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雑誌目次

雑誌文献

精神医学49巻6号

2007年06月発行

雑誌目次

巻頭言

がん対策基本法―緩和ケアチームに精神科医のより積極的な参画を

著者: 内富庸介

ページ範囲:P.564 - P.565

 「がん対策基本法」が本年4月に施行された。国会の場でがんを告白した議員の言動により一気に制定に傾いた。新法の目的は,がん対策のよりいっそうの努力を国,県,医師など国民すべてに義務づけたことである。基本理念は3つ,①がん研究の推進および医療技術の普及,②がん医療の地域格差是正,③患者本人の意向を尊重してがん治療方法などが選択されるよう医療提供体制を整備すること,である。

 理念のもと,具体的な「がん対策推進基本計画」の策定を国が行い,県が二次医療圏に一つ程度指定されるがん診療連携拠点病院を中心に質の高い医療,診療連携,研修体制などを整備する。新法が関連する2007年度がん対策関係予算案(534億円;前年度から123億円の増額)を見ると,研究の推進,講座・大学院の新設,卒後研修の充実などが盛り込まれているが,がん診療連携拠点病院の整備が際立って配慮されている。拠点病院の指定要件でもある,がんの診断時からの緩和ケア体制の整備,つまり緩和ケアチームが特にユーザーにとっての目玉となっている。

オピニオン 発達障害に関連する諸概念と診断基準について

注意欠陥/多動性障害は発達障害圏の中に包括し得るのか?

著者: 花田雅憲

ページ範囲:P.568 - P.570

はじめに

 注意欠陥/多動性障害Attention-Defict/Hyperactivity disorder(AD/HD)は,DSM-Ⅳ(1994)に記載された,通常,幼児期,小児期または青年期に初めて診断される障害の一つで,特徴として,①不注意(9項目),②多動性(6項目),③衝動性(3項目)が挙げられている。類似したものに,ICD-10(1992)の多動性障害Hyperkinetic Disorders(HD)がある。両者は,診断基準の内容がほぼ同じで,AD/HDとHDを区別して使用している医師は少ないと考える。

 医学的に発達障害の概念は変化しており,精神遅滞,広汎性発達障害,特異的発達障害(学習能力障害,言語と会話の障害,運動能力障害)が発達障害と考えられていたが,DSM-ⅣおよびICD-10では,精神遅滞が単独の項で別にして分類されている。

 他方,教育関係で,2007年4月から始まる特別支援教育の中で,学習障害,AD/HD,高機能自閉症などを発達障害として取り上げており,この用語と医学で用いている発達障害の用語が混乱していると考える。

注意欠陥/多動性障害は発達障害圏の中に包括し得るのか?

著者: 齊藤万比古

ページ範囲:P.571 - P.573

はじめに

 今回の設問は,注意欠陥/多動性障害(以下AD/HD)が「発達障害」に含まれることに特に違和感を持つことなく受け入れてきた児童精神科医の一人として,その合理性と妥当性に関して改めて直面する機会を与えてくれた。振り返ってみれば,私は過去10年ほどにわたってAD/HD概念の有用性を世に訴え,その疾病概念を精神医学の中に正当に位置づけるべきであると主張してきた医師の一人であった。しかし私には,一方の陣営に属することによって見えなくなってしまうものが確かにあるという感覚もある。そのような観点から,AD/HDは発達障害に包括することは適切か否かについて答えてみたい。

アスペルガー症候群の診断学的妥当性は,どこまで確立されているのか?

著者: 山崎晃資

ページ範囲:P.574 - P.577

「パンドラの箱」が開かれた

 1981年,Wingは児童期の自閉的精神病質(Asperger,1944)をアスペルガー症候群として再登場させた。その後,アスペルガー症候群に関する著書や論文が急増し,臨床の現場でもアスペルガー症候群と診断される例が急激に増えている印象がある。今や少しでも「変わった人」がいると安易にアスペルガー症候群としてしまう傾向さえある。セカンド・オピニオンを求めて私の外来を訪れる当事者や家族にこれまでの診断・治療の経過を尋ねてみると,発達歴も聴取されずにきわめて短時間の診察で診断さている例や,「医学的治療はありません」と冷たく突き放されている例が少なからずある。

 Wing自身が「パンドラの箱を開けてしまった」と述べているように,アスペルガー症候群はWingの当初の意図から逸脱し,予想もしなかった方向へと議論が進み始めた。Wing1)は,“Asperger Syndrome”(Klin, Volkmar, Sparrow編,Guilford Press, 2000)の第15章(p.418)で,「この症候群の性質を最初に考察した者として言うならば,本来私が考えていた目的は,この症候群が自閉症スペクトラムの一部であり,他の自閉性障害と区別される明確な境界線はないことと,その可能性が強いことを強調するという点であった。しかし,その後さまざまな研究者によって,アスペルガー症候群と自閉症は異なる障害であるという考え方が強くなっている。これは私の意図してきたこととは正反対である」と明記している。

アスペルガー症候群の診断学的妥当性は,どこまで確立されているのか?

著者: 杉山登志郎

ページ範囲:P.578 - P.580

発達障害診断のパラダイム変化

 アスペルガー症候群の診断の問題を扱う前に,発達障害の診断をめぐる問題に関して,述べておきたい4)。児童精神医学が対象とする領域は,従来から情緒障害と発達障害とに分けられてきた。従来の成人精神医学の分類で言えば,器質因性の精神疾患と心因性(一部に内因性)の精神疾患の区分に相当する。しかし近年の生物学的精神医学研究の進展によって,この区別が怪しくなってきた。いわゆる神経症においても脳の機能的な異常が明らかにされ,さらに心因であることが最も明確な疾患である外傷後ストレス障害において,強い心的外傷により扁桃体の機能障害や海馬の萎縮などの明確な器質的変化が現れることが明らかとなった。その後,強いPTSD症状を呈する個体は,もともと扁桃体が小さいということも明らかになった。小さい扁桃体が作られるのは被虐待体験であるという有力な説があるが,一方で遺伝的な負因があることも疑いない。もともと器質的な基盤がある個体が心因にさらされたときに,さらに器質的な変化が引き起こされ,精神症状として発現するのである。これは器質因(負因)と心因との掛け算によって治療の対象となる精神科疾患が生じるという普遍的なモデルである。このモデルは,高血圧症,糖尿病,またがんなど,ほぼすべての慢性疾患の場合と同一である。さらにこのモデルは児童にみられる心の問題にもそのまま当てはまる。児童の精神科疾患においてもっとも多いパターンは,元々の生物学的素因に情緒的な問題が絡み合って複合的な臨床像が造られたものである。情緒的な問題といえども発達途上にある子どもに長期にわたる問題となれば必ず発達障害にたどり着く。逆に発達障害の場合も,適応障害は一義的な認知の凹凸よりも,その結果として生じる対人関係における被害念慮,不適切な行動パターンなど,二次的な心因的な問題によってもたらされる。

 つまり正常か発達障害かという二群分けは完全な誤りであり,発達障害の診断を行う意味とは,発達障害の治療である教育において,個別の対応を行うニードがあるか否かという一点に尽きる。個別の対応を行うことで,後年の適応障害が軽減できる,あるいは予防できれば,発達障害の診断を下すことが妥当かつ必要である。

展望

職場復帰について

著者: 秋山剛

ページ範囲:P.582 - P.590

はじめに

 精神疾患のために休務,休職していた社員を,どのタイミングで,どんなふうに職場復帰させればよいかということは,企業にとって非常に大きな関心事である。企業は,専門家である精神科医から適切な助言を得たいと熱望しているが,精神科医の中には,企業や職場の状況に精通していない方もいると思われる。ここでは,職場復帰に関する実務的な課題と,職場復帰について筆者が考えてきたことについて述べてみたい。

研究と報告

慢性疲労症候群患者における精神障害のcomorbidityについて

著者: 松井徳造 ,   切池信夫 ,   福田早苗 ,   田島成貴 ,   倉恒弘彦 ,   西沢良記 ,   渡辺恭良

ページ範囲:P.591 - P.597

抄録

 大阪市立大学はCOEプロジェクトの一環として疲労クリニカルセンターを設立し,慢性的な疲労を訴える患者の精査加療を行っている。今回我々は,2005年6月より約半年間に慢性疲労を主訴に外来受診した105例の患者について慢性疲労症候群(CFS)と精神障害のcomorbidityを調査した。105例中51例がCFSと診断され,精神障害のcomorbidityを有したのが29例(57%)であった。内訳は大うつ病性障害(MDD)が20例と最多で,CFSの発症後にMDDを発症しているのが過半数を占めていた。一方,慢性疲労を訴えたがCFSと診断されなかった患者46例の精神障害についてみるとMDDが28例(61%)と最多であった。以上の結果からCFSとMDDのcomorbidityが高く,また慢性疲労とMDDの関連も強く示唆され,今後これらの関係について明らかにする必要があると考えられた。

自閉症スペクトラム障害の簡易精神機能テスト(臺)の結果

著者: 棟居俊夫 ,   小野靖樹 ,   武藤宏平 ,   下田和紀 ,   中谷英夫 ,   越野好文

ページ範囲:P.599 - P.606

抄録

 20名の自閉症スペクトラム障害患者(ASD群)および年齢と性をほぼ一致させた同数の健常者に対して,臺の考案した簡易精神機能テストおよび乱数生成時の心電図R-R間隔の測定を行った。迷走神経系の指標は安静時も課題施行時もともにASD群が有意に低く,また乱数生成時の心拍数の増加がなく,自律神経系の機能障害が示唆された。運動機能はASD群で有意に悪く,計画(planning)の段階の障害が示唆された。乱数生成課題の結果と年齢および知能指数との相関は両群で正反対であった。ASDは高次の認知過程(思考系)だけでなく,自律神経系(入力系)および運動系(出力系)にもなんらかの障害のあることを示唆した。

統合失調症の障害認識を改善するためのプログラムの効果への非定型抗精神病薬の影響

著者: 池淵恵美 ,   鈴木英世 ,   安藤義将 ,   沼口亮一 ,   木村美枝子 ,   漆原貴子 ,   菊池久恵 ,   袖山明日香

ページ範囲:P.607 - P.617

抄録

 統合失調症の障害認識を改善するためのプログラムの効果への非定型抗精神病薬の影響を検証した。対象は統合失調症23名で,薬物療法の主剤が非定型抗精神病薬である介入・非定型薬群(7名),介入・定型薬群(6名),非介入・非定型薬群(10名)の3群に分けた。介入前後,12か月後に評価を行った。プログラムは合計20回の心理教育および社会生活技能訓練である。社会的場面の認識能力と全般的評価尺度(GAS)がプログラム実施による有意な効果を示した。数唱が非定型薬群で有意な改善をみた。3群による比較では,社会的場面の認識能力は介入・非定型薬群のみが有意に改善していた。GAS改善と場面認識の改善とは有意な相関を示した。

中高齢者における集団音楽療法の身体・心理的ストレス指標に及ぼす影響

著者: 西村亜希子 ,   大平哲也 ,   堀早苗 ,   堀彩 ,   長澤晋吾 ,   北村和之

ページ範囲:P.619 - P.627

抄録

 【目的】健常中高齢者を対象とした集団音楽療法による身体・心理的ストレス指標への効果を検討すること,および参加者の心理・社会的背景が,これらの効果に及ぼす影響について検討することを目的とした。【対象と方法】36~78歳の男女46名を対象に集団音楽療法を行い,自覚的ストレスなどの心理的ストレス,および身体的ストレス指標である唾液中コルチゾール値,クロモグラニンA値を音楽療法前後に測定した。【結果】音楽療法後,参加者のほとんどの自覚的ストレスが軽減した。唾液中コルチゾール値に有意な変化はみられなかったが,唾液中クロモグラニンA値の平均値は5.6pmol/mlから3.6pmol/mlに有意に減少した(p=0.02)。また,唾液中クロモグラニンA値は,65歳以上,および日常のストレスが多い者において,より大きく低下していた。【結論】集団音楽療法は心身のストレス低下に有効であり,その効果には年齢,ストレス状況の影響を受ける可能性がある。

Charles Bonnet症候群を呈した4症例―幻視と脳SPECT所見の特徴

著者: 大塚太郎 ,   井関栄三 ,   道本雅子 ,   山本涼子 ,   村山憲男 ,   安藤千晶 ,   木村通宏 ,   江渡江 ,   新井平伊

ページ範囲:P.629 - P.636

抄録

 Charles Bonnet症候群 (CBS)を呈した4症例について,幻視と脳SPECT所見の特徴を報告した。〈症例1〉67歳女性,血管性認知症。網膜色素変性症で,視力低下とともに幻視が出現。〈症例2〉76歳男性,軽度認知障害。先天性弱視で,視力低下とともに幻視が出現。〈症例3〉85歳女性,アルツハイマー型認知症。後頭葉梗塞後に幻視が出現。〈症例4〉82歳女性,軽度認知障害。後頭葉梗塞後に幻視が出現。幻視の特徴は色彩と動きのある光景幻視で,レビー小体型認知症の人物幻視とは異なっていた。症例1・3・4では,幻覚の自覚は不十分で,妄想を伴っていた。脳SPECTでは,後頭葉内側部の血流低下が共通してみられた。

動き

精神医学関連学会の最近の活動―国内学会関連(22)

著者: 高橋清久

ページ範囲:P.639 - P.666

 第13~15期学術会議会員であった島薗安雄先生が始められた精神医学関連学会の最近の動きのご紹介を,本年も引き続き日本学術会議に関係する者が行わせていただきます。

 現在,わが国の精神医学・医療・福祉はまさに激動の時代に入っています。1995年に障害者基本法が策定されたことが,大きなうねりの始まりでした。精神保健法が精神保健福祉法に変わり,ノーマライゼーション7ヶ年計画がスタートしました。その計画が終わりにさしかかる,2001年に厚生労働省社会保障審議会・精神障害者部会が報告書「今後のわが国の精神保健医療福祉について」をまとめ,次いで厚生労働省の精神保健対策本部が精神保健福祉改革のビジョンを発表しました。さらに2005年には「改革のグランドデザイン」として,精神・身体・知的の三障害を一本化する案が示されました。これが現在の障害者自立支援法となったわけです。その間,2004年には賛否両論が飛び交う中,医療観察法が成立し,心神喪失等の状態で重大犯罪を行った対象者の社会復帰を目指した医療が開始されました。

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編集後記

著者:

ページ範囲:P.670 - P.670

 2007年5月15日の早朝,高校3年生の少年(17歳)が「母親を殺した」といって警察署に自首してきた。持っていたバッグの中には母親の頭部が入っており,切断された母親の右腕が白色塗料で塗られて室内の観賞用の植木鉢に差されていたという。未成年の子どもたちによる親の殺害や未遂事件が,この1,2年,急に目立つようになってきた。警察庁のまとめでは,刑事処分の対象となる14歳以上の子どもによる実父母の殺害事件(未遂も含む)は,これまでは年に3~9件であったが,2005年は17件となり,その後も連続して2桁になりそうだという。犯行の手口や動機があまりに奇妙であり,警察に拘留されると取り調べに淡々と応じ,食事もほとんど食べて就寝しているなどの平然とした態度に,関係者は驚いてしまうという。

 今回の事件の直後から,さまざまな専門家・評論家が,この少年についてのコメントをマスコミに発表している。例によって,発達障害,アスペルガー症候群,統合失調症などのさまざまな障害名が登場している。気になることは,コメントをする人々が世界精神医学会の『倫理ガイドライン特別項目』を知っているのだろうかということである。「精神科医は,特定の個人についての精神病理学的推察をメディアに対して断言的に述べてはならない」と明記されているが,倫理観を厳しく求めたものである。心理学者や評論家は,「私は精神科医ではないから」というかもしれないが,果たしてそうであろうか。

基本情報

精神医学

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-126X

印刷版ISSN 0488-1281

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