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雑誌目次

論文

精神医学49巻5号

2007年05月発行

雑誌目次

巻頭言

地方大学の精神医学研究に思う

著者: 加藤邦夫

ページ範囲:P.450 - P.451

 精神医療の現状はかつて「牧畜業」と揶揄された時代から社会状況の変化とともに大きく変わりつつある。患者や家族の人権に対する意識の変革とともに,退院促進事業・援護寮などによる社会資源の充実化により,長期入院が見直され平均在院日数が徐々に低下しつつある。向精神薬の進歩がこの傾向を助けていることは言うまでもないが,まだ長期入院をしている慢性精神疾患患者を救済するだけの効果は得られていない。本来患者の退院は病気の治癒によって促進されるべきであるが,医療経済事情が退院を促進しているのが実態である。これは未熟な精神科治療の敗北ともいえる。この現状を打開するためには,退院可能な状態まで症状を改善できる,より効果的な治療方法を開発するか,症状を抱えながらも病院外で生活できる施設やサポート体制を作ることである。後者については医療経済的事情からも官民一体となってすすんでいるが,前者についてはその解決は容易ではない。向精神薬が最初に発見されてからおよそ60年が経過しているが,慢性的に経過する症状はおさえられていない。

 身体科に比べて精神薬理学の発展が遅いようにみえるが,これは中枢神経系の働き,すなわち精神機能のメカニズムがまだ十分解明されていないからである。すなわち大脳生理学あるいは精神病態医学の進歩の問題ともいえるわけであるが,外国ではともかく日本での研究体制には大いに疑問を感じないわけにはいかない。まずは研究資金の問題である。多くの精神疾患は発病時期が20代から30代と他の身体疾患に比べて早く,また生涯にわたって慢性的に経過するためその経済的な損失は莫大である。ところが損失に見合った研究費は提供されていない。PTSDやBSEなどが社会問題化すると巨額の研究費がすぐに提供されるが,長期的に地道な研究が必要な分野にはなかなか研究予算が付かないのは大きな問題点である。もう一つの問題点は大学,特に地方大学における精神科では臨床研究がある程度可能であるが,脳の機能を根本的に調べるような基礎的な研究をすることが,人材面でもあるいは研究資金の面でも非常に厳しいものがあるということである。米国では脳科学の基礎研究の多くは精神医学教室が担っており,臨床と基礎研究が同じ研究室内で行われているのが通例であるが,日本では中枢神経系の基礎研究の多くは医学部の基礎研究室や理・工学部の研究室で行われているので,いきおい臨床講座とのコミュニケーションが希薄になるため,臨床に関する共通のゴールを目指した研究体制を構築しにくい。最近の新聞報道によれば,基礎研究における論文数では日本は米国の約1/3であるが,臨床研究となると約1/100になるようである。これも臨床系講座の研究能力が著しく低いことの現れである。今後大学での研究体制を見直し,以前より多くの識者によって指摘されているように,臨床・教育・研究機能を分化させてより専門的な活動ができるようなシステム構築が必要であろう。

展望

Alzheimer病の疫学・予防研究

著者: 朝田隆

ページ範囲:P.452 - P.461

はじめに

 近年の精神・神経疾患の臨床研究においては,わが国に限らず,疫学が重視されてきたとは言い難かった。また予防医学という観点も十分に認知された分野になっていない。分子生物学などの医学研究から見れば日陰の分野と思われるかもしれない。この種の研究は,病院や研究所ではなく地域で実践する必要がある。そこには固有の困難さがあるだけに,社会・行政的な視点が求められる。

 しかし精神・神経疾患の治療研究や開発において着実な成果を得るには,縦断的な疫学研究や介入研究が不可欠である。本稿では,筆者のアルツハイマー病(AD)に対する介入研究の経験を中心に,このような領域のおもしろさを紹介し,今後の課題について述べる。

特集 睡眠と精神医学:「睡眠精神医学」の推進

「睡眠精神医学」の現状と発展に向けて

著者: 大川匡子

ページ範囲:P.463 - P.470

はじめに

 古い時代から睡眠障害は人類を悩ませてきた重要な問題である。しかし,近年になってさらにその重要性が増したといえる。一般の健康な人たちでも,日常生活におけるさまざまな心理的ストレスや生活環境の大きな変化に伴う精神緊張のために不眠が生じ,不眠が慢性的に経過すると心身の不調が増強する。さらにさまざまな精神障害や身体疾患を患っている人たちには,不眠症状の合併が高頻度にみられることはよく知られている。しかし,睡眠の生理学的機序や睡眠障害についての科学的研究が行われるようになったのは1900年代に入ってからのことであり,睡眠障害についての医学研究は脳科学研究として1960年以後に急速に進歩したといえる。

 睡眠障害は精神疾患には必発の症状ともいえる。最近の疫学的研究,臨床研究から精神疾患は慢性不眠の原因となっており,同時に日中の過剰な眠気や倦怠感がみられ,睡眠・覚醒リズムの障害を伴う場合が多い。すなわち脳の機能が障害された状態とみなされる精神神経疾患には,睡眠障害が必然的にみられる。さらに精神疾患のない場合にも,不眠症が長期化するとうつ病や不安症状を引き起こすという報告が多くみられる。この状態は社会的,心理的要因が睡眠に影響を及ぼし,その結果として不眠や睡眠不足をもたらし,脳と精神の機能に大きな影響を与え,精神疾患や神経疾患の発症や病像に影響すると考えられる。

 精神医学と睡眠医学の接点は,より良い睡眠を介して精神の健康を維持・増進し,精神疾患を予防すること,さらに睡眠を手がかりとして精神疾患の早期診断・治療を行うこと,内因性睡眠障害,睡眠覚醒リズム障害の本態を解明し,その治療法を開発することなどである。このような新しい睡眠医学と精神医学を融合した領域を「睡眠精神医学」として取り上げることは,21世紀精神医学の方向と考えられる。

 これまで本誌では,数多く睡眠障害について取り上げられてきたが,今回特集として再び「睡眠」が取り上げられることになった。さまざまな精神科関連疾患のなかで,うつ病,統合失調症,リエゾン精神医学,身体疾患プライマリーケアなどの領域において睡眠精神医学との関連について検討した。うつ病,統合失調症と睡眠障害についての関連性については古くから取り上げられているが,今後の動向として病態解明,治療,予防的側面から再考されるべき課題として提言された。さらに,リエゾン精神医学,身体疾患と睡眠障害については精神科医が身体科のなかで果たすべき役割が認識され,プライマリーケア医学において睡眠医学教育の重要性が強調される。本稿では,わが国における睡眠医学,医療の現状と睡眠障害診断分類について紹介する。

うつ病と睡眠障害

著者: 清水徹男

ページ範囲:P.471 - P.477

はじめに

 24時間社会,グローバル・スタンダードの時代を迎え,競争の激化とともに過重労働の問題が大きく取り上げられる現代社会である。また,過労死という言葉も新聞紙上をにぎわすようになった。過労死の背景にも過重労働があり,うつ病やその結果と想定されている自殺との関連で注目されている。

 過重労働は就労者が休養に当てるべき時間を奪い,睡眠不足をもたらす。そればかりではなく,過重労働は心身のストレスを高める結果,不眠を誘発する。疲労して寝床に入っても,頭の中をさまざまな思案や不安が駆けめぐり,入眠が妨げられるのである。加えて,眠れないことそのものが不安を高め,さらに不眠を助長するという「不眠の悪循環」が形成されてしまう。このような不眠がうつ病発症の危険因子となることが実証されるようになったのは比較的に最近のことである。

 不眠がうつ病の重要な症状であることは精神科医にとっての常識であるが,うつ病における不眠の機序や予後については十分な検討がなされていない。以上をふまえて,本稿ではうつ病の観点から睡眠障害,とりわけ不眠について展望するとともに,うつ病に対する断眠療法についても簡単に紹介する。

現代社会とリズム障害

著者: 小曽根基裕 ,   小幡こず恵 ,   伊藤洋

ページ範囲:P.479 - P.486

はじめに

 現代社会の24時間化により,日本人の睡眠パターンが大きく変化している。産業は多様化し,国際化や情報化も伴って,夜間勤務者や交代勤務者が増加している。そして,仕事や旅行で海外を訪れる人が増え,時差ぼけの悩みを抱える人も多い。また,一般国民においても,インターネットやコンビニエンスストアなどの普及により,夜型化した生活リズムになっている。これらの生活習慣の変化により,①睡眠時間の不足と②睡眠覚醒リズムの不規則化という2つの観点から健康問題が生じることになる。

 昼夜のリズムに逆らった生活を送ることは,睡眠障害を引き起こすのみならず,日中の作業能力の低下による交通事故や産業事故,また気分障害をはじめとした精神疾患の発症,また身体疾患の悪化などさまざまな個人的,または社会的問題を生じる。さらに大人の生活習慣の変化は,成長発達段階にある未成年者の睡眠習慣に大きな影響を与えている。現代社会にみられる概日リズム睡眠障害について時間生物学的な概要を述べ,その対処法について紹介する。

不眠症とその近接領域

著者: 内山真

ページ範囲:P.487 - P.498

はじめに

 不眠は,一般人口において最も高頻度にみられる精神医学的問題であり,一般身体科患者においても3割以上と非常に頻度が高い。うつ病では9割以上が不眠の訴えを持つように,精神疾患における不眠の合併率の高さは,改めて言うまでもない。こうしたことから,不眠症の専門家へのニーズは高いが,実際に専門家はわずかしかいない。臨床においては,しばしば精神科医がその役割を期待される。しかし,精神科医は,不眠の訴えを持つ患者を最も多く扱っているものの,基本的にはそれぞれの精神疾患治療の一部としての知識や経験であり,睡眠学の最近の進歩に基づいて不眠症に包括的な診療を行えるとは必ずしもいえない。諸外国においても,精神科医が睡眠医学から遠ざかりつつあり,同様な問題を抱えている。

 1980年代までの不眠症研究では,性格と睡眠特性関係が中心のテーマであったが,1990年代になり疫学的なエビデンスが徐々に蓄積し,1990年代後半からは終夜睡眠ポリグラフ検査を中心にした睡眠薬治験が行われるようになった。その後は,より臨床的な観点から不眠症についてアプローチする研究が増え,生物学的な成因についての研究や不眠が他の疾患の経過に与える影響などについての研究もなされるようになってきた。

 これらの点をふまえ,本稿では,不眠の疫学に関して最近の報告をまとめ,不眠症の薬物療法の現状について展望し,新規開発中の睡眠薬について紹介する。

高齢者,認知症患者の睡眠障害と治療上の留意点

著者: 三島和夫

ページ範囲:P.501 - P.510

はじめに

 高齢者の睡眠障害は臨床場面で最もよく遭遇する症候の一つであり,慢性経過をたどるケースが多く,本人の苦痛も甚大である。高齢者は睡眠障害の原因となるさまざまな要因を抱えている,①夜間頻尿,痛み,呼吸困難,かゆみなど睡眠障害を誘発しやすい身体疾患の合併,認知症やうつ病など,睡眠障害の原因となる精神疾患への罹患,基礎疾患の治療薬に起因する薬剤性睡眠障害,②もともと基礎代謝が低いのに加えて,日中の精神身体活動が乏しいために睡眠のニーズが減少するなどの睡眠衛生上の問題,③生活の夜型化をはじめとする多様化する生活スタイルへの不適応,④核家族化や独居による孤立不安,退職や死別による心理社会的ストレスなどきわめて多様であり,同時にいくつもの問題を抱えていることが多い。これらの要因の一つひとつが不眠の原因もしくは準備因子となる。

せん妄と睡眠障害

著者: 千葉茂 ,   石丸雄二 ,   田村義之 ,   稲葉央子 ,   高崎英気 ,   阪本一剛 ,   山口一豪 ,   石本隆広

ページ範囲:P.511 - P.518

はじめに

 患者との面接において,最も重要なことはせん妄の有無を判断することである。その理由は,「意識」は精神現象の基盤をなすものであり,また,その「意識」の障害であるせん妄が存在するか否かを明らかにすることは,患者の精神症状の全体像をとらえる方向性を決定づけることになるからである。

 せん妄は,精神科臨床,とくにリエゾン・コンサルテーション精神医学においてしばしば遭遇する精神症状である。たとえば,せん妄は総合病院に入院した患者の約20%に生じる11)。入院中の高齢者におけるせん妄の有病率は約40%と高い5)。一方,せん妄の存在は,患者の予後を考えるうえで重要なサインでもある。たとえば,せん妄は,装着されたカテーテルやドレーンの自己抜去や,転倒・転落などの事故につながる。また,せん妄の既往がある高齢者では,その既往がない高齢者に比べて,その後に認知症が現れる率が高い5)。せん妄の既往のある患者は,既往のない患者と比較して死亡率も高い5)。このように,せん妄は臨床の場において看過できない精神症状であり,また,その予防や早期診断・早期治療は生命予後を大きく左右するといえる5)

 本稿では,せん妄と睡眠障害の関連性について概説する。

最近の睡眠薬の動向と治療指針

著者: 内村直尚

ページ範囲:P.519 - P.527

はじめに

 現在,わが国で使用されている睡眠薬は化学構造,作用機序からバルビツール酸系,非バルビツール酸系,ベンゾジアゼピン(BZ)系,非BZ系の4種類に大別される。

 バルビツール酸系睡眠薬はBZ系睡眠薬が登場するまでは睡眠薬の主流を占めていたが,現在ではその使用は不穏,興奮状態にある患者の緊急的な鎮静や急性の睡眠障害で,しかも短期間で改善が期待できそうな場合に限られる。バルビツール酸系睡眠薬は中枢神経,特に大脳皮質や脳幹網様体賦活系を抑制することによって睡眠効果をもたらすとされている。しかし呼吸中枢や血管運動中枢に対しても抑制作用があるため,大量に服用した場合,生命を失う危険がある。また耐性や依存を生じやすく,しかも急激に服薬を中断した場合激しい離脱症状を起こす。

 一方,非バルビツール酸系睡眠薬は睡眠作用が不安定で,習慣性や依存を起こしやすい。したがって一般の臨床においては作用しないことが望ましい。

 現在,主に睡眠薬として使われているのはBZ系睡眠薬および非BZ系睡眠薬である。また,近年BZ系受容体の分子薬理学的研究により受容体サブタイプ(ω1,ω2,ω3)の存在が明らかになり2),サブタイプの選択性が高い睡眠薬が開発されている。そこで本稿では,本邦においてすでに使用されているω1選択性の高い睡眠薬および現在本邦で臨床試験が行われている睡眠薬について紹介し,さらにBZ系睡眠薬の選択,使用法および中止法について概説する。

研究と報告

Broset Violence Checklist(BVC)日本語版による精神科閉鎖病棟における暴力の短期予測の検討

著者: 下里誠二 ,   塩江邦彦 ,   松尾康志 ,   西谷博則 ,   石川博康 ,   伊藤憲治 ,   佐伯幸治 ,   山田洋 ,   宇都宮智 ,   松本賢哉 ,   比江島欣慎 ,   森千鶴

ページ範囲:P.529 - P.537

抄録

 精神科臨床では患者の行動上の特徴からの変化をとらえ,短期的な予測を行うことが重要である。そこでノルウェーで開発され,暴力の短期予測に優れた精度を持つBroset Violence Checklist(BVC)の日本語版を作成し,わが国の精神科閉鎖病棟で起こる暴力前24時間以内に現れる行動的特徴から得られる短期予測の精度を検討した。

 七つの閉鎖病棟に6か月の対象期間中に入院していた患者を追跡した。全対象者に対して各勤務帯でBVCに基づいて行動観察を行った。暴力がみられた患者について,暴力が起こる前24時間のBVC得点と暴力を起こさない時点でのBVC得点とを比較し,ROC曲線によりBVC得点での予測を検討した。倫理的配慮として山梨大学倫理委員会の承認を受けた。

 7病棟での全対象者は534名であり,暴力を起こした患者は92名(男性51,女性41)であった。暴力の程度は軽微なものが83%であり,34%は言語介入のみで対応していた。BVC得点のROC曲線による分析ではカットオフ1点で感受性0.780,特異性0.685であった。暴力の24時間前にBVCが1点以上になることで78%が予測可能であり,これは言語的介入を行うための有効な指標と考えられた。

短報

心囊液貯留と脳性ナトリウム利尿ペプチド高値を伴った神経性無食欲症の1症例

著者: 石川博康 ,   徳永純 ,   森朱音 ,   菅原純哉 ,   下村辰雄 ,   清水徹男

ページ範囲:P.539 - P.541

はじめに

 近年神経性無食欲症(AN)では心囊液貯留が高頻度に合併することが指摘されており,その頻度は15~71%と報告されている。また心囊液貯留を伴うANの一部では脳性ナトリウム利尿ペプチド(BNP)の高値が報告されており,BNP値は経過観察の指標として有用であることが指摘されている。我々は21歳女性のAN(むちゃ食い/排出型)の症例において,心囊液貯留と高心拍出性心不全を反映したBNP高値を伴った1症例を経験したので報告する。

オランザピンの剤型による服薬満足度の違いについて

著者: 藤川美登里 ,   都甲崇 ,   吉見明香 ,   藤田純一 ,   野本宗孝 ,   上條敦史 ,   天貝徹 ,   内門大丈 ,   勝瀬大海 ,   細島英樹 ,   佐倉義久 ,   古荘竜 ,   須田顕 ,   山口隆之 ,   伊藤導智 ,   小田原俊成 ,   平安良雄

ページ範囲:P.543 - P.546

はじめに

 統合失調症の治療では,再発予防のために長期にわたる内服を要することが多く,服薬アドヒアランスはその予後に大きな影響を与える。アドヒアランスは,患者が積極的に治療方針の決定に参加し,自らの決定に従って治療を実行(服薬)し,それを続けていく姿勢を重視した考え方である。アドヒアランスの向上には,患者の主観的な治療満足度が高いことが必要であるが,これまで主観的な満足度を調べる適当なスケールがなかったため,こうした評価を客観的に行った研究報告は海外を含めほとんどない。

 近年,第2世代抗精神病薬の統合失調症治療における有用性は一般に認知されたといってよい状況であるが,それぞれの薬剤プロフィールの相違についてはいまだ検討の途上である5)。また,各薬剤はさまざまな剤型を有するが,剤型の違いによる効果や患者の評価に関する報告は少ない。オランザピンは標準経口錠(standard oral tablet,以下SOT)と口腔内崩壊錠(orally disintegrating tablet,以下ODT)の2種類の投薬形態が利用できる薬剤であり7),オランザピンODTは唾液により速やかに溶解することが特徴である10)

 今回我々は,治療満足度の評価スケールであるTSQM(Treatment Satisfaction Questionnaire for Medication)1)の日本語版を,原著者の承諾のうえback translationを経て作成し,オランザピンの剤型により内服治療の満足度の違いを調べた。

紹介

各国の実情にあった自殺予防対策を

著者: ,   高橋祥友 ,   山本泰輔

ページ範囲:P.547 - P.552

 世界保健機関(以下WHOと略)は,自殺予防をきわめて重要な課題ととらえてきたが,その活動の一端を紹介したい。最初に注意を喚起しておきたいのは,自殺予防に関して,ある国で該当することが,必ずしもそのまま他の国や地域にも当てはまるわけではないという点である。本論で取り上げる内容のどれがそのまま日本でも当てはまるのか,どれは修正すべきなのか十分に検討したうえで,自殺予防対策に活用していただきたい。

書評

―尾藤誠司 編―医師アタマ―医師と患者はなぜすれ違うのか?

著者: 辻本好子

ページ範囲:P.553 - P.553

「異文化コミュニケーション」への新たなエネルギーが湧いてくる

 タイトルの斬新さに目を引かれ,つぎに「患者と医師のすれ違いのキーワードは異文化コミュニケーション」とある帯の文字で,時代の変化を実感。10年以上前,ある学会のシンポジウムで発言した私に,学会長が「深い河はともかく,異文化圏という言葉は医療者に対して失礼ですヨ」と諭すようなご指摘。それが今や「キーワード」なのです。

 そして執筆者一覧のなかに,かつてどうにも議論がかみ合わず,心密かに「イシアタマ!」と思ったことのある方々(失礼!)のお名前が。しかし時代の変化とともに「柔らかアタマ」に変身されていました。

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編集後記

著者:

ページ範囲:P.558 - P.558

 新年度が始まり改まった気持ちでおられる方が多いと思う。巻頭言には加藤邦夫教授(高知大学)が地方大学の精神医学研究について述べている。新医師研修制度が施行されてから,地方大学においては2年間の臨床研修終了後,出身大学の医局に残る医師が少なく,大都会やその周辺の大学病院,有名総合病院で研修する医師が多い。大学教育,診療,研究の活動レベルを維持していくことはきわめて厳しくなってきている。この危機的状況を創造的な思考と工夫と実行力で切り抜け発展の礎にしてほしいと思う。展望には朝田隆教授がAlzheimer病の実践的研究について書いている。地域の中に入り込んで疫学,予防研究を行っているのは大変すばらしい。日本においてこのようなスケールの大きい研究が地道に進んでいることは喜ばしいことである。

 本号には睡眠の特集が組まれている。睡眠学の発展は近年著しい。大川匡子教授が2005年に改変された睡眠障害国際診断分類の具体的な説明を行っている。清水徹男教授はうつ病と不眠との関係について疫学的,内分泌学的(CRH,HPA-axis),治療学的(断眠など)面から総説を書いており,不眠がこれまで以上にうつ病との関連が深く,うつ病の発病因子にもなっているという。小曽根基裕氏らは現代社会とリズム障害について論じ,交代勤務睡眠障害,時差症候群などの病態と対策が示されている。内山真教授はわが国の多数例の疫学研究から睡眠障害をとらえ直しており,新しい睡眠薬開発の動向を示している。三島和夫氏は高齢者,認知症患者の睡眠障害と治療上の留意点について,最新の知見を踏まえて論じている。また,千葉茂教授はせん妄と睡眠の関係について詳細に説明している。近年睡眠について種々の方法論を駆使して,病態および治療面の研究が大きく進歩した。うつ病,せん妄,ストレス,発達などと睡眠の関係をみても,睡眠の問題が精神医学の領域でますます重要になってきたことがわかる。睡眠学の領域は学際的であるが精神科医が大きな役割を担っていることを認識したい。

基本情報

精神医学

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-126X

印刷版ISSN 0488-1281

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