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雑誌目次

雑誌文献

精神医学5巻3号

1963年03月発行

雑誌目次

特集 てんかん 〔特集1〕てんかんとその境界領域

てんかんの境界領域と脳波

著者: 島薗安雄

ページ範囲:P.183 - P.183

 「てんかんの境界領域と脳波」のシンポジウムを開くにあたり,はじめに,このシンポジウムの問題点について一言ふれておきたいと思います。
 まず,「てんかんの境界領域」という言葉でありますが,これは,てんかんそのものではないが,何らかの意味でてんかんに近いものをさしていると解されます。ここでは,一般臨床症状,あるいは脳波所見,さらにはその両者の綜合において,てんかんに近い疾患がとりあげられる予定でありますが,それぞれの場合に,そのどういう点がてんかんと近縁であり,しかもてんかんそのものではないか,ということが,明らかにされる必要があります。

Symposium・1

脳波からみたてんかんとその境界領域に関する総括的考察

著者: 和田豊治

ページ範囲:P.185 - P.190

I.いとぐち
 与えられた課題はてんかんとその境界領域に関する総括的考察という尨大なものである。そこでまず討論の基地となるべきてんかん自体の脳波所見を検討し,その様相を再確認することが先決と考え,問題の焦点を境界疾患からしばらく離し,確実に臨床上てんかんと診断された自験症例の所見を中心として,臨床脳波の立場からみたそれらの脳波所見,ならびにそれの臨床像との相関についてのべ,終りにそれらを総括することとする。なお,報告内容を少しでも鮮明にしたいという考えから,明らかな非てんかん疾患群との間の差異について検討した成績も若干付記したいと思う。
 こんにち,脳波上てんかんはcerebral paroxysmal dysrhythmiaとよばれている。この知見が臨床診断によるてんかんにどのような様相を呈してあらわれているか。そしてまた得られた脳波知見が臨床上どれほどの意味をもつものか。これが本報告のいわば骨子であるが,さててんかんの臨床診断は細部の点では必ずしも容易ではない。そこで一応,対象被検例の選択にあたつてLennoxのてんかんに対する見解に主として則ることにした。すなわち,意識・運動・知覚の諸機能はもとよりとし,そのほか精神・自律神経系などの諸機能の障害(いずれかひとつないしは2障害以上の混合)をともなう可逆的な間歇性発作をもつもの―である。この場合,くりかえしてあらわれる発作はあくまでも固定・常同化された主症状であり,発作間歇時期にとくにそれに代わる他症状を呈しないことは論をまたない。たとえば脳腫瘍などの進行過程をもつ場合や,あるいは誘発原因の明らかな熱性けいれんなどは除去したが,その反面では外傷性てんかんとか脳性麻痺などの後遺症から由来する発作例は対象としてある(次述の既往歴の項を参照)。

てんかんの脳波的診断に関する2,3の考察

著者: 田椽修治 ,   徳田良仁 ,   森岡恭三

ページ範囲:P.191 - P.196

I.まえおき
 てんかんの脳波的診断にさいして,種々の賦活法のもつ意義については,いまさら強調するまでもない。
 現在ひろく用いられているペンタゾール賦活に関しては,Ziskind1)2)の初期の報告以来,最近のAjmone-Marsan3)らの詳細な観察を含めて,内外に多数の報告があり,その有用性に関しては,すでに否定の余地はない。

Symposium・2

非定型精神病の脳波

著者: 相田誠一

ページ範囲:P.197 - P.202

I.序言
 非定型精神病については近年その臨床的概念,内分泌学的,病態生理学的特性について問題となつているようであるが,われわれの教室においても数年前よりとくに脳波の異常性ということより検討するところがあり,すでにその結果も学会,諸誌に発表されている1)2)3)4)5)
 ここでふたたびこの問題をとりあげるのはいささか旧聞に属する憾みもあるが,われわれの教室において行なつてきたメトラゾール賦活による脳波所見,なかんづくその賦活閾値ということを中心にとり,他の内因性精神疾患との比較において,非定型精神病の脳波がいかなる意義づけ,位置づけがなされうるであろうかを考えてみたい。

非定型内因性精神病の脳波

著者: 佐藤時治郎

ページ範囲:P.203 - P.210

 1957年,沢教授1)2)は非定型内因性精神病ともいうべき病像,経過を示す分裂病,躁うつ病患者の一群について脳波のMetrazol賦活閾値がてんかん患者のそれに近く,異常に低閾値であることを見出し,同時にその臨床症状もてんかん様,あるいはてんかん性特徴を有していることを明らかにした。かかる非定型症状を有する内因性精神病の一群に対し"類てんかん精神病"なる概念を与えたことから,てんかんと精神病との境界域問題が臨床脳波の立場からも大きくとりあげられることとなつた。
 われわれも1958年より,非定型精神病の臨床脳波学的研究に着手したが,発作性異常波,ついでその基礎律動の分析より独自の見解を発展させてきた3)4)5)。今回,"てんかんの境界域問題"についてのシンポジウムの一環として,非定型精神病がとりあげられたのを機会に,新たな視点より従来のわれわれの主張およびてんかんとの親和性の問題をあわせて再検討したのでここに報告し,前演者に対する討論としたい。

Symposium・3

小児のてんかん境界領域—とくに熱性けいれんおよびいわゆる乳児けいれんについて

著者: 福山幸夫

ページ範囲:P.211 - P.223

I.序言
 小児は,脳の発達が未熟なために,成人よりけいれんをおこしやすいことは,すでに古くから知られている。しかし小児期にみられる種々のけいれんが,「てんかん」とどういう関係にあるのか,必ずしも明らかにされていない。このようなけいれん発作のほかにも,小児期には,てんかんとの関係を真剣に論議されているさまざまな精神身体異常があり,その種類の多様性,複雑性は,成人に比し,小児においてさらにいちじるしいものがあるといわなければならない。たとえば,運動性症状を呈するものをのぞいても,発作性の頭痛,腹痛,嘔吐,アセトン血症性嘔吐症(週期性嘔吐症),夜驚症,夜行症,遺尿症,行動異常,性格異常,失神,ナルコレプシーなどが,masked epilepsyとしてしばしばみられる。
 これら多くの事柄についてあまねくふれることは,時間の関係上とうてい不可能なので,ここには話題を(1)熱性けいれん,(2)いわゆる乳児けいれんの2つにしぼることにした。

Symposium・4

異常脳波を示す2,3の疾患の所見からみたてんかん境界領域の検討

著者: 直居卓 ,   井上令一 ,   桑村智久 ,   平沼博 ,   大熊輝雄

ページ範囲:P.225 - P.230

I.緒言
 てんかんの境界領域には,片頭痛を初めとして,失神発作,ナルコレプシー,熱けいれん,非定型内因性精神病などさまざまな疾患が論議されているが,てんかんの定義そのものがあいまいである以上,その境界領域の規定もきわめて漠然としているのもやむをえない現状であろう。
 そこで,われわれは少しみかたを変えて臨床的には一応てんかんとはまつたく別個なものと考えられているが,かなりの程度に異常脳波を示す疾患の2,3をとりあげ,その臨床症状と脳波所見から"てんかん境界領域"の問題を検討してみたい。

発作性異常脳波の臨床的意義

著者: 野口拓郎 ,   遠藤俊一 ,   大内田昭二 ,   豊田純三 ,   藤谷豊

ページ範囲:P.231 - P.238

I.はじめに
 疾患単位としてはたしてどの範囲のものをてんかんと考えるべきか,現段階でそのような規定を行なう場合に実際の臨床面でどのような示標がどの程度に診断価値をもつているか,このような臨床上もつとも切実な問題が漠然としている現状で,さらにてんかんの境界領域を論じょうとすることは,たとえてんかんに関する上記の問題を明らかにすることが目的であるにしても,かえつて問題の焦点を不明瞭にする可能性がある。そこで初めに,てんかん発作を中心としたてんかんに関する見解をある程度まとめ,そのうえで境界領域との比較検討を行なうことにした。てんかんおよびその境界領域とされている疾患の症状の中で,脳の機能障害として機能局在の立場からもまた興奮過程としても比較的とらえやすく,かつ規定が可能と考えられるのはまずてんかん発作だからである。
 その規定は,かつてJackson1)によつて行なわれた,発作の起原はdischarging lesionにあるとの理論的説明が電気生理学的にほぼ実証されたこんにち,「てんかん発作は,脳内に起源を有する発作発射と対応して発現する発作性症状である」としてよいのではなかろうか。
 ところでもちろんこの規定は,頭皮上脳波でそのまま事実としてとらえられるものではないし,またとくに臨床上の問題を中心とする場合には,当然発作間歇期における種々の脳波パターンの出現率を,各臨床発作型について検討し,どのようなベターンがどの程度てんかん性異常脳波として診断価値があるかを確かめることが必要である。このような臨床的観点から,発作性異常脳波の診断価値と,それと相関性を示す臨床所見の有無の検討に重点をおいて,てんかんおよびその境界領域,さらに対照例としての神経症における発作性異常脳波の臨床的意義を,さきにのべた順序により考えてみようと思う。
 資料は,過去3年間に東大病院神経科外来および病室において診療を受け,かつ安静閉眼時,過呼吸時,およびペンタゾール賦活時にわたつて脳波記録の行なわれた1279例で,疾患の種類と各症例数を第1表に示す。ペンタゾール賦活法は,毎分50mg,総量400mgの緩注法で,閾値の判定は,200mgを境界として低閾値と高閾値に分けた。脳波所見はすべて波型に重点をおいて判定し,正常,非発作性徐波(の優勢なもの),徐波バースト,棘波成分を含む発作性異常波(棘波ないし棘波—徐波結合)に4分した。

〔特集2〕てんかん概念の変遷 てんかん研究班会議講演より

てんかん概念の変遷

著者: 黒沢良介

ページ範囲:P.241 - P.243

 「てんかんの成因と治療」綜合研究班の第一同会合で,てんかんの概念についての課題をいただきまして,俄かに勉強した結果を御報告申します。結論を先に申しますと満足な定義はできないということであります。定義することが困難であるということはどの本にも共通に書かれている所でして,症状がいかに多岐であり,てんかんほど実体を掴むことの困難な疾患はないことを物語つております。Penfieldの本,あるいはPsychiatrie derGegenwartのてんかんの部を書いたGerhard Schorschも定義には触れておりません。
 最初にてんかんの歴史について書いたOwsei TemkinのThe Falling Sickness(1945年)によつてお話し致します。これはギリシャ時代から現代の神経病学の始まりに至るまでのてんかんの歴史が書かれています。HippocratesからHughlings Jacksonが出る前1850年までの事が書かれてあります。かなり大部の本でして私はその最初の方を一寸読んだにすぎないのですが,それを少し御紹介申します。

討議

「てんかんの概念」に対する討議

著者: 笠松章 ,   黒沢良介 ,   岡本重一 ,   田椽修治 ,   島薗安雄 ,   懸田克躬 ,   和田豊治 ,   陣内伝之助 ,   大熊輝雄 ,   佐藤時治郎 ,   平井富雄

ページ範囲:P.244 - P.248

 (司会)笠松 てんかんの概念や定義には,いろいろ問題があり,学会でも,「てんかんと,けいれん発作を,同じように考えている」というような討論のでることもあります。そこでてんかんの概念や定義を一応取り上げることも,この研究班に課せられた問題でもあると考えられます。

基本情報

精神医学

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-126X

印刷版ISSN 0488-1281

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