)。通常量では呼吸や循環への影響が小さいことから忍容性は高いものの,臨床現場では十分な効果が得られないことも実際にはしばしば経験する。その際にはBZであるlorazepamの併用が海外では推奨されているが1,2),わが国ではlorazepamの注射剤は使用できず,経静脈投与を行おうとすればflunitrazepamやmidazolamなどの併用投与が選択肢となる。これらの薬物はせん妄の病態の基礎にある意識障害を悪化させたり,脱抑制を引き起こす可能性もあり,単剤投与でせん妄に有効であるというエビデンスは得られていない4)。Lorazepamについてはhaloperidolとの併用でせん妄に有効であったという報告1,2)はあるが,flunitrazepamやmidazolamとhaloperidolとの併用に関する報告はなされていない。身体的に重症な患者に対するBZの経静脈投与は,呼吸抑制や血圧低下などの有害事象を引き起こすリスクが高く,慎重に投与しなければならない。またMidazolamの場合は健康保険上の制約があり,一般病棟では使用しにくい。

 経口投与が可能なせん妄患者の場合でも,いわゆる睡眠剤がhaloperidolなどと併用されることはあると考えられ,実際の臨床現場では経口薬も含めて一定以上の割合でBZがせん妄の薬物治療に使用されていると推測される。にもかかわらず,これらの薬剤をせん妄患者に使用する場合の実践的な指針は,日本総合病院精神医学会によるせん妄治療指針14)などに限られている。今後非定型抗精神病薬の注射剤がわが国でも上市されてくると思われるが,速やかな鎮静効果という点でBZに取って替わるまでにはならないであろう。とすれば,せん妄患者の薬物療法においてBZをどのように使用していくべきなのかをより明確にしていく必要がある。そこで今回我々は,コンサルテーションリエゾン活動の現場で経験するせん妄患者へのBZの使用状況を調査し,その臨床的な位置づけについて検討した。

私のカルテから

Olanzapineが奏効した季節性感情障害の1例

著者: 山本健治 ,   原田研一 ,   菊地裕子 ,   白坂知信

ページ範囲:P.199 - P.200

はじめに

 季節性感情障害(SAD)は生体リズム障害を背景とし,主に冬期のうつ症状と過眠や糖分飢餓などの非定型症状を呈する感情障害である。今回我々はSADにolanzapineが奏効した1例を経験したので若干の考察を加え報告する。

Risperidone内用液が有効であった慢性統合失調症患者の1例

著者: 山本暢朋 ,   稲田俊也

ページ範囲:P.201 - P.203

はじめに

 本邦で2002年にrisperidone内用液(risperidone oral solution,以下RIS-OS)が使用可能になってから間もなく4年が経過するが,臨床の場では急性精神運動興奮状態などに用いられるなど,risperidone錠(risperidone tablet,以下RIS-TB)とは異なった方法で用いられるケースも散見される。今回我々は,定型抗精神病薬よりRIS-OSへの切り替えが精神症状の改善に有効であったものの,その後RIS-TBへ変更したことで増悪し,後にRIS-OSに戻したことで再度改善した症例を経験したため,若干の文献的考察を加え報告する。

Perospirone1日1回投与により著しく錐体外路症状が改善した統合失調症の1例

著者: 原田俊樹 ,   和氣章 ,   兒玉昌純 ,   則武務 ,   難波達顕 ,   瀬能孝敏 ,   渡部一予

ページ範囲:P.205 - P.207

はじめに

 わが国で開発された第2世代抗精神病薬perospironeは欧米での大規模なメタ解析の対象にならなかったため他の薬物に比べて情報が少なく,その効果や有用性についていまだ知られてないことも多い。かつて筆者1)はわが国におけるrisperidone,perospirone,quetiapine,olanzapineの臨床開発試験成績をもとに4剤の錐体外路症状の比較を行いperospironeは錐体外路症状の出現頻度がかなり高いことを示した。しかし武田ら4)は血中プロラクチン値の日内変動を用いたドパミンD2阻害作用の研究でperospironeはquetiapineと同様に一過性阻害という特性があることを示した。今回筆者はその薬理学的特性を生かしperospirone同一用量を1日4回分服投与から眠前1回投与に変更することで著しく錐体外路症状が改善した1例を経験したので報告する。

医療観察法で不処遇とされた高齢者の2例

著者: 桂木正一

ページ範囲:P.209 - P.210

はじめに

 2005年7月から施行された「心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者の医療と観察に関する法律」(以下,医療観察法)では,検察官が申立てを行い,最終的に裁判官と精神科医である精神保健審判員の合議体で,対象者に医療観察法に基づく医療が必要か否かを判断することになる。そして,医療が必要であれば入院か通院かを決定する。一方,医療観察法に基づく医療が必要でないときには不処遇の決定がなされる。

 本稿では,筆者が鑑定を行い,審判で不処遇とされた高齢の2症例を通して,不処遇の要件を考察する。なお,症例は保護者の了解を得たうえで,実態を損なわない範囲で改変してある。

高用量のrisperidoneにて敵意,攻撃性が改善したレビー小体型認知症の1例

著者: 居森文和 ,   吉宗真治 ,   圖子義文

ページ範囲:P.211 - P.213

はじめに

 レビー小体型認知症(Dementia with Lewy bodies;以下DLBと略す)は,McKeithら4)により1995年の国際ワークショップにて疾患概念が確立された疾患である。主として初老期または老年期に発症し,進行性の認知機能低下に加え,パーキンソニズムと生々しい幻視などの特有の精神症状を呈する変性性の認知症の一つである。

 DLBでは抗精神病薬に対する過敏性が特徴とされている3~5)。今回我々は5mgという比較的高用量のrisperidoneの使用にて敵意,攻撃性の改善がみられた1例を経験したので,若干の考察を加え報告する。なお,risperidoneやquetiapineは認知症に対する保険適応がなく,患者の状態,薬物の使用目的と副作用,他の薬剤との比較,今後の経過などを家族に十分説明したうえで投与した。

動き

「第19回日本総合病院精神医学会」印象記

著者: 竹内崇

ページ範囲:P.214 - P.215

 2006年12月1日および2日の2日間にわたり,第19回日本総合病院精神医学会総会が自治医科大学精神医学講座の加藤敏会長により,宇都宮にある栃木県総合文化センターにて開催された。今回の総会では「内科・外科に開かれた精神科医療」を基本テーマとし,他の診療科との連携に重点を置いたプログラムが多く企画され,各会場にて臨床現場でのさまざまな問題に関して実践的な議論が活発に行われた。

 演題は,特別講演2題,教育講演3題,4つのシンポジウム,2つのワークショップ,ケースディスカッション,金子賞受賞記念講演,さらに4つのランチョンセミナー,3つのイブニングセミナーと盛りだくさんであり,一般演題も口演が112題,ポスター発表が67題であった。これらのうち3つのシンポジウムでは,それぞれ「生活習慣病の連携医療」,「痛みの連携医療」,「高齢者の連携医療」のテーマのもとに,内科,整形外科,麻酔科,リハビリテーション科などの他の診療科の先生方による講演があり,今回の総会の基本テーマどおり他科との連携の重要性を改めて実感させられた。

「第40回日本てんかん学会」印象記

著者: 松浦雅人

ページ範囲:P.216 - P.216

 第40回日本てんかん学会は,金沢医科大学精神神経科教授 地引逸亀会長のもとに,2006年9月28~29日に金沢市文化ホールにて開催された。金沢市はてんかん学とゆかりの深い都市で,学会の前身であるてんかん研究会も含めると,今回で3回目の開催であるという。学会前日にはプレコングレス「てんかん性精神障害の生物学的研究」にて,4人の精神科医からてんかん精神病や発作後精神病の発表がなされ,地引会長は「PARICTALな発作関連性精神障害」についての概念を報告された。また同じく学会前日に,今回初めて「てんかん学研修セミナー」が開催された。てんかん学の基礎から臨床までわかりやすく解説するため,学会の研修担当役員はその準備に苦労したと聞いているが,二百数十名の若手が参加して大変好評だったとのことである。

 学術大会の特別講演は,オレゴン大学てんかんセンターのCerghino教授による「てんかんの新しい薬物療法」と,1988年に金沢で本学会を主催された山口成良先生による「てんかんと視床」の2題であった。新規抗てんかん薬に関する報告を聞くたびに,外国では臨床知見が着々と蓄積されていく中で,日本の後進性が痛感され,患者にとっても不幸な状況であると感じる。シンポジウムでは,アジア・オセアニアてんかん学会からBerkovic教授を「てんかんの分子遺伝学的研究」に,Tan教授を「てんかん臨床のトピックス」に招聘した。日本人シンポジストに混じって英語での発表であったが,アジア・オセアニアの研究者と積極的に交流していこうとする学会の姿勢がうかがわれる。ワークショップの「てんかん診療のガイドライン」では,愛知医科大学の兼本浩祐教授が「心因性非てんかん発作に関する診断・治療ガイドライン」を提案された。日常臨床では,偽発作あるいは擬似(疑似)発作と呼ばれることが多いが,いずれも誤解を与える名称なので心因性非てんかん発作と呼称するのが良いとしている。

「精神医学」への手紙

神経内科医からみたCabergolineの安全性について

著者: 檜垣雄治

ページ範囲:P.217 - P.217

 2006年11月号(精神医学 48:1177-1182,2006)におきまして,田中先生らの論文「双極性うつ病に対するcabergolineの効果および安全性に関する後方視的検討」を興味深く読まさせていただきました。その中でcabergoline(以下CBGと略す)は双極性うつ病に対して有効かつ安全であると記述されておりますが,最近神経内科医の間ではCBGを含めた麦角系アルカロイドのドパミン刺激薬に心臓弁膜症を発生させる副作用があることが知られるようになってきました。ドパミン刺激薬と心臓弁膜症との関連については,2002年ブロモクリプチンによる心臓弁膜症の報告が初めてですが,特に2004年のペルゴリド高用量投与と心臓弁膜症の関連を示唆したVan Campら2)の報告により広く知られるようになりました。また,2005年にPineroら1)はCBGを内服投与されたパーキンソン病患者に重症の僧帽弁閉鎖不全症を呈し,手術で摘出された僧帽弁の病理所見では腱索周囲に著明な線維芽細胞増殖を認め,これにより弁が硬くなり重症弁膜症を来した1例報告を行いました。実際小生も2006年6月にCBGを維持量(2mg/日)で4年8か月投与していた82歳男性が,重症僧帽弁閉鎖不全症になり(もちろんCBG投与前に心エコーにて弁膜症がないことを確認しておりました),他院にて弁置換術を受けられ,心エコー検査,病理検査の結果,CBG起因性拘束性僧帽弁閉鎖不全症と結論づけられた症例を経験しております。麦角系ドパミン刺激薬による心臓弁膜症の機序として現在最も注目されているのは,麦角系ドパミン刺激薬の5-HT2B受容体に対する高い親和性であると言われております。5-HT2B受容体は心臓弁膜に多く発現し,刺激により線維芽細胞にmitogenesisを誘導することが知られております。このことから,ペルゴリドおよびCBGは,5-HT2B受容体刺激を介して心臓弁膜症を惹起する可能性が示唆されております。

 上記のようにCBGは重症の心臓弁膜症を来す可能性のある薬剤であり,決して安全性の高い薬剤というわけではないということを神経内科医の立場から意見を述べさせていただきました。

書評

―佐藤光源監訳―米国精神医学会治療ガイドライン―クイックリファレンス

著者: 平安良雄

ページ範囲:P.218 - P.218

標準化された精神科医療を習得・実践するために

 米国精神医学会は精神科領域において最もよく経験する10の疾患や病態に関する治療ガイドラインを,臨床現場で手軽に用いられるようにまとめたクイックリファレンスを発行した。本書は東北福祉大学大学院の佐藤光源教授の監訳によって翻訳された日本語版である。

 わが国の精神科医療においてこれまでしばしば指摘されてきたことに,診療医または診療施設間の診断や治療方針,家族への対応などにばらつきが大きいという問題があった。この原因として,医師の教育・研修・生涯教育に一定の基準がないこと,さらに,特定の疾患に対して標準化された治療ガイドラインの必要性が十分に理解されていないことなどがあった。ガイドラインに対しては,賛否両論があり,精神疾患の多様性を公式にのっとった治療方針で解決することはできないというのが反対理由の一つである。しかし,この反論はガイドラインの趣旨を誤解していると思う。

―小濱啓次編著―救急マニュアル(第3版)―救急初療から救命処置まで

著者: 益子邦洋

ページ範囲:P.219 - P.219

救急医療における道しるべとなる良書

 川崎医科大学名誉教授として,現在も救急医療の最前線で活躍しておられる小濱啓次先生の編著による「救急マニュアル―救急初療から救命処置まで」が初版から22年を経てこのたび大改訂された。この間の救急医学の進歩には目を見張るものがあり,数多くの新知見を随所に盛り込んだ最新作が世に出されたわけである。

 小濱教授はわが国で最初の救急医学講座教授であり,それまでわが国の医学医療の中でまったくと言ってよいほど省みられることのなかった救急医学の学問体系を構築し,救急医のアイデンティティ確立に尽力されてこられた。その意味では,本書の第1版はまさに救急医学のスピリットをふんだんに盛り込んだ名著であり,救命救急センターや救急部で働く若手医師にとってのバイブルであったとも言えよう。従来の各科対応型救急医療では対応できない重度外傷,広範囲熱傷,急性中毒,心肺停止,多臓器不全の患者を前に,手探りでスタートしたわが国の救急医療において,まさに道しるべの役割を果たしてきた。筆者が救命救急センターに配属となり,次から次へと搬送されてくる各種病態の患者対応に苦慮したとき,貪るようにして本書から情報を得ていたことが昨日のことのように思い出される。

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編集後記

著者:

ページ範囲:P.224 - P.224

 2007年が静かに動き出した。「血管障害とうつ病」についての巻頭言が掲載されている。Vascular depression(VD)の概念が導入されてまだ10年程度で議論が多い。これから詳しい研究が出てくるものと思われるが,VDといえども生物.心理.社会的な存在の「うつ病」である。VDと診断すると器質性のうつ病で検査や薬物療法だけに頼りがちであるが,上記3つの側面を持った「うつ病」であり,その症例にとって何が最も重要であるかを見抜いて対処してほしい。VDという診断が若い精神科医から「患者の病態を推測する柔軟な想像力や共感する力」を奪ってしまわないかと心配している。「臨床スタッフの感情表出を評価する研究」,「臨床スタッフが被るトラウマ反応」の2つの医療者側の問題に注目した研究が興味深い。特に前者の新しい評価表は簡便で今後利用されるであろう。このような研究が多く出てくることが医療のレベルを上げることにつながる。また,「クライエントパス(患者による治療経過評価)を利用した治療経過の特徴」では,患者に医療者が説明しながら,患者自身に自分の症状や行動の評価をしてもらい,経過によってどのように変化したかを記載してもらう。このようなやり方が病態の理解,治療者.患者関係の改善に役立つであろう。「摂食障害にみられる社会不安障害」の研究も興味深い。社会不安障害は単独でもよくみられ,本邦では対人恐怖症として古くから取り上げられ治療されてきたが,うつ病にも併存し「非定型うつ病」で高頻度にみられる。種々の疾患に併存してみられ,閉じこもりや自殺念慮,自殺企図を起こしやすい。社会不安障害のしっかりした治療技法を身につけることが臨床では重要である。症例報告の論文が短報5編,私のカルテから5編掲載されている。この中で「毎日の浣腸が巨大結腸,イレウス傾向に有効であった1例」は臨床に特に役立つ論文である。臨床の中で出会った特色ある症例,印象深い症例を投稿してもらいたい。日常臨床にはいろいろな問題が含まれている。これらの問題の中から,地道に工夫や努力をして得られた結果を1例報告し,その成果を多くの精神科医やコメディカルスタッフと共有してほしいと思う。この欄がそのような場になってくれれば嬉しい。

 今回はLetter to editorを1通載せることができた。抗パーキンソン薬のCabergolineが双極性うつ病に用いられるという論文に対して神経内科の領域での使用経験の結果,重症の心臓弁膜症を惹起する可能性があるので注意するようにという手紙である。他の領域からの最新の情報をこのような形で今後もどしどし載せていきたいと思う。

基本情報

精神医学

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-126X

印刷版ISSN 0488-1281

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