icon fsr

文献詳細

雑誌文献

精神医学5巻2号

1963年02月発行

研究と報告

病識の在り方と把え方について

著者: 梶谷哲男1

所属機関: 1中央鉄道病院神経科

ページ範囲:P.131 - P.136

文献概要

Ⅰ.
 病識は,18世紀Sauvagesによつて疾病型を決める規準として用いられて以来,臨床的にしばしば用いられてきた概念である。しかし,その概念規定に瞹眛なところがあり,とくにわが国ではその把え方に問題があつた。
 病識は,ドイツ語の原語Krankheitseinsichtから分るように,もともとは疾病に対する洞察という意味である。つまり,自己の状態が疾病と呼ぶべき状態,ことに精神病と呼ぶべき状態を自認しているかどうかが問われる概念である。ところが,われわれが日常遭遇する患者において,疾病学的知識を必要とするこのような問いに対し,正確な答えを期待することは困難なようである。かなりの知識人でも,内因性の精神病がどんなものであるかを正確に知つている人は少ない。そこで,寛解状態に達したとみられる患者からも,医師が期待するような病識が得られず,失望させられることが多い。この場合,病識は,疾病に対する知識の有無によつてかなり影響され,合せて判断という知的要素が混入している。しかし,このように病識において知的要素を重視すると,臨床上しばしばあやまちを犯すことになる。私は,ある機会に患者同志が,「あの先生に自分の病気のことをきかれたら,素直に,『病気でした』といわないと退院させてくれない」という意味のことを話合つているのをきいたことがある。事実,知能,学識の高い場合,身うちに精神病者があつた場合,あるいは病院ずれをした慢性患者の場合,見かけばかりの病識によつて惑わされることがある.これは,病識を知的要素に限るために起つてくる混乱である。

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-126X

印刷版ISSN:0488-1281

雑誌購入ページに移動
icon up

本サービスは医療関係者に向けた情報提供を目的としております。
一般の方に対する情報提供を目的としたものではない事をご了承ください。
また,本サービスのご利用にあたっては,利用規約およびプライバシーポリシーへの同意が必要です。

※本サービスを使わずにご契約中の電子商品をご利用したい場合はこちら