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雑誌目次

雑誌文献

精神医学49巻7号

2007年07月発行

雑誌目次

巻頭言

精神科学は,セレンディピティを超えることができるか

著者: 吉川武男

ページ範囲:P.674 - P.675

 五月初旬,南信の山間を訪れた。三色の桃の花も見事であったが,山吹の黄も鮮やかであった。山吹には,室町時代の武将,太田道灌の山吹伝説がある。『道灌が父を尋ねて越生の地に来た。突然のにわか雨に遭い農家で蓑を借りようと立ち寄った。その時,娘が出てきて一輪の山吹の花を差し出した。道灌は,蓑を借りようとしたのに花を出され内心腹立たしかった。後でこの話を家臣にしたところ,それは後拾遺和歌集の「七重八重 花は咲けども 山吹の実の(みの)一つだに なきぞ悲しき」の兼明親王の歌に掛けて,家が貧しく蓑(みの)ひとつ持ち合わせがないことを奥ゆかしく答えたのだと教わった』(http://ja.wikipedia.org/wiki/太田道灌)。

 患者が医者に要望するのは,自分の病を完全に治してくれる治療であり,治療手段の代表的なものが薬である。幸い,現在の精神科医は実(治療薬)の一つだに持ち合わせていない状況ではない。この幸運に与れたのは,1950年代のセレンディピティといえる向精神薬の開発の成功のおかげである。クロルプロマジン,ハロペリドール,三環系抗うつ薬の合成,炭酸リチウムの躁病に対する有効性の発見など,半世紀前の僥倖が今も活用されており,副作用が少なくなったと言われる最近の新薬といえども,開発の薬理パラダイムは基本的に変わっていないと思われる。

展望

皮質基底核変性症の精神症状

著者: 内門大丈 ,   都甲崇 ,   小阪憲司

ページ範囲:P.678 - P.683

はじめに

 皮質基底核変性症(corticobasal degeneration;CBD)は,大脳皮質と基底核以下の神経核に病変を持つ神経変性疾患であり,進行性核上性麻痺(progressive supranuclear palsy;PSP)と同様にパーキンソン関連疾患に分類される。CBDは,1967年Rebeizら27)が3剖検例を検討し,“corticodentatonigral degeneration with neuronal achromasia”という新しい神経変性疾患として報告したのが最初である。その後,1989年Gibbら7)が自験例を加えて再検討し,CBDと呼ぶことを提唱した。現在CBDの臨床診断基準で統一的なものはないが,Boeveらの診断基準3)(表1)によれば,①皮質症状として局所性あるいは非対称性の観念運動失行,他人の手徴候,皮質性感覚障害,視覚性・感覚性半側空間無視,構成失行,局所性または非対称性ミオクローヌス,発話失行または非流暢性失語のうち1つ以上を満たすこと,②錐体外路障害として局所性または非対称性の筋固縮でL-dopa効果のないもの,局所性または非対称性の肢ジストニアが挙げられ,1つ以上を満たす必要がある。また,支持項目の1つであるCTやMRIの形態画像所見では,典型的には前頭頭頂葉に強い,局所的または左右差のある大脳皮質の萎縮が挙げられている。

 剖検脳の肉眼的特徴は,前頭・頭頂葉領域の限局性萎縮,特に中心前回の萎縮と黒質の脱色素である。また,その萎縮はたいてい非対称性である。組織学的には,多数のballooned neuronとastrocytic plaqueを伴ったthread様の病理が大脳皮質,白質,基底核,間脳,脳幹部に広範に出現し,同部位の神経細胞脱落とグリオーシスの出現を特徴とする5)

 筆者らは本誌にPSPの精神症状に関しての総説36)を記したが,CBDも,PSPと同様に,認知症が前頭葉を中心に広範に分布するグリアタングルとの関係から,グリアタングル型認知症dementia with glial tanglesとして位置づけている17)。CBDでは,PSPより皮質下病変の広がりは少ないものの,大脳皮質の変性はより高度,広範で,これが合併する認知機能障害・精神症状に強く影響を与えている可能性がある。CBDの神経精神医学的特徴に関する報告は少ないが,近年では,前頭側頭型認知症(frontotemporal dementia;FTD)の基礎疾患(病理学的背景)の1つと考えられ,異常行動・精神症状・失語・認知症が初発症状であることが多く,パーキンソニズム,肢節運動失行などの運動症状よりむしろ認知症がCBDの主要症状であること33,34)が指摘されている。また,CBD患者は人口10万人あたり4.9~7.3という報告があり32),まれな疾患であると考えられている。しかし,最近筆者らが行った調査35)において4,630人の認知症診断外来利用者のうち8人(0.17%)がCBDと臨床診断され,ある一定数存在することが示された。つまり,精神科領域ではまれな疾患ではあるが,鑑別診断として考慮する必要のある器質性精神疾患の1つであると考えられる。本稿ではCBDの認知障害,精神症状に焦点を当てて概説する。

特集 レビー小体型認知症をめぐって

レビー小体型認知症の発見から現在まで―臨床診断基準改訂版を含めて

著者: 小阪憲司

ページ範囲:P.685 - P.689

はじめに

 2006年11月に筆者は横浜で第4回DLB/PDD国際ワークショップを開催した際に「30 Years since That Time:あれから30年」と題して会長講演をした。その講演では1976年の筆者らの最初の論文17)以来ちょうど30年になるので,これを機会に,世界から集まったこの領域の専門家に筆者らのこれまでの論文を中心に紹介した。そこで,ここでは「レビー小体型認知症をめぐって」という特集を組むに当たってこの30年を振り返ってレビー小体型認知症demenia with Lewy bodies(DLB)の筆者らの研究の一端を紹介することにする。

レビー小体型認知症の精神症状・神経症状

著者: 井関栄三

ページ範囲:P.691 - P.697

はじめに

 レビー小体型認知症(dementia with Lewy bodies;DLB)は,1995年の国際ワークショップで初めて提唱された名称で,疾患概念とともに臨床・病理診断基準のガイドラインが作成された15)。DLBは,進行性の認知機能障害に加えて,特有の精神症状とパーキンソニズムを示す変性性認知症である。病理学的には,大脳と脳幹の神経細胞脱落とレビー小体の出現を特徴とする。びまん性レビー小体病(diffuse Lewy body disease;DLBD)12)を含むが,より幅の広い概念である。

 発症年齢は,60~80歳代の初老期・老年期に多いが,40歳代など中年期にも稀ながらみられる。性差は少ないが,男性にやや多いとされている。多くは孤発性で家族歴を持つものは稀である。臨床診断による頻度は,認知症のうち10~30%と報告に幅がある。病理診断による頻度は,認知症の15~25%程度と報告されている。老年期の変性性認知症ではアルツハイマー型認知症(Alzheimer-type dementia;ATD)に次いで頻度が高い13)

 DLBは認知機能障害を主症状とする変性性認知症として定義されたが,パーキンソニズムを主症状とする神経変性疾患であるパーキンソン病 (Parkinson's disease;PD)でも,経過中かなりの頻度で認知機能障害が出現することが明らかとなり,認知症を伴うPD(Parkinson's disease with dementia;PDD)と呼ばれている。DLBとPDDは臨床・病理所見に共通性が多く15,17),両者の異同について論議がなされている。

レビー小体型認知症の脳画像・心筋シンチ

著者: 吉田光宏 ,   山田正仁

ページ範囲:P.699 - P.705

はじめに

 レビー小体型認知症(DLB)の中核症状は,しばしばアルツハイマー病(AD),脳血管性認知症(VaD)や認知症を伴うパーキンソン病(PDD)と重複することがあり,時に鑑別診断が困難なことがある。診断基準としては,第1回のDLBの国際ワークショップの報告として出版されたもの21)がこれまで用いられていたが,この診断基準では,特異度は高いが,感度が低い点が問題となっていた19)。この点を鑑み,第3回のDLB/PDDの国際ワークショップにおいて診断基準が改訂され2005年のNeurology誌に発表されたものが,最新の診断基準となっている20)。画像診断が,DLBと他の認知症を鑑別するうえで有用であることが,この最新の診断基準でも認められている。本稿ではDLBの画像診断について概説する。

レビー小体型認知症の治療:漢方方剤「抑肝散」の効果

著者: 荒井啓行 ,   岩崎鋼 ,   古川勝敏 ,   関隆志 ,   筒井美保

ページ範囲:P.707 - P.710

はじめに

 今日,認知症とは「獲得された知的機能の後天的障害によって生じた生活破壊」として理解されている4)。基本的な知的機能,すなわち記憶・学習(Memory),見当識(Orientation),言語(Language),視空間機能(Visuospatial function),注意・判断(Attention/Judgement)が健全にかつ有機的に稼働することで日常生活を支えていると考えるからである。認知症患者では,「この基本的な認知領域の中で,記憶・学習機能を含め少なくとも2領域の障害がみられる」というのが現在に至るまでの認知症の基本的な考え方である。

 側頭葉内側はPapetzの回路に重要な海馬や嗅内皮質を含むepisodicな記憶機能に,側頭葉外側は言葉と物や概念との対応関係などの意味記憶や言語機能に,前頭前野は注意分散や実行機能に,頭頂葉は視空間認知とその行動の遂行に必要で,後頭葉はこれらをつなぎ映像を作る脳である。

 認知症とは,大脳の広範な機能解体現象と考えられ,これらを総じて,認知症の「中核症状」と呼ぶ。一方,そのような認知機能障害を有する患者が周囲の環境や人々とのかかわり合いのなかで示すさまざまな反応が周辺症状であり,これには感覚,思考内容,気分,行動などにおける異常な兆候や症状が含まれてくる。1996年に国際老年精神医学会は,これら周辺症状に対してBehavioral and Psychological Symptoms of Dementia(BPSD)という用語を用いることを提唱した1)

 認知症において従来研究者が注目してきたのは主として中核症状であるが,実際患者を介護する家族にとって最も深刻な問題となるのはむしろ他の精神症状,すなわち抑うつ,無意欲,不安,焦燥,幻覚,妄想,脱抑制,昼夜逆転,徘徊,易怒,介護への抵抗,暴言などである。Tanjiらは,認知症患者を抱える家族に面接をし,介護負担感の比較的重い群と軽い群におけるさまざまな要因を比較した7)。その結果,介護期間,介護者の性別や年齢,認知障害の重症度,ADL低下度は介護負担感に影響を与えず,BPSDが介護負担感を強める最大の要因であり,BPSDが重症であるほど重い介護負担となっていた。さらに重い介護負担感は,介護者のうつ的傾向と相関した。介護負担の軽減を図るには,まずこのBPSDへの対策が第一となる。周辺症状という言葉の意味はあいまいでless importantという印象を与えかねないので,ここでは周辺症状ではなく,BPSDを用いることにする。

レビー小体型認知症の分子病理学

著者: 小山信吾 ,   岩坪威

ページ範囲:P.713 - P.718

はじめに

 レビー小体型認知症(dementia with Lewy bodies;DLB)は進行性の認知症とパーキンソニズムを特徴とする神経変性疾患である。本症は,小阪らによりまずdiffuse Lewy body diseaseとして記載され,1996年にDLBとしてのガイドラインが制定され,国際的にも広く認知されるようになった14)

 パーキンソン病(PD)やDLBの多くは孤発性であるが,一部に家族性に遺伝する家系が存在する。常染色体優性遺伝形式を示す家族性PDやDLBの病因遺伝子としてα-synucleinが同定され,さらに孤発性のPDやDLBで観察されるLewy小体の主要構成成分がα-synucleinであることが明らかになるに至り,α-synucleinの蓄積と孤発性のPDや DLBの発症との関係が注目されるようになった。本稿ではα-synuclein遺伝子が家族性パーキンソン病の病因遺伝子として同定され,α-synucleinが孤発性PD,DLBの病態における鍵分子であると考えられるようになった経緯と,α-synucleinが病的効果を発揮するメカニズムについて,その凝集性に関する研究を中心に紹介する。

研究と報告

複数の違法ドラッグ乱用により持続性知覚障害や記銘力障害を呈した1臨床例

著者: 中野祥行 ,   鈴木利人 ,   松原洋一郎 ,   福田麻由子 ,   高橋正 ,   酒井佳永 ,   鈴木勉 ,   新井平伊

ページ範囲:P.719 - P.725

抄録

 近年,違法ドラッグの乱用により幻覚などの精神病症状が出現し,精神科を受診する患者が増加している。今回違法ドラッグ(2C-I,4-ACO-DIPT)をインターネットで入手し乱用中に知覚変化や不安感,幻聴,意識変容感,歯痛を呈し,中止後も離人症状や知覚変化が出現した症例を経験した。本例は心理検査や頭部画像検査により,一過性の記憶障害や前頭葉の機能と血流の低下が観察された。また,意欲低下や感情の浅薄さなどの情意障害も遷延し,さまざまな精神機能の障害を認めたが一過性であった。違法ドラッグはインターネットなどにより容易に入手可能である一方,治療抵抗性の重篤な精神症状が出現する可能性もあり,社会復帰が困難となることも考えられる。

青少年における動物虐待の実態―非行少年と対人暴力との関連を中心として

著者: 谷敏昭

ページ範囲:P.727 - P.733

抄録

 日本における動物虐待の実態はまだ不明な点が多く残っているのが現状であり,さらには動物虐待と対人暴力との関連性についても知られていない。動物虐待と暴力系犯罪および被虐待歴との関連性を解析し,動物虐待の意義について検討した。少年院に収容された少年(少年院被収容者)61名と2学年時以上の中学生125名が調査対象となった。少年院被収容者においては,さらに本件事件の暴力行為性の有無によって非暴力系犯罪少年と暴力系犯罪少年の2群に分けて解析した。その結果,一般中学生では動物虐待経験率は約40%,非暴力系犯罪少年においては約55%であり,暴力系犯罪少年では約80%がなんらかの動物虐待経験を有することが明らかになった。また,動物虐待と被虐待経験との関連性は認められなかった。わが国において,動物虐待は例外的な行為ではない。今回の結果は,海外で報告されている結果と同じように,対人暴力と動物虐待との関連性を強く推測させるものである。また動物虐待行為には,生命倫理および自然体験学習としての心理発達的側面が含まれていることも示唆された。

短報

抗精神病薬中止後に舞踏運動が出現したFahr病の1症例

著者: 清水義雄 ,   岸口武寛 ,   真邊泰宏

ページ範囲:P.735 - P.738

はじめに

 大脳基底核の石灰化は種々の要因で引き起こされ,それらの多くは臨床的には問題のないものとされている3)。一方,Fahr病では石灰化は進行性で,さまざまな神経精神症状が認められるとされているが5),その症例報告は少ない。今回我々は,幻覚妄想に対してrisperidone(以下RISと略)が有効であったが,パーキンソン症状が問題となりそれを漸減中止した後舞踏運動が出現した症例を経験した。精神症状のみならず神経症状を起こしやすいFahr病に対する薬物療法について,示唆に満ちた症例と考えられたので報告する。なお,考察に支障のない範囲でプライバシー保護のため症例の内容を変更した。

30歳代でCharles Bonnet症候群を呈したUsher症候群の1例

著者: 野澤宗央 ,   井関栄三 ,   野澤詠子 ,   内海雄思 ,   中野祥行 ,   今井兼久 ,   村山憲男 ,   松原洋一郎 ,   井原裕 ,   新井平伊

ページ範囲:P.739 - P.742

はじめに

 幻視を示す病態として,アルコール中毒や脳血管障害,薬物療法によるせん妄などが知られている。これらは意識変容を伴うことが多く,「幻視は現実ではない」という自覚を欠いている。また,レビー小体型認知症やパーキンソン病などの神経変性疾患でも幻視を伴うが,この場合はある程度の自覚がみられることがある。一方,1782年Charles Bonnetは,認知機能障害のない高齢者が視力低下を来した場合,意識清明時に,色彩に富む動きのある幻視が,十分な自覚を持って現れることを記載し,1936年MorsierがCharles Bonnet症候群(Charles Bonnet syndrome;CBS)と名づけた1)

 Usher症候群は,先天性または進行性の両側高度感音難聴に網膜色素変性症を合併した常染色体劣性遺伝疾患である。臨床経過からtypes 1-3に,責任遺伝子からtypes 1A-G,types 2A-Cの亜型に分類され,病因として線毛の異常が想定されている6)

 今回,30歳代の若年でUsher症候群による高度の視力低下を来し,典型的なCBS様の幻視を認めた症例を提示し,高齢者でなくともCBSを生じ得ることを示した。

Maprotiline投与中にパーキンソン症状が出現し,milnacipranへの切替後に消失したうつ病患者の1症例

著者: 山本暢朋 ,   織田辰郎 ,   稲田俊也

ページ範囲:P.743 - P.745

はじめに

 抗うつ薬による薬剤誘発性錐体外路症状はまれな副作用とされ,その副作用についてはbenzamide系化合物であるsulprideや三環系抗うつ薬でD2受容体遮断作用を併せ持つamoxapineでの報告が多い。今回我々は,milnacipranを主薬として治療中のうつ病患者で四環系抗うつ薬maprotilineへの切り替えを試みたところパーキンソン症状が出現したため,抑うつ症状軽快後に再度milnacipranに切り替えたところパーキンソン症状が軽快した症例を経験したため,若干の考察を加えて報告する。

資料

非定型抗精神病薬単剤療法の実際―その段階的分類

著者: 白土俊明

ページ範囲:P.747 - P.755

はじめに

 1996年にrisperidoneが本邦において初めての非定型薬として上市され,はや10年余りの時が流れ,2006年6月にはドーパミン部分アゴニストaripiprazoleが登場した。非定型薬の処方は精神科医に徐々に浸透しており,特に卒後5年以内くらいの医師の中には(非定型薬しか処方したことがなく),haloperidolの処方経験が一度もない者もいると聞く。しかし非定型薬処方率の上昇とは裏腹に,その単剤化率の割合は明らかに向上したとは言えず9),多剤大量併用投与は依然として多くみられ4),定型薬に非定型薬を上乗せ投与している処方ばかりか,最近では非定型薬同士の併用投与もしばしば目にすることがある。単剤投与の利点,多剤大量併用投与の弊害については複数の臨床研究者から十分な根拠と説得力のある意見が繰り返し論じられてきたが3,4,6,8,12),単剤投与は臨床場面ではいまだ主流とはなり得ていない。

 今回筆者は非定型薬単剤療法をその厳密さに応じて定義・分類し,現在,筆者自身が主治医として治療に従事している統合失調症患者の全症例について処方を公開した。その意図は主に2つあり,1つは非定型薬単剤療法のみでも日常診療が可能なことを指摘するため,もう1つは非定型薬単剤療法の精度を高めるための目安を具体的に提示するためである。

大阪市における措置入院の現状について―2001年度から2005年度までの5年間の調査より

著者: 谷宗英 ,   竹内伸江 ,   福原秀浩 ,   市原久一郎 ,   三浦千絵 ,   古塚大介

ページ範囲:P.757 - P.765

はじめに

 措置入院とは,自傷他害のおそれのある者を都道府県知事(指定都市の市長)の命令によって,強制入院させるという基本的人権に重大な影響力のある行政処分である。また,緊急措置入院とは,自傷他害のおそれが著しい者をただちに強制入院させるものであり,精神科三次救急として位置づけられている。にもかかわらず,全国的にみると,措置入院患者数や緊急措置入院の実施状況などに著しい地域格差が生じている。

 そこで,今後の措置・緊急措置診察および入院体制の適切な運用に結びつけるため,今回,2001~2005年度の5年間に大阪市で申請・通報のあった全症例について調査し,その結果を全国調査や他の自治体の報告などと比較検討をし,考察を加えて報告した。

私のカルテから

RisperidoneとFluvoxamineの併用によって著明な発動性の改善を認めた統合失調型パーソナリティ障害の1例

著者: 品川俊一郎 ,   小野和哉 ,   中山和彦

ページ範囲:P.767 - P.770

はじめに

 統合失調型パーソナリティ障害(schizotypal personality disorder;SPD)は関係念慮や魔術的思考を特徴とするパーソナリティ障害であり,統合失調症や他の疾患との関連が注目されている。現在まで薬物療法を中心としてさまざまな治療が試みられているが,SPDの治療法は確立されてはいないのが現状である。今回我々はRisperidoneとFluvoxamineを併用したところ,他の薬剤では改善されなかった社会不安に伴うひきこもり状態が著明に改善したSPDの1例を経験したので,若干の考察を加えて報告する。

行動面の問題を合併した脳室周囲白質軟化症患児への対応に医学的評価が有用であった1症例

著者: 中山浩 ,   江上千恵

ページ範囲:P.771 - P.773

はじめに

 2005年4月1日の発達障害者支援法の施行など,近年発達障害に対する認識が高まり,医療機関でも診断を求められる機会が増えている。発達障害の概念には,法と関連する厚生労働省の次官通知では,「てんかん等中枢神経系疾患,脳外傷や脳血管障害の後遺症が上記の障害(注:発達障害の症状)を伴う場合」も発達障害の概念に含まれるとされており,今後中核的な発達障害であるADHDや広汎性発達障害以外の疾患の児童の発達障害に関する診断の機会も増えると思われる。今回は,脳室周囲白質軟化症(periventricular leukomalacia;PVL)と発達障害を合併したと考えられた1症例を経験したので,その診断過程を中心に報告する。

書評

―Joaquin M. Fuster 著,福居顯二 監訳―前頭前皮質(第3版)

著者: 前田潔

ページ範囲:P.775 - P.775

 Joaquin M. Fuster 著,「前頭前皮質」前頭葉の解剖学,生理学,神経心理学が京都府立医科大学精神機能病態学老年期グループ訳,福居顯二教授監訳で新興医学出版社から2006年11月に発刊された。原典は1980年に第1版が,また第2版が1988年に刊行されている。著者は当初,前頭前皮質の運動制御に関して総説を書こうとしていろいろ調べているうちに,この領域の運動の実行に関連した機能は,認知に関連した領域に強く関係していることに気づき,この本の完成となったということである。

 第2版の序では,第1版が出版されて後,前頭前皮質への関心はさらに高まった。これには基礎神経科学における進歩も大きい。さらに,統合失調症や認知症などがこの領域の障害と密接な関係にあると考えられるようになったことがその理由であると述べられている。第3版が1996年に刊行され,この訳書はそれに基づいたものである。第1版から第3版までの間に多くの関係論文が発表され,第3版では引用文献が第1版の2.5倍になっている。

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編集後記

著者:

ページ範囲:P.780 - P.780

 最近認知症の問題はますます大きな社会問題となり,NHKでもこの1年間は認知症キャンペーンと称して認知症問題が何回も取り上げられているし,全国の主な都市で認知症フォーラムが開催されている。そういう中で,レビー小体型認知症がアルツハイマー型認知症や血管性認知症とともに三大認知症として注目されるようになり,また,昨年秋にレビー小体型認知症の国際ワークショップが横浜で開催されたこともあり,この頃は一般人の間でもレビー小体型認知症という名前が知られるようになってきている。

 そういうこともあって,今回は「レビー小体型認知症をめぐって」というタイトルで特集を組んだ。この病気はまだ認知機能障害が目立つ前に,特有な幻覚(特に幻視)や妄想が目立ったり,抑うつが前景に立ったり,REM睡眠行動障害が起こったりして,精神症状が強く現れることが少なくなく,しかも抗精神病薬への過敏性のために従来の抗精神病薬を使用すると副作用がひどく出て,場合によっては体がカチカチになって寝たきりになってしまうということもあり,精神科を受診することが多いために,精神科医は知っておかないといけない病気である。一方,神経科領域で最も多い変性症であるパーキンソン病も最近は高齢患者が増えており,そのせいもあって認知症を伴うパーキンソン病が増えており,注目されている。

基本情報

精神医学

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-126X

印刷版ISSN 0488-1281

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