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臨床遺伝学からみた神経症理論—ふたごの研究を中心にして
著者: 井上英二1
所属機関: 1東京大学医学部脳研究所
ページ範囲:P.859 - P.870
文献購入ページに移動I.まえがき
現在の日本の精神医学は,神経症についてのかつての大問題をすつかり解決してしまつたようにみえる。病因論には心因論と対立するほどの有力な学説はなく,治療もこれに伴つて精神療法が主流となり,精神科医はいろいろの精神療法の技術をつかつて,十分満足できるだけの成績をあげているようである。学界においても,いわゆる神経症的防衛機構についての議論はあつても,それ以上の概念の混乱や治療についての試行錯誤が,活発な議論の対象になることはあまりないようである。
もし,神経症と診断されるすべての症例の病因が心因だけであり,その心因は個人をとりまくさまざまの社会環境の産物であるならば,一方では社会学的の方法でその社会環境を分析し,もう一方では心理学的方法で心因から症状にいたる過程を追及すれば,神経症の研究としては必要でかつ十分であるということになりそうである。ここでは,神経症の素質という概念をもち出す必要はなく,したがつて神経症あるいはその素質の遺伝学的研究も成り立ちそうもない。事実,現在の神経症理論に決定的な影響を与えた遺伝学的研究はみられない。
現在の日本の精神医学は,神経症についてのかつての大問題をすつかり解決してしまつたようにみえる。病因論には心因論と対立するほどの有力な学説はなく,治療もこれに伴つて精神療法が主流となり,精神科医はいろいろの精神療法の技術をつかつて,十分満足できるだけの成績をあげているようである。学界においても,いわゆる神経症的防衛機構についての議論はあつても,それ以上の概念の混乱や治療についての試行錯誤が,活発な議論の対象になることはあまりないようである。
もし,神経症と診断されるすべての症例の病因が心因だけであり,その心因は個人をとりまくさまざまの社会環境の産物であるならば,一方では社会学的の方法でその社会環境を分析し,もう一方では心理学的方法で心因から症状にいたる過程を追及すれば,神経症の研究としては必要でかつ十分であるということになりそうである。ここでは,神経症の素質という概念をもち出す必要はなく,したがつて神経症あるいはその素質の遺伝学的研究も成り立ちそうもない。事実,現在の神経症理論に決定的な影響を与えた遺伝学的研究はみられない。
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