文献詳細
文献概要
研究と報告
Perphenazine大量療法のこころみ
著者: 大熊文男1 後藤彰夫1
所属機関: 1同愛記念病院精神神経科
ページ範囲:P.165 - P.170
文献購入ページに移動I.緒言
Chlorpromazine,Reserpineが精神科領域に導入されて以来,精神疾患に対する薬物療法はいちじるしい普及発達を遂げつつある。しかし,われわれ臨床医家はそれらの薬物を十分使いこなしているとはいいがたいのが現状であろう。1つには相つぐ精神薬物の登場に応接のいとまがないということもあるが,他方,保険診療の治療指針による制限がとくに最近まで薬物療法における新しいこころみや改良を経済的,心理的に妨げていることは否定できない。一般にわれわれは薬物療法にあたつては治療指針の枠内で投与をこころみ,それで効果を認めない場合は他剤に切換えるか,あるいは衝撃療法など別の治療に移すのがふつうである。ところが,欧米における薬物療法の現況はわが国のそれと異なり,文献によるとかなり大胆に薬物の大量かつ長期投与がこころみられており,相当な効果をあげているようである。たとえば,ChlorpromazineについてはKinross Wrightの報告があり,またPerphenazineにおいては,Weissら7)は363名の精神病患者に対するTrilafon療法のこころみにおいてそのうちの2.7%の患者に96〜320mg/日を投与してみている。Ayd1),も少数の患者ではTrilafonの200mg/日投与が必要であつたとのべ,症例報告において最大150mg/日投与により症状の消失をみた緊張病の1例を報告している。さらに,Larsonら4)にいたつては最大量384mg/日から768mg/日の大量療法をこころみている。これは彼我の人種的体格の相違を考慮しても驚くべき大量投与である。すでにわが国においても,Chlorpromazineの大量療法についてのこころみは井上ら2),伊藤ら3)の報告があるが,Perphenazineの大量療法についてはその報告をみない。
一般にわれわれが薬剤の大量療法を考える場合その本質について十分な考察をはらう必要があるように思われる。大量を用いる場合,その効果は単に普通量の場合の量的な増大であると簡単に考えてよいものであろうか。この場合質的に異なる効果がえられることはないであろうか。普通量の場合に効果の異なる2つの薬剤をそれぞれ大量投与したさいそれらの効果の相違はどうであろうか。たとえば,普通量のPerphenazineがChlorpromazineに比較してeuphorantな作用を有し,意欲面の活発化能動化をもたらすことの多いことは従来より報告されているところであるが5)6),Perphenazineを大量投与した場合,Chlorpromazineに比してこれらの点で区別すべき効果がえられるであろうか。これらの諸問題は最近注目されてきた併用療法とともに薬剤の作用機序の究明上きわめて重要な問題点であるので,われわれは今回の報告にあたつてもこの点にとくに注意をはらつたつもりである。
Chlorpromazine,Reserpineが精神科領域に導入されて以来,精神疾患に対する薬物療法はいちじるしい普及発達を遂げつつある。しかし,われわれ臨床医家はそれらの薬物を十分使いこなしているとはいいがたいのが現状であろう。1つには相つぐ精神薬物の登場に応接のいとまがないということもあるが,他方,保険診療の治療指針による制限がとくに最近まで薬物療法における新しいこころみや改良を経済的,心理的に妨げていることは否定できない。一般にわれわれは薬物療法にあたつては治療指針の枠内で投与をこころみ,それで効果を認めない場合は他剤に切換えるか,あるいは衝撃療法など別の治療に移すのがふつうである。ところが,欧米における薬物療法の現況はわが国のそれと異なり,文献によるとかなり大胆に薬物の大量かつ長期投与がこころみられており,相当な効果をあげているようである。たとえば,ChlorpromazineについてはKinross Wrightの報告があり,またPerphenazineにおいては,Weissら7)は363名の精神病患者に対するTrilafon療法のこころみにおいてそのうちの2.7%の患者に96〜320mg/日を投与してみている。Ayd1),も少数の患者ではTrilafonの200mg/日投与が必要であつたとのべ,症例報告において最大150mg/日投与により症状の消失をみた緊張病の1例を報告している。さらに,Larsonら4)にいたつては最大量384mg/日から768mg/日の大量療法をこころみている。これは彼我の人種的体格の相違を考慮しても驚くべき大量投与である。すでにわが国においても,Chlorpromazineの大量療法についてのこころみは井上ら2),伊藤ら3)の報告があるが,Perphenazineの大量療法についてはその報告をみない。
一般にわれわれが薬剤の大量療法を考える場合その本質について十分な考察をはらう必要があるように思われる。大量を用いる場合,その効果は単に普通量の場合の量的な増大であると簡単に考えてよいものであろうか。この場合質的に異なる効果がえられることはないであろうか。普通量の場合に効果の異なる2つの薬剤をそれぞれ大量投与したさいそれらの効果の相違はどうであろうか。たとえば,普通量のPerphenazineがChlorpromazineに比較してeuphorantな作用を有し,意欲面の活発化能動化をもたらすことの多いことは従来より報告されているところであるが5)6),Perphenazineを大量投与した場合,Chlorpromazineに比してこれらの点で区別すべき効果がえられるであろうか。これらの諸問題は最近注目されてきた併用療法とともに薬剤の作用機序の究明上きわめて重要な問題点であるので,われわれは今回の報告にあたつてもこの点にとくに注意をはらつたつもりである。
掲載誌情報