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提言

内因性単一精神病の概念

著者: 遠坂治夫1

所属機関: 1三重県医大神経科

ページ範囲:P.1010 - P.1011

 臨床精神医学の疾病論上,Neumannの時代以来,単一精神病Einheitspsychoseの底流は根強く流れ続けている。人はこれを精神医学臨床のニヒリズムのように言うことが多いが果してそうであろうか。ここでは,Einheitspsychose論の歴史についても,又内因性精神病の遺伝臨床的・病態生理学的事項について立ち入ることは止め,かつ又人間学的考慮を加えることなく,専ら症候論的・精神病理学的観点から,すなわち越賀の「疾病論的精神分裂病」と「類型論的精神分裂病」との立場から,「精神分裂病概念の混乱について」(本認5巻8号所載)つけ加えたい。実際臨床上分裂病の診断には何よりも症候論的・精神病理学的観点が重要な意義をもつているのである。結論から言えば筆者は内因性精神病の疾患単位に少なからぬ疑問をもつものである。外因性疾患・身体基礎をもつ諸疾患を昔のようにことごとく精神病Einheitspsychoseのかごの中に放りこもうと言うのではない。結論的に,いわゆる内因性精神病の把握の混乱・診断の滅裂を正視して,差し当りConradやWeitbrechtの想定すると思われるところに従つて内因性単一精神病Endogene Einheitpsychoseの概念を提唱したい。内因性精神病は分裂病Schizophrenieと躁うつ病Manisch-depressives Irresein(循環病Cyclothymie)と,近来非定型精神病atypische psychoseとが区別される。というよりは分裂病や躁うつ病においては一部では止むを得ずレッテルをはられている傾きがある。混乱は分裂病の概念のみではない。内因性精神病全般にわたつて今や(過去もそうであつたが)大きな困惑期にある。満田,黒沢,鳩谷らのごとく「非定型精神病」を諸方面からの裏付けをもつて積極的に規定するのもこの混乱を整理するのに貢献するところ大なる方途である。以前からのJaspers, Schneider, K., らの鑑別類型論Differentialtypologieも一つの権威ある解決である。しかし煩型鑑別であるべきものがいつのまにか鑑別診断にすりかえられてしまうことを我々はしばしば経験する。分裂病と躁うつ病(循環病)とは,実際的・症候論的に言つてのことであるが厳密に言つて判断の次元が異なる場合が多々あると考えられる。深刻な人格及び世界の特異の変容ともっぱら気分変動的な面とを同次元において並列させることがあるのは無理なのではあるまいか(勿論生気感情の変動を分裂病過程と同じ次元にもち来らされる程の研究成果があれば異論はない)。「非定型精神病」の概念が純化確立されれば事態は大きく進展する。しかしそのとき「定型」はどんなものとして残るか。一体定型というものが存するのか?場合によつては「非定型」が定型なのかもしれないのである。世界中各国・各都市の別なく定型分裂病は一見して診断されるというが厳密に言って果してそうであろうか?

掲載雑誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-126X

印刷版ISSN:0488-1281

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