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文献概要

研究と報告

精神分裂病の病識欠如について(その1)—その非特異的要因についての考察

著者: 梶谷哲男1

所属機関: 1中央鉄道病院神経科

ページ範囲:P.871 - P.875

I.はしがき
 分裂病者に病識の生じがたいことは,すでにJaspers,Hinrichsenが,指摘したところである。BaumerはSchneiderの第1級症状をもつた120例の分裂病者を調査して,「真の病識を伴つた『解消力のある客観化』はみられなかつた」と報告している。薬物療法を主とする諸治療法の進んだ現在においても「精神病者の場合には,神経症者に比較しうるような病識は与えられない」(Bräutigam)というような見解も報告されている。つまり,分裂病を中核群に限定しないで分裂病一般としてみた場合にも,さらにまた,薬物療法の進んだ現在においても,分裂病者の病識は生じがたいものであろうか。この点を明らかにするために,とくに対象を分裂病の中核群に限定しないで,分裂病経過後の病者における病識の状態をみることにした。
 病識の程度と寛解度との関係については,著者によつて若千意見が分かれる。Jaspersや阿部は,病に対する態度と人格意識の変容の度合とを対応させ,病への態度を全人格の変化の標識としている。前田も「妄想患者の示す『構え』はそれ自体,病的解体の重要標示である」といつている。またMüllerも「経過した疾病への客観的構えが,治癒への重要な標識である」といい,Schneiderも「病識があることはいつも妄想の良好な予後を意味する」といつている。これに対してMayer-Grossは,急性精神病経過後の病後態度において,病の与えた後作用を重視し,Schulteも病識を寛解度の指標とすることを危険視している。私自身も後述するように,病識の程度を量的に規定し,寛解度とそのまま対応させることには疑問をもつている。しかし臨床的実際において病識の程度を区分することが,ある程度可能であり,またそのようにしてえられた標識が,ある程度まで寛解度と平行することも事実のようである。

掲載雑誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-126X

印刷版ISSN:0488-1281

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