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雑誌目次

論文

精神医学5巻4号

1963年04月発行

雑誌目次

展望

神経性無食欲症(青春期やせ症)の精神医学的諸問題

著者: 下坂幸三

ページ範囲:P.259 - P.274

 神経性無食欲症に関する国内文献は,最近かなり豊富になつた。このうちでは石川ら1)ならびに私2)の論文が代表的なものであり,石川らの論文は,症状学,病前性格ならびに家庭環境の分析に,私の論文は,病者の内的体験と生活史分析に重点がおかれており,かつ両者の間に原則的な意見の相違はみられぬので,この2論文は互いの不足を相補うものとなつている。また最近は,島崎ら3)の綜説,懸田4)の論述がある。これらの文献を参照していただければ,本症の全貌はほぼ把握しうると思われるので,本稿では,本症にまつわる精神医学的に興味あると考えられる若干の問題をとりあげるにとどめる。

研究と報告

興味ある間脳症の1例

著者: 間島竹二郎 ,   小林亮 ,   下坂幸三 ,   大熊輝雄

ページ範囲:P.277 - P.283

I.はじめに
 最近われわれは,いわゆる間脳症患者において,Doridenによる自殺未遂を契機として,既存の諸症状が顕在化し,笑い発作,脱力発作にひき続く精神運動性興奮,そして最後に幻覚体験の出現といつた一連の定型的な例外状態を示すにいたつた1例を経験した。そこでこの症例について詳しい臨床的観察を行なうとともに,さらにこれらの発作時ならびに夜間睡眠時における脳波記録ならびにポリグラフィーの施行によつて,本症の病態生理学的一面をとらえ,また,各種薬剤の単独または併合投与の結果をも検討したので,ここに報告する。

精神分裂病者の治療体系における向精神薬の役割について

著者: 川尻徹 ,   与良健 ,   中江正太郎 ,   桜井穰

ページ範囲:P.285 - P.291

I.緒言
 ChlorpromazineがH. Laboritらによつて人工冬眠に応用され,J. Delayら(1952)によつて精神障害者の治療に導入されて以来,精神分裂病者に対する治療はいちじるしい変革を遂げている。向精神薬の発展と臨床的経験がかさねられるにつれ,従来精神分裂病者に対する治療体系に重要な位置を占めていた衝撃療法に代わつて,向精神薬の治療的意義が認められるにいたつた。とくに最近は陳旧かつ慢性経過をたどる症例で,向精神薬の投与により著明な反応を呈するものがかなり見受けられる。そして,従来の概念によるいわゆる欠陥状態におよぼす向精神薬の影響をみると,不可逆的な概念に疑義を感ずる場合も少なくない。またともすれば身体療法に限局されがちであつた精神分裂病者に対する心理的状況の重視と,診断価値の変遷,開放的状況化の確立,生活療法,レクリエーションおよび作業療法などの精神療法化は,単に脱社会化過程にある精神分裂病者の精神荒廃を防止するという消極的な意義だけではなく,進んで社会性・生産性の獲得およびその発展と維持に有力な手段となることが期待されるようになつた。そしてわれわれのいままでの臨床的経験をふりかえつてみると,向精神薬は,広義または狭義の精神療法を可能ならしめるというだけではなく,精神分裂病者の心理的身体的変化が薬理的効果との間に相補的に作用し合い,両者の効果をより高めるものではなかろうかと推定される。
 従来精神分裂病に対する向精神薬の効果については多数の報告がある。しかしわれわれがあえてかさねてここに報告する理由は,このような仮定の上に立つて精神分裂病者のおかれている心理的状況を考慮しつつ,若干の向精神薬の効果を,慢性経過をたどる症例につき検討し,精神分裂病者の治療体系における向精神薬の役割を考察した点にある。

Epilepsia partialis continua(Koshewnikow)の2例

著者: 兼谷俊 ,   兼谷啓

ページ範囲:P.293 - P.297

I.緒言
 1893年,Koshewnikowが発表したEpilepsiapartialis continua(Polyclonia epileptoides continua)については,シベリヤ,東欧での報告は多いようであるが1),わが国での報告は,著者の調べでは,現在まで,わずか4例の報告をみるのみである。私どもは,本疾患と考えられる2例を観察したので,ここに報告する。

Thioridazine(Melleril)の使用経験

著者: 柴田洋子 ,   藤井健次郎 ,   入江是清 ,   金子耕三 ,   高橋圭子 ,   游美子 ,   手塚義五郎

ページ範囲:P.299 - P.304

I.まえがき
 精神病の治療にChlorpromazineおよびReserpineが使用されるようになつてから,この方面の新しい薬物が続々登場し,ことにPhenothiazine誘導体の進出はめざましいものがある。しかしながら従来の薬剤では錐体外路症状,肝障害などの副作用もしばしば認められている。
 ここに報告するThioridazine(Melleril)はPhenothiazine系のPiperidyl誘導体であり,その化学名は,3-Methylmercapto-10-{2'-〔N-methyl-piperidyl-(2")〕-ehtyl}-phenothiazineである。構造式は下記のとおりである。(第1図)

副腎皮質剤の投与成績よりみた精神分裂病およびうつ病における副腎皮質の意義に関する研究

著者: 高室昌一郎

ページ範囲:P.305 - P.312

I.緒言
 精神分裂病およびうつ病の概念の基礎に内分泌機制を考えようとする努力は古くから行なわれ,1600年に発表されたPlattnerのCretinismusにおける精神症状の記載がその嚆矢であるといわれている。以後,内分泌研究の進歩にともない,甲状腺機能とその精神症状について,あるいは,精神分裂病の破瓜型が主として思春期に発症することなどから性hormon分泌と精神分裂病との関連について,ついで,脳下垂体・胸腺・副腎髄質および皮質hormonと精神分裂病およびうつ病などの関係について数多くの研究が発表されるにいたつた。
 しかし,一見するところ,これらの研究の多くは,それら疾患群における内分泌臓器の形態ないし機能が,対照群に比しある程度の差異をもつゆえに,その臓器の変調がただちにそれら精神疾患の発現因子であるとみなす素朴な因果論的な解釈を一元的に行なつてきたにすぎない感がある。しかるに,精神的ないし身体的のstressにさいし(第1表),脳下垂体より分泌されたACTHが副腎hormonの分泌を促進し,その結果生じるもろもろの変化が生体に防衛的作用をもたらし,生体の恒常性を保持しようとするいわゆるHomeostasisの概念が,Cannon1)およびSelye2)3)らにより発表されるにおよんで,精神分裂病およびうつ病などに対する内分泌研究の立場(脳下垂体―副腎系)がしだいに系統的発展的となり,ことに,精神分裂病およびうつ病と副腎皮質の意義に関して,Pincus,Hoaglandらの精細な研究4)を生ずるにいたつたものと思考される。

うつ状態に対するChlorprothixene(Tra-Quilan)の使用経験

著者: 薄井省吾 ,   立石潤 ,   秋山順子 ,   森定諦 ,   丸川尚一 ,   藤田昭二 ,   森光淳介

ページ範囲:P.315 - P.319

I.緒言
 1952年Chlorpromazineが精神疾患の治療に導入されて以来,たえず適用範囲のより広い,副作用のより少ない,より有効な薬物が追求されてきた。最近Phenothiazine核の窒素が炭素に置換されたThixanthene系のグループが導かれるにいたり,そのなかの1つChlorprothixeneがHoffman-La Roche社により開発され,すでに本邦においてもその使用成績が二,三報告されている。われわれもエーザイ株式会社よりTra-Quilanの提供を受け,これをとくに種々の抑うつ状態に使用する機会をえたのでその成績を報告する。

資料

精神障害者の入院制度について

著者: 田村幸雄

ページ範囲:P.321 - P.327

I.緒言
 わが国および欧米諸国における精神障害者の入院制度について私は本誌3巻8号(36年8月)より4巻3号(37年3月)まで6回にわたり,個別的,各論的に書いたので,今回はこれらを総論的にのべようと思う。
 これらの過去,現在,未来についてのべるが,単に断面的静的な面だけでなく,その動きや,動きの方向の基礎となつているものなど,動的面にもふれたいと思う。

動き

WHO「精神障害の疫学方法論」会議

著者: 加藤正明

ページ範囲:P.329 - P.331

 世界保健機構WHOの主催で,1962年12月4日から同月13日まで,マニラで「精神障害の疫学方法論」の会議が開かれた。西太平洋地域の17カ国から29人が集まり,日本からは加藤正明(精研)と百井一郎(厚生省)の2名が代表して参加した。会議は午前8時半から午後5時まで,主として討議のかたちですすめられ,過半は3人のdiscussion leader(英国のDr. W. I. N. Kessel,アメリカのDr. M. Kramerおよび台湾のDr. Tsungyi Lin)によつて,3小集団のかたちがとられた。参加国はオーストラリア,セイロン,台湾,香港,インド,イラン,イラク,イスラエル,日本,韓国,レバノン,マレー,ニュージランド,パキスタン,フィリピン,タイ,アラブ共和国である。討議,報告はすべて英語で行なわれた。
 第1日はDr. KesselのPsychiatric Epidemiology:its scope and its relation to the rest ofpsychiatry,Dr. LinのHistorical Survey of Psychiatric Epidemiology in AsiaおよびDr. S. K. QuoのBasic Statistical Techniqueの3講演と討議があり,Kesselは疫学研究の2つの目的として治療に対するニードの評価と精神疾患の発生要因の究明をあげ,そのための問題として精神疾患の定義,事例発見などの困難性があるとのべた。Linはアジアの代表的調査研究として,日本の内村,秋元らの調査と厚生省の調査,台湾の3地区の調査(1946年および1948年)と原住民の調査(1962年),タイの地域調査,セイロン調査(1961年),香港のYapの自殺研究(1958),シンガポールでのMurphyの中国人,マレー人,インド人の比較調査(1959),オーストリアのCollmanおよびStollerの蒙古症調査(1962)などをあげ,精神医学的疫学の発展は,精神医学,公衆衛生,社会科学の協同にかかつているとした。Quoは疫学統計の基礎概念として,rateとratioの差,prevalence rate(point prevalenceとperiod prevalence)とincidence rate,disease expectancy rateなどについてのべ,生物統計の利用範囲,サンプリングの方法,サンプルの大きさ,事例発見のための資料,面接調査者の選択などの問題点にふれた。

紹介

—W. R. Hess—<Psychologie in Biologischer Sicht> 生物学的観点よりみた心理学

著者: 三浦岱栄 ,   小此木啓吾

ページ範囲:P.333 - P.337

 本書の著者W. R. Hessは,チューリッヒ大学の生理学名誉教授,間脳の実験的研究で名高い脳生理学者である。この事実からも,そしてまたその題名からも示唆されるように,本書は,著者自身の多年にわたる脳生理学の研究を中心にしながら,<精神現象の生物学的基礎>をなす<脳の構造と機能>(Hessのいう<脳体制Zerebrale Organisation>またはく脳の機能的体制funktionelle Organisation des Gehirns>)に関する脳生理学,神経病学,脳外科学,実験心理学,そして最近の精神薬理学の進歩などの成果を,体系的に綜説したく精神生理学Psychophysiologie>のモノグラフである。

基本情報

精神医学

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-126X

印刷版ISSN 0488-1281

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