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文献詳細

雑誌文献

精神医学49巻9号

2007年09月発行

文献概要

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編集後記

著者:

所属機関:

ページ範囲:P.988 - P.988

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 今夏のように暑い日が続くと,ついそのことから書きたくなる。暑さと精神疾患との関連については古くはクレペリンの記載にあるが,私がいま思い浮かべるのはカミュの『異邦人』である。主人公のムルソーは「太陽のせいで」アラビア人を射殺するという「理由なき殺人」を犯す。何年か前に,フランスの精神科医から「あれはうだる暑さで解離を起こしたのだ」と聞いたことがある。解離だと一言でいわれてしまうと,DSMで育った精神科医はそれで納得してしまうかもしれない。しかし,人間の所業は平板な精神医学用語でひとくくりにできるものではない。カミュが不可解殺人の理由を明晰な筆致で延々と考察しているのは「準備因子」である。

 「展望」欄には「縦断的疫学研究からみたPTSDの転帰」が載っている。これまでの研究成果を簡潔にまとめた実に有意義なものであるが,準備因子への言及がない。これは著者らの手落ちではない。過去の文献に欠けているからである。「準備因子なきところ,結実因子だけではPTSDは発症しない」(加藤正明)という考えに立てば,準備因子の性状は発症に関してばかりでなく転帰にも関係してくるはずである。準備因子の性状によって,結実因子の“爆弾”によって空く穴の大きさはさまざまであろうし,穴が埋まっていく歳月も違ってこよう。だが準備因子は,“爆弾”で舞い上がった土埃に覆われたり,元の形が崩れてしまったりで,本来の姿は見えにくくなってしまう(発症後それまで抱えていた“悩み”がどこかに消えてしまうケースもみられるほどである)。準備因子を把握することは容易ではない。

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-126X

印刷版ISSN:0488-1281

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