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文献詳細

雑誌文献

精神医学49巻4号

2007年04月発行

短報

診断が困難であった肺血栓塞栓症の再発により急死した統合失調症の1例

著者: 阿部正人1 中川正康2 水俣健一1

所属機関: 1市立秋田総合病院精神科 2市立秋田総合病院循環器内科

ページ範囲:P.413 - P.416

文献概要

はじめに

 肺血栓塞栓症はこれまで,本邦では比較的稀な疾患とされていたが,近年,その頻度が増加しているといわれている。欧米での発生頻度は,人口10万人当たり60~70人で,死亡率が6~15%であると報告されている1)。本邦での発生頻度は,2004年において人口100万人当たり32.2人であり12),2001年の死亡者数は人口10万人当たり1.37人であった6)。精神科病院における肺血栓塞栓症の発生頻度については,小林5)による,総合病院精神科(40床,平均在院日数約50日)において9年間で6例発生したとの報告がある。肺血栓塞栓症は,「突然死」などの致死的な経過をとることがあり,剖検によって診断されるが,剖検されないために正確な診断がなされない症例も多い。そのため,現時点では,まだ,肺血栓塞栓症について,その全体像がつかみきれておらず,診断上困難な症例が多いと思われる。これまで精神科における突然死には肺血栓塞栓症が少なからず含まれている可能性が示唆されてきた11)。一方で,発症した際の致死率が高いことから予防の重要性も指摘されており,2006年4月には精神科関連学会としてはじめて,日本総合病院精神医学会より,「静脈血栓塞栓症予防指針」10)が作成されている。

 今回我々は,肺血栓塞栓症が疑われ他院より搬送されたが,診察時,症状が軽快し,検査の結果などからそれが否定され,入院3日後に急死した統合失調症の1例を経験した。そして,その後の剖検の結果,肺血栓塞栓症による死亡と判明した。本症例は,肺血栓塞栓症の診断および予防を考えるうえで示唆に富む症例と思われたのでここに報告する。

参考文献

1) British Thoracic Society Standards of Care Committee Pulmonary Embolism Guideline Development Group:British Thoracic Society guideline for the management of suspected acute pulmonary embolism. Thorax 58:470-484, 2003
2) Fedullo F, Tapson VF:The evaluation of suspected pulmonary embolism. N Engl J Med 349:1247-1256, 2003
3) 原田貴史,友竹正人,小笠原一能,他:精神科臨床における下肢深部静脈血栓症.臨精医 33:939-946,2004
4) 賀古勇輝,栗田紹子,櫻井高太郎,他:電気けいれん療法施行後に肺梗塞を呈した統合失調症の1例.精神医学 46:195-198,2004
5) 小林孝文:精神科領域における静脈血栓塞栓症 肺血栓塞栓症,深部静脈血栓症への対応.総病精医 16:300-305,2004
6) 厚生労働省:平成13年人口動態統計 下巻.p190,2001
7) 宮原嘉之,池田聡司,河野茂:診断学の進歩―凝固線溶系マーカー.日本臨床 61:1726-1730,2003
8) Moser KM:Pulmonary embolism. Am Rev Respir Dis 115:829-852, 1977
9) 室井秀太,佐伯吉規,小杉真一,他:入院中に肺塞栓症を合併した統合失調症の一例.精神科治療学 18:839-842,2003
10) 中村満,八田耕太郎,岸泰宏,他:静脈血栓塞栓症予防指針.星和書店,p75,2006
11) 荻田和広,中野嘉樹,河内泰彦:向精神薬長期服用患者の剖検でみられた肺動脈血栓,肺梗塞について.精神医学 20:989-997,1978
12) Sugimura K, Sakuma M, Shirato K:Potential risk factors and incidence of pulmonary thromboembolism in Japan:Results from an overview of mailed questionnaires and a matched case-control study. Circ J 70:542-547, 2006

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-126X

印刷版ISSN:0488-1281

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