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雑誌目次

論文

精神医学5巻10号

1963年10月発行

雑誌目次

展望

先天性精神薄弱の成因について

著者: 有馬正高 ,   小宮和彦 ,   中込彌男

ページ範囲:P.763 - P.777

I.はじめに
 精神薄弱の対策についてはすでに前世紀から数多くの研究が行なわれていたにかかわらず,これが医学的な問題として綜合的にとりあげられるようになつたのは,フェニール焦性ぶどう酸性白痴や核黄疸後遺症の原因などを,生化学的に検討しようとする努力が行なわれるようになつた約30年来のことと考えられる。とくに最近10年間の基礎的な医学の進歩に伴い,従来,半ば宿命的とされた先天性の精神薄弱の成因を確認し,早期治療もしくは発症の予防を行なおうとする機運が飛躍的に増大してきた。もとより精神薄弱は多種多様の成因にもとづく症候群であり,その成因のすべてをつくすことは現在の知識をもつてしては不可能である。しかし,行ないうるすべての能力をあげて個々の成因を探究し,その治療とさらに発症の予防の確立に努力することは,専門とする科を問わず精神薄弱を取り扱うすべての医師にとつて不可欠の使命といえよう。
 精神薄弱には先天性のものが多いが,その成因を考えるさい遺伝性,Embryopathie,妊娠後期または分娩周辺期異常などのいずれが主役を演じているかを,個々の症例について洞察する必要がある。
 とくに近年染色体異常の占める役割が重視されるにおよび,精神薄弱の成因に突然変異や成熟分裂時の異常なども考慮されねばならないようになつた。
 本稿においては,過去数年間に主として東大小児科において取り扱つてきた先天性の精神薄弱の種類について総括的に概観し,ついで,その成因を探究するさいに問題となつた二,三の点をとりあげ同時に文献的な展望をこころみたいと思う。

研究と報告

精神療法過程における行動化acting outの研究(その1)—現象の記述とその類型について

著者: 小此木啓吾 ,   鈴木寿治 ,   河合洋 ,   岩崎徹也 ,   目黒克巳 ,   玉井幸子

ページ範囲:P.779 - P.788

I.まえがき
 ともすると,精神療法というと客観性に乏しく,現象記述の段階を飛躍して,主観的な解釈や思弁をほしいままにするという批判があり,また,事実そのような偏りもなかつたとはいえない。
 精神療法そのものが精神医学の中で,適切な方法としての役割をはたすためには,精神療法現象学ともいうべき,誰が実施してもほぼ共通した現象を観察しうるような方法と,それを共通した言葉で報告し,論じ合える記述的な概念が必要である。

Vorbeiredenの精神病理について

著者: 中田修

ページ範囲:P.789 - P.794

I.はしがき
 Vorbeireden,Ganser症候群,偽痴呆などは,すでに精神医学の日常語になつており,いまさらそれを論ずるまでもないであろう。しかしながら,わが国ではこの種の状態に関する深い精神病理学的研究に乏しいようであり,また,ドイツ,スイスなどはともかくとして,英米などでは最近でもGanser状態に関する発表がときどき眼につくようである。さらに,最近,私が1自験例について文献を参照しながら検討をすすめていたところ,その症例がVorbeiredenの精神病理の解明に示唆するところが少なくないことが明らかとなつた。このような理由から,以下に1症例を中心にしてVorbeiredenについて論じ,とくに臨床の参考に供したいと考える。もつとも,のちに明らかになるように,私が到達した見解は,すでにRaeckeが1922年に叙述しているものとそう異ならないようである。なお,この症例は,私が15年ほど以前に東京拘置所において観察し,のちに,当時の都立松沢病院長林障氏が石川準子氏とともに精神鑑定を行なわれた例である。

クロールプロマジンの治療効果と生体反応との関係—脳波およびMTによる検討

著者: 向笠寛 ,   稲永和豊

ページ範囲:P.795 - P.799

I.はじめに
 クロールプロマジンは精神科領域においてもつともしばしば用いられる薬物であるが,その治療効果と生体反応型との相関についてはほとんどみるべき研究がない。筆者らおよびその協同研究者らは,過去数年間にわたつて精神薬物の脳波およびMinor Tremor(MT)への影響(急性および慢性投与)を観察してきたが,とくにMTと治療効果との間につねに一定の関係があることに気づいた。本報告においてはとくに,クロールプロマジンの長期投与によつて起こる臨床像への推移と,MTおよび脳波のパターンの変化とに注目して,その間に一定の関係が成立するか否かを検討することとした。

興味ある若年進行麻痺の1例

著者: 大原健士郎 ,   佐々木三男 ,   藍沢鎮雄 ,   真坂孝二

ページ範囲:P.801 - P.806

I.はしがき
 近年,進行麻痺患者の激減に伴い,若年進行麻痺に接する機会も少なくなつてきた。ここに報告する1例は,比較的特異な経過をとり,発病初期には小児神経症と誤診され,その後,症状の変化につれて,精神薄弱や精神分裂病とも誤まられ,幾人かの医師の手を経て初めて診断が確定したものである。病初にくだされた誤診の原因を推察するに,実母が性病の既往を否定したこと(家族歴の詳細は最近になつて明らかにされた),患者の通院していた病院の地区は問題児が多く,主訴が怠学から始まつていたこと,家庭や学校にも問題が多かつたことなどのために,適切な諸検査が行なわれないままに長期間,問題児として扱われ,処置されていたものと考えられる。

ハイドロ・クロロサイアザイドによるてんかん患者脳波の変化

著者: 山村道雄 ,   平野千里 ,   秋浜雄司 ,   堤盛令

ページ範囲:P.809 - P.814

I.緒論
 最近の数年間,精神神経科領域における治療の進歩は,めざましいものがあるが,てんかん治療の分野においても,ここ数年間に種々の抗てんかん剤が登場してきた。
 すなわち,まつたく他の疾患に対する薬剤として現われたものが,てんかん患者に使用された場合にも非常に良好な治療効果を示すものも少なくない。もちろん,これら,最近の抗てんかん剤は単独使用では十分な作用効果を期待しえないにしても,従来,使用されてきた抗てんかん剤にしばしば現われるような歯齦炎,睡気,発疹,失調,肝障害および白血球減少などの副作用はほとんどなく,この意味から,従来の抗てんかん剤との併用あるいは付加的投与によつて,すぐれた治療効果を期待できよう。

精神障害児に対するGABOBの使用経験—主としててんかん性障害児について

著者: 渡辺位 ,   鈴木秋津 ,   中川四郎

ページ範囲:P.815 - P.820

I.緒言
 J. T. Hensing(1719)は牛脳の詳細な化学分析を行ない燐を分離し脳の特殊な物質として報告した1)。その後この面の研究はN. Vauquelin,J. P. Couerbe,E. V. Bibra,J. L. W. ThudicumらにうけつがれCouerbe(1834)は脳機能や精神疾患の解明に役だつと信じて脂質を中心に脳の分析を行ない燐が神経系の本質的な興奮剤であると結論した。
 一方神経生理学の分野における興奮の伝導とシナプスの伝達の化学的基礎への発展など神経化学の研究はめざましい進歩をとげてきた。それと同時に精神障害の身体的基礎を生化学的側面から理解して合理的な治療法を確立しようという努力がなされている。

新向精神薬Psytomin(Perazin製剤)の治験

著者: 高畑長吉 ,   武村一郎 ,   児玉久 ,   平井宏之 ,   佐々木誠

ページ範囲:P.821 - P.828

Ⅰ.緒言
 Arch. Psychiat. Nervenkrankh., 197,(1958)に記述されたベルリン自由大学精神神経科H. Enszらの新向精神薬すなわちPhenothiazinのPiperazin誘導体のperazinについての臨床経験には,下記のごとく要約されている。
 「本剤の一般名はPerazinであるが,PhenothlazinにPiperazin環を含む側鎖を有するも,母核中になんらの置換基をもたぬものであるが,その側鎖は,Propyl-Piperazinyl-methyl基で,したがつて化学構造は,N-(3-1-methyl-4-piperazinyl-propyl)-phenothiazinである。

from Discussion

森田療法の理解について

著者: 藤田千尋

ページ範囲:P.831 - P.834

 先月9月号に掲載された“ゲシタルト理論よりみたる森田療法”という論文に感想なり批判なりを書くよう編集関係者より依頼を受けたので,多少の感想を加えながら,与えられたこの機会に森田療法の理解ということで簡単に私見を述べてみたいと思う。

藤田氏の論文を読んで

著者: 馬杉保

ページ範囲:P.834 - P.834

 藤田氏の論文を読んで思うことは,まず第1に著者の論文をよく熟読されたなれば,藤田氏のいうこの論文に対する疑問は起こらなかつたものと考える。
 さて著者の論文の主旨は,森田療法の実施がわが国のみならず広く欧米にも普及されることを念願して,その実際の手技を理解しやすいようにゲシタルト論論を応用して説明したものである。また森田療法を実際面に用いている医家であれば,当然わかるごとく,主体は治療者自身であり,また実体を失うという主体もまた治療者を指している。またとくに治療にあたり言葉で表現すれば実体を失うということは,少なくとも実際に本療法を行なつた経験のある者には,よく体験される困難さであり,純主観的の状態を言葉でいえばすでに虚構となる。いわねばわからず,いえば実体を失うというこの呼吸を治療者によく会得してもらうために,ゲシタルト理論を応用したのが本論文の目的である。そしてまた神経質の「理論」の理解だけでは,決して実地に応用できないと私は考える。この点藤田氏は神経質理論の理解即療法に直結するといわれるが,実地家の言としては受けとりがたい。他の技術的療法においても,その理論のみの理解で,そのまま治療が実施できるとは,少なくとも実地家は思つていないと同様である。

紹介

「ヒポクラテス全集」より—〔第2回〕流行病

著者: 大橋博司

ページ範囲:P.835 - P.841

 今回は「流行病」の中から精神神経学的記述を選ぶことにする。まず断わつておかねばならないが,「流行病」Epidemienといつても,現代医学が用いる意味でのEpidemienではなく,ある時期に一定の地方によくみられる疾患の意味であり,急性の熱性疾患(マラリヤ,チフス,肺炎,赤痢などを疑わしめるもの)が主であるが,その他の内科的,外科的疾患,中には外傷などにいたるまで雑多な疾患を包含しており,神経学的,精神医学的にも興味のある記載も少なしとしない。
 さて本篇は全VII巻からなる大部の症例集であるが,古くからつぎの3群に分けられている。すなわち(1)Hippocrates自身の筆になるとされるI巻,III巻(B.C. 410年ごろ?),(2)これと密接な関係をもつがおそらく他の医家の記述と考えられるII巻,IV巻,VI巻(前4世紀初頭?),(3)最後にさらに時代の下がつた時期の記述とされるV巻,VII巻(前4世紀中葉?,Hippocratesの没年はB.C. 370年ごろ)である。しかしいずれもHippocratesによつて代表されるCos学派の文献であることは疑いない。

動き

日米合同精神医学会議印象記—第2回 討論の部

著者: 秋元波留夫 ,   桜井図南男 ,   中脩三 ,   川北幸男 ,   牧田清志 ,   岸本淳 ,   村上仁 ,   加藤正明 ,   新井尚賢 ,   栗原雅直 ,   黒川正則 ,   和田豊治 ,   小林司 ,   菅修

ページ範囲:P.843 - P.850

日米合同精神医学会議をかえりみて
 日米合同精神医学会議の印象記が前号につづいて本号にも掲載される。本号には5月13,14,15の3日間にわたつて行なわれた12の特別討議会Workshopの討議の模様が日本側座長を担当した諸君から報告されることになつている。編集者から何かしめくくりのようなことを書くように依頼されたので,この会議の全般の印象とでもいつたことを書くことにする。
 今度の会議をおえて帰国したアメリカその他の国々からの参加者からずいぶんたくさんの手紙をもらつたが,だいたい皆儀礼的なお世辞があるとしても好印象を受けたという点では,一致した感想が書かれてあるところからいつても,あまりみつともない不手ぎわをさらすことなくすんだということだけはいえそうである。なかには,Brosin教授のように,ずいぶん自分はいろいろな国際会議に出席したが,今度のように気持のよい会合は初めてだという手ばなしの賞讃の言葉をくれた友人もあつた。たしかに,私の乏しい経験からいつても,これまでに参加した数回の国際学術会議に比べて,会場の運営や会議の進行が円滑にゆき,会場の雰囲気もなごやかであったと思う。国際学会で不愉快な思いをするのは,受付(レジストレーション)の事務が人手が少ないうえに不手ぎわで,自分の順番を行列を作つて長時問待たされたり,会場の変更があつてもその掲示がないために,待ちぼうけをくわされたりすることであるが,事務的な運営に関するかぎり,今度の学会は大変うまくいつたと思う。そんな些細なことも学会の参加者に好印象を与えた理由の一つであろう。

精神衛生資料

精神医学教育(1),他

ページ範囲:P.777 - P.777

前号には都合により休載しましたが,8月号に紹介した〈精神衛生資料—自殺—〉につづいて本号では精神医学教育に関する資料を国立精神衛生研究所発行の「精神衛生資料」より抜すいし紹介しました。今後できるだけ連続して掲載してゆく予定ですので御期待下さい。(編集室)

基本情報

精神医学

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-126X

印刷版ISSN 0488-1281

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